日本泌尿器科学会雑誌
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102 巻, 4 号
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原著
  • 坂本 直孝, 秋武 正和, 生駒 彩, 李 賢, 増田 克明, 吉川 正博, 井口 厚司, 渥美 和重, 松村 泰成, 上原 智
    2011 年102 巻4 号 p. 621-627
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/08/09
    ジャーナル フリー
    (目的) 当院における局所限局および局所進行前立腺癌に対する放射線外照射併用高線量率ブラキテラピー(EBRT+HDR-BT)の治療効果を評価するため,PSA非再発率および有害事象について検討した.
    (患者および方法) 2004年5月より2010年3月までの期間に当院にて局所限局および局所進行前立腺癌に対してEBRT+HDR-BTを施行した154例のうち,6カ月以上経過観察が可能であった113例を対象とした.経過観察期間の中央値は33カ月であり,対象患者の内訳は低リスク群12例,中リスク群65例,高リスク群36例であった.EBRT+HDR-BT後にアジュバント内分泌療法は全例施行していない.PSA再発はASTROのPhoenixの定義に準じた.
    (結果) 低,中,高リスク群の5年PSA非再発率は各々100%,94.7%,59.2%であった.高リスク群の条件(≧T2c,Gleason score≧8,PSA>20ng/ml)を1項目のみ満たす症例と2項目以上満たす症例のPSA非再発曲線では58カ月のPSA非再発率は1項目のみの症例では87.4%,2項目以上の症例では26.9%であり,後者は有意にPSA再発率が高かった(p=0.022).Grade 3急性期有害事象としてはアプリケーター針抜去後の膀胱出血にて膀胱タンポナーデを生じ,経尿道的凝固術が1例で必要であった.晩期有害事象としてはgrade3泌尿生殖器有害事象が14.2%に認められ,その大部分が尿道狭窄であった.Grade 3の消化器有害事象は0.9%であった.
    (結論) EBRT+HDR-BTは低,中リスク群においては非常に良好なPSAコントロールがえられた.今後,高リスク群の一部の症例での治療成績改善および有害事象発生率の低下のために治療プロトコールの変更や治療計画の改善が必要かもしれない.
  • 山下 亮, 村岡 研太郎, 松嵜 理登, 松井 隆史, 山口 雷藏, 庭川 要, 鳶巣 賢一, 伊藤 以知郎
    2011 年102 巻4 号 p. 628-632
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/08/09
    ジャーナル フリー
    (目的) 後腹膜に発生した軟部肉腫を有する患者の臨床背景,摘出標本の病理組織学的所見,術後再発様式,無再発生存率をretrospectiveに検討する.
    (対象) 2003年6月から2010年5月までに,摘出手術を行った後腹膜軟部肉腫10例を対象とした.10例のうち1例は,開腹時播種結節を認め試験開腹にとどまったため評価対象から除外した.患者の臨床背景,病理組織学的所見,摘出標本の顕微鏡的切除断端,再発様式(局所再発か遠隔転移か)を検討した.また,無再発生存率をKaplan-Meier法を用いて評価した.
    (結果) 患者9例は,年齢の中央値が60歳で,男性7例,女性2例であった.腫瘍サイズの中央値は10.0cm(2.7~45cm)で,病理組織学的には脱分化型脂肪肉腫が7例,平滑筋肉腫が2例であった.9例中8例において隣接臓器の合併切除も同時に行った.術後,局所再発を5例に認め,遠隔転移が局所再発よりも先に発見された症例はなかった.手術から局所再発までの中央値は13カ月(3~27カ月)で,手術から死亡までの中央値は30カ月(5~78カ月)であった.
    (結語) 十分な切除断端を確保すべく隣接臓器の合併切除も積極的に実施したが,後腹膜に発生した軟部肉腫の局所再発率は高かった.手術単独治療での局所再発率が高いことを認識し,化学療法および放射線治療を併用した集学的治療法の確立が望まれる.
症例報告
  • 上村 吉穂, 福田 護, 江川 雅之, 小杉 郁子, 大竹 裕志
    2011 年102 巻4 号 p. 633-637
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/08/09
    ジャーナル フリー
    症例は,20歳代の男性.左背部痛を主訴に救急外来を受診.検尿で血尿を指摘され,当科を受診.DIPで左水腎症(grade 2),左腎盂尿管移行部(ureteropelvic junction;UPJ)狭窄,多発左腎結石を指摘.腹部CTでナットクラッカーディスタンスの短縮,腎血管造影検査で左腎高血圧を認め,ナットクラッカー症候群と診断.これらに対し,左腎静脈転位術,左腎盂形成術,左腎盂切石術を一期的に施行.術後経過は良好で,術後2カ月目には,背部痛や血尿は消失.術後3カ月目のDIPで,左水腎症の改善(grade 1),腹部CTでナットクラッカーディスタンスの延長を認めた.術後12カ月が経過し,症状や左水腎症の再燃は認めていない.我々が知る限りでは,ナットクラッカー症候群,UPJ狭窄及び多発腎結石の合併,及びこれらを一期的に手術治療した報告はこれまでにない.
  • 福島 啓司, 古賀 文隆, 田所 学, 横山 みなと, 齋藤 一隆, 増田 均, 藤井 靖久, 川上 理, 木原 和徳
    2011 年102 巻4 号 p. 638-643
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/08/09
    ジャーナル フリー
    腎盂原発小細胞癌は極めて稀で予後が悪く,初期治療後の平均生存期間は8カ月とされる.症例は78歳女性.慢性腎不全の経過観察中,無症候性肉眼的血尿を主訴に当科受診.右腎盂癌(cT2N0M0)の診断の下,右腎尿管全摘除を施行し,小細胞癌(pT3,ly1,v1)の病理組織診断を得た.術後2カ月目に,血液透析が導入され,5カ月目に,右副腎,大動静脈間リンパ節,右腰背部皮下に転移を認め,低用量化学放射線療法(Σ45Gy/25Fr/32d,シスプラチン10mg/dの2日間投与を計2回)と皮下腫瘤切除によりCRを得た.14カ月目に出現した右側腹部体壁筋内転移も低用量化学放射線療法(Σ40Gy/20Fr/29d,シスプラチン10mg/dの2日間投与を計2回)によりCRを得た.腎尿管全摘除から3年経つ現在,患者は癌なしで生存している.
  • 越智 敦彦, 直井 牧人, 江夏 徳寿, 藤崎 明, 船田 哲, 鈴木 康一郎, 志賀 直樹, 太田 智則, 久慈 弘士, 細川 直登, 岩 ...
    2011 年102 巻4 号 p. 644-648
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/08/09
    ジャーナル フリー
    連鎖球菌感染の内,特にA群溶血性連鎖球菌による壊死性筋膜炎は短時間に敗血症性ショック,多臓器不全から死に至る可能性がある重症感染疾患であり,救命には早期かつ適切な治療(壊死組織のデブリードマンと抗菌薬加療)が要求される.デブリードマンされた組織の鏡検にて連鎖球菌を認めた場合,それがA群溶血性連鎖球菌であるかどうかは,培養結果を待つことなく咽頭用の迅速A群溶血性連鎖球菌抗原検出キット(ストレップA)を用いることで予想することができる.
    今回我々は,この検査キットを使用することで早期にA群溶血性連鎖球菌感染症と判断し得た,61歳男性の陰部に発症した壊死性筋膜炎(フルニエ壊疽)の1例を経験した.その起炎菌の早期同定が,適切な外科的処置と抗菌薬の選択を可能とし,救命に繋がったと考えられたため報告する.
  • 柳 雅人, 西村 泰司, 近藤 幸尋, 山崎 恵一, 酒井 成貴, 石井 直弘, 古城 憲, 細田 桂
    2011 年102 巻4 号 p. 649-654
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/08/09
    ジャーナル フリー
    今回我々は基礎疾患がなく尿道結石によるフルニエ壊疽による会陰部の膀胱直腸皮膚瘻に腹直筋皮弁を用いて形成術を行った1症例を経験した.患者は75歳男性,数日前に陰嚢の腫脹を認めたが放置し,意識障害が出現したため来院した.陰茎陰嚢は壊死しており,デブリードマン,抗菌薬の投与等で全身状態が改善したが膀胱直腸皮膚瘻を合併したため,腹直筋皮弁による再建を行った.
    フルニエ壊疽に膀胱直腸皮膚瘻を合併していた例は筆者が調べえた限りでは本邦初の報告である.またフルニエ壊疽の再建で皮弁を用いた例は本邦の報告では少なく,さらに皮弁の中でも腹直筋皮弁を用いた例も筆者が調べえた限りでは本邦初の報告である.また植皮術や皮弁形成術がどの位の割合で行われ,それにより早期退院の可能性を,本邦フルニエ壊疽120例について検討したが,今回の検討では退院が早まる事実はなかったが,欠損部の大きな症例では有用と思われた.
  • 慎 武, 弓狩 一晃, 高玉 勝彦, 吉田 利夫
    2011 年102 巻4 号 p. 655-658
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/08/09
    ジャーナル フリー
    症例は64歳男性.健診におけるPSA高値を主訴に当院受診した.直腸診にて前立腺は中等度腫大しており,弾性硬であった.採血上,PSA 24.38ng/mlと高値のため,前立腺癌の疑いにて経直腸的20カ所前立腺針生検施行.病理結果は尖部の2コアからAtypical small acinar proliferation(ASAP)が検出された.生検翌日に悪寒戦慄を伴う発熱を認め,前立腺炎との診断で補液と抗生剤投与による加療開始.生検後7日から左方注視時の複視が出現し,神経内科紹介.頭部MRI及び髄液検査施行も異常所見なく,感染後左外転神経麻痺が疑われ,ステロイドによる加療開始となり,複視は徐々に改善した.PSA高値が続き,前回生検にてASAPが検出されていることから,1年後に再生検を施行すると,再度,同様に前立腺炎を発症し,生検後6日より左方注視時の複視が出現した.感染後左外転神経麻痺との診断の下,前回同様にステロイド投与開始し,約3カ月の経過で複視は後遺症を残すことなく消失した.前立腺生検後に前立腺炎を生じることはしばしば経験するが,その後に複視を生じたという報告はない.また,外転神経麻痺の先行感染としての前立腺炎の報告も調べ得た限りでは存在しなかった.本症例では前立腺生検後に再現性のある急性一側性外転神経麻痺を認めており,感染を契機とした免疫学的機序の可能性が高いと考えられた.
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