Adult Respiratory Distress Syndromeといわれる急性非心原性肺水腫について近年深い関心がはらわれている. このモデルとしてアロキサン肺水腫を作成し, その病態生理におけるProstaglandinの関与について検討した. 実験には雑種成犬17頭を使用した. 肺リンパ液が流入する右胸管にカテーテルを入れ, アロキサン (150mg/kg) 静注により肺水腫が生じたときの, 右胸管リンパ液・動脈血を採取し, PGF
2α代謝産物である15-Keto13, 14 dihydro PGF
2α (PGF
2α-M) をRIAで測定した. 肺水腫発生により, PGF
2α-M値は, 右胸管リンパ液では1.19±0.43から3.38±0.95ng/ml (P<0.0125) と上昇し, これは肺水腫時の気道内分泌液中PGF
2α-M値とほぼ等しかった. 動脈血では, 0.75±0.17から2.96±0.90ng/ml (P<0.05) と上昇した. リンパ流量も3.3±0.7から17.8±4.3ml/hと増加した. lymph/plasma蛋白濃度比は, 0.56から0.86と増加した. 電顕では, 間質の浮腫・I型上皮細胞の剥離・毛細血管内皮細胞のpinocytotic vesicleの増加, 空胞変性が見られた. 以上の成績から, アロキサン肺水腫においてはPGF
2αの前駆物質であるPGendoperoxide, またはPGF
2αの産生が増加しており, これが肺水腫時の肺動脈血・気道内圧上昇に関与しているという結論をえた. また電顕所見より, アロキサン貯水腫の発生には, 血管内皮細胞の障害だけでなく, I型肺胞上皮細胞の障害も関与していることを証明した.
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