ミュオグラフィは,物質貫通能力の高い高エネルギー宇宙線ミュオンの減衰率を測定することでレントゲン撮影のよう に火山等の大型物体の密度分布を測定する手法である.火山のミュオグラフィ研究において重要な課題の一つは,観測方 向を増やすことで山体内部の詳細な 3 次元密度構造を明らかにすることである.多方向から同一の物体を観測すると,X 線 CT のように 3 次元的な密度構造を推定することが可能である.本記事では,多方向ミュオグラフィの実例として,静 岡県伊東市の大室山スコリア丘における観測,3 次元密度再構成解析,そして得られた三次元密度構造の火山学的な考察 を解説する.
著者らは Filtered BackProjection 法に基づいた 3 次元密度再構成手法をミュオグラフィに応用し,そのシミュレーショ ンによる実現可能性を評価する研究を行った.また,それに基づき実証観測を静岡県伊東市に位置する大室山スコリア丘 で実施した.多方向観測に適した原子核乾板検出器ユニットを新たに開発し,11 方向から観測を行った.その結果,大 室山内部の 3 次元密度構造が明らかにされ,マグマが主火道から山体内に岩脈として侵入した構造の検出に成功した.こ の火山内部の「火道分岐の可視化」は,これまでの研究手法では調査することが難しかったため,火山学・火山防災学に おいて非常に意義がある.また今後,同様の手法が火山以外の対象にも実施されることが期待される.
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