音声言語医学
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51 巻, 2 号
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原著
  • 野中 信之, 大森 千代美, 酒井 俊一, 福田 信二郎, 森 望
    2010 年 51 巻 2 号 p. 139-148
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/21
    ジャーナル フリー
    聴覚評価表 (田中式聴覚発達検査, IT-MAIS) が乳幼児の聴力を早期に把握するための一助となることを検証する目的で, 症例の聴覚機能を継時的に評価した.
    症例は補聴器や人工内耳を装用した15例の重度難聴群, 高度難聴群, 中等度難聴群の乳幼児である.
    その結果, 重度難聴群では人工内耳の術前の低得点と術後の聴覚評価表における得点上昇が観察された. 高度難聴群では急速な聴覚発達, 聴力悪化, 困難な養育環境, そして心身の発達の遅れの影響と考えられる得点変化が検出された. 中等度難聴群は他群より高得点であった. これらの特徴は2つの評価法の間で類似し, 症例は聴力が悪いほど低得点であった.
    以上から聴覚評価表は聴力把握の一助になりうると考えられた.
  • 青山 猛, 讃岐 徹治, 増田 聖子, 湯本 英二
    2010 年 51 巻 2 号 p. 149-155
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/21
    ジャーナル フリー
    披裂軟骨脱臼は全身麻酔の気管挿管の合併症として報告され, 外力のかかり方によって前方, または後方に脱臼する. 今回全身麻酔後に発症した前方脱臼症例と後方脱臼症例を経験したので各症例の臨床的特徴について報告する.
    症例1:全身麻酔下の手術直後から高度嗄声を認めた. 初診時は右披裂部が固定し, 喉頭筋電図検査では発声時の両側甲状披裂筋に左右同等の活動電位を認めた. 右披裂軟骨前方脱臼と診断し全身麻酔下に整復術を行った. 術後右声帯の可動性と嗄声は徐々に改善し, 術後6ヵ月で声帯運動の左右差はなくなった.
    症例2:全身麻酔下の手術直後より高度嗄声を認めた. 初診時は右披裂部の固定を認め, 発声時に左声帯は過内転していた. 右披裂部の固定位より右披裂軟骨後方脱臼と診断し整復術を予定した. しかし, 子供が背後から前頸部にぶらさがり, その直後より嗄声が改善, 再診時は右声帯の動き, 形態も正常となり予定していた手術は中止した. 本症例は後方脱臼が偶然ではあるが徒手整復されたものと考えた.
海外招聘講演
特集<喉頭瘢痕性病変へのアプローチ>
  • 二藤 隆春, 今川 博, 溜箭 紀子, 山岨 達也, 榊原 健一, 田山 二朗
    2010 年 51 巻 2 号 p. 166-170
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/21
    ジャーナル フリー
    声帯瘢痕は, 手術や外傷による損傷, 炎症の反復などにより本来柔軟な声帯粘膜が硬い瘢痕組織に置換され, 声帯振動の異常から音声障害が生じる疾患である. 瘢痕性病変の部位や程度を正確に評価するには通常の喉頭内視鏡検査では困難であり, 喉頭ストロボスコピーや高速度デジタル撮影が必要である. 患側の声帯振動, 粘膜波動の減弱や消失, 両側声帯間の位相差や声門閉鎖不全などの所見が観測される. 画像解析法として, 声帯振動の時系列的な変化を追うキモグラフや部位ごとの声帯振動の差異を表示可能な喉頭トポグラフなどが活用されはじめ, さらなる発展が期待されている. 症状と喉頭内視鏡検査所見が一致しない場合は, 声帯瘢痕の可能性も念頭におき, 積極的に精査を進めることが重要である.
  • 平松 宏之, 渡嘉敷 亮二, 北村 珠理, 本橋 玲, 野本 剛輝, 豊村 文将, 鈴木 衞
    2010 年 51 巻 2 号 p. 171-178
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/21
    ジャーナル フリー
    喉頭瘢痕症例では, ときに病態が複雑で治療に難渋することがある. 内視鏡では判断できない深部構造の異常が声帯粘膜波動や声帯運動の障害の原因となっている可能性がある. したがって声帯病変のみならず深部の瘢痕, 喉頭の枠組みの変形, 披裂軟骨の偏位や運動障害の有無についても把握する必要がある.
    声帯内脂肪注入例, 喉頭外傷症例および喉頭外傷後に喉頭截開術を受けた症例を例に挙げ, 深部に存在する構造異常が声帯の粘膜波動や運動に及ぼす影響について3DCTで検討した. これらの症例は声帯の粘膜波動や声帯運動の障害を認め, 瘢痕病変の存在が疑われた症例である.
    声帯内脂肪注入例では過注入により両側の声帯が緊満した結果, 声帯の粘膜波動が障害された. 喉頭外傷症例では輪状披裂関節部での輪状軟骨の骨折と披裂軟骨の脱臼を認めた. 喉頭截開術後の症例では, 片側の披裂軟骨脱臼および両側の甲状軟骨板の上下方向のずれによる声帯レベルの差を認めた. これらは声帯粘膜波動や声帯運動の障害の原因であった.
    喉頭瘢痕による音声障害の治療において, 内視鏡で観察できる部分だけでなく, 深部に存在する構造異常の有無についても考慮する必要がある. 3DCTは喉頭領域の複雑な立体配置の描出が可能であり, 喉頭瘢痕症例の評価に適している.
  • 金沢 英哲
    2010 年 51 巻 2 号 p. 179-182
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/21
    ジャーナル フリー
    ステロイド声帯内注射は, 瘢痕組織の軟化 (stiffnessの低下) と瘢痕容積の減量 (粘膜移動性の向上) を目的に施行している. 反復すれば, 侵襲から数十年経過した成熟期瘢痕にも効果がある. 一方, 本法単独で無瘢痕治癒に導くことはなく, 厚く硬い瘢痕ではおのずと効果の限界がある. 声帯瘢痕治療の臨床は, 振動体たる声帯の物性再建のみでは不十分な症例も多く, 声帯の「可動性」, 「三次元的な位置異常」, 「緊張度」を考慮した集学的な治療を行う必要がある. 本法は最も簡便な治療法として有用である.
  • —厚生労働省声帯溝症班研究—
    角田 晃一
    2010 年 51 巻 2 号 p. 183-186
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/21
    ジャーナル フリー
    声帯の瘢痕病変の代表である声帯溝症等は, 発声障害のみならず進行すると, 力が入らない, 重い荷物が持てない等の胸郭の固定障害, 気管につばが流入するなど嚥下障害, つまり社会生活におけるQOLの著明な低下をきたす. 若年者 (65歳未満) では頻度は低いが, 発症すれば活躍すべきときに音声言語コミュニケーション障害をきたし, メガネ, 補聴器に比し, 一見理解しにくい分, 大きなハンディーとなりうる.
    治療の歴史は, さまざまな物質の声帯への注入や, 一色の手術を含む多くの音声外科治療が行われている. 私は自家筋膜を移植, 創傷治癒機転により声帯を再生させる「声帯内側頭筋筋膜自家移植:ATFV」法と, 発声訓練による積極的介入を行っている.
    しかしながら診断・治療法は施設によりまちまちで, QOLの地域格差の出現も懸念される. その最大の理由は, 診断基準を含め, 国内・外を問わず大規模な疫学を含む診断・治療の実態調査が行われていないことが考えられる.
    視・聴覚に対するメガネ, 補聴器など, 感覚器情報のinput器官では当たり前に行われている対策を, 感覚器情報へのoutput障害 (発声障害) の代表として声帯溝症を選び, 患者の症状と要望, 診断・治療の実態など, 臨床調査研究を効率良く実施し不明な点を明確にし, 安全かつ経済的な診断・治療法の選択とその診断治療の標準化を図る指針・ガイドラインの作成を提案すべく班研究を開始している.
  • 平野 滋, 岸本 曜
    2010 年 51 巻 2 号 p. 187-189
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/21
    ジャーナル フリー
    声帯瘢痕・溝は声帯粘膜が硬く変性する疾患であり, 確立された治療法はない. 組織学的な変性が原因であり, I型コラーゲンの無秩序な過剰蓄積やヒアルロン酸の減少などが指摘されている. 本疾患の治療のためにはこれら組織変性にアプローチする必要がある. 今回, われわれは再生医工学の概念から, 瘢痕声帯の組織再生を試みた. 再生工学では再生のための適切な場を与えることが必要であり, 今回, 声帯粘膜に適切な再生土台となる移植材料としてアテロコラーゲンシートを用い, これを瘢痕声帯粘膜内に移植した. その結果, ストロボスコピー検査において多くの症例で声帯粘膜波動の改善, 声門閉鎖不全の減少が観察され, 声帯粘膜の物性改善が認められた. また, 音響学的検査, 空気力学的検査においても改善が確認された. ただし, その効果は個人差が大きく, 安定した成績を得るためにはさらなる改良が必要であろう.
  • 福田 宏之
    2010 年 51 巻 2 号 p. 190-191
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/21
    ジャーナル フリー
    声帯の病変を改善する方法のなかで最も効果的に行われるのは, ポリープや腫瘍など声帯に本来あってはならない余計なものを取り除くことである. 次に声帯萎縮のような足りないものを補うことも対象になっている. しかし声帯粘膜の物性の変化, 特に硬化性病変の治療は確立されていない. 特に難渋するのは瘢痕性病変である. 音声治療や再生工学の手法などが応用されることもあるが, 手術的に切除して, 次の創傷治癒に期待するという概念から筆者は積極的な切除を推奨している.
特集<重複障害のある難聴児への聴覚言語獲得支援>
  • 福島 邦博
    2010 年 51 巻 2 号 p. 192
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/21
    ジャーナル フリー
  • 濱田 豊彦
    2010 年 51 巻 2 号 p. 193-198
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/21
    ジャーナル フリー
    文部科学省が実施した調査 (2002) において, 発達障害様の困難のある児童生徒が6.3%在籍していることが示唆された. ところが, 聴覚障害児の場合その発達障害合併事例の実態はつかめていない. それ故, 発達障害事例の人数をつかむための調査を行った. 全国の聾学校を対象にアンケート調査を実施した. その結果, LD様困難例が30.0%, ADHD様困難例が9.1%, 高機能自閉様の困難例が4.6%となった. いずれも聴児に比べ高率であった.
    全質問項目を因子分析して困難を分類し, 因子得点を基に児童生徒をクラスタ分析した. その結果, 聾学校小学部では6つの群が抽出された.
    クラスタの典型事例に対する指導経過を紹介した. 今後, 群化されたそれぞれの典型例と思われる事例について, 有効な支援方法を検討していくことが課題となると考える.
  • 小川 洋, 馬場 陽子, 山田 奈保子, 鈴木 雪恵, 松井 隆道, 野本 美香, 小針 香菜, 鈴木 綾, 村岡 理恵, 佐場野 優一, ...
    2010 年 51 巻 2 号 p. 199-202
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/21
    ジャーナル フリー
    われわれが福島県立医科大学付属病院および福島県総合療育センターにおいて, 聴覚障害をもつ重複障害児に対して行っている聴覚獲得支援について報告し, 重複障害児に対する補聴器, 人工内耳の適応について論じる. 重複障害児にとっても人工内耳は聴覚獲得のためには有用な手段となるが, その適応には十分な協議が必要である. 重複障害児において, 補聴器および人工内耳により聴覚補償を行うことは, 非言語的ないし情緒的レベルを含んだコミュニケーションを改善させる観点から有用である.
  • 平海 晴一, 山口 忍, 伊藤 壽一
    2010 年 51 巻 2 号 p. 203-206
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/21
    ジャーナル フリー
    術前の発達指数低値が人工内耳術後成績に与える影響と, 広汎性発達障害を合併する高度感音難聴児に対する人工内耳の効果を検討した. 術前の新版K式発達検査による認知・適応発達指数は術後の語音成績と有意な相関を示したが, 相関係数は小さく語音成績への影響は限定的であった. また, 術前の発達指数が低い患児の半数近くは術後発達指数が正常範囲内となっており, 発達指数の低値のみで人工内耳の適応から外す必要がないことを示唆する結果であった. 広汎性発達障害を合併する患児の語音成績はばらつきが大きかったが, 平均すると重複障害のない患児に比べてやや悪い成績であった. 音に対する反応の改善は良好で, 家族の満足度も高く, 人工内耳は広汎性発達障害を合併した難聴児にも一定の効果を示した. しかしながら周囲との関係性は手術前後で変化は乏しく, これらの患児では「難聴のない広汎性発達障害」を目標として設定すべきと考えた.
特集<音声障害への対応:医師と言語聴覚士の連携>
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