日本泌尿器科学会雑誌
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87 巻, 12 号
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  • 和食 正久
    1996 年 87 巻 12 号 p. 1269-1276
    発行日: 1996/12/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    (目的) 上皮内癌・上皮異形成の随伴が膀胱癌の予後因子となるかを調べた.
    (方法) 膀胱全摘除術を行った膀胱癌57例の上皮内癌および上皮異形成の随伴の有無を組織学的に観察してマッピングを行うともに, 累積生存率を検討した.
    (結果) 上皮内癌の随伴を29例 (51%) に, 上皮異形成の随伴を52例 (91%) に認めた. これらの上皮内病変の随伴の有無による累積生存率に有意差はなかった. しかし, 上皮内癌の随伴が隆起性腫瘍の周囲に連続している場合より, 離れた部位にも散在している場合のほうが癌特異累積生存率が高かった (p=0.04). 非乳頭状癌では, 上皮異形成の随伴面積が3%以上の症例が随伴面積3%未満の症例よりも累積生存率が高い傾向であった (p=0.09).
    (結論) 膀胱癌での上皮内癌・上皮異形成の随伴は予後不良を示すものではなく, 特に非乳頭状癌では予後のよい場合もあることが示唆された.
  • 秋山 博伸, 市川 孝治, 永井 敦, 津川 昌也, 津島 知靖, 公文 裕巳, 大森 弘之
    1996 年 87 巻 12 号 p. 1277-1280
    発行日: 1996/12/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    (背景と目的) 単純性腎嚢胞に対する治療として, 種々の経皮的硬化剤注入療法が試みられ, その有効性はほぼ確立している. 今回, 硬化剤としてエタノールと塩酸ミノサイクリンを使用し, その有用性について両者を比較検討した.
    (対象と方法) 対象は, 1985年1月から1995年8月までの間に, 岡山大学泌尿器科にて単純性腎嚢胞と診断された症例のうち, 治療が行われた30例33嚢胞である. 超音波ガイド下に経皮的穿刺吸引後, エタノールあるいは塩酸ミノサイクリン注入療法を施行した.
    (結果) 有効率はエタノール群, 塩酸ミノサイクリン群でそれぞれ100%, 90.9%であった. 嚢胞の推定容量から算出した縮小率は, それぞれ91.2±13.1%, 83.2±28.5% (mean±SD) であった. 副作用は, エタノール注入群のみで認められ, その内訳は, 注入時疼痛2件, 術後疼痛8件, 酩酊感3件であった.
    (結論) エタノール注入療法は, 有効性において優れているものの, 副作用が多く, また, 注入後に回収を要するなど手技がやや煩雑である. 一方, 塩酸ミノサイクリン注入療法は, エタノール注入療法に比し, 有効性でやや劣るものの, 安全性, 簡便性において優れており, 本疾患に対する第一選択の治療に成り得ると考えられた.
  • 井上 慶治, 笠原 高太郎, 井上 雄一郎, 井上 啓史, 山下 元幸, 森岡 政明, 藤田 幸利, 執印 太郎
    1996 年 87 巻 12 号 p. 1281-1288
    発行日: 1996/12/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    (背景と目的) 1988年より当科で施行しているATP感受性試験に関し, 表在性膀胱癌患者に対する抗癌剤の膀胱内再発予防注入における再発予防効果につき検討した.
    (対象と方法) 対象は, 1988年4月より1993年5月までに当科で加療した表在性膀胱癌患者32例 (A group) で, ATP感受性試験を施行する以前の表在性膀胱癌患者37例 (B group) を比較対象群とした. ATP感受性試験は, 既に報告した方法で行い, 抗癌剤未処理のコントロール細胞のATP量に対する百分率で感受性を評価し, 0~30%(+++), 30~60% (++), 60~100% (+), 100%~ (-) の4段階に分類した.
    (結果) ATP量がコントロールの60%以下に低下した割合は, MMC56.3%, ADM60.0%, THP-ADM77.8%, EPI62.5%でTHP-ADMが最も優れており, 100%~ (-) の割合もTHP-ADMは7.4%と最も低かった. 5年非再発率を Kaplan-Meier 法で比較するとA group 80.9%, B group 39.4%で, p<0.001で有意差を認めた. A group の再発は全て術後2年以内であった. 各因子別の検討では, 初発, 単発, Grade 2, 腫瘍サイズ1cm以上でA, B群間に有意差を認めた. 複数回感受性試験の施行できた再発症例3例の検討では, 再発時には感受性が変化する傾向がみられた.
    (結論) ATP感受性試験は, Grade 2, 腫瘍サイズ1cm以上の初発, 単発例において再発予防に寄与しているものと思われた. 膀胱腫瘍の初発時にはスクリーニング的に施行してよいと考える.
  • 北原 聡史, 東 四雄, 辻井 俊彦, 影山 幸雄, 川上 理, 豊浦 多喜雄, 税所 純敬, 森田 隆, 高木 健太郎, 大島 博幸
    1996 年 87 巻 12 号 p. 1289-1296
    発行日: 1996/12/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    (目的) 先天性副腎過形成の女子41名に対し当科で行った外陰形成に対する検討.
    (患者) 過去35年間に先天性副腎過形成と診断された57名のうち, 41名が外陰形成を当院で受けた. 残りの16名中, 11名 (19%) は外陰形成の必要がなかった.
    (結果) Prader 分類では, I, II, III, IV型がそれぞれ8例, 10例, 17例, 4例見られ, 前医の手術のための不明が2例であった. 当院での初回外陰形成施行年齢は1歳9ヵ月から20歳 (中央値4歳5ヵ月), 経過観察期間は2ヵ月から33年, 平均17年である. 陰核肥大に対しては1975年前には22名が陰核切断を, 1975年以降は17名が陰核海綿体切除を受けている. 2名の患者が陰核切断後に再度陰核肥大となったが, 陰核切除が不十分か糖質コルチコイド療法を患者が順守しなかったためであった. 陰唇腟口形成は36名に行なわれ, 単純正中カットバック法が6名にY-V形成術 (陰唇腟口形成) が30名に行なわれた. 初回形成時に腟口が確認されないものが5名あり, 腟口形成の術後に腟口狭窄が6名に見られた.
    (結論) 女子先天性副腎過形成患者の多くが外陰形成を必要とした. 陰核肥大に対する陰核海綿体脚融合部やや遠位の陰核海綿体切除はホルモン療法を適切に行なえば満足のいく結果を得られた. 陰唇腟口形成のためのY-V形成は機能的, 美容的に優れた方法であるが, 低年齢手術では一部に腟口の確認不能や術後の腟口狭窄が見られた.
  • 全国集計の結果
    秦野 直, 小山 雄三, 早川 正道, 小川 由英, 大澤 炯
    1996 年 87 巻 12 号 p. 1297-1304
    発行日: 1996/12/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    (目的) 嚢胞性腎疾患には時として腎癌が合併している. しかしながら, 腎癌と嚢胞との関係についての具体的な資料に乏しかつた. そこで全国泌尿器科医に対しアンケート調査を行った.
    (対象および方法) 嚢胞をともなう腎癌患者について, 全国の泌尿器科施設にアンケート調査を依頼し, 報告された223名を対象とした.
    (結果) 嚢胞をともなった腎癌の患者数は, 全腎癌患者数の, 約3.9%であった. 男女比は, 約4.3対1で男性に多かった. 平均年齢は55.2±12.5 (SD) 歳で, 男女間に有意の差はなかった. 嚢胞の種類は単純性腎嚢胞 (32%) がもっとも多く, ついで多嚢胞化萎縮腎 (以下ACDK) (28%), 嚢胞状腎癌 (25%), 多房性腎嚢胞 (9.0%), 嚢胞腎 (1.3%) の順であった. 単純性腎嚢胞がもっとも高齢であり, ACDKはもっとも低年齢で, 有意の差が認められた. 透析患者は71名で全体の約32%をしめ, そのうちACDKは62名 (87%) であった. 透析群では非透析群に比して有意の差で両側にできやすく, かつ多発性であり, pT1以下の症例が多かった. また病理組織学的には透析群では非透析群に比して有意の差で, papillary type および granular cell subtype の割合が多かった.
    (結論) 嚢胞性腎疾患をともなう透析患者は若年であっても, 定期的に画像診断を施行すべきである.
  • 永野 俊介, 京 昌弘, 花房 徹, 市川 靖二, 福西 孝信, 伊藤 公彦, 野島 道生, 藤本 宜正
    1996 年 87 巻 12 号 p. 1305-1312
    発行日: 1996/12/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    (背景と目的) 腎移植後の妊娠, 出産における腎機能低下のリスク因子を検討した.
    (対象と方法) 兵庫県立西宮病院で1995年末までに施行された女性腎移植患者118例 (121回) 中, 21例28回の出産を対象とした.
    (結果) 主免疫抑制療法はアザチオプリンが12例17回, シクロスポリンが9例11回であった. 全例妊娠経過中拒絶反応はみられなかったが, 妊娠中毒症を伴う腎機能低下を8例8回経験した. 腎機能低下群と正常群を比較検討した結果, 低下群では有意に移植腎年齢が高く, 妊娠前高血圧, 貧血があり, クレアチニン値が高く, 潜在的腎機能障害の存在に妊娠負荷が加わって腎機能低下が招来されているものと考えられた.
    (結論) 妊娠中に腎機能が破綻する可能性が高いリスク因子は, 腎年齢が50歳以上で, 妊娠前より高血圧が存在し, 妊娠初期のヘモグロビン値が11g/dl未満, クレアチニン値が, 1.3mg/dl以上の症例と考えられた.
  • 中田 誠司, 佐藤 仁, 大竹 伸明, 山中 英壽
    1996 年 87 巻 12 号 p. 1313-1320
    発行日: 1996/12/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    (目的) 最近22年間の日本における尿路性器癌死亡の特徴の変遷に関して検討した.
    (対象と方法) 1973-94年の間に前立腺, 膀胱, 腎の悪性腫瘍での死亡例を対象とした. これより, 各癌の年度別年齢調整死亡率 (世界人口にて年齢調整), 各県別標準化死亡比 (SMR), 年齢別死亡率を算出し, それぞれの変遷に関して検討した.
    (結果) 年齢調整死亡率は, 前立腺では1973年に2.29であったものが1994年には4.36と約1.9倍に増加していた. 膀胱は男は横ばい, 女は漸減傾向, 腎 (15歳以上) は男では1973年には1.45であったものが1994年には2.72と約1.9倍の増加, 女でも漸増傾向であった. 各県別SMRでは, 1973-84年 (前期) と1985-94年 (後期) の分布は似ており, それぞれの癌に特徴的な分布の偏りがみられた. 年齢別死亡率は, 前立腺, 膀胱では年齢が高くなるにつれて指数関数的に増加したが, 腎では増加した後に一定の年齢になると横ばいになった. 前期と後期の比較では, 前立腺, 腎の男女では, 特に70歳以上で年齢が高くなるほど前期に対する後期の死亡率の伸び率が高かった. 膀胱では, 男女とも85歳以上では後期の死亡率の方が高かったが, それ以外のほとんどの年齢層では後期の死亡率の方が低かった.
    (結論) 前立腺, 腎 (15歳以上) の悪性腫瘍の死亡率は増加, 膀胱は横ばい~減少傾向であった. この様な疫学情報を活用し, 効率的に各疾患の発見, 治療をすることが望まれる.
  • 後藤 百万, 吉川 羊子, 近藤 厚哉, 加藤 範夫, 小野 佳成, 近藤 哲志, 長井 辰哉, 榊原 敏文, 近藤 厚生, 三宅 弘治
    1996 年 87 巻 12 号 p. 1321-1330
    発行日: 1996/12/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    (目的) 前立腺肥大症の診断における conventional urodynamic studies (UDS) (尿流測定, 残尿測定, 膀胱内圧測定) の有用性と限界について, 380例の前立腺肥大症患者を対象として検討した.
    (結果) 尿流測定での最大尿流率, 平均尿流率は排尿量依存性に増加し, 前立腺サイズ, 自覚症状 (国際前立腺症状スコア), 排尿障害の支障度との連関は不良であった. TURP術前の最大尿流率の程度により, 術後の最大尿流率, 手術結果不良例の発生頻度に差はみられなかった. 尿流測定による閉塞と膀胱排尿筋収縮障害の鑑別は困難であった. 残尿量は同一個人でもばらつきが大きく, 自覚症状, 前立腺サイズ, 最大尿流率, 平均尿流率との連関は不良であった. 蓄尿時膀胱内圧測定では, 切迫性尿失禁を有する群で無抑制収縮が高率にみられたが, 他のパラメーターは切迫性尿失禁の有無, 夜間頻尿回数とは連関しなかった. TURP術後切迫性尿失禁の残存群と消失群では, 術前無抑制収縮の大きさ, 初発尿意, 最大尿意, 膀胱コンプライアンスに差はみられなかった.
    (結論) BPHの診断における conventional UDS の有用性にはある程度限界があり, データの評価においても種々の注意を要する. しかし, これらの検査は大多数の症例で閉塞状態, 膀胱刺激状態の病態を他覚的に表示し, 自覚症状, 前立腺サイズとは独立したパラメーターとして診断, 治療方針決定, 治療効果判定に必要である.
  • 齋藤 和男, 釜井 隆男, 千葉 喜美男, 広川 信, 朝倉 茂夫
    1996 年 87 巻 12 号 p. 1331-1334
    発行日: 1996/12/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    33歳男性. 一年間の原発性不妊を主訴として受診. 右停留精巣を認めた. 精液検査では精液量は平均1.7ml, 無精子症であった. 左精管造影では左精嚢は拡張していたが変形はなく, 膀胱への造影剤の流出は見られなかった. 右停留精巣摘除術を行った後に, 経尿道的に精阜の左側方を切開し造影剤を注入したところ, 非嚢胞状で径7mmに拡張した射精管に引き続いて精嚢が造影された. 術後精液量は平均2.3mlに増加し, 8ヵ月後には精液量3.5ml, 精子濃度61.3×106/ml, 運動率51.8%となった. しかし18ヵ月後に無精子症となったため, 再度経尿道的に切開したところ, 再び精子が出現するようになった. 自験例は同側の腎欠損, 対側の腎回転異常を合併し, 尿路感染の既往もないことから, 先天性の射精管閉塞症と診断した.
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