薬物療法の精神分裂病にたいする効果を検討する目的で, 延総数450例の分裂病患者について統計的に観察した.病型, 罹病期間, 遺伝負因, 副作用, 症状, 効果発現の様式, 年令, 性, 職様, 学歴などの因子にたいする薬物の効果との関連について追求した.
対象となつた薬物は9つのPhenothiazin誘導体 (C.P., M.P., T.M., A.P., L.P., P.P., C.Pe, T.P., T.F.) およびR.A.である.
各薬物のきわめて顕著な特徴を記述すると次のごとくである.
i) C.P.は妄想型あるいは感情障害の著しい症例により有効である.
ii) M.P.は軽度の病的体験を有した症例に有効であり, 且外来治療に適した薬物である.副作用は軽微である.
iii) T.M.は破瓜型で比較的陳旧例に有効である.副作用はかなり高率に出現する.
iv) A.P.は副作用は軽度である.精神運動性興奮に奏効する.
v) L.P.は傾眠作用が比較的強く興奮の鎮静を期待し得る.
vi) P.P.は精神運動性興奮にたいする抑制的効果および欠陥分裂病における発動性の亢進などの行動面の障害に対して有効である.
vii) C.Peは昏迷状態に対する効果を期待し得る.
viii) T.P.はきわめて強力な錐体外路症状が出現する.疎通性の改善を期待し得る.
ix) T.F.は病的体験を有し, 興奮, 不安を示す症例に有効である.
x) R.A.は比較的陳旧例で興奮の抑制, 疎通性改善を期待し得る.
Hippius, H.4) に従つて9つのPhenothiazin誘導体をPromazin群とPcrazinzに分類してその質的な差を記述すると次のごとくである.
i) 臨床的改善率は後者の方がやゝ高率である.
ii) 前者では妄想型に, 後者では緊張型により有効である.
iii) 両群とも罹病期間の長短に関係なく効果を示す.
iv) 遺伝負因については, 前者では有負荷症例に, 後者では無負荷症例に改善率がたかい.
v) 副作用出現頻度は後者の方が高率をしめす.
vi) 前者では感情調整作用, 後者では行動調整作用があることが特徴的である.
vii) 効果発現の様式は, 前者では感情→行動→思考の順を, 後者では行動→感情→思考の順をふむ例が多い.
薬物全体に共通して言えることは, 罹病期間の長短に関係なく奏効すること, および副作用出現例は, 非出現例より改善率がたかいという点である.
以上, 精神分裂病における薬物療法においては, 各薬物の精神分裂病の諸因子にたいする効果の上でそれぞれ皆特徴をもつており, 使用する薬剤を選定して適応を決めていくべきであると考える.
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