近年, 活性型ビタミンDが細胞分化や癌化の制御にある種の役割を演じていることが明らかとなり, さらに最近では活性型ビタミンDが種々の癌遺伝子の増幅に関与しているという報告が相次ぎ, 活性型ビタミンDと癌細胞との関わりが注目されている.
本研究では腎癌患者における血清中のビタミンD代謝物の濃度を, 同年齢の対照群と比較した. 血清を有機溶媒で抽出し, 高速液体クロマトグラフィーにて分離精製後, 25-(OH) DについてはビタミンD欠乏ラット血清を結合蛋白とした competitive protein binding assay で, 1α,25-(OH)
2Dについてはヒナ小腸粘膜より精製された receptor を用いた, radioreceptor assay で測定した. 血清1α,25-(OH)
2D濃度は, 対照群では28.9±5.2pg/mlであったのに対し, 腎癌群では19.7±5.9pg/mlと有意に低値を示した(p<0.01). 血清25-(OH)D濃度は両群で有意差を認めなかった. また, 腎癌群のなかでも stage III+IV群, T
3+T
4群, rapid type ではそれぞれ, stage I+II群, T
1+T
2群, slow type と比較して有意に低値を示した (p<0.01, p<0.05, p<0.01). さらに腎癌群では, クレアチニンクリアランスと血清1α,25-(OH)
2D濃度との相関を求めたが両者に有意の相関は認めなかった.
これらの実験結果と, 腎癌の生物学的特性及び1α,25(OH)
2Dの癌細胞に対する多様な作用について若干の文献的考察を行ったところ, 腎癌患者における血清1α,25-(OH)
2D濃度の測定が腎癌の進行や再発に関与する多くの因子を解明するひとつの糸口となることが示唆された.
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