音声言語医学
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35 巻, 3 号
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  • 加藤 ふみ, 林 安紀子, 出口 利定, 桐谷 滋
    1994 年 35 巻 3 号 p. 231-239
    発行日: 1994/07/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    成人の音声知覚では話者の違いや調音結合などの種々の要因による音声の変動を正規化して聴取する能力があり, その一つとして声道長の違いによる母音ホルマント周波数変化の正規化が知られている.本研究では, これに関連する要因として, 母音知覚における基本周波数の影響を乳児・幼児について調べ, 成人の場合と比較してその発達を検討した./o/一/a/の範囲の一連の合成母音を, 基本周波数100Hzおよび220Hzで作成し, 基本周波数の変化による母音判断境界の移動量を調べた.3~5歳の幼児では, 明確に成人と同様の境界移動があった.その量は成人より大きい傾向が認められた.5~7ヵ月の乳児では, head-turn方法によって実験を行った結果, 同様な境界移動の傾向があることが確認された.
  • 飯塚 直美, 佐竹 恒夫, 伊藤 淳子, 東川 健
    1994 年 35 巻 3 号 p. 240-254
    発行日: 1994/07/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    3歳前後の初診時に音声記号の受信 (理解) 面は正常範囲で有意語が数語以下であった3症例を, 国リハ式〈S-S法〉言語発達遅滞検査の症状分類B群 (音声発信困難) のリスク児として把握し, 3年間の経過を報告した.
    3症例とも初診時にコミュニケーション手段として身振りを使用しており, その後, 音声模倣により単音節の発信を, 次に文字などを補助にしながら主として音声模倣により異音節結合の発信を習得し, 4歳前には有意語が増加してB群には移行しなかった.しかし, 症例により多音節語の音形の習得や文字学習上の困難, 構音障害, 文章表現の未熟, プラグマティクスの問題, 学習障害への移行など, 発信行動習得過程における特徴や予後は異なる.
    音声発信困難の要因をコミュニケーション態度, 構音操作のコントロール, 音韻操作などの観点から検討し, B群リスク児の予後や彼らに対する臨床的働きかけについて考察した.
  • 村瀬 忍, 吉岡 博英
    1994 年 35 巻 3 号 p. 255-260
    発行日: 1994/07/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    発吃後6ヵ月以内の吃音幼児を対象に, 歌唱経験を積み重ねることを目的とした指導を一定期間行い, 自由会話での発話の非流暢性の変化を検討した.被験児は吃音男児3名であった.被験児には, 歌唱経験を増加させるための個別指導を行い, さらに, 毎日母親とともに歌唱することを家庭での課題として課した.指導の結果は, (1) 家庭課題の遂行の頻度, (2) 指導中に歌うことのできた歌詞の割合, (3) 歌唱時の発話の非流暢性, (4) 自由会話における発話の非流暢性の4点において検討した.検討の結果, 指導の期間中, どの被験児も歌唱経験を通常より豊富に持つことができたと考えられた.しかも, 歌唱時の被験児の発話は自由会話より流暢であり, さらに, 被験児2名では自由会話でも流暢性が保たれた.これらのことから, 歌唱により流暢性の高い発話を多く経験したことにより, 自由会話での流暢性が向上した可能性が示唆された.
  • 土師 知行, 楯 敬蔵, 岸本 誠司
    1994 年 35 巻 3 号 p. 261-265
    発行日: 1994/07/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    正常例11名, 舌・口腔底腫瘍切除施行例16例で日本語の5母音について線形予測法を用いてそれぞれの第1 (F1) および第2ホルマント周波数 (F2) を求め, 比較検討した.また, 手術施行例では切除範囲や発語明瞭度とホルマント周波数の変化とを比較検討した.
    手術例では, 各母音のF2の差が不明瞭となり, その程度は舌切除範囲や発語明瞭度と一致した.また, 母音の中では調音に舌の挙上を要する「エ」, 「イ」で正常例から大きくはずれるものが多く, 母音の発話明瞭度には舌体部, 後舌部の機能が大きく影響すると考えられた.
    聴覚心理的手法による構音障害の評価は, 検査に時間がかかり客観性にも欠ける欠点がある.パーソナルコンピュータの進歩でホルマント周波数の抽出も容易に行えるようになっており, 母音のホルマントの変化を調べることは, 日常臨床での舌・口腔底腫瘍切除後の構音障害の客観的評価の一つとして有用であると考える.
  • 岡崎 恵子, 加藤 正子, 佐藤 兼重, 大久保 文雄, 大澤 富美子
    1994 年 35 巻 3 号 p. 266-273
    発行日: 1994/07/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    骨切りにより上顎の前方移動を行うと, 術後開鼻声の増加や構音の変化を招来することがある.再手術や構音訓練の適切な時期を知ることを目的として上顎前方移動術を行った口蓋裂患者の術前術後の開鼻声と構音の経過をみた.対象は口蓋裂患者16例 (男9例, 女7例) , 手術年齢は16歳から26歳 (平均19.6) 歳であった.術後, 開鼻声が増大した症例が10例あったが, その1/3は術後1年以内に術前の状態に戻った.術後開鼻声の改善を示した症例は, 術前の開鼻声がないか, またはあってもごく軽度のものであった.鼻咽喉閉鎖不全に直接または間接に関連している子音の鼻音化, 咽頭摩擦音, 声門破裂音のような構音障害は術後, 悪化するか変化しなかった.一方, 口蓋化構音や/s/の口唇音化のように上顎と下顎の位置関係や口腔容積と関連する構音障害は改善した症例があった.口蓋化構音の改善は聴覚印象とパラトグラムによって確認された.構音の変化は術後1年以内におこった.
  • 平山 惠造
    1994 年 35 巻 3 号 p. 274-278
    発行日: 1994/07/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
  • 桐谷 滋
    1994 年 35 巻 3 号 p. 279-284
    発行日: 1994/07/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    乳児の言語音知覚の発達過程に関する最近の実験的研究を概観した.これらの研究結果として, 乳児は早くから母語だけでなく, 彼らがおそらく聴取したことのない非母語の音声的特徴も含めて識別能力を有していること, その能力が, ほぼ0歳の終わりまでに母語に適応して組織化されることが, 現在一般的な考えとして認められている.この発達変化が, 初語の産出時期以前に生じることが注目され, この時期における乳児の受容語彙の検討が研究課題とされている.一方, 音声言語の獲得には言語音が識別できるだけでなく, 話者や発話速度, 文脈による音声の変動を補償ないし正規化できなければならない.これにつき, 筆者らの, 話者による母音の変動に関する乳児の正規化能力の実験結果を紹介した.さらに, 乳児には, 連続音声中の単語や句の単位に伴う音声的特徴が知覚も重要と考えられる.この点についての米語, 日本語の予備的実験の結果を考察した.
  • 板東 充秋
    1994 年 35 巻 3 号 p. 285-288
    発行日: 1994/07/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    失語の聴理解障害に関与しうる中枢性障害を論じた.1.純音聴力障害: 両側皮質下病変により持続性の純音聴力障害が起きることがある.両側皮質病変でも一過性には純音聴力低下がみられることがある.2.音の認知一般の障害: 両側側頭葉の病変で環境音の認知の障害が起きることがある.一側性病変で起きるかどうかは未だ不明である.3.語音に選択的な聴力障害: 両側または優位側側頭葉病変で純粋語聾が起きることがある.Schuster and Taterkaは一側性病変でも両側半球よりの聴覚情報が障害される機序について仮説をたてている.これに従えば, 一側性病変でも, 上述した障害の組み合わせで聴力障害が起きる可能性がある.4.「失語」: 以上のような障害が優位でないにも関わらず了解障害が起きる失語がある.また, Broca失語では側頭葉を含まなくても了解障害が起きる.失語の了解障害には, これ以外にもさまざまな機序があると思われ一層の研究が必要であろう.
  • 山本 智矢
    1994 年 35 巻 3 号 p. 289-294
    発行日: 1994/07/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    37チャンネルSQUID装置を用い, 聴性誘発磁気反応を解析した.純音刺激 (1kHz) では, 聴覚野で潜時60ms (P60) , 100ms (N100) , 200ms (P200) が記録されるが, N100では記録側と対側耳刺激の場合は同側耳刺激の場合より潜時が12ms短く, これは皮質―皮質伝導の遅延の差によると考えた.また, 純音についても左側優位が示唆された.
    母音/a/, /i/, /u/, /o/に対する反応波形は各母音によって異なっていた.また各母音に対するN100の電流源の位置は異なっており, 個人差が大きかった.2母音を180ms間隔で提示しても, 独立したP60とN100が認められた.
    聴覚野に傷害がある症例では, 反応潜時の延長, 波形の不整や消失が認められた.
    これらのことから, SQUIDは言語機帯の解析に有用であり, 臨床応用も有望であることが解った.
  • 進藤 美津子, 加我 君孝
    1994 年 35 巻 3 号 p. 295-306
    発行日: 1994/07/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    一側あるいは両側の聴皮質・聴放線損傷により生じた言語音および音の要素の知覚/認知障害について明らかにするため, 神経放射線学的検査により聴皮質・聴放線の損傷が同定できた症例について, 言語音 (単音節, 単語, 文) や音の要素 (Loudness, Time, Pitch) の検査を行った.
    一側の聴皮質・聴放線損傷例では, いずれも語音弁別能において損傷側耳の優位性が生じた.語音の異聴傾向については, 左右の半球とも差はなく, 同様の傾向を示した.両側の聴皮質・聴放線損傷例では, 語音の認知はほとんど不可能になった.しかし, 読話による視覚情報が加われば, 聴覚認知および理解はある程度可能になった.音の要素のうち, Loudness, Time, Pitchの各弁別課題では, Pitchの弁別がより困難であった.
    したがって, 聴皮質・聴放線損傷による言語音の認知障害は, 聴覚レベルの弁別や処理機能の障害が重要な要因と思われる.
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