音声言語医学
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44 巻, 4 号
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  • 三枝 英人, 青柳 美生, 愛野 威一郎, 八木 聰明, 新美 成二
    2003 年 44 巻 4 号 p. 253-257
    発行日: 2003/10/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    今回, われわれは嚥下訓練が奏功した運動障害性構音障害の1例を経験した.症例は55歳男性.左右計2回の被殻出血の既往があり, 今回再び左側の被殻出血を起こした後に, 重度の運動障害性構音障害を呈した.なお, 嚥下については, 嚥下困難や誤嚥など臨床上特に重大な問題を認めず, 検査上でのみ異常を認める程度のサブクリニカルなレベルにしか障害されていなかった.この症例の構音の特徴は, 高度の開鼻声で, 小声で抑揚に乏しく, 吃様の音の繰り返しを認め, また徐々に加速し, それに伴い子音の構音が崩れるという現象と, その際に各構音器官の運動距離が徐々に小さくなっていくというParkinsonismに類似したものであった.脳出血に対する急性期の治療後, 約3週間の構音訓練を受けたが構音の有意な改善は認められなかった.そこで, “直接的”間接的嚥下訓練を中心とした嚥下訓練を試みたところ, 早期に構音障害の著明な改善を認めた.特に, 徐々に加速する, 構音運動の距離が小さくなる, 吃様に音を繰り返すといった構音のリズムや運動構成の障害についても著明な改善が認められたことは興味深いものと思われた.
    運動障害性構音障害に対して, 嚥下障害が軽度なレベルであっても, 積極的に嚥下訓練を行うことで構音障害の改善が得られる可能性があるものと考えられた.
  • 岡本 真純, 志水 康雄
    2003 年 44 巻 4 号 p. 258-263
    発行日: 2003/10/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    文脈の促進的効果を聴覚障害児の文理解の向上に利用することを目的とし, 聞き取りやすい文とはどのような文であるか, より詳細に文脈効果の特徴をまず健聴者を対象として調査した.特にターゲットとなる文中の単語のモーラ数, ターゲット単語に後続する文の文節数, ターゲット単語と後続文との間の時間的距離に着目した.その結果, ターゲット単語のモーラ数の違いによる文の聞き取りやすさの差は見られなかったが, 後続文の文節数が多い場合に, 少ない文よりも知覚が促進される傾向, また, ターゲット単語と後続文との間の時間的距離が広がるにつれ, ターゲット単語の知覚が阻害される傾向が見られた.今後これらの傾向を踏まえ, より聞き取りやすい聴覚障害児への話し掛け方, 文脈利用能力の向上等を考察する.
  • ―療育初期の実態と療育終了後の経過―
    野中 信之, 越智 啓子, 大森 千代美, 高橋 伴子, 丸山 由佳, 漆原 省三, 酒井 俊一, 中島 誠, 川野 通夫
    2003 年 44 巻 4 号 p. 264-273
    発行日: 2003/10/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    子どもが言語を獲得する基盤として情動的認知が重要である.特に障害児のなかには情動的認知の発達が遅れた症例が多い.本論文ではその発達が遅れた難聴児4例と, 比較症例としてその発達が正常であった難聴児1例の心身の発達の特徴と療育終了後の経過を検討した.
    情動的認知の発達が遅れた難聴4症例の心身の発達の特徴は, 乳児期に母親にあやしてもらうことが少ない, 人見知りがない, 一人で遊ぶ傾向が強いなどがあった.4例中3例は言語獲得ができず, 通常の小学校への適応が困難であった.残る1例は早期に情動的認知の遅れを挽回し, 正常言語を獲得し, 普通学級に適応した.療育当初から情動的認知の発達が正常であった比較症例としての1例は言語獲得も可能であり, 普通小学校に就学した.
    情動的認知が言語獲得の基盤として重要かつ不可欠であることを再確認し, 療育開始時にその発達が不十分な症例は, 早期に情動的認知の発達を図ることが重要である.
  • ―口蓋帆挙筋活動の変化を指標にして―
    舘村 卓, 野原 幹司, 藤田 義典, 杉山 千尋, 和田 健
    2003 年 44 巻 4 号 p. 274-282
    発行日: 2003/10/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    運動障害性構音障害に対するパラタルリフトの臨床効果の背景に鼻咽腔閉鎖機能の調節様相の変化が含まれるか検討するために, 脳血管障害等による運動障害性構音障害例4例を対象に, 装置完成直後の装着時, 非装着時の口蓋帆挙筋活動を比較した.対象作業として, スピーチサンプル [u] [mu] [pu] [su] [tsu] の各10回の表出, 可及的最強blowingを含む3種の強さのblowingを行わせた.その結果, 非装着時にblowing作業で口腔内圧に相関した口蓋帆挙筋活動が認められたが, 発音作業での筋活動は, 最大筋活動に近い高い領域に分布していた.一方, 装着時の発音作業での筋活動は最大筋活動の50%以下になった.装着により, 口蓋帆挙筋活動の最大筋活動とスピーチで用いられる筋活動との差分である予備能が大きくなり, パラタルリフトは, 運動障害性構音障害例においても, 鼻咽腔閉鎖機能の調節様相を正常化することが示された.
  • 高橋 信雄, 佐々木 結花, 高橋 博達, 永渕 正昭
    2003 年 44 巻 4 号 p. 283-291
    発行日: 2003/10/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    脊髄小脳変性症, 脳幹梗塞等により失調性構音障害を呈した11例を対象に, 会話の聴覚印象評価およびoral diadochokinesis・標準偏差・変動係数による評価を延べ35回行った.一対比較法を用いて構音異常の程度について評価し, その結果を両評価間で比較検討したところ, 約60%の対で評価結果の不一致が認められた.oral diadochokinesis・標準偏差・変動係数による評価法には以下の問題点があるものと考えられる.1) 失調性構音障害例では, 構音動作の反復が遅い速度で安定し, 不規則性がむしろ小さくなる場合がある.2) oral diadochokinesisは音節反復の最大速度を評価する方法であり, 反復速度の変動を評価する条件は備えていない.3) 標準偏差を平均の絶対値で割って求める変動係数は, 反復速度が低下した症例で数値が小さくなり, 障害程度が軽く評価されやすい傾向がある.失調性構音障害の評価法に関して, 必要と思われる修正を提案した.
  • 小川 真, 吉田 操, 渡邉 建, 喜井 正士, 杉山 視夫, 佐々木 良二, 渡邊 雄介
    2003 年 44 巻 4 号 p. 292-297
    発行日: 2003/10/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    muscle tension dysphonia (以下MTD) は, 発声時に, 喉頭の筋肉の過剰な緊張が原因で喉頭内腔が押し潰されることによる発声の異常のことを意味しており, 喉頭の内視鏡検査では, 仮声帯の過内転, 披裂部の喉頭蓋基部への前後方向への圧迫の所見を示す.また, 音声訓練による治療が奏功しやすいといわれている.しかしながら, 音声訓練が実際に喉頭所見を改善するか否かということについては不明であった.われわれは, 経鼻ファイバースコープ検査より, 持続母音発声時の喉頭内3部位の圧迫の程度から算定する「MTDスコア」を開発し, MTD症例に対する音声訓練の治療効果を明らかにするために, 治療経過を通じてのMTDスコアの変化について検討した.対象症例は, 男性25例, 女性6例であり, 年齢分布では60代後半にピークを認めた.問診による発症に先行するエピソードの解答は多様であった.音声訓練による治療の経過において, 全31例中24例で, 音声訓練の回数を経るにつれて, 経時的に過緊張発声障害スコアの減少が認められた.そのなかの21例においては, スコア0となり, 同時に嗄声の消失が認められた.3例においては, 数度の増悪の後, 最終的にスコア0となった.残りの4例は不変または増悪した.結果として, MTDに対して, 音声訓練による治療が有効であることが強く示唆された.
  • 小林 智子, 能登谷 晶子, 古川 仭
    2003 年 44 巻 4 号 p. 298-303
    発行日: 2003/10/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    金沢大学医学部附属病院耳鼻咽喉科で就学まで継続して金沢方式による言語訓練を受けた聴覚障害児30名の読書力を検討した.小学校就学一年時あるいは, 入学直前時と高学年時に実施した読書力診断検査の結果を90dB未満群と90dB以上群の2群に分けて分析した.90dB未満群は全体の50.0%, 90dB以上群は全体の77.8%が就学後も当該学年相応以上の読書力を維持できた.90dB未満群の読書力の低下は, 初診時年齢が90dB以上群より遅いことや, 文字言語に対する重要性の認識の低さが原因と考えた.90dB以上群の読書力は, 低年齢から学習された文字言語が高学年時にも維持されたと考えた.さらに, 読書力の獲得, 維持は聴力に左右されないことがわかった.また, 初回時と高学年時の段階点の比較から, 就学前後の読書力が高学年時の読書力の予後を判断する目安になることが示唆された.
  • ―音源フィルタ理論による検討―
    今富 摂子, 荒井 隆行, 加藤 正子
    2003 年 44 巻 4 号 p. 304-314
    発行日: 2003/10/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    開鼻声の聴覚判定における嗄声の影響を調べるため, 音源フィルタ理論に基づいて健常音声, 顕著な開鼻声, 軽度粗槌性嗄声, 重度粗槌性嗄声から, 4種類のフィルタ (顕著な開鼻声, 健常音声それぞれの/a/, /i/) と6種類の音源 (健常音源, 軽度粗慥性音源, 重度粗慥性音源それぞれの/a/, /i/) を組み合わせ, 24種類の音声刺激を合成し, 言語聴覚士を対象に, 5段階尺度で開鼻声の聴覚判定実験を行った.健常フィルタ, 顕著な開鼻声フィルタの両方で, 音源の種類によって開鼻声の判定値が変化した.特に重度粗槌性音源では, 顕著な開鼻声フィルタにおいて開鼻声の聴覚判定値が著しく低下した.軽度粗槌性音源では, フィルタの種類や聴取者によって, 結果にぼらつきが認められた.嗄声が開鼻声の聴覚判定値を変化させる要因として, 嗄声の音響特性によるスペクトルの変化が考えられるが, 詳細については今後検討が必要であると思われる.
  • 玉岡 賀津雄, 小坂 圭子
    2003 年 44 巻 4 号 p. 315-320
    発行日: 2003/10/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    就学前の5歳児の統語的知識を含んだ文理解能力を測定するために, 文を口頭で提示し, それに対して口頭で質問する聴覚性文理解テストを作成した.このテストを32名の小児に行った結果, 得点が典型的な正規分布を示し, 文理解能力の測定ができそうであることがわかった.また, パス解析の結果, 聴覚性文理解テストは, 豊富な語彙知識と, 単語をたくさん覚えておくという2つの側面を兼ね備えた複合的な能力を測定していると考えられる.興味深いことに, 仮名の読みの得点が高くても, 聴覚性文理解がそれに比べて低い場合と, その逆に, 聴覚性文理解が高得点であっても, 仮名がほとんど読めない小児もいた.聴覚性文理解テストは, 仮名の読みに求められる能力とは異なる側面の言語能力を測定している可能性が強い.
  • ―ヘリカルCTによる声道形態の検討―
    東川 雅彦, 竹中 洋
    2003 年 44 巻 4 号 p. 321-325
    発行日: 2003/10/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    ささやき声における音声器官での有声・無声子音間の音響学的な差を作り出す調節を知る目的で, multi-sliced helical computed tomography (MSCT) を用いて口腔・咽喉頭の音声生成時の声道形態を観察した.舌尖を含む舌ならびに喉頭の移動が, CV音節の母音部分での聴覚的な手掛かりを作り出している可能性が示された.
  • 小宮山 荘太郎
    2003 年 44 巻 4 号 p. 326
    発行日: 2003/10/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
  • 田村 悦代, 北原 哲
    2003 年 44 巻 4 号 p. 327-332
    発行日: 2003/10/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    一側反回神経麻痺症例に対するvocal rehabilitationとして声帯内注入療法がある.しかし, 現在われわれが使用しうる最も安全な注入材料は, 自家組織である.
    そこで, 近年, 多く用いられている脂肪や筋膜について, 注入部位と注入後の効果の持続という視点から, 音声を考慮した注入療法について検討した.
    脂肪は, その粘性が粘膜固有層に近似しているので, 注入部位は, 粘膜固有層でも, 筋層でも音声の改善が得られる.しかし, 膠原線維を主成分とする筋膜は, 粘膜固有層に注入することによって, 発声時の粘膜波動を障害する可能性があることと, 注入後の組織内での残存率が高いことから, 注入部位としては, 筋層が望ましいと考えられた.
    また, 注入後の吸収については, 組織工学的手法の応用も考えられる.
  • 梅崎 俊郎
    2003 年 44 巻 4 号 p. 333
    発行日: 2003/10/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
  • 箕山 学, 田辺 正博
    2003 年 44 巻 4 号 p. 334-337
    発行日: 2003/10/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    甲状軟骨形成術I型, 披裂軟骨内転術は, 一側反回神経麻痺の嗄声改善の手術として広く行われている.われわれはこれらの手術を局所麻酔下に行い, 術中, 患者の声を聞きながら声帯の内方移動の程度を調節してきた.しかし, 術中に起こる声帯の浮腫や腫脹により, 音声のみの評価で内方移動の程度を調整した場合, 判断を誤ることがある.麻痺声帯の内方移動の程度の調節は, 音声のみならず喉頭をモニターすることが重要である.喉頭をモニターすることで, 麻痺声帯の内方移動をより正確に行うことができ, また術後の合併症を防ぐことができると考える.
  • 田中 信三
    2003 年 44 巻 4 号 p. 338-341
    発行日: 2003/10/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    反回神経切除後の嗄声を予防するため, 傍声門間隙への神経筋移植法を8例に行った.約1×2cm大の胸骨舌骨筋を頸神経罠を付けた状態で採取し, 甲状軟骨板を前方に飜転・挙上して傍声門間隙にいたり, 神経筋を甲状披裂筋の外方に縫合し移植した.全例が甲状腺癌で術前から声帯麻痺を生じていた.神経切除側の胸骨舌骨筋を使用したものが4例, 非切除側から神経筋を切除側へ廻したものが4例あった.術後, 全例で, 音声の聴覚印象は軽度嗄声, み最長持続発声時間と平均呼気流率はほぼ正常であった.経過観察中に顕著な悪化例はなかったが, 2例に音声の聴覚印象と平均呼気流率が軽度悪化する傾向があった.いずれも, 非切除側の神経筋を用いた例であった.自分の声に不満を訴えた例はなかった.
  • 湯本 英二, 中野 幸治, 小山田 幸夫
    2003 年 44 巻 4 号 p. 342-346
    発行日: 2003/10/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    甲状腺癌摘出時に反回神経を切除した症例に対して反回神経再建術を7名 (再建群) に行い, 術後発声機能を (1) 甲状腺癌摘出時に神経再建や披裂軟骨内転術を行わなかった9名 (非再建群) , (2) 甲状腺癌摘出時に披裂軟骨内転術を行った4名 (内転群) と比較した.反回神経再建法は, 反回神経切除部に大耳介神経を間置する方法が5名, 反回神経切除断端の端端吻合あるいは迷走神経・反回神経間の大耳介神経移植術が各1名であった.検討項目は, 発声時声門間隙の有無と形状, 最長発声持続時間 (MPT) , 発声時平均呼気流率 (MFR) , H/N比, ピッチのゆらぎおよび振幅のゆらぎである.再建群では発声時声門間隙はほとんどなく, 内転群, 非再建群の順に大きかった.再建群のMPT, MFR, H/N比は非再建群よりも有意に良好であった.甲状腺癌摘出時に反回神経を合併切除した場合, 一期的に神経再建術を行うと良好な発声機能を得られるといえる.
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