音声言語医学
Online ISSN : 1884-3646
Print ISSN : 0030-2813
ISSN-L : 0030-2813
56 巻, 4 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
総説
  • 小渕 千絵
    2015 年 56 巻 4 号 p. 301-307
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/17
    ジャーナル フリー
    聴覚情報処理障害(auditory processing disorders, APD)は,標準純音聴力検査では正常であるにもかかわらず,聞き取りにくさを訴える症状である.本論文では,APDの歴史的背景,背景要因やその評価,支援方法について,最近の知見を基に概説した.これまでの成人例,小児例を対象にした評価により,背景要因の半数以上は自閉症スペクトラム(ASD)や注意欠陥多動性障害(ADHD/ADD)などの発達障害であり,その他にも精神疾患や心理的問題,複数言語環境下でのダブルリミテッドの問題などの多様な要因があり,これらに加えて本人自身の性格特性や聴取環境が加わり,聞き取り困難が生じていることが考えられた.このため,評価においては聴覚検査にとどまらず,視覚認知や発達検査,性格検査などの多角的な視点での評価を行う必要があり,背景要因に合わせた支援方法の提供が必要と考えられた.
原著
  • ―発達性読み書き障害児と通常学級在籍児―
    髙﨑 純子, 春原 則子, 宇野 彰, 金子 真人, 粟屋 徳子, 後藤 多可志, 狐塚 順子
    2015 年 56 巻 4 号 p. 308-314
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/17
    ジャーナル フリー
    小学校通常学級に在籍する児童758名と発達性読み書き障害(DD)児36名を対象に,特殊音節を含むひらがな非語音読の特徴と,ひらがな非語音読にかかわる認知機能を検討した.DD群のひらがな非語音読の正答率は,全学年で通常学級在籍群より有意に低かった.また,通常学級在籍群において非語音読で誤りが多い群は,誤りがない群に比べ,音韻処理課題や視覚認知課題の得点が有意に低かった.両群を1つの対象群とした重回帰分析の結果,音韻処理能力に加え,視覚性記憶がひらがな非語音読に有意な影響を及ぼす要因として抽出された.DD群にとっては,ひらがな非語音読は困難な課題であること,通常学級在籍群のうち,非語音読で誤りが多い児童のなかにはDD児が含まれている可能性が考えられた.ひらがな非語音読には,音韻処理能力と視覚性記憶の双方が影響していることが示唆された.
  • ―自覚的評価および客観的評価による分析―
    松本 かおり, 中川 秀樹
    2015 年 56 巻 4 号 p. 315-320
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/17
    ジャーナル フリー
    【はじめに】異なる職業群に対し,自覚的評価に加え,音声の聴覚心理的評価,空気力学的評価,および音響分析評価を行い,職業の違いによる音声障害のリスクについて考察した.【方法】対象は,小学校教師24名,俳優やアナウンサーなどの声の専門的使用群20名,事務職群26名とした.評価は,VHI-10,GRBAS聴覚心理的評価,最長発声持続時間,最長呼気持続時間,呼気乱費係数(最長呼気持続時間/最長発声持続時間),PPQ,APQ,HNR,の8項目について行った.【結果】VHI-10の得点は事務職群で高かった.GRBAS聴覚心理的評価におけるG評定は事務職群でやや高かった.呼気乱費係数は教師群で高かった.音響分析結果は全般的に事務職群で不良であった.【考察】教師は発声の効率が悪いことが示され,教師にとって音声障害予防の対策は重要と考えられた.また音声の自覚的評価や音響分析は声の使用の少ない事務職群で不良であった.音声の特徴は,発声量のみならず多くの因子に影響されると推測されることから,より詳細な声の使用状況と音声障害との関連について今後さらに検討していく必要があると思われた.
  • 菊池 良和, 梅﨑 俊郎, 安達 一雄, 山口 優実, 佐藤 伸宏, 小宗 静男
    2015 年 56 巻 4 号 p. 321-325
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/17
    ジャーナル フリー
    「吃音を意識させないように」「親子で吃音のことを話さない」ことが正しい対応だと思われている現状がある.しかし,自分に吃音があることを意識する年齢やその場面についての詳細な報告はこれまでにない.そこで10歳以上の吃音者で親が一緒に来院した40組に対して,吃音に気づいた年齢の違いを調べた.吃音者本人の意識年齢は平均8.1歳(3~16歳)だった.自分に吃音があると気づいた場面として,「親との会話中」はわずか8%であり,「園や学校」で気づいたのは57%だった.また,親が子どもの吃音に気づいた年齢は5.3歳(2~14歳)で,ほとんどの症例で親のほうが先に吃音の発症に気づいていた.以上より,多くの親は子どもに吃音を意識させることはなかったが,園・学校など人前での発表・会話で,本人は吃音を意識し始めたことがわかった.吃音に伴ういじめやからかいなどの不利益を最小限にするためには,吃音の話題を親子でオープンに話す必要があると示唆された.
  • 阿栄娜 , 酒井 奈緒美, 森 浩一
    2015 年 56 巻 4 号 p. 326-334
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/17
    ジャーナル フリー
    本研究では,成人吃音者16名を対象に,短期間のシャドーイング(スピーチ・シャドーイング,追唱)による発話訓練を行い,吃音症状と心理面に与える影響を分析した.シャドーイングとは,連続して聴こえてくるモデル音声を聴取と並行して口頭で再生する行為である.シャドーイング前に実施した音読課題で吃音頻度が高かった8名全員で,シャドーイング中に吃音頻度(特に,阻止症状)が大きく減少し,症状の持続時間も短縮した.シャドーイング訓練直後の音読課題では,課題文の異同を問わずシャドーイング前に比べて吃音の頻度が低く,後効果があることが示された.一方,音読で吃音頻度が低い参加者は,シャドーイング中の吃音頻度も低いままであった.また,心理面については,自由記述した感想・意見をKJ法で分析したところ,シャドーイング中に流暢な発話を体験したことを実感し,心理面にもポジティブな影響を与えていることが明らかになった.
  • ―品詞の影響と時間推移の分析―
    李 多晛, 中村 光, 伊澤 幸洋
    2015 年 56 巻 4 号 p. 335-341
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/17
    ジャーナル フリー
    制限時間それぞれ60秒以内に,動物,野菜(普通名詞),会社,有名人(固有名詞),人がすること(動詞)の単語表出を求める言語流暢性(VF)課題を,失語症者32名に実施し,李ら(2013)の健常若年群および健常高齢群の成績と比較した.その結果,失語群の正反応数は健常の2群に比べて有意に少なく,品詞別では,健常の2群と同様に普通名詞に比べ固有名詞と動詞で有意に少なかった.普通名詞課題の正反応数とSLTA「呼称」の正答数との相関関係は中等度で,動詞課題とSLTA「動作説明」との関連は認められず,失語の評価においてVF課題を命名課題で代用することはできないと論じた.また,正反応数を15秒ごとの4区間で分けると,特に動物課題と野菜課題において,健常の2群ではおおむね一貫して数が減少したのに対し,失語群では第2区間から第4区間における数の減少は明らかでなかった.失語症者では語彙の回収に時間が掛かるための現象であると考えた.
  • 髙橋 三郎, 伊藤 友彦
    2015 年 56 巻 4 号 p. 342-347
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/17
    ジャーナル フリー
    呉田ら(2001)は,語頭と語末のバイモーラ頻度が反応潜時に及ぼす影響を検討し,日本語における音韻・調音処理モデルを提案している.本研究は,語頭と語末のバイモーラ頻度が吃音児と非吃音児の反応潜時に及ぼす影響を検討したものである.対象児は年齢を統制した7〜12歳の吃音児と非吃音児15名ずつであった.語頭と語末のバイモーラ頻度をそれぞれ操作した4種類の刺激語(「高-高」語,「高-低」語,「低-高」語,「低-低」語)を対象児に音読させた.その結果,吃音児の反応潜時は非吃音児よりも有意に長かった.4種類の刺激語のうち,「高-高」語の反応潜時が最も短く,「低-低」語の反応潜時が最も長かった.「高-低」語と「低-高」語の間で有意差は認められなかった.以上の結果を踏まえ,吃音児と非吃音児の音韻・調音処理モデルを提案した.
  • 二村 吉継, 佐久間 航, 南部 由加里, 岩橋 美緒
    2015 年 56 巻 4 号 p. 348-356
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/17
    ジャーナル フリー
    性同一性障害Female to Male(FTM/GID)症例に対する男性ホルモン投与では声が低くなることが経験的に知られているが,経時的解析を行った報告はほとんどない.今回,男性ホルモン投与中のFTM/GID 23例を対象に話声位基本周波数を経時的に測定しその変化を解析した.男性ホルモン投与開始時,1ヵ月,2ヵ月,3ヵ月,6ヵ月,9ヵ月,12ヵ月経過時点において楽な発声での母音を録音し基本周波数を測定した.投与開始1ヵ月経過時点から3ヵ月経過時点の間に特に急速に音声が低下した.音声の低下は6ヵ月経過時点まで有意であり,その後12ヵ月まではわずかな低下があったが有意差は認めなかった.また投与開始時点と6ヵ月経過時点の話声位基本周波数は有意な相関を認めた.
    音声が低下すると同時に声帯は発赤および肥大化し,喉頭隆起は顕在化した.男性ホルモン投与により声帯の肥大化と喉頭の枠組みが増大することで音声が低下すると考えられた.
feedback
Top