音声言語医学
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59 巻, 3 号
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原著
  • 飴矢 美里, 田中 加緒里, 池田 健二, 羽藤 直人
    2018 年 59 巻 3 号 p. 203-208
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/15
    ジャーナル フリー

    高齢者に対する嚥下リハビリテーション(以下:嚥下リハ)の効果や嚥下障害の予後予測因子を検討した.対象は,当院入院中に嚥下障害が疑われて,当科嚥下外来を紹介された患者の中,嚥下リハを行った65歳以上の嚥下障害患者80例とした.嚥下リハ後の経口摂取状況により経口自立・非経口自立群に分けて,当科初診時の嚥下内視鏡検査所見,年齢,性別,重複疾患の有無,肺炎や認知機能低下の有無,ADLについて重回帰分析を行った.嚥下リハの結果,47.5%は安定した経口摂取が可能となった.嚥下リハでの改善には,嚥下内視鏡検査における「声門閉鎖反射や咳反射の惹起性」や「咽頭クリアランス」が関与していたが,咽頭期が保たれていても経口摂取にいたらない症例も少なくなかった.重回帰分析では,ADLと肺炎の有無が関係していた.高齢嚥下障害患者の嚥下リハには,予後予測と患者の全体像を把握した介入が必要である.

  • 大原 重洋, 廣田 栄子
    2018 年 59 巻 3 号 p. 209-217
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/15
    ジャーナル フリー

    本研究では,7〜11歳の聴覚障害学童44名(平均聴力レベル99.6 dB,1 SD 13.8)の書記のナラティブ産生について,マクロ構造としてハイポイント法を用いて評価し,発達特性と因子構造を明らかにし,さらに,ミクロ構造を解析した.結果,聴覚障害児のナラティブ産生では,低学年で構造に乏しく,高学年で急速にマクロ構造の獲得が進む発達過程にあった.マクロ的側面は,「場面設定」と「物語展開」の2因子で構成され,低学年では後者の因子の使用に乏しく,ナラティブ全体を構想し,効果的に各出来事を組み立てることが困難であり,主要な出来事の列挙により,ナラティブを産生する傾向にあった.ミクロ構造については,マクロ構造の発達と同時期に,平均文長(Mean Length of Utterance: MLU)が高次化する傾向を示した.言語指導では,幼児期から一貫して,多因子で構成するナラティブ構成への展開へ留意し,併せて,語彙の増加と文法知識の向上を図ることの重要性が示された.

  • ─漢字を刺激とした文字/非文字判別課題と語彙判断課題を用いて─
    三盃 亜美, 宇野 彰, 春原 則子, 金子 真人, 粟屋 徳子, 狐塚 順子, 後藤 多可志
    2018 年 59 巻 3 号 p. 218-225
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/15
    ジャーナル フリー

    本研究では,発達性ディスレクシアのある児童生徒(ディスレクシア群)を対象に,漢字を刺激とした文字/非文字判別課題と語彙判断課題を行い,定型発達児童生徒(定型発達群)の成績と比較して,視覚的分析と文字入力辞書の発達を検討した.文字/非文字判別課題では,実在字刺激に対してディスレクシア群と定型発達群の正答率に有意差は見られなかったが,実在字と形態が類似する非実在字に対してディスレクシア群の正答率は定型発達群よりも有意に低かった.また語彙判断課題においては,実在語,同音擬似語,実在語と形態が類似する非同音非語に対して,ディスレクシア群の正答率は定型発達群よりも低かった.実在語と形態が類似していない非同音非語に対しては正答率に有意差はなかった.以上の結果から,本研究のディスレクシア群の視覚的分析と文字入力辞書は定型発達群ほど発達していないと考えられた.

症例
  • 許斐 氏元, 駒澤 大吾, 鹿島 和孝, 渡邊 雄介
    2018 年 59 巻 3 号 p. 226-236
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/15
    ジャーナル フリー

    目的:elite vocal performer(EVP)に見られる,音声検査では異常に乏しい微小病変の診断方法や手術適応を検討すること.
     対象と方法:対象は東京ボイスセンターに受診した歌唱に関する愁訴をもつEVPで,微小病変に対して手術加療を施行した歌手4症例である.術前後の各種音声検査では明らかな異常が見られないものの,ストロボスコープ検査にて声帯粘膜の微小病変を認めた.主訴の原因となりうるかを検討したうえで,全身麻酔下で喉頭微細手術を施行した.
     結果:全例で微小病変は術後に消失し,自覚的な主訴が改善した.
     考察:声帯振動の詳細な観察から確認した微小病変と,適切な問診による再現性のある主訴との間の整合性を検討し,手術適応を判断する必要があった.
     まとめ:EVPの音声障害において,術前の音声検査では抽出困難な例を示した.主訴と微小病変の関連も含めて診断し,手術加療を行うことで主訴が改善する可能性を示唆した.

  • 上間 清司
    2018 年 59 巻 3 号 p. 237-244
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/15
    ジャーナル フリー

    音韻処理の障害がある音韻失読1例の漢字非同音非語の音読障害の障害構造を検討した.漢字の文字頻度に加えて,文字から音韻への対応がどの程度一貫しているかを示す読みの一貫性に基づき,漢字非同音非語の音読成績を比較した.本例は,低頻度漢字で構成された非同音非語の音読において,読みの一貫性が低い非同音非語の音読成績が最も低かった.また,高頻度漢字で構成された非同音非語の音読では,非同音非語と形態的に類似する語彙化錯読が多く出現した.これらの結果から,本例の漢字非同音非語の音読障害の障害構造には,文字(列)から音韻(列)への変換障害が存在すると考えられた.さらに,本例では漢字の読みの一貫性や文字頻度が漢字非同音非語の音読成績に影響していることが示唆された.以上から,日本語話者の音韻失読例では,仮名のみならず文字属性を統制した漢字非同音非語の音読を用いた評価も必要であると考えられた.

  • 木村 聖子, 能登谷 晶子, 諏訪 美幸, 山田 和宏
    2018 年 59 巻 3 号 p. 245-250
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/15
    ジャーナル フリー

    新生児聴覚スクリーニング等でわが子が難聴と診断された後の課題として,親の障害受容に対する支援が重要になる.今回,0歳代の早期に難聴が発見されたことによる親の抱える問題について,3例(親は2事例)の経過を示し,STの立場からの親の支援について報告する.症例1,2はきょうだいである.きょうだいともに難聴と判明したとき,親は動揺したが,早期からのSTによるサポートと,従来からわれわれが行ってきた患者会との交流,周囲の援助も厚く,親から子への積極的関わりが可能となり,児の言語獲得は順調に進んだ.症例3は前2例と同じ支援内容では当初障害受容が十分ではなく家庭での訓練が進まなかったが,家庭で一定した関わりをもてるようになってから,児の理解語彙数は増加した.早期の難聴の診断によって親は大きく動揺し,既報告で指摘されていることが確認された.障害をもつ児を受容する親への支援には,多面的にかつきめ細かい指導と,STは早期から家族関係の良否にも目を向ける必要があると考えた.

  • 住友 亜佐子, 阪本 浩一, 波多野 博顕, 田中 義之, 大津 雅秀
    2018 年 59 巻 3 号 p. 251-259
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/15
    ジャーナル フリー

    無舌症はきわめてまれな疾患であり,本邦での報告は渉猟した限りでは10例に満たない.また,就学以降の無舌症児の構音状態に関する報告はなされているが,出生時から構音獲得までのコミュニケーション支援を含めた過程を報告したものはない.今回われわれは無舌で出生し気管切開を余儀なくされた児の構音獲得について出生直後から医師,言語聴覚士(Speech-Language-Hearing-Therapist: ST)のチームで現在まで継続的に経過を追い,X線透視による構音動態,母音のフォルマント分析を行う機会を得た.3歳10ヵ月までの経過と介入について報告し,無舌症児の構音獲得過程,構音動態および気管切開の影響について考察した.

  • ―慢性閉塞性肺疾患の嚥下機能への影響―
    山本 真由美
    2018 年 59 巻 3 号 p. 260-266
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/15
    ジャーナル フリー

    歩行機能と認知機能が保たれたまま,嚥下障害が進行した高齢患者を報告した.症例は3年半の間に3回入院し,その間に慢性閉塞性肺疾患(COPD)の悪化に伴って嚥下障害は進行していった.COPDに起因する脊柱後弯症と上気道の炎症が嚥下障害を引き起こしたと考えた.嚥下障害の特徴として嚥下関連筋の筋力低下と感覚閾値の上昇が認められた.嚥下障害は進行性で不可逆的であった.症例は嚥下障害の自覚に乏しく,誤嚥性肺炎のリスクについての理解できなかった.歩行機能,認知機能が正常だったため,介護保険制度における介護度が重度にならなかったことも退院後の対応を困難にした.COPD患者にはしばしば多くの併存疾患が生じるが,嚥下障害もそれらの一つと考えられる.

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