音声言語医学
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50 巻, 4 号
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原著
  • —漢字複合語による吃音者・非吃音者の比較—
    今泉 敏, 本間 孝信, 古屋 泉, 岡本 奈緒
    2009 年 50 巻 4 号 p. 249-255
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/04/14
    ジャーナル フリー
    成人吃音者, 非吃音者を対象に漢字複合語に指定されたモーラがあるかどうかを判断する課題を行い, 反応時間と正答率が語の構音の難度や親密度とどのように関連するかを調べた. その結果, 吃の有無にかかわらず構音が難しいと評価された語は, 低親密度語と, 狭母音が核となる拗音節が連続している語で, これらに加えて吃音者にとっては個々人が苦手と感じる高親密度語もあった. また, 親密度が高い語において非吃音者より吃音者が構音を難しいと感じていること, 吃の有無にかかわらず語の構音が難しいとモーラ抽出が遅れ正答率が下がること, その程度は吃音群でかつ語の後半ほど顕著であることが示された. 吃音者個々人にとって構音の難しい語ほどモーラ操作が遅れ不正確になることが吃を起こす要因になる可能性が示唆された.
  • 木村 智江, 今富 摂子, 片岡 竜太, 佐藤 亜紀子, 大久保 文雄
    2009 年 50 巻 4 号 p. 256-261
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/04/14
    ジャーナル フリー
    開鼻声の聴覚判定は妥当性が問題になることがある. そこで1/3オクターブ分析による定量的開鼻声値 (nasality) を併用して評価の妥当性を高めることができるか検討を行った. 対象は口蓋裂またはCVPIの小児14例 (平均年歳7歳10ヵ月) , 対象音は単母音の持続音/i:/とした. 3名の言語聴覚士による聴覚判定とnasalityを比較した結果, 14例中10例 (71%) が一致し, 「軽度あり」の群と「重度あり」の群の平均nasalityに有意差を認めた (p<0.05) . 一方, 両者が不一致であった4例中3例は/i:/発声時の画像所見からnasalityのほうが妥当であると考えた. 不一致例の音声には聴覚判定に影響する何らかの因子が含まれていた可能性があるが, 今回は嗄声との関連は明らかではなかった. 聴覚判定とnasalityを併用することによって, より妥当性が高い評価が得られる可能性が示唆された.
  • —呼称における反応潜時を手掛かりとして—
    高橋 三郎, 伊藤 友彦
    2009 年 50 巻 4 号 p. 262-264
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/04/14
    ジャーナル フリー
    吃音児の単語産出は語頭音節の核母音から後続する音素への移行部分が音節間か音節内かの違いによって影響を受けると報告されている (Shimamori and Ito, 2007) . 本研究は, この影響が4~6歳の非吃音幼児の単語産出にも見られるかどうかを検討したものである. そこで, 本研究では移行部分が音節間である非語と音節内である非語の反応潜時を比較した. その結果, 移行部分が音節内である非語と音節間である非語では反応潜時に有意な差は認められないことがわかった. これらの結果から, 幼児の単語産出は語頭音節の核母音から後続する音素への移行部分が音節間か音節内かの違いによって影響を受けない可能性が示唆された.
症例
  • 庄野 佐和子, 吉田 操, 小川 真, 梅田 彩子, 喜井 正士, 竹中 幸則, 橋本 典子, 猪原 秀典
    2009 年 50 巻 4 号 p. 265-273
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/04/14
    ジャーナル フリー
    当研究の目的は, 学校教師における嗄声症状の発症のリスク因子を同定することである. その方法として, 公立学校共済組合直営病院の人間ドックを利用した公立学校教師を対象に, アンケートによって嗄声の有無とともにさまざまな因子, すなわち役職, 勤務施設, 年齢, 性別, 担当学年, 週間担当授業数, および専門教科について調査し, 嗄声を自覚する頻度と複数のリスク因子との間の相互関連性について検討した. その結果, 1) 女性, 教諭, 週間担当授業数21コマ以上, 小学校勤務, 小学校1・2年生担当, 国語担当, 音楽担当の因子において高いオッズ比が得られた, 2) 教諭の週間担当授業数は管理職教師のものよりも多く, また教諭において週間担当授業数が多くなるほど嗄声自覚頻度が高くなる傾向が認められた, 3) 小学校教諭の週間担当授業数は中学校教諭あるいは高等学校教諭のものよりも多かった, 4) 小学校教諭において, 週間担当授業数が多くなるほど, また担当学年が若くなるほど嗄声自覚頻度が高くなる傾向があった, 5) 特に50歳代女性の小学校教諭において嗄声自覚頻度が最も高かった, 6) 50歳代女性教諭が主に小学校低学年を担当している傾向が明らかとなった. 以上のことから, 学校教師における嗄声症状の発症に関与するさまざまなリスク因子の相互関連性が明らかとなった. これらのリスク因子の存在を熟慮することは, 学校教師における音声障害の発症予防に役立つかもしれない.
特集<言語障害への新たなアプローチ>
  • 辰巳 格
    2009 年 50 巻 4 号 p. 275
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/04/14
    ジャーナル フリー
  • —表層性と音韻性dyslexiaを中心に—
    宇野 彰, 鈴木 香菜美, 三盃 亜美, 春原 則子, 金子 真人, 粟屋 徳子, 狐塚 順子, 後藤 多可志
    2009 年 50 巻 4 号 p. 276-284
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/04/14
    ジャーナル フリー
    本論文では, 発達性dyslexia 1例 (症例ST) と発達性dyslexia 6例 (症例1-6) を対象とし, 成人を対象とした認知神経心理学を発達性dyslexiaに直接適用する際の問題点について述べることを目的とする. 症例1でみられる発達性書字障害の障害構造は従来の二重経路モデルでは解釈しきれず, 同じ症例において音韻障害が認められないにもかかわらずひらがな, カタカナの音読においては, 音韻性dyslexia様の症状を呈することを述べた. 反対に, 発達性dyslexia 6例のうちの5例に関して漢字の非語と非一貫語 (不規則語) の音読成績の乖離を基準に分類すると, 要素的認知機能検査にて音韻障害が認められているにもかかわらず表層性 (surface) dyslexiaと解釈される児童が認められた. 以上のように, 発達性dyslexiaに成人領域でのモデルを直接適用すると矛盾が生じる場合があるように思われ, 発達を考慮したモデルを構築すべきではないかと思われた. しかし, 本報告では症例数, 定型発達児数ともに少ないこと, 十分に統制された刺激が使用されていないこと, 音読年齢を基準に比較されていないことなど, 今後検討されるべき問題点についても言及した.
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