音声言語医学
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61 巻, 3 号
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原著
  • 明石 法子, 三盃 亜美, 宇野 彰
    2020 年 61 巻 3 号 p. 205-210
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/18
    ジャーナル フリー

    単語の語彙的属性には,文字媒体における出現頻度や,主観的ななじみの程度を表す親密度があり,音読や書字の流暢性に影響を及ぼすことが明らかになっている.しかし,これらの属性は書取のような文字言語表出場面を想定した尺度ではない.本研究では,ひらがな単語を日常の書字や機器による入力でどの程度使用するか,すなわち常用度を従来の語彙的属性に加え,健常成人の書取潜時や所要時間に及ぼす影響について検討することを目的とした.健常成人30名にひらがな単語226語の書取課題を実施し,単語属性効果について分析した.その結果,書取潜時には主に文字単語の親密度が,所要時間には主に常用度が強い影響を示し,書字運動中も語彙的な処理が持続している可能性が示唆された.語彙的属性が書取の流暢性に及ぼす影響を検討する場合,出現頻度だけではなく親密度や常用度も尺度として用いる必要があると考えられる.

  • 小出 芽以, 宇野 彰, 荒木 雄大, 金山 周平, 縄手 雅彦, Lyytinen Heikki
    2020 年 61 巻 3 号 p. 211-222
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/18
    ジャーナル フリー

    ひらがな指導を実施していない幼稚園の年長児126名に音読指導を実施し正確性と流暢性の観点から効果を検討した.対象児を指導群と統制群に分けたうえで,各群をさらに習得度3段階(良,中,低),5段階(良,中,低上位,低中位,低下位)に編成した.ひらがな71文字の音読指導を指導群にのみ10月から8週間(計60-80分)実施した.その結果,正確性に関して指導群全体では指導前後の音読正答数が有意に上昇したが,同期間中に統制群でも有意に上昇していた.習得度別では指導中,低群において音読正答数が有意に上昇していたが,統制中,低群でも有意に上昇していた.これに対して,指導低上位,低下位群の音読正答数が有意に上昇した一方で,統制低上位,低下位群では向上しなかった.流暢性に関しては指導良群の音読開始時間が有意に短縮したが,統制良群は変化を示さなかった.本研究では,年長児への音読指導の効果は限定的ではないかと思われた.

  • 前川 圭子, 末廣 篤
    2020 年 61 巻 3 号 p. 223-229
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/18
    ジャーナル フリー

    本研究では,本態性音声振戦症2例に対して実施した音声治療の有効性について検討し,効果的な音声治療の方法を探ることを目的とした.発声機能検査の結果より,やや高め,弱めの,短い発声を行うときに,音声振戦症状が軽くなることがわかった.つまり,声帯内転筋の活動レベルを弱める方法が,音声振戦症に対して効果的な音声治療手技であった.これを用いて,母音発声から会話レベルまで,振戦症状が軽減する発声様式を習慣化させる系統的音声治療を行った.その結果,両例において,voice handicap index(VHI),voice-related quality of life(V-RQOL)を用いた主観的評価,母音発声時の音響パラメータが改善し,文章発話時の異常モーラ数が減少した.振戦自体を完治させることは不可能だが,侵襲を加えることなく音声症状の改善を得ることができ,コミュニケーション上の支障を軽減することが可能であった.本態性音声振戦症に対し,選択すべき治療法の一つになると考える.

  • 玉置 円, 中村 光
    2020 年 61 巻 3 号 p. 230-236
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/18
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,条件を統制した呼称課題を実施し,失語症者の言語性保続減少のための基礎データを得ることである.研究1では,失語症者22名(男性14名,女性8名)に対し,刺激項目(絵カード)の意味カテゴリー(動物/道具),色情報の有無(白黒/カラー),提示間隔(1秒/10秒)を操作した呼称課題を実施した.その結果,保続の出現数に対しカテゴリー,およびカテゴリーと提示間隔の組み合わせが関連する可能性が示された.そこで研究2として,提示間隔に20秒条件を加え,刺激提示方法をより厳密に操作した呼称課題を失語症者28名(男性18名,女性10名)に実施した.その結果,動物カテゴリーにおける保続は道具カテゴリーよりも高頻度で減衰しにくいことが確認された.保続が多く出現する患者には,非生物カテゴリーを中心とした訓練プログラムを立案することで,保続を抑制して言語機能訓練が提供できる可能性が示唆された.

  • ―保存的治療の効果と限界―
    森 祐子, 二村 吉継, 南部 由加里, 平野 彩, 久保田 陽子, 上西 裕之, 東川 雅彦
    2020 年 61 巻 3 号 p. 237-244
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/18
    ジャーナル フリー

    当診療所にて音声治療を行った声帯結節症例35例に対し,音声治療前後のVHI,MPT,GRBASスケール,音響学的評価(jitter,shimmer,NHR,F0)について解析を行った.VHI,MPT,shimmerは有意に改善が見られ,F0は有意に上昇した.jitter,NHRは音声治療前後で有意差がなかったが,音声治療前にカットオフ値を平均値+1.5 SDとして逸脱した症例については有意に改善が認められた.

    患者の職業は80%が音声酷使を伴う職業に従事しており,39%が学校教諭,幼稚園教諭,保育士などの教職者であったが,職業上の音声酷使のある症例に沈黙療法を行うことは難しい.声の衛生指導とvocal function exerciseを中心に音声治療を行い,発声を禁じなくとも改善を得られる結果であった.

    音声治療による保存的治療で治療を完了したのは74%(26/35例)であったが,9症例に対し顕微鏡下喉頭微細手術を施行することで改善を得られた.音声治療の効果が認められる一方限界を見極めることも重要であると考えられた.

  • 間藤 翔悟, 宮本 真, 渡邉 格, 茂木 麻未, 中川 秀樹, 齋藤 康一郎
    2020 年 61 巻 3 号 p. 245-251
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/18
    ジャーナル フリー

    音声外科手術として喉頭微細手術は最も頻用されているが,術後の声の安静に関するプロトコールは確立されていない.今回,われわれの使用しているプロトコールの有効性を検証した.対象は2016年8月〜2019年8月の間に喉頭微細手術を施行した31例.声の安静指導として術後1〜3日目は沈黙期間,4〜7日目はconfidential voiceの使用,8〜14日目は日常会話レベルの音声使用とした.沈黙の遵守率は70.9%であり,Gスコアは遵守完全群のほうが遵守不完全群に比べて,術後3ヵ月までは有意に高い改善率を示した.一方,声門閉鎖,MPT,VHIの改善率は2群間で有意差を認めなかった.沈黙の遵守率は既報と比較し高く,遵守不完全群であっても術後半年後には遵守群同様の音声改善が得られたことから,本研究における声の安静指導方法は有効である可能性が示唆され,術後3日間の沈黙の遵守は音声の早期回復に寄与すると考えられた.

症例
  • 近藤 香菜子, 水田 匡信, 楯谷 一郎, 末廣 篤, 岸本 曜, 曽我美 遼, 石田 愛, 倉智 雅子, 大森 孝一
    2020 年 61 巻 3 号 p. 252-257
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/18
    ジャーナル フリー

    声帯結節と竹節状声帯を呈した全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus: SLE)例を経験した.症例は29歳女性.嗄声を認め当科受診した.声の酷使があり喉頭所見では両声帯膜様部中央に声帯結節を認めたほか,それとは別に膜様部中央と声帯突起のほぼ中間に乳白色状の竹節状の結節を認め,ストロボスコピーで左右位相のずれ,声門上部の前後径短縮が見られた.音声治療を実施したところ器質的病変に顕著な変化は見られなかったが,自覚的・他覚的に嗄声が改善した.

    本症例の機序として,声の酷使によってまず声帯結節が膜様部中央に出現し,そのため声帯結節のある声帯膜様部中央と声帯突起のほぼ中間部の振動が大きくなり,免疫複合体が沈着して竹節状の結節が出現したと考えられた.音声治療は竹節状声帯への直接的な効果は期待できないが,声の酷使など機能性要因がある場合は積極的に考慮すべきと考えられた.

  • 高橋 大, 水本 豪, 橋本 幸成, 宇野 彰
    2020 年 61 巻 3 号 p. 258-265
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/18
    ジャーナル フリー

    本研究では漢字二字熟語の書取においてLASC errorを呈した失語症例の書字障害について検討した結果を報告する.症例は,左側頭葉脳腫瘍に対して開頭腫瘍摘出術が行われていた.表層性失書例で観察されるLASC errorは意味処理障害との関連が示唆されている.そこで,同一単語に対し聴覚的理解課題と書取課題を行った結果,聴覚的理解が可能であった単語においてもLASC errorを認め,LASC errorの原因として意味処理障害のみでは説明が困難であると考えられた.認知神経心理学的検討によって,本症例は意味システムから文字出力辞書へいたる経路に障害があり,比較的良好な非語彙経路を用いて書きの一貫性値がより高い漢字を選択した結果,LASC errorが生じたと考えた.また,表層性失書は,semantic subtypeとorthographic subtypeの2つのタイプに分類されるが,本症例はorthographic subtypeに近い臨床像であると考えられた.

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