音声言語医学
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54 巻, 3 号
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総説
  • 宮田 恵里, 宮本 真
    2013 年 54 巻 3 号 p. 159-162
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/10/25
    ジャーナル フリー
    音声障害の治療には,薬物の内服や吸入などの薬物療法,喉頭微細手術などの音声外科的治療,言語聴覚士(以下ST)による音声治療があり,当科でもこの3つを組み合わせて治療に当たっている.
    当科では患者が音声外来を受診した場合,医師とSTが揃って診察を行う.診察では問診や声帯の観察に加え,症例によっては内視鏡下に試験的音声治療を施行する.音声治療の適応と判断した場合は,診察と同日中に音声機能検査,音声治療を開始する.
    当科では,(1)患者の主訴の消失,(2)喉頭所見の改善,(3)音声機能検査結果における改善の3つで音声治療の終了を判断している.音声外来開設後,約2年間に音声治療のみ施行した101例中48例で音声治療が終了し,ドロップアウトした症例は28例であった.
  • ─当科における耳鼻咽喉科医師と言語聴覚士の判断─
    田口 亜紀, 三瀬 和代
    2013 年 54 巻 3 号 p. 163-166
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/10/25
    ジャーナル フリー
    当科では1999年より音声治療を本格的に開始し,現在は医師1名,言語聴覚士3名で週に1回行っている.診断,治療方法の選択,終了のタイミングも医師とSTが同席し,相談のうえ決定している.初診時には,ST立ち会いの下,声帯や発声時の状態を詳細に観察した後,音声機能検査,Voice Handicap Index等の検査を追加する.症例の病態,患者の音声に対する不満や要求を確認したうえで,その症例にあった音声治療法を医師とSTが話し合って決定する.今回のパネルディスカッションでは音声治療の適応や,疾患について紹介した.さらに当科での音声治療の終了基準について話し,音声治療の長期化を避ける必要があることを述べた.最後に,音声治療終了にあたり,医師・STの役割について述べた.
  • 大前 由紀雄
    2013 年 54 巻 3 号 p. 167-173
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/10/25
    ジャーナル フリー
    高齢者のQOL向上が求められるなか,嚥下障害を抱えた高齢者の診療を実践する機会が増えている.高齢者の嚥下障害は,さまざまな原因疾患に関連した嚥下動態の異常に応じて発症するが,高齢者の抱える身体的・精神的・社会的要因が複雑に絡み合っている.さらに,加齢に伴うが生理的な嚥下機能の低下がその病態を修飾している.
    一般的に,高齢者の嚥下機能検査では,嚥下反射の惹起遅延や咽頭残留の増加に伴う喉頭流入・誤嚥,ならびに気道防御反射の低下に伴う喀出低下が高頻度に観察される.こうした異常所見には,加齢に伴う嚥下のメカニズムの変化として,(1)嚥下に関連する筋力低下や構造の変化,(2)嚥下に関連する感覚神経や運動神経の機能低下,(3)嚥下運動を制御する中枢機構の低下,(4)身体機能や精神機能ならびに呼吸機能の低下,が指摘されている.
    本稿では,嚥下機能検査で観察される異常所見を呈示し,加齢に伴う高齢者の嚥下機能とそのメカニズムを概説し,高齢者の嚥下障害の特徴と高齢化社会に向けての嚥下障害の取り扱いを解説する.
原著
  • 安宅 涼香, 伊藤 友彦
    2013 年 54 巻 3 号 p. 174-178
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/10/25
    ジャーナル フリー
    言語獲得を促す指導のためには典型発達児の知見が不可欠である.本研究では動詞のタ形・ル形・テイル形・否定形の獲得順序を検討した.対象児は1歳9ヵ月~2歳11ヵ月の典型発達児95名であった.誘導産出課題を実施した結果,最も年齢の低い群での使用率はタ形が最も高く,否定形,テル形,ル形の順であった.また,4つの形態のうち1つのみを産出する場合はすべてタ形が産出され,2つの場合は否定形が加わり,3つの場合はそれらに加えてテル形やル形が産出され,最終的に4つの形態が出揃うという傾向があった.さらに,4つの形態すべてを産出した対象児は1歳9~11ヵ月の群では9.1%と低かったが,2歳3~5ヵ月の群では76.2%へと急激に増加した.これらの結果から,まずタ形が獲得され,その後に否定形,さらにテル形やル形が獲得されること,4つの形態は2歳6ヵ月頃までに獲得されることが示唆された.
  • ─定量的評価におけるDSSの有効性の検討─
    工藤 絵梨果, 西澤 典子, 折舘 伸彦, 目須田 康, 葛西 聡子, 菊地 誠志, 武井 麻子, 福田 諭
    2013 年 54 巻 3 号 p. 179-185
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/10/25
    ジャーナル フリー
    本研究はUC Davis Dynamic Swallow Study(以下DSS)を用いて,錐体外路性の運動障害を背景としたパーキンソン病の嚥下動態を解析し,その臨床的有用性について検討したものである.
    経口摂食を行っているパーキンソン病患者7例(男性2名,女性5名)を対象に,5 mlの硫酸バリウム溶液を指示嚥下した.その際のVF側面透視録画のデータを計測し,標準化されたDSS基準値と比較した.その結果,嚥下反射惹起の遅延は全例に認められなかったにもかかわらず,食塊移送時間の低下は3例(42.8%)に認められた.咽頭期では気道閉鎖の前に食道に食物が達した例は5例(71.4%)あり,咽頭収縮率の低下は6例中3例(50.0%)に認められた.解析の結果,口腔期の運動障害,気道防御機能の低下,咽頭収縮力の低下を示唆する所見がそれぞれ半数近くに認められた.中等度の特発性パーキンソン病の嚥下障害にDSS解析を適用し予備的に検討した結果,神経疾患患者の嚥下障害の解析に適応しうる可能性が示された.今後は重症度に伴う症状の変化も含め,症例数を増やしたデータの蓄積とともに,パーキンソン病以外の神経筋疾患についてもDSS解析が適用可能かを検討することが必要である.
  • ─開発に向けた予備的研究─
    羽石 英里, 齋藤 毅, 城本 修, エリクソン ドナ, 岸本 宏子, 八尋 久仁代
    2013 年 54 巻 3 号 p. 186-196
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/10/25
    ジャーナル フリー
    適切なボーカル・スキルによる歌声と話声は,音楽療法士にとって重要な臨床上のツールである.筆者らは音楽療法,音楽学,音声学,音響工学,音声言語病理学,声楽教育学の視点を取り入れた音楽療法士のための発声訓練プログラムを考案し,声のかすれ等を訴える2名を対象に予備的な研究を実施した.プログラムでは,身体のウォーム・アップ,ボーカル・ウォーム・アップ,声の衛生指導からなる2回のワークショップと,1週間の自宅学習が行われた.その結果,MPT(Maximum Phonation Time,最長発声持続時間)の延長,声域の拡大,話声における声質の改善が見られた.歌声においては,ビブラ―トの速さ・振幅の安定が見られたが,LTAS(Long Term Average Spectrum,長時間平均スペクトル)に大きな変化は見られなかった.今後は訓練効果を確認するためにも,喉頭所見を含むさらなる検討が必要となろう.
  • 佐藤 公則
    2013 年 54 巻 3 号 p. 197-204
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/10/25
    ジャーナル フリー
    1)職業歌手は話声(日常会話)には支障がない程度の,喉頭所見に乏しい微細な声帯病変でも歌声の異常を訴えた.
    2)主訴は,歌声の高さに関連した歌声の質に関するものが多く,多種多様であった.必ずしも音色(音質)の障害(嗄声)を訴えなかった.
    3)治療法の選択は音声障害の程度,声帯の病態に加えて声のemergencyを考慮して決定すべきであった.
    4)職業歌手の診療でも音声障害の病態の把握と病態に応じた治療が重要であり,他の音声障害の診療と何ら変わることはなかった.
    5)職業歌手の声帯の器質的病変に対する手術は,喉頭微細手術による緻密な手術手技が必要であった.
    6)職業歌手の音声障害を診療するためには,歌声を含めた発声の生理・病理・病態生理・声帯の組織解剖の理解と熟練した手術手技が不可欠であった.
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