内蒙古, 河套灌区では, 全塩収支では明らかに塩分蓄積の傾向にありながら, 塩類化は改善の傾向にあると灌区技術者や農家は実感しており, これらの矛盾した実態の原因は不明であった. そこで, 灌漑水から土壌水, 浅層地下水, 排水路水にいたる経路での塩分組成の変化, および耕地と塩害地における土壌中の水溶性および非水溶性イオン組成を分析した. 得られた結果は以下の通りであった.(1) 黄河から取水した灌漑水は, 電気伝導度 (EC) 1mS/cm, ナトリウム吸着比 (SAR) 3~5であるが, 灌漑後土壌を通過した地下水のECは3~7mS/cm, SARは7~20へと, いずれも大幅に増大した. 塩害地地下水は耕地の地下水とほぼ同じECであったが耕地よりも高い値SARを示した. 排水路水も地下水と同様のイオン組成を示した.(2) 土壌中の水溶性陽イオンのほとんどをNa
+イオンが占め, 全塩濃度が高い塩害地ほどNa
+の割合が高い.(3) 酢酸アンモニウムで抽出したイオン量は, 水溶性イオン量の総量より10倍程度多く, 最も卓越したイオン種はCa
2+であり, 塩害地よりも耕地でCa
2+の割合が高かった.(4) 灌漑水中のCa
2+は土壌中で非水溶性塩として沈積する.(5) 農地の塩分管理指標としては, 全塩収支よりも易移動性イオン, たとえばNaイオンの収支の方が適切であると考えられた.
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