日本泌尿器科学会雑誌
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111 巻, 3 号
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原著
  • 重村 克巳, 北川 孝一, 山田 尚輝, 乃美 昌司, 高見 望美, 藤澤 正人
    2020 年 111 巻 3 号 p. 63-67
    発行日: 2020/07/20
    公開日: 2021/07/20
    ジャーナル フリー

    (目的) 本研究では薬剤耐性菌による泌尿器科入院病棟における尿路感染症アウトブレイクを抑止し,3年8カ月にわたり再発を予防するための衛生・診療材料にかかる医療費とアウトブレイクが起きた場合の医療(治療)費をシミュレーション計算して比較検討することを目的としている.

    (対象と方法) 先行研究において我々は9人の入院患者で発生した薬剤耐性菌による尿路感染症アウトブレイクを報告し,その対策としてactive surveillance culture(ASC)の施行を開始し,それを継続ならびにペルオキソ一硫酸水素カリウム配合環境除菌・洗浄剤ルビスタ(以下RST)を使用し,アウトブレイクを抑止し,その後3年8カ月にわたり再発を認めていない.

    (結果) ASCにかかる費用とRSTの導入ならびに継続使用のための費用の合算はアウトブレイク抑制にかかる医療費よりも約77万円安価であった.

    (結論) 感染予防につき,医療従事者,患者,家族への感染予防対策の教育が最も重要であることは言うまでもないが,さらに本研究でのASCの継続ならびにRSTの導入は薬剤耐性菌による尿路感染症のアウトブレイクを予防するのみならず,その運用により医療費をも低減できる可能性が示唆された.

  • 小林 秀一郎, 漆戸 まどか, 田宮 嵩士, 矢野 雅隆, 北原 聡史
    2020 年 111 巻 3 号 p. 68-73
    発行日: 2020/07/20
    公開日: 2021/07/20
    ジャーナル フリー

    (目的) 経尿道的前立腺レーザー核出術(HoLEP)は近年広く施行されているが,以前より手術の難度や術後の腹圧性尿失禁の発症が問題となっている.我々はMRIを用いHoLEP術後に出現する腹圧性尿失禁に膜様部尿道長が影響するかを検討した.

    (対象と方法) 2013年7月から2019年4月までに前立腺肥大症の診断でHoLEPを303例に施行した.そのうち109例が当院で術前にMRIを撮影していた.認知症で評価不能であった例,術前にすでに失禁を認めていた例,MRIの撮影時に尿道カテーテルが留置されていた例を除外し,残りの計83例を対象とした.臨床因子,MRI関連因子,手術関連因子と術後腹圧性尿失禁との関連を多変量解析で検討した.

    (結果) 術後腹圧性尿失禁は19例(22.9%)に見られ,平均14週で改善した.膜様部尿道長は平均17.2mmであった.単変量解析でMRIのTZ volume(>40ml),膜様部尿道長(≦17mm),手術時間(>100分),核出時間(>50分)が術後腹圧性尿失禁と関連する因子であった.多変量解析では膜様部尿道長(P<0.0001)と手術時間(P=0.023)が独立した有意な因子であった.

    (結論) HoLEP術後に腹圧性尿失禁は一過性に発症することがあるが3カ月程度で消失した.術後に発症する腹圧性尿失禁の予測に術前MRIでの膜様部尿道長は有用であった.

  • 田﨑 正行, 齋藤 和英, 中川 由紀, 池田 正博, 高橋 公太, 冨田 善彦
    2020 年 111 巻 3 号 p. 74-81
    発行日: 2020/07/20
    公開日: 2021/07/20
    ジャーナル フリー

    (背景) アルドステロンは高血圧のみならず,心機能障害や腎機能障害の原因になるとされる.慢性血液透析患者の中に著明な高アルドステロン血症を呈する症例が存在し,移植腎への影響が懸念される.腎移植後のアルドステロンの長期的な変化や移植患者への影響は不明な点が多い.

    (対象と方法) 当院で1996年から2018年に施行された210名の患者の腎移植前後の血漿レニン活性(PRA)と血漿アルドステロン濃度(PAC)を後方視的に評価した.

    (結果) 腎移植前は60%の症例でPRAは基準値より高値を示し,腎移植後も60%の症例が高レニン血症だった.腎移植後の高レニン血症は,アンギオテンシン受容体阻害薬(ARB)やアンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)を使用していた患者で有意に多かった.また,60%の症例で腎移植前のPACが基準値より高かったが,そのほとんどが腎移植後に自然に改善していた.腎移植後のPRA,PACの値と移植腎機能,年齢,収縮期および拡張期血圧に有意な相関はなかった.腎移植後PAC基準範囲内と高値の2群比較を行い,PAC高値群(n=29)は,拡張期血圧が有意に高く,レニン―アンギオテンシン―アルドステロン(RAAS)系阻害薬の使用が有意に少なかった.

    (結語) 腎移植後に高アルドステロン血症が持続する患者にはRAAS系阻害薬の使用を考慮し,長期的な移植腎や心血管系への影響を観察する必要はある.

  • 塩﨑 政史, 大池 洋, 羽場 知己, 山本 哲平, 小口 智彦, 飯島 和芳, 加藤 晴朗, 西澤 秀治, 岡根谷 利一
    2020 年 111 巻 3 号 p. 82-88
    発行日: 2020/07/20
    公開日: 2021/07/20
    ジャーナル フリー

    (目的) Bacillus Calmette-Guérin(BCG)膀胱内注入療法は筋層非浸潤膀胱癌の重要な治療法である.当院で副作用低減を目的として施行した低容量(40 mg)BCG膀胱内注入療法の導入療法(8回完遂)につき有効性を検討した.

    (対象と方法) 2003年9月~2018年11月までに低容量BCG導入療法を受けた179例につき,奏効率,非再発率,副作用発生率を検討した.

    (結果) 年齢中央値73歳,男女比137:42,観察期間中央値32カ月,8回完遂は149例(83.2%).全奏効率は88.8%で,低悪性度群(100%)が高悪性度群(86.3%)に比して有意に高かった(p=0.017).G1/G2/G3による分類,性別,年齢,上皮内癌(CIS)の有無,深達度,投与目的,副作用別については有意差がなかった.全非再発率は1年,3年,5年でそれぞれ91.8%,76.7%,71.3%.深達度,異型度,投与目的,CISの有無,完遂有無別の非再発率はいずれも有意差はなかった.CTCAE≧G2の副作用は71例(39.7%)あり,うち入院を要したG3の症例は3例あった.

    (結論) 当院における低容量BCG膀胱内注入導入療法は,完遂率も高く副作用も少ないが,治療効果においては過去の標準量投与の報告と比較して大きく劣ることはなかった.低容量BCG導入療法は症例を選択すれば有効な治療法である.

症例報告
  • 小林 幸太, 堤 壮吾, 野口 剛, 逢坂 公人, 梅本 晋, 竹山 昌伸, 比留間 徹, 岸田 健
    2020 年 111 巻 3 号 p. 89-93
    発行日: 2020/07/20
    公開日: 2021/07/20
    ジャーナル フリー

    症例は23歳男性.両下腿の浮腫を主訴に前医を受診し,単純CTにて囊胞成分を含む充実性腫瘍,両側水腎症を認め2018年7月に当院紹介受診となった.MRIにて骨盤腔を占拠する最大径約20cmの多房性囊胞と充実成分が混在した腫瘍を認めた.骨盤内に発生した肉腫を疑い経皮的腫瘍針生検を施行し,病理組織検査にてユーイング肉腫の診断となった.この時点で外科的切除は極めて困難であり,施行するとしても骨盤内臓全摘が必要な状況と考えられた.術前化学療法としてIE療法(イホスファミド,エトポシド)とIFAV療法(イホスファミド,アドリアマイシン,ビンクリスチン)の交代療法を計6コース施行し,化学療法終了後のMRIにて最大径約10cmまで縮小を認めた.根治的切除のため膀胱全摘除も考慮したが,若年であることやquality of life(QOL)を考慮し膀胱は温存の方針とした.術中所見では腹膜や膀胱との癒着が強く,腹膜及び膀胱前壁の一部を腫瘍に付ける形で合併切除した.前立腺は肉眼的に視認し,温存可能であった.摘出検体の病理組織検査にて一部腫瘍細胞残存するものの95%以上は消失しており断端は陰性であった.

    骨盤腔に発生した巨大な骨外性ユーイング肉腫に対して,化学療法によって腫瘍切除及び隣接臓器温存が可能であった症例を経験したので報告する.

  • 深澤 武史, 田部井 正, 仁禮 卓磨, 篠木 理沙, 堤 壮吾, 今野 真思, 伊藤 悠城, 小林 一樹
    2020 年 111 巻 3 号 p. 94-97
    発行日: 2020/07/20
    公開日: 2021/07/20
    ジャーナル フリー

    79歳,男性.2018年3月にPSA 39.54ng/mlと前立腺癌疑いで,前立腺針生検を施行した.施行した直後に背側と臀部に紫斑を認め,播種性血管内凝固症候群(DIC)を伴っていた.検査前のMRI画像からは前立腺癌が示唆されており,骨シンチでも多発骨転移を認めており,前立腺癌によるDICと診断した.治療は抗DIC療法,輸血,デガレリクス酢酸塩の皮下注射を行った.発症後8日目にDICは離脱しその後,アビラテロン酢酸エステルとプレドニゾロンによる治療を追加した.15カ月経った現在も主病巣,転移巣の縮小を認めており,経過良好である.

  • 青柳 力夫, 松﨑 洋吏, 坂田 直昭, 岡部 雄, 古屋 隆三郎, 入江 慎一郎, 中村 信之, 松岡 弘文, 野中 将, 井上 亨, 田 ...
    2020 年 111 巻 3 号 p. 98-101
    発行日: 2020/07/20
    公開日: 2021/07/20
    ジャーナル フリー

    61歳,男性.頭痛と左側の視野障害のために当院を受診した.頭部MRIで脳実質を圧排する硬膜腫瘍を認め,転移性腫瘍を疑った.各種腫瘍マーカーの測定でPSAの高値(172.8ng/mL)を認め,原発巣として前立腺癌を疑った.経直腸前立腺生検の病理学的所見によりGleason score 5+4=9の前立腺癌と診断し,同時に骨盤内リンパ節転移と多発骨転移も画像検査により確認した.根治治療は困難であったが神経症状を解消する目的で開頭腫瘍摘出術を施行した.その結果,頭痛,左同名半盲は改善した.摘出組織の病理学的所見により前立腺癌の頭蓋内硬膜転移と診断し,臨床病期はT3bN1M1cであった.残存する前立腺癌,リンパ節転移,骨転移に対して,デガレリクスとビカルタミドによる内分泌療法を開始した.治療開始後6カ月のPSA 0.02ng/mLをnadir値とし,以後上昇傾向となったため,ビカルタミドをエンザルタミドに変更した.現在治療開始後2年半となるが,頭蓋内を含めた新規転移病変を認めていない.頭蓋内硬膜転移を伴う前立腺癌には,手術を含む集学的治療を行うことで中枢神経障害の回避と長期生存が期待できる.

  • 佐々木 賢一, 木村 将貴, 坂本 昭彦, 遠藤 圭織, 金谷 淳志, 高橋 さゆり, 山田 幸央, 石田 毅, 阿部 哲士, 河野 博隆, ...
    2020 年 111 巻 3 号 p. 102-106
    発行日: 2020/07/20
    公開日: 2021/07/20
    ジャーナル フリー

    39歳男性,右鼠径部に腫瘤を自覚するも放置.人間ドックのPET-CTにて右鼠径部に被膜形成を伴う内部不均一な腫瘤(SUV max=1.48)を認め当院に紹介.造影MRIでは長径7 cmの概ね境界明瞭な脂肪性腫瘤で,陰茎根部外側の皮下に存在.内部は隔壁構造と造影効果を認めた.異型脂肪腫様腫瘍(いわゆる高分化型脂肪肉腫)疑いの診断で腫瘍摘除術施行.腫瘍は鼠径部皮下に存在,精索や陰茎海綿体は温存.摘出検体は13×7×3cm,肉眼的に黄色脂肪様だが淡い色調で軟らかい.病理組織学的には成熟脂肪細胞の増殖より成り,線維性の隔壁内に均一な紡錘形細胞が増殖.核分裂像や異型のある脂肪芽細胞は認めず.免疫組織化学では紡錘形細胞はCD34陽性,CDK4・MDM2陰性.以上よりSpindle cell lipomaと診断された.Spindle cell lipomaは脂肪腫の一亜型で,全脂肪性腫瘍の約1.5%と比較的稀な良性腫瘍である.肩や後頚部に好発し,鼠径部発生は非常に稀である.鼠径部発生の脂肪性腫瘍としては精索原発の異型脂肪腫様腫瘍(いわゆる高分化型脂肪肉腫)との鑑別が重要である.MRI所見は類似しており鑑別は困難だが,Spindle cell lipomaの多くは表在発生で皮下に位置する一方,異型脂肪腫様腫瘍は深部結合組織から発生し皮下組織には通常発生しない.以上より異型脂肪腫様腫瘍との術前鑑別は困難だが,皮下発生が多い点は鑑別の一助になる可能性があると考えられた.

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