音声障害を主訴に発見されたきわめてまれな甲状軟骨形成異常の1例を経験した.症例は50歳男性, 生来の音声障害に悩んでいた.本症例の音声障害は気息性成分の強い地声に, 声の翻転, フライ音声が突発的に, かつランダムに出現するというきわめて特異なものであった.喉頭ファイバースコープ所見では, 左側声帯遊離縁の幅が短く, 左側声帯が右側より高位に存在していること, 発声時に左右の披裂部が組み合わさるようにして閉鎖することが確認された.喉頭外表からの触診では上甲状切痕が喉頭隆起を越えて下方まで延長しており, 左側甲状軟骨板が陥凹しているように感じられた.喉頭断層写真, 喉頭CTからは, 左側甲状軟骨板が陥凹し, 左右の甲状軟骨板前方が喉頭隆起のやや下方のレベルまで離解していること, 左側声帯遊離縁の幅が短く, いわゆる唇状というべき形態を呈しておらず, また左側声帯のレベルが右側に比較して高位に存在することが指摘された.以上より, 甲状軟骨形成異常に伴う音声障害と考えられた.
この症例に対し, 甲状軟骨形成術に対するmanual testが陽性 (左側で) であったので, 甲状軟骨形成術I型およびIV型を行った.術中, 左側甲状軟骨板が陥凹し, その表面に異常な血管の増生を認めた.また, 左右の甲状軟骨板上方が離解し, 左側輪状甲状間隙が拡大していることが確認された.術後, 著明な音声の改善を認めた.
一般に喉頭奇形に伴っておこる音声障害は難治であるとされるが, 本症例のようにmanual testが陽性であれば積極的に甲状軟骨形成術を行ってみる価値があると考えられた.
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