日本泌尿器科学会雑誌
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107 巻, 3 号
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原著
  • 松木 雅裕, 國島 康晴, 鰐渕 敦, 井上 隆太, 武居 史泰, 久滝 俊博
    2016 年 107 巻 3 号 p. 149-154
    発行日: 2016/07/20
    公開日: 2017/07/21
    ジャーナル フリー

    (目的) 限局性腎腫瘍症例のうち無治療経過観察の方針となった患者の臨床経過を検討した.

    (対象と方法) 限局性腎細胞癌と臨床診断され,無治療経過観察の方針となった観察可能な15例と即時手術治療を施行した68例を対象とし,後ろ向きに検討した.

    (結果) 無治療経過観察群の年齢は即時手術治療群と比較し有意に高齢であった(中央値,81対65歳,P<0.01).Charlson Comorbidity Indexは無治療経過観察群で有意に高く(中央値,5対2,P<0.01),経過観察の一因となった合併症を有した症例は10例(67%)であった.無治療経過観察群の原発腫瘍径中央値は2.5cm(1.5~10.1cm)で,両群間に統計学的差はなかった.無治療経過観察群の観察期間中央値は19カ月(6~55)であり,腫瘍増大速度中央値は0.29cm/年(-0.19~0.65)であった.CTによる無治療経過観察後に手術をうけた症例は4例であり,全例淡明細胞癌であった.無治療経過観察群の最終転帰は他因死2例,転移症例1例で,癌死症例はいなかった.

    (結論) 本検討では1例で転移を認めており,無治療経過観察を選択する場合はその妥当性についてよく検討する必要があると思われた.一方で,無治療経過観察群2例に他因死を認めており,高齢もしくは合併症症例に対して,無治療経過観察は許容できる選択肢の一つと考えられた.

  • 五十嵐 敦, 深貝 隆志, 森田 將, 林 圭一郎, 古敷谷 淳, 小川 良雄, 冨士 幸蔵, 直江 道夫, 森田 順, 押野見 和彦, 中 ...
    2016 年 107 巻 3 号 p. 155-161
    発行日: 2016/07/20
    公開日: 2017/07/21
    ジャーナル フリー

    (目的) 去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)症例に対する新規抗アンドロゲン受容体阻害剤であるエンザルタミドの治療効果とその安全性について検討した.

    (対象と方法) 昭和大学病院,昭和大学関連7施設においてCRPCと診断された症例のうちエンザルタミドを使用した73例を対象とした.方法は160mg/dayを連日投与としたが,年齢,全身状態を考慮し担当医の判断で減量した.エンザルタミドによるPSA反応率,ドセタキセル(以後DTX)の使用の有無,前治療投与薬剤数による治療効果の差をretrospectiveに比較検討した.

    (結果) エンザルタミド投与開始時の年齢中央値77歳,Gleason scoreの中央値は9であった.エンザルタミド投与開始時のPSA中央値は26.9ng/mlであった.エンザルタミド投与前にDTXを投与している症例は29例(39.7%)であり,総投与量の中央値は460mg/body(100~2,640)であった.エンザルタミド投与前の内分泌療法投与薬剤数の中央値は3であった.

    前治療としてDTXを投与していない症例においてエンザルタミド投与後PSAが50%以上低下したものは27例(61.4%),DTX投与後の症例でPSAが50%以上低下したものは7例(24.1%)であった.有害事象は疲労18例(24.7%),食欲不振18例(24.7%),悪心12例(16.4%)であった.PSAのflareと思われる現象を認めた症例が4例あった.

    (考察) CRPCに対するエンザルタミド投与によるPSAの変化はこれまでの報告と大きな差を認めなかった.PSA flareと思われる現象を認めており,1回のPSA上昇だけでは判断できない可能性がある.

  • 岡田 卓也, 高山 賢二, 小久保 雅樹, 河野 有香, 松本 敬優, 住吉 崇幸, 増田 憲彦, 白石 裕介, 根来 宏光, 宇都宮 紀明 ...
    2016 年 107 巻 3 号 p. 162-169
    発行日: 2016/07/20
    公開日: 2017/07/21
    ジャーナル フリー

    (目的) 高リスク前立腺癌に対するネオアジュバント内分泌療法(NeoADT)併用外照射放射線療法(EBRT)の治療成績と生化学的再発に関する予後関連因子を検討した.

    (対象と方法) 2002年7月から2013年4月の間に,NCCN基準で高リスク(PSA値20ng/ml以上または,臨床病期T3a以上,Gleason score(GS)8以上)に属する前立腺癌70例に対しNeoADT併用EBRTを行った.EBRTは3D-CRTまたはIMRTを用い,線量は中央値74Gy,7例で骨盤照射を併用した.NeoADTの期間は中央値13.0カ月であった.

    (結果) PSAの中央値は25.2ng/ml,43例がPSA値≧20ng/ml,51例が病期≧T3a,27例がGS≧8であった.4.8年の観察期間中,生化学的再発を23例に認め,5年,8年の生化学的無再発期間(bPFS)は63%,54%,全生存率は100%,91%であった.多変量解析の結果,PSA,病期,GSに関する各リスク因子はbPFSに有意な影響を示さず,保有するリスク因子数とEBRT前PSAが有意な予後関連因子となった.リスク因子数1個の群と2個以上の群における8年bPFSは79%,39%であった.

    (結語) 高リスク前立腺癌に対するNeoADT併用EBRTは良好な治療成績を示し,保有するリスク因子数とEBRT前PSAが予後に関連する因子となっていた.

  • 岡田 崇, 久保田 聖史, 西山 隆一, 寒野 徹, 東 義人, 山田 仁
    2016 年 107 巻 3 号 p. 170-176
    発行日: 2016/07/20
    公開日: 2017/07/21
    ジャーナル フリー

    (目的) 尿管結石の保存的治療でどれ位の大きさの結石をいつまで観察するのか具体的な指針は未だ確立されていない.尿管結石の自然排石(自排)に関与する因子を解析し,その指標を明らかにすることを目的とした.

    (対象と方法) 2009年4月から2013年5月までの50カ月間に当院泌尿器科を受診し,内服治療あるいは経過観察で自排を期待し発症から30日以内の自排の有無が確認できた尿管結石521例.全例超音波検査で結石最大径,結石部位,水腎症の有無・程度,結石の有無を評価し,年齢,性別,患側,体容積指数(BMI),内服治療と共に検討した.結石累積残存曲線で自排に関与する因子を統計学的に検定した.

    (結果) 結石累積残存曲線で,50%自排期間は結石最大径が6.0mm以下で15.7日・6.1mm以上で21.8日,結石部位が上部で28.8日・中部以下で15.6日(いずれもP<0.01)であった.また結石最大径1mm毎に群分けを行うと6mmを境界とした場合のみ統計学的有意差が得られた.30日自排の2群比較においても,結石最大径と結石部位の2つが自排に関わる独立した因子であった.

    (結論) 尿管結石の自排期待療法において,結石最大径と結石部位の2つが自排に影響する独立した因子であることが統計学的に改めて示された.とくに超音波計測による結石最大径が6mmを越えると自排が不良となる可能性が統計学的に初めて示された.

  • 大岡 均至
    2016 年 107 巻 3 号 p. 177-183
    発行日: 2016/07/20
    公開日: 2017/07/21
    ジャーナル フリー

    (目的) 症状の安定した女性間質性膀胱炎症例に対するdietary manipulation(以下DM)の効果につき検討する.

    (対象と方法) 当院で加療中の女性間質性膀胱炎症例20例を対象とした.当院栄養管理室と連携し,間質性膀胱炎食を作成(熱量;1,500kcal,タンパク質;65g,脂質;40g,炭水化物;220g,水分1,000ml,塩分;7g),この栄養量に準拠して,個々の症例に最適な以下の食品を可及的低減する食事メニューを提供し,3カ月後のO'Leary & Santの症状スコア・問題スコア(以下OSSI,OSPI),尿意切迫感(以下U),膀胱痛・骨盤痛(以下P),QOL indexの変化を検討した.

    除去した食品;トマト製品,大豆製品,香辛料,カリウムの豊富な食品,柑橘類,酸味の強いものなど

    (結果) OSSI,OSPIは各々11.7→10.1(p<0.0001),10.7→8.8(p=0.01)と改善が認められた.Uは6.4→5.2(p<0.0001),Pは6.5→4.8(p<0.0001),QOL indexも5.1→3.9(p<0.0001)と有意な改善が認められた.

    (結論) 食事に関する注意点等を頻回に診察時に説明していたにも関わらず,系統的なDMによって症状の改善が認められた.他の治療法には変更を加えず非侵襲的な本治療法は試みられるべきであろう.

症例報告
  • 坪内 和女, 横山 裕, 和田 浩治, 松崎 洋吏, 田中 正利, 笹野 公伸
    2016 年 107 巻 3 号 p. 184-188
    発行日: 2016/07/20
    公開日: 2017/07/21
    ジャーナル フリー

    アデノマトイド腫瘍は中皮細胞由来の良性腫瘍で,副腎に発生する症例は非常にまれであり,術前の検査や画像診断のみで副腎皮質腫瘍や褐色細胞腫と鑑別することは難しい.今回われわれはアデノマトイド腫瘍と診断された左副腎腫瘍の1例を経験したので報告する.症例は52歳,男性で,2年程前から発作性の高血圧を自覚しており,人間ドックのPET-CTで左副腎腫瘍を指摘された.腹部CTでは左副腎に25×15mmの腫瘍を認め,早期相で腫瘍辺縁に造影効果があり,後期相で腫瘍全体が淡く造影され,典型的な副腎皮質腺腫や褐色細胞腫とは異なる所見であった.血中内分泌検査は副腎皮質および髄質機能とも正常であったが,24時間蓄尿による検査では副腎皮質および髄質機能とも基準値を超えていた.131I-MIBGシンチと術前フェントラミン試験が陰性であることを確認した後,腹腔鏡下左副腎摘出術を施行した.病理組織学的所見は不規則な管腔様の構造が副腎内に認められ,これらの管腔を構成している細胞はサイトケラチン,カルレチニンが陽性で,Steroidogenic factor-1は陰性であった.以上の結果より,本症例を左副腎に発生したアデノマトイド腫瘍と診断した.副腎アデノマトイド腫瘍は病理組織学的に副腎皮質腺腫や癌,リンパ管腫,血管腫,血管肉腫,転移性腺癌などとの鑑別が問題になることがあり,その際は免疫組織化学的検査が重要となる.

  • 大塚 真史, 前川 滋克, 牛久 綾, 森川 鉄平, 本間 之夫
    2016 年 107 巻 3 号 p. 189-192
    発行日: 2016/07/20
    公開日: 2017/07/21
    ジャーナル フリー

    症例は25歳,男性.2015年4月に左陰囊腫大を主訴に当院を受診した.超音波検査とMRIで左精巣腫瘍と診断した.CTでは遠隔転移は認めなかった.腫瘍マーカーはβHCG,AFP,LDHのいずれも正常値であった.緊急入院とし,当日に高位精巣摘除術を施行した.病理結果は,大細胞性石灰化セルトリ細胞腫(Large cell calcifying Sertoli cell tumor)であった.組織学的に積極的に悪性を示唆する所見はなく,全身検索で転移を認めなかったため,後療法は施行せず経過観察とした.術後4カ月を経た現在,再発,転移は認めていない.

  • 占部 文彦, 木村 高弘, 柳澤 孝文, 田代 康次郎, 三木 淳, 中野 雅貴, 岸本 幸一, 頴川 晋
    2016 年 107 巻 3 号 p. 193-197
    発行日: 2016/07/20
    公開日: 2017/07/21
    ジャーナル フリー

    72歳男性.主訴は左陰囊腫大.2カ月前より陰囊腫大を認め,当科初診.陰囊水腫の診断で穿刺吸引を施行するも短期間で陰囊水の貯留を認めた.触診,超音波検査,MRI検査から精巣上体腫瘍が疑われた.高位精巣摘除術を施行し,病理診断は腺癌であった.画像検査にてその他の原発を疑う所見はなく,原発性精巣上体腺癌と診断した.術後10カ月経過し,明らかな転移を疑う所見は認めていない.

  • 奥村 昌央, 森井 章裕, 桐山 正人, 米田 憲二, 加藤 晴朗
    2016 年 107 巻 3 号 p. 198-202
    発行日: 2016/07/20
    公開日: 2017/07/21
    ジャーナル フリー

    右腎茎部損傷と左尿管断裂に対し左尿管下腎杯吻合術を施行し腎機能を温存し得た多発性腹部外傷の25歳,男性の症例を報告する.現病歴は2011年5月,漁の作業中に漁網巻き上げ用ローラーに体を巻きこまれ当院へ救急搬送.ショック状態であったが急速輸液で血圧は回復しCTにて両側血胸,肝損傷,腸管損傷,右腎茎部損傷,左腎損傷,下大静脈損傷を認めた.胸腔ドレナージ後,外科で開腹手術施行.膵損傷,肝損傷,胃離断,空腸離断,結腸損傷,右後腹膜血腫を認め膵体尾部切除,肝縫合,結腸左半切除,胃部分切除,人工肛門造設術を行ったが,肝右葉からの出血を抑えることが困難であったためガーゼパッキングによるダメージコントロールとなった.術中は後腹膜血腫の拍動は触知せず,正中を越えて反対側に広がるような増大も認めず,全身状態も不良であったため右腎茎部の処置は行わなかった.術後無尿となり血液透析を行い,1週間後に全身麻酔下でガーゼ除去術を施行した.生理食塩水をかけながら肝からはがしていったが出血はなく肝表面にタココンブを貼った.術後24日目のCTでは右腎は無機能であったが,左腎は水腎症を認めたため経皮的左腎瘻造設術を施行した.左腎に対し順行性腎盂造影と逆行性腎盂造影を施行したところ左上部尿管に約8cmの陰影欠損を認めた.本人が腎瘻カテーテル抜去を希望したため信州大学医学部付属病院泌尿器科へ紹介した.2012年1月,同科にて左尿管下腎杯吻合術が施行され腎瘻カテーテルは抜去された.2014年5月に当院外科で人工肛門閉鎖術が施行され,現在,社会復帰している.

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