従来より洞機能不全症候群 (SSS) に対するペースメーカー治療においては, 房室ブロックを合併しやすいとの懸念から心室ペーシングが行われ, 最も生理的状態に近い心房ペーシングの選ばれる頻度は比較的低い. そこで心房収縮がペーシング時の血行動態に及ぼす影響と, SSSの房室伝導機能, 及び慢性心房細動移行について調べることにより, SSSに対する心房ペーシングの可能性と有用性について検討した.
臨床的観察及び動物実験で, 心室収縮期に心房収縮が生じると, 心房心室収縮の順次性が保たれる場合に比べて心拍出量減少, 左室収縮期圧低下, 心房圧の上昇をきたすため, ペーシング時においても生理的な心房心室収縮の順次性が必要であることを明らかにした.
房室伝導機能に関しては, SSS68例の電気生理学的検査でA-H時間の延長を21%, Wenckebach型房室ブロック出現心拍数が120/分以下の例を25%に認めたが自律神経系の影響が考えられ, 6ヵ月から10年の臨床経過上, 2度以上の房室ブロックをきたした例は認められなかった.
慢性心房細動移行は, 心室ペーシング例の31.4%に認めたが, 心房ペーシング例では6.7%と少なく, 心房ペーシングには心房細動の予防刻果があると考えられた.
以上より, SSSは2度以上の房室ブロックの合併頻度は低いため, 血行動態的にも, 心房細動移行の予防効果の面からも有利であると思われる心房ペーシングが, SSSの大多数の例で可能であると考えられた.
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