音声言語医学
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62 巻, 4 号
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総説
  • 金沢 佑治, 岸本 曜, 讃岐 徹治, 廣芝 新也, 大森 孝一, 楯谷 一郎
    2021 年 62 巻 4 号 p. 287-293
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/12
    ジャーナル フリー

    痙攣性発声障害(SD)の病態として中枢神経の関与が指摘されており,脳機能画像による先行研究では患者の発声に伴う脳活動を評価し,大脳皮質・皮質下領域の異常活動が示されてきた.しかし,これらの研究では,SD患者と健常者の発声の質が異なることが脳活動の群間比較に影響を与える重大な交絡因子であり,取り除くことが困難であった.一方,音声知覚によるフィードバックが発声の調整に重要であり,音声知覚によって発声に関与する神経機構が活動することが示されてきた.そこでわれわれは,機能的MRIを用いて内転型SD患者11名と健常者11名の音声知覚に伴う神経活動を比較した.その結果,SD群は健常者群に比べ,左感覚運動野と視床が有意に賦活しており,SDの病態に深く関連することが示唆された.さらにSD群において左感覚運動野の活動値が重症度(voice handicap index-10)と正の相関を示しており,将来的に診断や治療効果予測のバイオマーカーとして応用できる可能性が示唆された.

  • ―代謝プログラムによる組織幹細胞機能の制御―
    佐藤 公則, 千年 俊一, 佐藤 公宣, 佐藤 文彦, 栗田 卓, 梅野 博仁
    2021 年 62 巻 4 号 p. 294-304
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/12
    ジャーナル フリー

    1)ヒト声帯黄斑内の細胞は,分化多能性をもった組織幹細胞であり,ヒト声帯黄斑は,幹細胞ニッチであると考えられている.
    2)ヒト声帯黄斑内の組織幹細胞では,嫌気的解糖が行われており,好気的解糖に続く酸化的リン酸化は抑制されていることが示唆された.
    3)ヒト声帯黄斑内の細胞には異種性と階層性を認める.異種性・階層性をもった各細胞では,エネルギー代謝が異なっていることが示唆された.
    4)ヒト声帯黄斑内の細胞では,代謝プログラムによる組織幹細胞機能の制御,すなわち未分化性・幹細胞性を維持するエネルギー代謝が行われていることが示唆された.
    5)ヒト声帯組織幹細胞の幹細胞性維持,分化における系列決定に関しては不明な点が多く,代謝プログラムを含めた幹細胞システムのさらなる解明が待たれている.
    6)ヒト声帯黄斑の組織幹細胞システムが解明され,幹細胞システムを人為的に制御できれば,声帯再生医療の新たな治療法になる可能性がある.

原著
  • 佐藤 剛史, 苅安 誠, 渡邊 健一, 本蔵 陽平, 平野 愛, 鹿島 和孝, 香取 幸夫
    2021 年 62 巻 4 号 p. 305-313
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/12
    ジャーナル フリー

    本研究は,音声障害者の発話困難を捉える課題と評価指標を見出すことを目標に,片側声帯麻痺患者の喉頭枠組み術前後で,文章音読課題での評価指標(息継ぎ頻度とひと息発話長)に違いがあるか,空気力学的評価(最長発声持続時間MPT,発声時平均呼気流量率MFR)と関係があるか,を調べることを目的とした.片側性声帯麻痺に対し喉頭枠組み術を実施した18例(男性11例,女性7例,35〜75歳)に空気力学的評価と同日に文章「北風と太陽」音読課題を行った.音響分析で息継ぎ位置を検出し,息継ぎ頻度とひと息発話長を算出した.治療後に息継ぎ頻度は減少し,平均および最長ひと息発話長は延長していた.術前は,息継ぎ頻度とMPT・MFRとの間,平均ひと息発話長とMFRとの間に,中程度の相関を認めた.術後は,評価指標と空気力学的評価に有意な相関は認めなかった.音読課題での発話音声評価の片側声帯麻痺患者での有用性が示された.

  • 間藤 翔悟, 宮本 真, 渡邉 格, 中川 秀樹, 齋藤 康一郎
    2021 年 62 巻 4 号 p. 314-320
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/12
    ジャーナル フリー

    声帯ポリープに対する治療として,外科的治療を実施する前に音声治療を代表とした保存的治療を実施することが推奨されているが,最適な保存的治療法は明らかになっていない.本研究では,声帯ポリープに対する音声治療の効果と適切な介入方法について後方視的に検討した.対象は2017年6月から2020年9月の間に声帯ポリープに対する一次治療として音声治療を実施した27例.音声治療は声の衛生指導のみを実施する方法あるいは,声の衛生指導と発声訓練を実施する方法の一方が選択された.音声治療の実施前後でポリープのサイズが縮小変化した患者の割合に有意差は認められなかったが,声の衛生指導と発声訓練を実施した患者群のみ音声治療の実施前後で声門閉鎖が有意に改善した.声の衛生指導に発声訓練を組み合わせて音声治療を施行することで,治療強度を上げることが可能で,音声治療の最適化に貢献しうることが示唆された.

  • 櫻井 梓, 岩崎 聡, 古舘 佐起子, 岡 晋一郎, 小山田 匠吾, 久保田 江里, 植草 智子, 高橋 優宏
    2021 年 62 巻 4 号 p. 321-327
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/12
    ジャーナル フリー

    人工内耳(以下,CI)装用者に対し,楽器を使用した集団的音楽トレーニングを実施し,方向感および語音聴取への効果について検討した.20歳以上のCI装用者で,かつ装用下での57-S語表での単音節の聴取成績が60%以上で,音楽トレーニング参加希望者18名のうち,検査等が実施できた14名を対象とした.全12回(1回60分×月2回)のグループレッスンで,1グループ当たり9名の2グループで実施した.音楽トレーニング前後で単音節,単語,日常会話文のいずれにおいても有意差は見られなかった.方向感検査のd値の平均も,トレーニング前後で有意差は見られなかった.また,音楽経験ありと経験なしとの2群間での検討においても,両検査ともに有意差は見られなかった.ただ,有効な症例もあったことから,詳細な評価方法,より効果的な音楽トレーニング法の構築が必要と考えられた.

  • 植草 智子, 岩崎 聡, 久保田 江里, 櫻井 梓, 古舘 佐起子, 岡 晋一郎, 小山田 匠吾, 高橋 優宏
    2021 年 62 巻 4 号 p. 328-333
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/12
    ジャーナル フリー

    両側同時手術群と逐次手術群において,難聴原因および術前・術後の装用閾値,聴性行動,発声・発話行動の変化について比較し,同時手術および逐次手術の症例の検討を行った.2016年4月〜2019年8月に当科で人工内耳植込術を施行した6歳未満の同時手術例5名,逐次手術例9名を対象とした.術前裸耳聴力閾値,補聴器装用閾値,KIDSの総合発達指数,新生児聴覚スクリーニング受検率,難聴遺伝子検査受検率,手術時年齢,術後の人工内耳装用閾値に有意差は認められなかった.難聴遺伝子検査結果により人工内耳が有用とされている原因遺伝子が明らかになることで,同時手術や,逐次手術の2期目を早期に検討する根拠となる症例もあった.音入れ後3・6ヵ月時のIT-MAIS,MUSSの得点は,術前と比較して両群とも有意な改善を認めた.今回の検討では2群間に有意差は認められなかったが,今後も同時手術群と逐次手術群の経過を検討していきたい.

症例
  • 石田 修, 飯村 大智
    2021 年 62 巻 4 号 p. 334-343
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/12
    ジャーナル フリー

    吃音児に対する多面的・包括的アプローチの有効性が報告されているが,その多くは病院や研究機関における実践である.吃音児の多くが通うことばの教室における症例報告は数編程度で,知見の蓄積が求められる.本報告では,ことばの教室に通級する重度吃音児1例に吃音症状面,認知・感情面,環境面に対する多面的・包括的アプローチを実施した.その結果,吃音重症度は重度から軽度に改善し,コミュニケーション態度も積極的な傾向になり,親子ともに吃音に対する不安が軽減した.本症例の経過から,ことばの教室における多面的・包括的アプローチの実施にあたり,(1)流暢性促進と流暢性形成法が吃音症状の改善に有効な可能性があること,(2)吃音の認知や行動に焦点を当てたアプローチが不安の軽減や認知の変容に寄与する可能性があること,(3)家庭と在籍校における環境調整により吃音の正しい知識を伝える必要があること,が考えられた.

短報
  • 二村 吉継, 森 祐子, 南部 由加里, 北井 彩, 久保田 陽子, 大原 充津子, 上西 裕之, 東川 雅彦
    2021 年 62 巻 4 号 p. 344-349
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/12
    ジャーナル フリー

    痙攣性発声障害(SD)に対してA型ボツリヌス毒素製剤(ボトックス®;BT)の投与が2018年より保険適用となり,当診療所においてもSDに対してBTによる治療を行っている.BT投与は手技的には診療所でも行うことができ,保険適用になったことで声のつまりやふるえに対する治療は大きく前進し,患者満足が得られるようになったと感じている.一方で今後も継続していくうえで,機能性発声障害との鑑別など診断上の問題や,保険診療による医療経済の問題等課題もある.
    そこで当診療所でBT声帯内投与を行った内転型SD症例24例について,治療効果を統計的に検討し,投与手技,課題点とともに報告する.筋電計は電池式のコンパクト型筋電計を用いた.BT投与は3〜4ヵ月で効果がなくなり反復投与が必要とされるが,再増悪が軽微で再投与が不要であった症例が24例中4例あり,診断的な課題と考えられた.また導入を含めた実際に要した経費の検討から,BT投与の手技料の保険収載が強く望まれる.

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