2022年4月に理事長に就任し、初めての新年を迎えることとなりました。昨年は国際・経済社会にとって激動の1年となり、復興と変革が求められる状況の中、科学技術・イノベーションへの期待はより一層高まっています。JSTが日本の科学技術・イノベーションの中核として、期待される役割をしっかりと果たせるよう、JST一丸となって取り組んでまいります。
低炭素社会と持続的な経済成長を両立するためには、全く新しい概念や科学に基づいた革新的な「ゲームチェンジングテクノロジー」が不可欠だ。その1つとして近年注目が高まっているのが、バイオテクノロジーで二酸化炭素(CO2)から有用物質を生産する「バイオものづくり」だ。2017年より「地球規模課題である低炭素社会の実現」領域の研究開発運営会議委員を務める神戸大学の近藤昭彦副学長に、バイオものづくりによるエネルギーや有用物質供給の可能性について聞いた。
低炭素社会の実現には、再生可能エネルギーを利用したカーボンリサイクルの技術が必要である。広島大学大学院統合生命科学研究科の中島田豊教授は、二酸化炭素(CO2)と再生可能エネルギーから生産できる水素(H2)や一酸化炭素(CO)の混合ガスである合成ガスから、好熱性微生物の発酵を利用してアセトンなどの有用な化学物質を作る合成ガス発酵技術を開発している。将来的には、化石燃料を使わずに、液体燃料や化成品原料などを製造し、使用後に再び合成ガスに戻す循環型生産プロセスの確立を目指す。
将来のグリーン産業の担い手として、大きさが1ミリメートル以下という微細な藻類の利用が期待されている。藻類に有用な物質を多く作らせるためには、遺伝子改変などの改良が不可欠だ。国立遺伝学研究所遺伝形質研究系の宮城島進也教授は日本の温泉に生息する藻類に着目し、通常細胞壁を持つ2倍体の藻類から細胞壁のない1倍体を生み出すことで、世界で初めて藻類の高度な遺伝的改変に成功した。さらに、酸性化した海水を用いた屋外開放培養や増産への道を拓いた。
藻類による物質生産では、光の自己遮蔽効果による細胞密度の頭打ちと、光エネルギーを物質生産に集中できないことが実用化の妨げとなっていた。神戸大学先端バイオ工学研究センターの蓮沼誠久教授はこの課題解決に際し、二酸化炭素(CO2)吸収と代謝を維持したまま細胞分裂を停止させる細胞増殖制御因子を発見した。さらに、AIと代謝工学を組み合わせることで物質生産株の開発を加速するとともに、実験操作のオートメーション化にも取り組んでいる。
若手商社員・皆川豊を主人公としたストーリー仕立てで、低炭素社会戦略センター(LCS)が発行する提案書を読み解く連載の第7回。前回は、再エネ発電とあわせてゼロエミッションの根幹を支える蓄電技術について学んだ皆川。今回はエネルギー消費に目を向けて、森俊介研究統括と三枝邦夫上席研究員に情報通信にまつわる電力消費の現状や、発展を続ける情報化社会を支えるための今後の技術開発のポイントについてお話を伺った。
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