音声言語医学
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57 巻, 4 号
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総説
  • ―多様性への対応―
    今井 智子
    2016 年 57 巻 4 号 p. 359-366
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/29
    ジャーナル フリー

    小児の臨床において,構音の問題は遭遇する頻度が高い.今回は構音器官の形態や機能,聴力,言語発達に問題がなく,特定の原因が明らかでない構音障害である機能性構音障害に焦点を当てる.近年,このような構音障害は英語圏ではspeech sound disorders語音症/語音障害(DSM-5)と呼ばれている.定義,名称に関する歴史的変遷,発現頻度,誤りのタイプ,関連要因(随意運動能力,発話環境:きょうだい),併存障害(自閉症スペクトラム障害,吃音)について文献的考察を中心に検討した.
    小児の構音障害は,原因にかかわらず適切な構音訓練によって治癒あるいは改善できる可能性が高い.また,構音障害の背景にさまざまな問題が隠れている可能性があり,構音障害改善後に学習やコミュニケーションの問題が顕在化することがあるため,改善後の経過の追跡が必要である.

  • 岡ノ谷 一夫
    2016 年 57 巻 4 号 p. 367-371
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/29
    ジャーナル フリー

    音声言語はヒトに特有な行動であるが,音声言語を構成する下位機能はヒト以外の動物にも同定可能である.これら下位機能を多様な動物において同定し,それらがどう組み合わされば言語が創発するのかを考えるのが,言語起源の生物心理学的な研究である.ここでは,発声学習,音列分節化,状況分節化の3つの下位機能について,鳥類と齧歯類を用いた研究を紹介する.これら下位機能が融合して音声言語が創発する過程として,相互分節化仮説を紹介する.この仮説では,音声言語の起源として歌を考える.歌が複雑化して多様な社会的状況と対応をもつようになると,複数の状況の共通部分と,歌の共通部分が相互に分節化され,歌の一部が意味をもつようになる.これが繰り返され,音声言語の基盤ができる.

  • 藤田 郁代
    2016 年 57 巻 4 号 p. 372-381
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/29
    ジャーナル フリー

    原発性進行性失語(PPA: primary progressive aphasia)は脳の神経変性によって言語機能障害が潜行性に発症し,緩徐に進行する症候群である.本稿ではPPAの概念と最近の診断基準・サブタイプ分類(Gorno-Tempiniら,2011)について概説し,次いで言語聴覚療法を実施した非流暢/失文法型PPAの自験例2例を紹介し,その経過について説明した.1例は臨床症状の変化を長期にわたってフォローし,剖検によって皮質基底核変性症と診断された症例であり,もう1例は呼称訓練を実施しその意義を検討した症例である.呼称訓練を実施した症例では訓練語の改善を認め,それは短期間,維持されたが,非訓練語には般化しなかった.本例の訓練効果は限定的であったが,生活活動が活発化し積極的にコミュニケーションをとるようになった.最後にPPAの臨床評価の方法について解説し,介入ストラテジーとその意義について考察した.

原著
  • ―エレクトロパラトグラフィを用いた分析―
    内山 美保, 藤原 百合, 小島 千枝子
    2016 年 57 巻 4 号 p. 382-390
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/29
    ジャーナル フリー

    発話速度の調整に伴う構音運動の変化について明らかにするために,エレクトロパラトグラフィ(EPG)を用いて舌と口蓋の接触動態を分析した.対象は健常者9名.発話課題は「北風と太陽」冒頭の1文とし,語頭に位置する歯茎破裂音/t/について分析した.発話速度の調整には,口頭指示と強制的な発話速度の調整法を用いた計8条件を設定した.その結果,通常の発話に比べ,「ゆっくりと」「口を大きく開けて」と指示した場合と,モーラ指折り法・ペーシングボードを用いた場合に発話速度の低下を認めた.その際,/t/構音時の舌の接触時間の延長と接触範囲の拡大を認めた.ペーシングボードで文節単位に区切った際には,直前の音からわずかに舌の接触のない時間が生じており,時間的なゆとりをもって構音運動が行われたと考えられた.EPGを用いた分析により,発話速度の低下によって構音運動が変わることを客観的に捉えることができた.

  • 柳田 早織, 西澤 典子, 畠山 博充, 溝口 兼司, 本間 明宏, 福田 諭
    2016 年 57 巻 4 号 p. 391-397
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/29
    ジャーナル フリー

    痙攣性発声障害と診断された85例について,痙攣性発声障害のタイプ,性別,初診時年齢,職業,主訴,他の不随意運動の合併,病悩期間,他院受診歴,治療内容に関する後ろ向き観察研究を行った.内転型,20代の女性に多く,70%以上の患者が声を頻繁に使用する職業環境にあった.音声症状の自覚から半年以内に診断にいたった例が約26%であった一方,5年以上経過した例も34%存在し,この期間に患者の7割以上が耳鼻科や心療内科など複数の医療機関を受診していた.診断確定後の治療は,音声治療,ボツリヌムトキシン局所注入療法,甲状軟骨形成術の順で多かった.痙攣性発声障害は,近年広く知られるようになり外来を訪れる患者数が増加している.診断基準と標準的な評価法の確立,患者が早期から適切な治療を受けるための環境整備が急務である.

  • 香田 千絵子, 梅野 博仁, 濱川 幸世, 千年 俊一, 栗田 卓, 三橋 亮太
    2016 年 57 巻 4 号 p. 398-403
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/29
    ジャーナル フリー

    われわれは,過去15年間に当科で発声訓練を行った変声障害患者の治療効果を各種検査で検討した.対象は2000年1月から2015年5月までに当科を受診し変声障害と診断され音声治療を受けた男性10例(初診時13~25歳,変声時期12~15歳)とした.
    治療前後の評価に,喉頭内視鏡所見,聴覚心理学的評価,客観的評価(空気力学的検査),自覚的評価(VHI-10),声の満足度とした.
    その結果,音声治療を受けた10例中,症状の改善により訓練終了できたのは8例であり,音声治療を要した期間は8日から1433日であった.喉頭所見は,治療前に発声時に声門閉鎖不全を認めた症例は10例中4例(40%)で,音声治療後これら4例で声門間隙は消失した.症状の改善により訓練終了できた8例中7例は正常音声となった.客観的評価について,治療後,F0および声域上限・声域下限の低下やMFRの減少を認め,訓練終了できた8例すべての患者で満足が得られた.

症例
  • 三盃 亜美, 宇野 彰
    2016 年 57 巻 4 号 p. 404-409
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/29
    ジャーナル フリー

    全般的知的機能と言語発達に遅れはないが,漢字単語の書取に障害を示した,注意欠如・多動性障害を併存する軽度難聴の女児(小学4年)を経験したので報告する.速読課題に加えて,小学生の読み書きスクリーニング検査(STRAW)におけるひらがな,カタカナ単語の音読と書取,漢字単語音読で標準範囲内の成績だった.一方,STRAW漢字単語書取課題で典型発達児平均−1.5 SDよりも低い成績だったことから,漢字単語の書取に障害を呈していた.音韻能力,視知覚,自動化能力を評価する課題すべてで標準範囲内の成績だった一方,視覚性の記憶力を評価するRey-Osterrieth Complex Figure Testの遅延再生課題で典型発達児平均−1.5 SDよりも低い得点だった.先行研究で報告されている漢字単語書取に障害を示した健聴例同様に視覚性の記憶障害が原因で漢字単語書取の障害を呈していた可能性が考えられた.

短報
  • ―予備的研究―
    飯村 大智
    2016 年 57 巻 4 号 p. 410-415
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/29
    ジャーナル フリー

    吃音が就労にさまざまな影響を与えることが国外の研究で指摘されているが,本邦で吃音に関する就労調査はごくわずかである.本調査では吃音者55名を対象に就労に関する質問紙調査を実施したので報告する.結果,多くの回答者は吃音が職業選択に影響を与え,就労後には電話を始めとした場面で困難を抱えていることが示唆された.半数の回答者が吃音の理解を周囲から得られており,吃音のカミングアウト(周囲に表明)をしていない人よりもしている人のほうが,また事務職よりも専門・技術職の人のほうが,より吃音の理解を得られていることが示された.「吃音を理解する」「言葉が出るまで待つ」のような環境面での合理的配慮の必要性が示唆される.

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