日本泌尿器科学会雑誌
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111 巻, 1 号
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原著
  • 志村 寛史, 渡邉 望, 中村 健三, 塚本 拓司, 東 幸仁, 武田 正之, 桑原 勝孝
    2020 年 111 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2020/01/20
    公開日: 2021/01/20
    ジャーナル フリー

    (目的) 近年,下部尿路症状(以下LUTS)と血管内皮機能障害の関連が注目されている.FMD(Flow Mediated Dilation)検査は一酸化窒素の産生能を中心に血管内皮機能を測定する検査である.そこで,FMDとLUTSの関係およびPDE5阻害薬の有効性とFMDの変化を評価した.

    (対象と方法) 当院通院中の男性122例を対象とした検討では,症状スコアや既往,LUTSに関わる内服の有無を評価し,FMD測定値との相関を解析した.さらに前立腺肥大症患者で新規にタダラフィル5mgの投与を開始した21名を対象とした検討では12カ月の観察期間とし,FMD値および症状スコアを集計した.FMD低値群(11例)と対照群(10例)に分け,FMD値や症状スコアの改善の有無を比較検討した.

    (結果) 高血圧や冠動脈疾患の既往のある例や過活動膀胱治療薬内服群で有意にFMD低値であった.また,FMD値と夜間排尿回数やOABSSは有意な負の相関を示した.タダラフィル投与例ではFMD低値群でFMD値やIPSS,OABSSが有意に改善した.

    (結論) 血管内皮機能の低下とLUTSには密接な関係があり,それらはタダラフィルの投与によって改善する可能性が示唆された.

  • 内藤 祐志, 金澤 秀幸, 岡田 百合香, 永山 洵, 庄 紀江, 山本 晃之, 小嶋 一平, 寺島 康浩, 長井 辰哉
    2020 年 111 巻 1 号 p. 9-15
    発行日: 2020/01/20
    公開日: 2021/01/20
    ジャーナル フリー

    (目的) 根治的膀胱全摘除術(以下RC)における,Enhanced recovery after surgery(以下ERAS)の有用性と安全性を検討する.

    (対象と方法) 対象は,2012年1月から2019年3月の間に当院でRCを受けた患者103名.本検討で導入されたERASの要素は,術前絶食期間の短縮,術前経口炭水化物負荷,術前腸管処置の省略,術前輸液の制限,経鼻胃管非留置,術後早期経口栄養摂取,ドレーン留置の最小限化,の7項目である.ERAS導入前の71名を従来群,ERAS導入後の32名をERAS群と定義し,2群間の周術期アウトカムを後方視的に比較した.さらに術後在院期間と術後合併症発生(Clavien-Dindo分類Grade≧2)に影響を及ぼす因子について,多変量解析を用い検討した.

    (結果) 2群間の患者背景に差は認めなかった.手術成績について,手術時間のみERAS群で有意に短かった(402分 vs. 470分;P=0.03).ERAS群において術後合併症発生率と術後在院期間は有意に減少した(43.8% vs. 67.6%;P=0.03)(21日 vs. 28日;P<0.001).多変量解析において,ERASは術後在院期間の短縮に影響する独立した因子であった(OR,5.22;P=0.009).

    (結論) RCに対するERASは術後在院期間と合併症の減少に寄与することが示唆された.

  • 浅野 篤, 丸 晋太朗, 豊田 裕, 作田 剛規, 前野 七門, 松村 欣也, 小柳 知彦
    2020 年 111 巻 1 号 p. 16-21
    発行日: 2020/01/20
    公開日: 2021/01/20
    ジャーナル フリー

    (目的) 特発性腎出血に対してビデオスコープ軟性尿管鏡による観察や止血操作を行った症例の治療成績を検討した.

    (対象と方法) 対象は2014年3月から2019年8月までに特発性腎出血に対してビデオスコープ軟性鏡を用いて尿管鏡を施行した14例(男7名,女7名),年齢の中央値は56.5歳(範囲21~87歳).臨床症状としては,全例肉眼的血尿を呈し,1例では血尿に伴う貧血のため輸血を要した.また出血側は左側8例,右側3例で,その他の3例では患側を同定出来なかった.この14例について,尿管鏡所見と出血箇所,止血操作の有無と治療効果,再発の有無を検討した.

    (結果) 尿管鏡所見では,乳頭血管腫を7例,微小血管の破綻を3例に認め,4例では明らかな所見を認めなかった.また所見を認めた箇所は,上腎杯が8例,中腎杯が4例,下腎杯が4例,腎盂壁が1例であり,また6例では複数個所に認め,その内2例では全腎杯に認めた.所見を認めた10例で止血操作(電気凝固,レーザー)を行った.術後観察期間の中央値は32.4カ月(範囲6.4~65.4カ月).全例で治療後に血尿の消失を認めた.全腎杯に所見のあった1例で,1年6カ月後に肉眼的血尿の再発を認めたが保存的加療で消失した.

    (結論) 特発性腎出血に対してビデオスコープ軟性尿管鏡による観察は有用であり,腎盂内の出血部位への止血操作は有効であった.

  • 島袋 智之, 大見 千英高, 白石 晃司, 松山 豪泰
    2020 年 111 巻 1 号 p. 22-29
    発行日: 2020/01/20
    公開日: 2021/01/20
    ジャーナル フリー

    (背景) 高尿酸血症は血管障害や腎機能障害に関連している.研究報告の多くは尿酸と臨床転帰の関連性を述べるだけで,肥満度(BMI),推算糸球体濾過量(eGFR)との関係性を数式を用いて定量化した報告は認めない.

    (対象) 当院健診センターを訪れ,すべての項目情報が得られた男性1,684人,女性1,195人を対象とした.

    (結果) 年齢中央値は男性51.0歳,女性50.0歳,血清尿酸値の中央値は男性6.1mg/dl,女性4.5mg/dlであった.高尿酸血症を男性の23.9%,女性の8.5%に認めた.男性では各年代間で血清尿酸値に有意差を認めず,女性では50歳代を境に高年代ほど血清尿酸値は高くなった.血清尿酸値を目的変数とし,有意差のあったBMIとeGFRを説明変数とする関係式を求めたところ,男性においてはUA(mg/dl)= 5.637+0.065 x(BMI)- 0.014 x(eGFR),女性においては50歳未満でUA(mg/dl)= 4.068+0.065 x(BMI)- 0.014 x(eGFR),50歳以上でUA(mg/dl)= 4.311+0.075 x(BMI)- 0.017 x(eGFR)という関係式を得た.

    (結論) 男女共に血清尿酸値はBMIとeGFRに関連して推移した.女性において閉経は独立して尿酸の高値化に関連していた.

症例報告
  • 松村 聡一, 永原 啓, 福原 慎一郎, 藤田 和利, 植村 元秀, 木内 寛, 今村 亮一, 大月 道夫, 野々村 祝夫
    2020 年 111 巻 1 号 p. 30-33
    発行日: 2020/01/20
    公開日: 2021/01/20
    ジャーナル フリー

    症例は32歳,男性.中学生時より二次性徴の遅れを自覚していたが医療機関は受診しなかった.32歳時,二次性徴が来ないことを主訴に前医を受診し,性腺機能低下症が疑われ当院紹介受診となった.初診時,陰茎は小陰茎であり,左精巣は触知せず,右陰囊内に矮小精巣を触知した.内分泌学的検査では総テストステロンは0.34ng/ml,LHは1mIU/mLと低値を示しており,低ゴナドトロピン性性腺機能低下症と診断された.腹部MRI検査では,外鼠経輪に最大径8mmの萎縮した左精巣を認めた.左停留精巣を伴った,低ゴナドトロピン性性腺機能低下症と診断しhCG補充療法を開始したところ,治療開始6カ月で左精巣の増大と陰囊内への下降を認め,射精が確認された.成人の性腺機能低下症に伴う停留精巣に対しては,補充療法により手術を回避できる可能性があると考えられた.

  • 植木 秀登, 角井 健太, 奥野 優人, 田口 功, 清中 さわみ, 川端 岳
    2020 年 111 巻 1 号 p. 34-37
    発行日: 2020/01/20
    公開日: 2021/01/20
    ジャーナル フリー

    小径の腫瘍や切除範囲を同定しにくい腫瘍を切除する場合,術前マーキングは有用かつ合理的である.術前CTガイド下マーキングは呼吸器外科領域では比較的広く用いられているが,現在までに泌尿器科領域での報告は稀である.今回我々は小径の再発性後腹膜腫瘍に対して術前CTガイド下マーキングを行い,腹腔鏡下に腫瘍摘除し得た症例を経験したため報告する.

    63歳女性.子宮間質肉腫に対して広汎子宮全摘術を施行し,術後2年で後腹膜腔に腎まで達する巨大再発病変を認めた.その際当科で後腹膜腫瘍摘除術,右腎合併切除術を施行した.再発病変に対する手術から2カ月後に腹部CTで右腸腰筋近傍に微小な腫瘤性病変を認め,その後病変が1cm大まで増大したため子宮間質肉腫の再々発を疑い外科的切除する方針となった.エコーでは腫瘍は同定不可能であり術前CTガイド下マーキングを行い,翌日後腹膜鏡下腫瘍摘除術を施行した.病理学的にも子宮間質肉腫の再発に矛盾しない所見であった.

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