音声言語医学
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60 巻, 2 号
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総説
  • 神田 幸彦, 原 稔
    2019 年 60 巻 2 号 p. 105-112
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/05/24
    ジャーナル フリー

    日本における人工内耳小児の実態調査から人工内耳小児症例は増加し,両側人工内耳症例も増加傾向にある.両側人工内耳の効果は初回人工内耳よりも静寂時,雑音下においても語音明瞭度が優位に改善され,また方向性の改善や逐次人工内耳側からの聴取の改善,耳鳴の改善など有効な報告が多い.一方で一側ろうの症例のハンディキャップも近年クローズアップされ,海外では一側ろうへの人工内耳も開始され有効性も報告されるようになってきた.また,人工内耳術後の聴覚活用教育も重要であり,聴覚活用教育を強化する意味での音楽療法も効果的である.早期発見や,早期診断,早期補聴,ガイドラインのより良い方向への変遷,検査機器の進歩,補聴器や人工内耳の進歩,教育の進歩などより,難聴児にかかわる聴覚専門の言語聴覚士はさまざまな将来性豊かな可能性を秘めている.

原著
  • 樋口 大樹, 奥村 優子, 小林 哲生
    2019 年 60 巻 2 号 p. 113-120
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/05/24
    ジャーナル フリー

    本研究では,幼児のひらがな読み書き習得における文字特性の影響を検討した.具体的には,文字の視覚的複雑度,大規模絵本コーパスを用いて求めた文字頻度,五十音表順位を文字特性の指標として用い,これらと国立国語研究所が公開している4・5歳児の読み書き正答率順位との関連を分析した.その結果,ひらがな読み正答率順位は,絵本中の文字頻度,五十音表順位と有意な相関を示した.一方,ひらがな書き正答率順位は,絵本中の文字頻度,五十音表順位に加え視覚的複雑度と有意な相関を示した.さらに,ひらがな文字を読みおよび書き正答率を基に正答率高,中,低群に分け,読み・書き正答率群を予測する文字特性を順序ロジスティック回帰分析を用いて検討した.その結果,ひらがな読みには文字頻度,ひらがな書きには文字頻度と視覚的複雑度が予測因子として有意であった.これらの結果は,ひらがな読み習得と書き習得で関与する文字特性が異なることを示しており,ひらがなの読み習得には絵本における文字への接触,書き習得には文字への接触に加え視覚処理が重要な役割を果たすことを示唆する. ただし,幼児の発話や自分の名前に含まれる文字の影響など検討されていない要因があり,幼児のひらがな読み書き習得の全体像を明らかにするためにはさらなる検討を行う必要がある.

  • 新海 晃, 澤 隆史
    2019 年 60 巻 2 号 p. 121-129
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/05/24
    ジャーナル フリー

    研究1では,聴覚障害児の作文評価における7つの分析的な評価観点の有効性について検証すること,研究2では,作文中における多数の言語要素の使用と印象評定による評価との関連について検討することを目的とした.対象作文は,聾学校の小学部高学年と中学部に在籍する聴覚障害児の書いた作文各24編,計48編であった.それぞれの学部を担当する聾学校教員各10名に,7つの観点からなる分析的評価と総合評価の計8つの評価観点について評定させた.分析的評価は7件法,総合評価は10件法で実施した.また,言語要素の分析に際しては,48の要素を用いてその頻度や割合を求めた.研究1の結果,分析的評価によって総合評価の結果をほとんど説明できること,7つの評価観点はさらに大きなカテゴリに集約されることが示された.また研究2の結果,特定の言語要素の使用と評価観点との間に対応関係のあること,評価結果には複数の言語要素を組み合わせた文体の影響があることが示された.

  • 石井 由起, 宇野 彰, 春原 則子
    2019 年 60 巻 2 号 p. 130-139
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/05/24
    ジャーナル フリー

    日本の生活様式や文化的側面を考慮に入れ,独自に作成した259枚の彩色画を用い,日本語母語話者の呼称成績を予測する因子を検討した.対象は健常成人のべ379名で呼称課題,単語評定課題を実施し,年齢による正確性の差を除外した213枚の呼称課題成績について分析した.重回帰分析の結果,呼称の正確性と呼称潜時を強く予測する因子は名称一致度,イメージ一致度だった.この因子に加え,正確性の予測に親密度,頻度,語彙の獲得年齢が,呼称潜時の予測には,心像性が関与した.語音を正確に表出するには音韻出力レキシコンに影響する親密度,頻度,語彙の獲得年齢が,正確かつ速く呼称するには音韻出力レキシコンの活性だけではなく意味の活性が不可欠なため心像性が関与すると推測した.

  • 池上 敏幸, 山田 弘幸, 原 修一
    2019 年 60 巻 2 号 p. 140-147
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/05/24
    ジャーナル フリー

    7例の構音障害児について,外的語音弁別能力(他者が発した語音を弁別する能力)を聴覚的絵ポインティング課題にて検討した.対象とした構音障害児は,すべて構音訓練を受けたことがなかった.健常3歳児および4歳児(各10例)を対照群とした.
    /k//s/を語頭音とした2モーラ語「かめ」「さめ」に,後続音を統一した「あめ」「まめ」を加えた四分の一選択課題を行い,正答数および語彙選択率を算出し,反応時間を計測した.その結果,語頭音/k/を置換している構音障害児群の外的語音弁別能力は,健常4歳児群と同程度であった.しかし,語頭音/s/を置換している構音障害児群に関しては,健常3歳児群と同程度の外的語音弁別能力であることが示唆された.
    構音障害児の外的語音弁別能力には,構音の誤り方の種類によって,弁別しやすい音と弁別しにくい音がある可能性があり,正しい構音の獲得には,自己の産生音に対する構音の自覚が重要であると考えられた.

症例
  • 藤吉 昭江, 宇野 彰, 福島 邦博
    2019 年 60 巻 2 号 p. 148-154
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/05/24
    ジャーナル フリー

    カタカナ書字の困難さを訴える軽度聴覚障害児1名に,良好な音声言語の長期記憶力を活用したカタカナ書字指導法を適用した.健聴児における読み書きの困難さの原因と考えられる認知障害構造には,視覚認知障害,音韻認識障害が挙げられる.本症例も音韻認識能力が低かったが,音声言語の長期記憶は良好であった.また,本人の練習したいという意思を確認し,先行研究の発達性読み書き障害健聴例を対象としたバイパス法を用いた仮名指導と同様に書字練習を実施した.3週間における段階的な指導の結果,カタカナの46文字書字は指導前に比べて指導後,34文字から46文字へ有意に正答率が上昇した(P<0.01).1モーラ表記文字の書取も,80文字から101文字へ有意に正答率が上昇した(P<0.01).短期間での効果が認められたことから,書字が苦手な聴覚障害児においても,音声言語の長期記憶力が良好な場合には,バイパス法を用いた練習が有効であると考えられた.

  • 荻野 亜希子, 小内 仁子, 平田 暢子, 新明 一星, 都筑 澄夫, 渡嘉敷 亮二
    2019 年 60 巻 2 号 p. 155-161
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/05/24
    ジャーナル フリー

    吃音とメンタルヘルスの問題,特に不安症群との合併については複数指摘がなされているが,進展段階を基準とした改善例の報告は国内外でもわずかであり,心理検査の数値の変化とともに論じた報告は例がない.今回,進展段階第4層の吃音者である19歳女性に対して,年表方式のメンタルリハーサル法を含む,自然で無意識な発話への遡及的アプローチ(RASS)理論に基づいたリハビリテーションを行った.初診後約5ヵ月時の再評価において吃音症状の一つである回避が消失し,進展段階の重症度改善が示唆された.心理検査では不安全般および社交不安の軽減を認めた.吃音検査においては,吃音中核症状頻度が減少し,発話量が増大した.RASS理論に基づく介入によって行動面・認知面・発話面の症状改善が図られた可能性が示唆された.今後は長期的経過および複数症例の蓄積および検討が必要と考える.

  • ―吃音検査法での評価―
    福永 真哉, 塩見 将志, 時田 春樹, 池野 雅裕, 矢野 実郎, 永見 慎輔
    2019 年 60 巻 2 号 p. 162-169
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/05/24
    ジャーナル フリー

    成人吃音者1例に対し年表方式のメンタルリハーサルを行い,訓練前後で吃音検査法ならびに,談話場面に対する反応の自己評定,エゴグラムを実施して訓練の効果を調べた.
    症例は3歳で発吃した21歳の男子大学生,吃音の進展段階は第4層で,自由会話時に中-重度の吃音があった成人である.吃音検査法の発話サンプルのうち,訓練前後で比較可能であった自由会話,情報聴取,単語音読,文音読を使用し,非流暢性,吃音中核症状,随伴症状を分析した.
    吃音検査法の結果,非流暢性頻度と吃音中核症状頻度は,訓練前に比べ訓練後に減少した.随伴症状も訓練後に減少した.談話場面に対する反応の自己評定で,訓練後に,回避,反応,吃音の頻度は減少したが,回避が残存し進展段階は第4層にとどまった.
    メンタルリハーサルの訓練効果は検査場面など発話サンプルの分析でも認め,日常生活での発話行動にも見られた.

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