発話時にのみ舌に異常な後退現象が生じ構音障害をきたした1症例の, 言語症状, 発話時における舌の動態, 診断, 治療および経過について報告した.
構音検査では, 歯音, 歯茎音を中心とする子音および前舌母音で, 舌の後方移動によると考えられる歪みが聴取された.超音波断層法から発話開始とともに舌が後退し, 奥舌に隆起が生じることが観察された.構音器官に形態異常や運動障害は認められず, 頭部MRI等の画像診断を含めた神経学的検査, および精神科的検査の結果からも異常所見は認められなかった.
この症例を機能的構音障害と診断し, 系統的構音訓練を行ったところ構音障害の軽快をみた.機能的構音障害の大半は構音習得途上において生じるが, 構音習得後に生じる例もあり得ること, また, 構音訓練の適応となり得ることが示唆された.舌の運動異常は, 口顎ジストニア (oromandibular dystonia) の範疇に分類すべきであると考えられた.
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