原発性進行性失語 (primary progressive aphasia: PPA) は, Mesulam (1982) によって提唱された概念で最初緩徐進行性失語 (slowly progressive aphasia: SPA) と呼ばれた.原著は, 知的障害や行動異常を随伴せず, 緩徐に進行する失語を呈した6例の右利き症例の呈示である.ほとんどの症例が初老期に発症し, 責任病巣は左Sylvius裂周辺領域であり, 病理像はAlzheimer型痴呆と異なるとされている.その後PPA・SPA例として報告された症例の数は莫大であり, 本邦にもいくつかの総説がある (河村満: 緩徐進行性失語症―最近の概念.神経内科 (1999) 51: 209-214など参照) .
PPA報告例の失語症型には失語症古典分類のすべてのタイプが存在する一方, 古典分類に相当しない非定型例も多い.また, 流暢型では健忘失語が全報告例の半数を占め, Wernicke失語で発症することはほとんどない.さらに, 最近ではPPAの症候上の特徴として発話の非流暢性が取り上げられることが多い.
発話障害で発症するPPAには3つのタイプがある.第1は非流暢性失語で始まり, 第2は構音障害で始まり, そして3番目に発語失行で発症するタイプである.後者の2つ病態の把握と鑑別が特に重要である.
発語失行で発症するタイプは43例の報告がある.このタイプでの発症年齢は60歳ぐらいで男女差はなく, 発症から初診または入院までの期間は数ヵ月から10年.症状は当初, 孤立性の典型的発語失行であり, 徐々に構音障害に進行する場合と, 失語さらに痴呆に進む場合とがある.
剖検・生検例は8例あり, 内訳は, Alzheimer型痴呆が1例, Pick病 (自験例) , CBDが2例ずつで, その他, 非特異的変性が3例で, 非特異的変性の3例はいずれも皮質表層 (I~III層) の海綿状変化であり, heterogeniousである.しかし今後, 症候の進行の様式についての詳細な検討と剖検結果との対比がなされれば背景病態の詳細が明らかになる可能性がある.
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