日本泌尿器科学会雑誌
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112 巻, 4 号
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原著
  • 林 圭一郎, 冨士 幸蔵, 大水 円夏, 平松 綾, 小泉 真太郎, 松原 英司, 齋藤 克幸, 石川 公庸, 佐々木 春明, 深貝 隆志, ...
    2021 年 112 巻 4 号 p. 159-167
    発行日: 2021/10/20
    公開日: 2022/10/20
    ジャーナル フリー

    (目的) 日本人男性における夜間多尿による夜間頻尿に対するデスモプレシンの有効性と安全性について前向き研究を行った.

    (対象と方法) 夜間頻尿を訴え夜間多尿指数0.33以上の50歳以上の男性患者51人を対象とした.デスモプレシン(ミニリンメルトOD錠)を25μgまたは50μgを1日1回就寝前に投与した.投与前,4週後,8週後,12週後の夜間排尿回数,夜間尿量,夜間多尿指数,就眠後第一排尿までの時間,IPSSに関して検討した.また,1週後,4週後,12週後に診察と血液検査による安全性の評価を行った.

    (結果) 投与前と比較し4週後から夜間排尿回数の減少,夜間尿量の減少,夜間多尿指数の減少,就眠後第一排尿の延長,IPSSの改善を認めた.さらに全ての項目において12週後もその効果は持続していた.安全性に関しては,有害事象が31.3%で認められ,特に低ナトリウム血症が15.7%と高率に認められた.投与前の血清ナトリウム値が低く,体重が軽い方が有意に出現しやすかった.

    (結論) 夜間多尿の治療に関して,この薬剤がkey-drugとなる可能性が示唆された.しかし,重要な有害事象である低ナトリウム血症による中止例が少なくない.投与前Na値が正常低値や低体重の患者が低ナトリウム血症を引き起こすリスクファクターと考えられた.

  • 森澤 洋介, 佐藤 裕之, 佐藤 温子, 岩佐 俊, 青木 裕次郎
    2021 年 112 巻 4 号 p. 168-172
    発行日: 2021/10/20
    公開日: 2022/10/20
    ジャーナル フリー

    (背景) 脊髄係留症候群とは脊髄下端が尾側組織に係留し,さまざまな神経障害をきたすことをいう.中でも排尿障害は早期に出現することが多い.昼間尿失禁を主訴に泌尿器科を受診し,脊髄係留症候群の診断に至った小児症例について検討した.

    (対象と方法) 2011年3月から2017年10月に昼間尿失禁を主訴に泌尿器科を受診し,脊髄係留症候群と診断された18例.脊髄係留症候群の診断契機,係留解除術前後の臨床症状の変化について検討した.

    (結果) 男児9例,女児9例.初診時の平均年齢は6.3歳(範囲4~9歳).難治性の昼間尿失禁として全例にウロダイナミクスおよびVCUGを施行した.全例に脊仙MRIを施行し,その理由はVCUGおよびウロナミクスでの異常所見の精査であった.終糸脂肪腫8例,潜在性脊髄係留症候群4例,低位脊髄円錐4例,円錐部脂肪腫1例,仙骨内髄膜囊胞1例でMRIでの解剖学的脊髄係留所見を認めたのは4例のみであった.脊髄係留解除術後の平均観察期間は66.3カ月(22~116カ月)で,11例で無症状,4例は夜尿症のみが残存,3例は間欠導尿での管理となっている.

    (結語) 昼間尿失禁が脊髄係留症候群の症状の一つとなっている症例が存在することを想定し,診療を行う必要がある.ウロダイナミクスでの膀胱機能評価が,脊髄係留症候群の診断契機となりうる.

  • 巴 ひかる, 関口 由紀, 尾崎 由美, 二宮 典子, 佐藤 嘉一, 高橋 悟
    2021 年 112 巻 4 号 p. 173-178
    発行日: 2021/10/20
    公開日: 2022/10/20
    ジャーナル フリー

    (目的) 外陰腟症状質問票(Vulvovaginal Symptoms Questionnaire;VSQ)の日本語版を作成し,その言語学的妥当性を検討する.

    (対象と方法) VSQの日本語版作成は日本性機能学会女性性機能委員会の事業として行われ,日本性機能学会臨床研究促進委員会の承認を得た.翻訳は,順翻訳→コミュニティー・レビュー→逆翻訳→原著者からの日本語版作成の許可取得および完成した逆翻訳の承認の順で行った.初回翻訳は2名の泌尿器科医で行い,さらに3名の泌尿器科医が加わり日本語訳を完成させた.コミュニティー・レビューは,閉経関連泌尿生殖器症候群(Genitourinary Syndrome of Menopause;GSM)を有する女性10名および有さない女性10名の計20名を対象として半構造化面接を行い,対象からの意見を取り入れいくつかの文言の変更および,より明確に回答できるよう独自の説明文を追加した.これを前回とは異なる被験者計20名に再度回答してもらい,修正を追加した順翻訳を逆翻訳して原著者にメール送信した.

    (結果) 原著者から日本語版作成の許可を得,また逆翻訳に対する訂正指示はなく,承認が得られた.

    (結論) 多段階の検討過程を経て,言語学的妥当性のあるVSQ日本語版が完成した.

  • 橋爪 章仁, 山下 亮, 新坂 秀男, 中村 昌史, 松嵜 理登, 庭川 要
    2021 年 112 巻 4 号 p. 179-184
    発行日: 2021/10/20
    公開日: 2022/10/20
    ジャーナル フリー

    (目的) 転移性尿路上皮癌におけるPembrolizumabの治療効果と免疫関連有害事象(immune-related adverse events:irAE)との関連性を検討した.

    (対象と方法) 2018年5月から2020年2月の間にPembrolizumab単独治療を行った転移性尿路上皮癌症例42例を対象とした.irAEの発症が客観的奏効率(objective response rate:ORR)や無増悪生存期間(progression-free survival:PFS),全生存率(overall survival:OS)にどのような影響を与えていたかを検討した.

    (結果) グレードを問わないirAEは19例(45.2%)に認めた.全42例中15例が奏功しORR 35.7%であった.irAE発症群ではORR 68.4%,irAE非発症群では8.70%であった(オッズ比15.0,95%Confidence Interval(CI):1.70~738,P=0.006).irAE発症群ではirAE非発症群と比べ,PFS(ハザード比:0.24,95%CI:0.11~0.54,P<0.001),OS(ハザード比:0.11,95%CI:0.03~0.37,P<0.001)ともに有意に延長していた.

    (結論) irAE発症は奏効率や生存期間延長と有意に関連していた.

  • 沖波 武
    2021 年 112 巻 4 号 p. 185-191
    発行日: 2021/10/20
    公開日: 2022/10/20
    ジャーナル フリー

    (目的) 高齢患者における排尿症状質問票利用の限界について検討した.

    (対象と方法) 回復期病棟に入院した自排尿可能な患者32例を対象とした.年齢は82.9±6.9歳(65~97歳),男性11例,女性21例であった.運動・認知機能は機能自立度評価表(FIM)と精神状態短時間検査(MMSE)を用いて評価した.IPSS,IPSS-QOL,OABSSの質問票を患者に渡し,計12項目に記入回答を依頼した.回答できなかった場合は介助した.回答状況により,自己のみで完答可,要介助で完答可,要介助でも完答不可の3群に分けてその割合を評価した.自己で回答できなかった設問数(記載欠測数)と,年齢,FIM運動・認知項目,MMSEとの相関を評価した.自己のみで完答不可となる患者背景因子を多変量解析にて評価した.

    (結果) 自己のみで完答可は21例(65.6%),要介助で完答可は6例(18.8%),要介助でも完答不可は5例(15.6%)であった.記載欠測数と年齢,FIM運動・認知項目,MMSEの各因子は相関を認めた.自己のみで完答不可となる患者背景因子として,FIM認知項目20点以下(オッズ比133,95%信頼区間7.29~2,430,p=0.000965)を認めた.

    (結論) 平均年齢82.9歳の高齢患者集団の34.4%は,排尿症状質問票に自己のみで完答できなかった.その要因として認知機能低下を認めた.

  • 三田 真朗, 神谷 直人, 杉﨑 裕香, 森 堂道, 杉山 真康, 加藤 精二, 岡 了, 内海 孝信, 遠藤 匠, 矢野 仁, 蛭田 啓之 ...
    2021 年 112 巻 4 号 p. 192-198
    発行日: 2021/10/20
    公開日: 2022/10/20
    ジャーナル フリー

    (目的)

    後腹膜線維症は特発性と二次性に大別され,特発性の一部にIgG4関連疾患が含まれ,診断にはIgG4関連疾患包括診断基準が用いられる.特発性後腹膜線維症に対する治療の第一選択はステロイド療法であるが,導入量や漸減スケジュールに関するコンセンサスは確立されていない.今回当科にて後腹膜線維症と診断された14例について臨床的検討を行い,診断と治療におけるIgG4の意義について検討した.

    (対象と方法)

    2013年4月から2019年3月の間に後腹膜線維症と診断された14症例を対象とした.13例で診断時に血清IgG4を測定,6例においてステロイド療法導入前・後の血清IgG4の経時的変化を測定した.4症例においてCTガイド下生検を施行した.

    (結果)

    全症例中IgG4関連後腹膜線維症の確診群が1例,疑診群が5例であった.10例でステロイド療法,3例で腎瘻造設が行われ,うち2例でステロイド療法後に腎瘻カテーテルを抜去した.血清IgG4高値症例は,ステロイド療法後全例で血清IgG4は低下した.

    (結論)

    CTガイド下生検は低侵襲であり,後腹膜線維症の確定診断に有効だった.血清IgG4は後腹膜線維症の病勢を反映することが示唆され,血清IgG4値の推移をモニタリングすることはステロイド投与量の調節に有効であった.

  • 梁 英敏, 前田 光毅, 山下 真寿男, 桑山 雅行, 中村 一郎, 山田 裕二, 岡 康彦, 武市 佳純, 前田 浩志, 阪本 祐一, 吉 ...
    2021 年 112 巻 4 号 p. 199-206
    発行日: 2021/10/20
    公開日: 2022/10/20
    ジャーナル フリー

    (背景)

    前立腺肥大症の手術療法においてホルミウムレーザー前立腺核出術(Holmium Laser Enucleation of the Prostate;以下HoLEP)の役割は増している.HoLEP術者に術式や周術期管理についてのアンケートを行い,今後の手順の標準化や教育システムの確立を目指す.

    (方法)

    本院ならびに関連施設でHoLEPの術者18人にアンケートを送付した.質問内容は17項目からなり,主なものとして,核出の手順は1-LOBE法か3-LOBE法か,術者教育についての考え,術者教育について一番難しい点と一番強調している点,などであった.

    (結果)

    16人の術者(88.9%)より回答が得られた.主な回答結果として核出の手順については1-LOBE法と回答した術者が5人,3-LOBE法と回答した術者が5人,症例により選択すると回答した術者5人であった.術者教育については,術前画像から前立腺をイメージし,手術手技のシミュレーションを十分に行うことが肝要との回答があった.術者教育について難しい点と強調している点は,レーザーの出る向きや距離といった特性と,腺腫への牽引のかけ方が重要との意見があった.

    (結論)

    施設ごとの差異が見られたところと概ね類似した回答も存在した.本結果を土台として今後の標準術式や教育システム確立を図りたい.

  • 島袋 智之, 大見 千英高, 長光 涼子, 白石 晃司
    2021 年 112 巻 4 号 p. 207-214
    発行日: 2021/10/20
    公開日: 2022/10/20
    ジャーナル フリー

    (背景)我が国において,実臨床における去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)に対する新規アンドロゲン受容体軸標的薬(ARAT)の生命予後改善効果はよく分かっていない.

    (目的)主目的はCRPCの生存予後に与えるARATsの効果解析,副目的はCRPCの生存予後予測因子の検討.

    (対象と結果)男性ホルモン除去療法後のCRPC患者68例のうち,34例でARATsが使用され(A群),34例で従来の治療剤が使用された(V群).加療期間中央値61.5カ月間にそれぞれ20例,22例の死亡例を認めた.診断時からの50%生存期間(MST)はA群99カ月,V群66カ月,CRPC進行後のMSTはA群50.5カ月,V群44.5カ月で,両群間に有意差を認めなかった.A群のV群に対する診断時からの死亡ハザード比は0.711(95%信頼区間;0.371~1.362,P= 0.3037)であった.多変量解析の結果,独立した唯一の有意な予後予測因子はtime to CRPCであった.

    (結論)今回の後方視的検討においては,従来の治療法に比較してARATsのCRPC生存改善効果は認められなかった.診断時からの独立した唯一の有意な予後予測因子はtime to CRPCであった.

症例報告
  • 酒井 すずな, 竹原 浩介, 渡辺 淳一
    2021 年 112 巻 4 号 p. 215-219
    発行日: 2021/10/20
    公開日: 2022/10/20
    ジャーナル フリー

    症例は88歳,男性.2019年に尿道狭窄症に対して尿道拡張術を施行,その後は外来で尿道ブジーを施行していた.2020年12月発熱,排尿困難を訴え当科受診,尿道カテーテル留置後入院となった.血液検査で炎症反応上昇を認めたため尿路感染症を考え抗菌薬を開始した.入院時の血液培養検査では2セットのうち好気ボトル1本からCandida glabrataが検出されたが,再検にて陰性であったため抗真菌薬投与は行わなかった.入院16日目の前立腺MRIで前立腺~尿道海綿体への膿瘍形成を認め,入院27日目に尿道海綿体膿瘍が増大し,経皮的膀胱瘻造設と経会陰的膿瘍ドレナージを施行.膿瘍からはCandida glabrataが検出された.カンジダ尿症による尿道海綿体膿瘍の診断となり,抗真菌薬を14日間投与したところ炎症反応は改善し膿瘍も消失した.我々の調べ得た限りでは,本邦におけるカンジダ尿症による尿道海綿体膿瘍の報告はなく,非常に稀な疾患であると考えられた.

  • 坂本 卓郎, 藤本 直浩, 中島 信能
    2021 年 112 巻 4 号 p. 220-223
    発行日: 2021/10/20
    公開日: 2022/10/20
    ジャーナル フリー

    症例は78歳の男性.他院から肉眼的血尿と膀胱腫瘍の評価目的に当院を紹介された.膀胱癌の診断に対して,経尿道的膀胱腫瘍切除術を施行した.病理組織学的診断はurothelial carcinoma,at least T2,high gradeであった.他臓器転移はなかった.膀胱全摘除術を前提とした術前化学療法(Gemcitabine,Cisplatin)を2コース施行したが膀胱壁外への浸潤増悪と右内腸骨動脈リンパ節への転移を認めた.右内腸骨動脈リンパ節と膀胱局所へ計54 Gy/27回の放射線療法を施行した.放射線療法の終了から1カ月後に両側肺転移,陰茎浸潤が出現しPembrolizumabを1コースのみ投与した.4カ月後のCTで転移巣は消失した.Pembrolizumab初回投与から20カ月再発なくCRと判断し経過観察中である.

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