片側声帯麻痺の嗄声に対する治療として外科的治療と保存的治療があり,保存的治療として音声治療がある.喉頭ストロボスコピー所見にて発声時声門間隙が軽度であれば音声治療の適応となるが,高度であると音声治療の効果は期待できず,外科的治療が第一選択となる.また,音声改善手術後に患者がさらなる音声の改善を希望し,喉頭所見と音声評価から音声治療の効果が期待される場合にも音声治療が適応となる.
従来,片側声帯麻痺に対する音声治療手技として硬起声発声,プッシング法が行われてきたが,治療後に過緊張発声を生じる場合があるため積極的に行われなくなった.われわれは,片側声帯麻痺に対してvocal function exercise(以下,VFE)の変法を積極的に取り入れてきた.片側声帯麻痺に対するVFE(変法)の効果として,喉頭筋の筋力アップや喉頭筋相互のバランス調整により声帯振動の規則性が改善することで,さらなる発声機能の向上が期待できる.
歌声は呼気調節,喉頭調節,声道調節とその統合で生成される.理想とされる歌声はジャンル,言語,音響環境などで異なり,この多様性を理解しなければならない.そのためには発声のメカニズムに基づく発声状態の評価が必要である.私は発声の3要素を一貫する3stepを考案した.
Step 1:ストレインゲージシステムとMRIなどで5分類した簡易呼吸法評価Saida法の発案
Step 2:ハイスピードカメラとEGGでボーカルフライ,地声,裏声とホイッスルボイスの4つの声帯振動様式の特徴を明らかにし,声の高さと呼気流率を軸にしたVoice range mapを発案.各声帯振動様式との関係も明らかにした.
Step 3:音源特性と声道特性の要素を軸としたTone color mapを発案,これは聴覚印象に対応し,望む音色の喉頭調節と声道形態を知ることができ,声を自由にデザインすることが可能となる.
3つのstepは,音声外科,音声治療,ボイストレーニングなどでの声の設計図として応用可能である.
本稿では,発声・発話機能の改善を目的とする歌によるリハビリテーション「音楽療法ボイスプログラム(MTVP)」について解説する.この介入プログラムは,パーキンソン病患者を対象とし,歌うことの運動療法的な効果に着目したものである.歌うことが呼吸器官や体幹の筋肉をダイナミックに活用した「運動」であることは,リアルタイムMRIで確認されたプロ歌手による横隔膜の巧みなコントロールにも表れている.また,長年歌うことを習慣としてきた高齢者の発声機能が,習慣としてこなかった者に比べ高いことから,歌を継続することのメリットも推察される.MTVPは,身体のウォームアップ,呼吸・発声・構音の訓練,音読訓練,好みの曲の歌唱等を含む一連の活動からなる.音楽療法士は,歌うことに伴う心理的な影響も勘案しながら,発声・発話能力の向上を目指す.
音声言語の起源と進化は,人類進化のなかでも未解明な部分が多く残されたラストフロンティアである.ヒトは,多様な音素を一息の中で連続的に連ねて言語コミュニケーションをするが,サル類は,声の大きさや高さ,長さなどを手掛かりに音声コミュニケーションする.音声は,声帯振動により作られる音源により,声道空間が共鳴して,発せられる.ヒトは,長い咽頭腔と短い口腔からなる声道をもち,声道形状の変化を高度に制御して,意図した音素を繰り出す.また,声帯膜を喪失した単純な声帯により,安定した声帯振動を長く維持することができるので,その音素の変化を正しく伝える.サル類は,静的な声道形状で,声帯膜により発声の経済性が上がるものの,音源の安定性を欠く.ヒトの音声言語は,原初から,対面で届く範囲の相手に,音素の連なりを安定して届けるコミュニケーション形態として起源したのだろう.
痙攣性発声障害の診断について,現時点で国際標準化された診断基準はない.本邦では,厚生労働科学研究費難治性疾患政策研究事業による研究班(研究代表者:高知大学 兵頭政光)と本学会が連携し,2018年に痙攣性発声障害の診断基準と重症度分類が公開された.現在,日本医療研究開発機構難治性疾患実用化研究事業および厚生労働研究費難治性疾患政策研究事業による研究班(研究代表者:名古屋市立大学 讃岐徹治)では,痙攣性発声障害レジストリを活用した診断基準および重症度分類の妥当性評価と改訂に向けた作業に取り組んでいる.本邦の診断基準によると,痙攣性発声障害と鑑別すべき疾患の一つとして吃音が挙げられる.本稿では痙攣性発声障害と吃音に見られる音声・発話症状や疫学,病因論(遺伝的要因,脳の構造および機能の異常)について概説し,鑑別診断における要点を整理する.
中等度難聴があり,音韻障害の合併が疑われた7歳左利き男児についての症例報告である.ことばの遅れからさまざまな施設を受診していたが,難聴も含め確定診断にいたっていなかった.発話の特徴は,文章では子音が省略され母音のみで,単語では子音も表出されるが誤りが浮動的で一貫性が見られなかった.このため,聴覚に関する精密検査に加え,音韻検査を含む言語認知検査,脳SPECT等の画像診断を実施した.その結果中等度難聴と診断され,同時にSLI(specific language impairment:特異的言語発達障害)の特徴が見られたためDLI(disproportionate language impairment)と判断した.本児には難聴に対する介入と同時に音韻的治療を含めた言語指導を行い,その後言語発達は同年齢の平均範囲内に追いついた.難聴の診断も重要であるが,児の症状から言語認知検査を詳細に行い適切な支援をする必要がある症例であったと考えられた.