10年後のあるべき社会の実現を目指し、産学連携による革新的イノベーションの創出に挑んだ、センター・オブ・イノベーション(COI)プログラムが、2022年3月に終了を迎えた。約9年間に及ぶ取り組みについて、総括ビジョナリーリーダーを務めた東京大学の松本洋一郎名誉教授に話を聞いた。
COIでは産業界の強力なリーダーを中心とする「ビジョナリーチーム」を設置し、研究を支援してきた。ビジョナリーチームの一員であり、各ビジョンの責任者でもある3名のビジョナリーリーダー(VL)が拠点と歩んだ日々を語った。
「はかる」「わかる」「おくる」をキーワードに、年齢を重ねても生きがいを持って毎日健康に過ごせる社会を目指したのは、東北大学の「さりげないセンシングと日常人間ドックで実現する自助と共助の社会創生拠点」だ。産学官が連携してさまざまなセンサーを社会実装することにより、自分の状態を的確に把握して生活改善を行う「自助」と、家族や地域の人々の適切なケアによる「共助」が成り立つ、持続可能な社会への確かな道筋を示した。
「ワクワクする」「感動した」など、これまでは主観でしか表現できなかった「感性」に着目し研究を展開したのは、広島大学の「精神的価値が成長する感性イノベーション拠点」だ。脳科学の視点から科学的にアプローチすることで、世界で初めて感性の可視化に成功した。その成果は、健康管理や企業の製品開発など、さまざまな場面で使われつつある。目に見える物質的な豊かさだけでなく、こころも豊かな社会の実現に貢献する。
デジタル製造技術を駆使し、大量生産・消費型社会とは異なる、個別一品生産への移行を目指したのは、慶應義塾大学の「感性とデジタル製造を直結し、生活者の創造性を拡張するファブ地球社会創造拠点」だ。1人1人の好みやニーズに合った最適な製品を提供するために、新たな設計と製造の方法を具現化してきた。理工系、社会学系だけでなく、アートやデザインの専門家も加えた研究拠点を形成することで、「技術」と「社会」をつなぎ、持続可能な地球社会の実現に貢献する。
かつて、日本の水産業は生産量世界1位を誇っていた。しかし、近年では高齢化に伴う従事者の減少に加え、採算性の低さや漁業の衰退から、3分の1にまで縮小している。そんな中、新たな養殖業を模索し注目を集めるのは、京都大学発ベンチャーのリージョナルフィッシュ(京都府京都市)だ。ゲノム編集技術による高速品種改良と、AIやIoTを駆使した効率的な陸上養殖で、水産業に活気を取り戻すとともに、世界の食料問題解決に貢献する。
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