1900年代以降、世界の人口増加を支えたのは食料の飛躍的な増産を可能にした化学肥料だ。しかし一方で、環境汚染や資源の枯渇といった問題があり、農業の持続可能性を考えると、このまま化学肥料に依存するわけにはいかない。そこで注目したいのが、肉眼では見えない微生物だ。大気中の窒素を固定して栄養分として利用するものや、植物と共生し土壌から吸収した栄養分を植物に供給するものなど、さまざまな種類が存在する。持続可能な農業に向け、その潜在能力を引き出そうとする研究者たちを紹介する。
植物の根に入り込み、共生関係を築くアーバスキュラー菌根菌(AM菌)。その役割は、土壌中に菌糸を張り巡らしてリンなどの栄養分を吸収し、宿主作物に供給することである。世界的にリン鉱石の枯渇が懸念される中、この機能を応用した技術を開発することで、リン肥料の使用量を削減できないか。そんな目的を持ったプロジェクトが、自然科学研究機構基礎生物学研究所の川口正代司教授とJSTの齋藤雅典ACCELプログラムマネージャーとの二人三脚で進んでいる。
作物が自ら窒素を固定して、自らの生育を促進する時代が来るかもしれない。名古屋大学大学院生命農学研究科の藤田祐一教授らの研究チームは、微生物の一種であるシアノバクテリアに窒素固定酵素の遺伝子を導入し、働かせることに成功した。光合成生物では初めてで、窒素肥料を前提とした現代の作物栽培の常識を変える大きな成果だ。今後はこの窒素固定酵素の活性を高めるとともに、作物に導入する方法を模索していく。
植物の生育にとって有益な微生物叢(微生物の集まり)を構築するにはどうすればいいのか。京都大学生態学研究センターの東樹宏和准教授は、他の共生微生物を植物体へと呼び寄せるなど、生態系の中でつなぎ役となって微生物叢全体の形成を制御する微生物が存在する可能性を見いだし、「コア共生微生物」と命名した。このコア共生微生物を植物の種子や苗に接種して植物の生育の促進に役立てようとしている。
1億分の1秒の画像を撮影する超高速カメラを開発したのは、立命館大学理工学部の江藤剛治客員教授を中心とする産学連携の研究チームだ。イメージセンサーを用いたカメラとしては世界で初めて、光が飛ぶ瞬間を捉えることに成功した。
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