優れた成果を基礎研究だけに留めず、応用開発までを1つの事業で長期一貫して支援し、新しい産業創出の礎となる技術として確立しようという構想の下、「戦略的イノベーション創出推進プログラム(S-イノベ、当時:戦略的イノベーション創出推進事業)」は2009年に誕生した。4月号特集は、3つの研究開発テーマを推進したプログラムオフィサーと研究者が、それぞれの10年を振り返る。
研究開発テーマ運営の責任者であるプログラムオフィサー(PO)は、各研究開発チームの評価、チーム間の連携や情報共有など、「産業創出の礎となる技術」を確立するために効率的な研究開発を推進してきた。2009年10月に発足し19年3月に終了した研究開発テーマのPO3人がS-イノベへの熱い思いを語った。
再生可能エネルギーの代表格である太陽電池。現在主流となっている無機系太陽電池に代わる次世代太陽電池の開発に挑んだのが電気通信大学(採択時、九州工業大学)の早瀬修二特任教授とフジコーの永吉英昭常務取締役をリーダーとする研究チームだ。材料開発から製造装置開発、さらにはシステム化までを一気通貫で進め、これまでにない円筒形の有機系太陽電池を実現し、その可能性を広げようとしている。
光を用いた配線技術「光インターコネクト」は増え続ける膨大なデータの高速伝送を支えてきたが、さらに速く、大容量にという声は止むことがない。その声に応えるべく光通信の革新を目指すのが、宇都宮大学大学院工学研究科の杉原興浩教授だ。九州大学先導物質化学研究所の横山士吉教授らと連携し、未来の材料と考えられていた電気光学ポリマーを用いた光インターコネクトを実現しようとしている。
電気を損失なく送る鉄道用超伝導ケーブルを開発し、営業路線で車両の走行試験に世界で初めて成功したのが、鉄道総合技術研究所 研究開発推進部の富田優担当部長だ。ケーブルの材料開発からシステム設計まで、試作と検証を繰り返し、実用化を目指す。
近年、バイオ燃料生産や食料問題解決の一助としてクロレラを含む藻類が注目を集めている。藻類が有用物質を作り出す力を利用し、供給源が限られる付加価値の高い物質の生産を目指すのが、アルガルバイオ(千葉県柏市)だ。研究者から転身した竹下毅代表取締役社長は、藻類に秘められた可能性を探り、活用の道を拓こうと日々奮闘している。
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