学齢児の認知機能と,選択性注意,持続性注意,注意の切替/コントロールに加え,受動性注意と能動性注意を含む注意の下位機能の評価を行い,その関係性を考察した.通常学級在籍の小学2・4・6年生計60名を対象に,包括的注意力検査test of everyday attention for children(TEA-Ch)のほか,continuous performance test(CPT)課題,認知能力の検査を実施した.各検査の標準得点間の相関分析の結果,各認知能力の課題と各注意機能の課題との間に有意な相関を認め,検査課題が必要とする認知機能によって,関連する注意機能が異なることが示唆された.また,視知覚認知課題とCPT課題の見逃し率との間,記憶課題とお手付き率との間に有意な相関を認め,視知覚認知と受動性注意,記憶能力と能動性注意に関連性が認められた.
反復唾液嚥下検査は簡便な嚥下機能評価法としてよく用いられているが,唾液分泌機能が反復唾液嚥下にどのように影響するかは十分検討されていない.今回,健常成人に対して,唾液分泌促進作用がある濃縮果汁還元レモン水の濃度を変えて希釈したものを飲取した後に反復唾液嚥下を行い,嚥下運動の詳細な時間的計測が可能な耳内嚥下音を指標として各嚥下での嚥下間隔時間を測定した.
唾液分泌刺激による唾液分泌の増加は4回目までの嚥下に関してはあまり影響を及ぼさなかったが,5回目以降の嚥下間隔時間の延長を有意に抑制することが示された.また,その効果は唾液分泌刺激の強さによっても差異があった.
反復唾液嚥下によって嚥下機能を評価する場合は,唾液分泌能の影響に留意する必要があることが示された.さらに,通常の反復唾液嚥下にレモン水刺激による反復唾液嚥下を加えることで,唾液分泌能の機能的評価や唾液分泌障害のスクリーニングが可能であることが示唆された.
平仮名と片仮名の文字刺激処理における脳活動に差があるか,fMRI(functional magnetic resonance imaging)を用いて検討した.健常成人17名(平均年齢21.4±0.5歳)を対象に,平仮名または片仮名で表記した高親密度単語および低親密度単語の音読を行い,課題遂行時の脳賦活部位と脳賦活量を評価した.両課題に共通して,両側上前頭回,両側内側前頭回,両側中側頭回,左紡錘状回,左角回,左帯状回の賦活を認め,平仮名課題では,両側下側頭回,両側楔前部,左後方帯状回に,片仮名課題では,両側下前頭回,左下側頭回,右中心後回,左前方帯状回に賦活が観察された.脳賦活量は平仮名が片仮名を上回り,高親密度課題で13.1倍,低親密度課題で2.7倍を示した.平仮名および片仮名の音読時における脳活動は共通する点が多く,二重神経回路仮説における背側経路を介して処理されるが,文字刺激処理における処理負荷は平仮名のほうが強いと示唆された.
高齢者の音声障害に対してStemple(1994)らが提唱した原法どおりの方法でVocal Function Exercises(VFE)を施行したので,その結果と有効性について報告する.対象は2013年10月以降に発声困難を訴え神戸大学医学部附属病院耳鼻咽喉・頭頸部外科を受診した高齢者のうちVFEを行った21例.年齢は67~80歳(平均72.4歳).男性13例,女性8例.6~8週間のベースプログラムの完遂率は85.7%,引き続いて行う約7週間の維持プログラムの完遂率はベースプログラム完遂者中66.7%であった.ベースプログラム終了後には,GRBAS法の嗄声度G(G),maximum phonation time(MPT),mean flow rate(MFR),上限,声域,VHI-10が有意に改善し,maximum expiration time(MET)は延長傾向を示した.練習前と維持プログラム後を比較するとG,MPT,MFR,VHI-10が有意に改善し,上限は拡大傾向を示した.以上より,高齢者の音声障害に対してVFEは有効な音声治療の一つであると考えられた.
知的発達遅滞のない自閉症スペクトラム(ASD)児(5~7歳)を対象に,フィクショナルナラティブにおける発話特徴(言語形式と語用)を検討し,対照群(定型発達児5~6歳児10名)の発話と比較した.4枚の系列図版(Baron-Cohenら,1986:一部改変)で系列特性3種(機械的:因果関係,行動的:行動系列,心理的:心理的描写)各4話計12話を作成し,成人10例の発話で設定した基準に基づいて評価した.その結果,ASD児の言語形式では,発話量や文長,語彙(自立語数・異なり語数)に差はなかったが,助詞の誤用が多く(p<.01),統語の課題を認めた.語用では,ASD児は基準ストーリーunitが少なく,また無関連unitが多いことから,逸脱度が高いことを示した.ASD児のナラティブ産生については,系統的な言語指導とともに,日常的に社会的関係に基づいて語用の理解を促すことの必要性が示唆された.
「ことばの問題」を主訴に受診した小児について,難聴の有無とその原因に関する検討を行った.当科を「ことばの問題」で受診した167例(男児111例,女児56例)を対象とした.平均年齢は2.99歳±1.77歳であった.これらの症例に,年齢発達に応じた,聴力検査を適宜組み合わせて聴力評価を行った.また,言語聴覚士による言語評価,発達検査を行った.少なくとも片側30 dB以上の難聴が存在していると考えられた症例は,23例(14%)であった.原因で最も多いのは滲出性中耳炎10例(43%),次いで両側中等度難聴5例(22%),両側高度難聴3例(13%),一側性難聴3例(13%),一側高度一側中等度難聴2例(9%)であった.滲出性中耳炎を除いた難聴例13例のうち,10例で補聴器の装用が必要であった.一方,聴力正常範囲と判断された144例の診断は,精神発達遅滞が50例(35%),広汎性発達障害47例(33%),言語発達遅滞,構音障害が35例(24%),不明12例(8%)であった.結果より難聴児の検査体制の整備,特に1歳6ヵ月での耳鼻科検診の重要性が再認識された.
日本語を母語とする特異的言語発達障害児(以下SLI児)が格助詞の使用に困難を示すことが明らかになっている.このことから,格助詞の誤用が日本語のSLI児の臨床的指標の一つとなる可能性が示唆される.しかし,格助詞の自然発話および実験課題における誤用率は明らかになっていない.本研究では,SLI児の自然発話における格助詞の誤用率と実験課題における格助詞の誤用率を明らかにすることを目的とした.対象児は小学2~5年生のSLI児9例であった.本研究の結果,SLI児の自然発話の誤用率は1.5%であった.これに対して,実験課題の誤用率は53.1%であり,自然発話よりも著しく高かった.この結果から,日本語を母語とするSLI児を同定するためには,自然発話のみならず,実験課題も必要であることが示唆された.
fやvなどの唇歯音は英語圏では正常な発音であるが,日本語にはない発音方法である.今回,歯音が唇歯音化する唇歯音化構音の治療を経験したので,若干の文献的考察を踏まえて報告する.
患者は幼少期より自身で発音の誤りを自覚し,かつ周囲から指摘されていたにもかかわらず構音訓練を受けないまま成人まで経過した.誤った発音が長期間持続したため,会話や電話などに恐怖心を覚え,社会生活におけるコミュニケーションに支障をきたしている状態であった.構音訓練は機能性構音障害の訓練で用いる手技で施行した.1セッション30分で月1回のペースで行い,6ヵ月間に計6回施行した.訓練後は日常会話でもすべての音を発音できるようになり,対人関係における恐怖心も消失した.
本研究は,学齢期の吃音児を対象とし,語頭と語末のバイモーラ頻度が吃音頻度に及ぼす影響を検討したものである.対象児は7歳から12歳の吃音児21名であった.対象児に,語頭と語末のバイモーラ頻度をそれぞれ独立に操作した4種類の3モーラの刺激語(「高-高」語,「高-低」語,「低-高」語,「低-低」語)を音読させた.その結果,語頭のバイモーラ頻度の影響は語末のバイモーラ頻度が低いときのみ認められた.また,語末のバイモーラ頻度の影響は語頭のバイモーラ頻度が低いときのみ認められた.これらの結果から,語頭と語末のバイモーラ頻度は単体では吃音頻度に影響を及さないことが示唆された.むしろ「低-低」語の吃音頻度が4種類の刺激語のうち最も高かったことから,語全体のバイモーラ頻度が吃音の生起に影響すると考えられた.