日本泌尿器科学会雑誌
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89 巻, 5 号
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  • ABO適合腎移植との比較
    鬼塚 史朗
    1998 年 89 巻 5 号 p. 513-521
    発行日: 1998/05/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    (目的) ABO不適合腎移植にみられる, ABO適合腎移植とは異なる特異的な拒絶反応の組織所見を検索するために, 移植腎生検標本を用いて病理組織学的に比較検討した.
    (対象および方法) 東京女子医大泌尿器科で生体腎移植手術を行い, 臨床的に拒絶反応と考えられたABO不適合例 (ICBG) 21例, 適合例 (CBG) 15例の生検標本を用い, Banff 分類による光顕所見, グロブリン, 補体の沈着, HLA class II 抗原 (DR), 接着因子 (ICAM-1, VCAM-1) の発現, 浸潤細胞の種類, 血液型抗原, 血管内皮マーカー (トロンボモジュリン: TM, Factor VIII) の変化を比較した.
    (結果) 尿細管炎が認められた例はICBG71.4%, CBG全例であった. CD8陽性細胞の高度な尿細管間質への浸潤は, ICBG52%, CBG100%にみられ, 多形核白血球の糸球体毛細血管内への浸潤はICBG85.7%, CBG0%に認められた. フィブリノーゲンの沈着はICBGの47.6%, CBG26.7%にみられた. ICBGにおいて尿細管上皮へのDR, ICAM-1, VCAM-1の発現がみられた例は25%, 40%, 45%であったがCBGではそれぞれ91.7%, 100%, 100%であった. TMの染色性はICBG28.6%, CBGの73.3%で減衰していなかった. 以上の項目に関してはすべて有意差を認めた.
    (結論) ABO適合腎移植ではDR, 接着因子の発現を伴う尿細管炎を特徴とした, 尿細管障害を主体とする拒絶反応が見られたが, ABO不適合腎移植では糸球体への多形核白血球浸潤 (糸球体炎), フィブリノーゲンの沈着を伴う, 血管内皮障害を主体とする拒絶反応が見られた.
  • 北村 康男, 渡辺 学, 小松原 秀一, 坂田 安之輔, 宮島 憲生
    1998 年 89 巻 5 号 p. 522-528
    発行日: 1998/05/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    (背景) 腎盂尿管癌症例の所属リンパ節転移の頻度, リンパ節転移症例の臨床成績および病理組織学的所見につき, 検討を加えることを目的にした.
    (対象・方法) 1961年から1995年の間に, 当院で治療した163例の腎盂尿管癌症例のうちリンパ節郭清術を施行した89例を対象として, 所属リンパ節転移の頻度, 臨床成績および病理組織学的所見を検討した. 生存率は Kaplan-Meier 法を用い, 有意差は log-rank 検定を用いた.
    (結果) リンパ節郭清術施行例を施行した, 89例中pN0が61例 (68.5%), pN1が5例 (5.6%), pN2が15例 (16.9%), pN3が8例 (9.0%) であった. またリンパ節郭清術非施行例74例中で, 開腹手術不能の4例が画像よりリンパ節転移陽性と診断され, 全症例163例では, 最低32例 (19.6%) がリンパ節転移陽性と考えられた.
    治療成績を5年生存率で見るとpN0, pN (+), pN1, pN2およびpN3は, それぞれ78.8%, 12.5%, 20.0%, 20.0%および0%であった.
    リンパ節転移を認めた28例の中では, 遠隔転移例は全例1・2年以内に死亡し, 遠隔転移の認めない症例での3年・5年生存率は31.4%, 17.5%と遠隔転移例に比べ, 有意に高い生存率であった (p<0.01). さらに遠隔転移のないリンパ節転移陽性例を深達度別にみると, 3年生存率でpT1は100%, pT2は66.7%, pT3は33.3%, pT4は0%であった.
    (結論) 所属リンパ節転移を伴う腎盂尿管癌症例では, 異型度の低い, pT3以下の深達度で, 遠隔転移がないpN1・pN2症例では, 長期生存を得られる可能性を有するが, 多くの症例では従来の手術療法・化学療法・放射線療法では, 充分な治療効果は得られなかった.
  • 小倉 泰伸, 佐藤 一成, 加藤 哲郎, 斎藤 謙, 榎本 克彦
    1998 年 89 巻 5 号 p. 529-537
    発行日: 1998/05/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    (目的) 表在性膀胱癌における血管新生因子の発現と腫瘍血管密度ならびに膀胱内再発との相関を検討した.
    (方法) 原発性表在性膀胱癌40例と正常膀胱組織11例を対象とし, 第VIII因子関連抗原, 血管内皮増殖因子 (VEGF), 塩基性線維芽細胞増殖因子 (bFGF) ならびに酸性線維芽細胞増殖因子 (aFGF) 免疫染色を施行した. 第VIII因子染色標本を用い, 最も血管の多い部位の血管密度を最高血管密度とした. 16分画グリッド内の血管数と, 血管壁とグリッド直線との交差数を腫瘍部全域において計測し, 腫瘍隣接間質における平均血管密度と平均血管交差数を算出した.
    (結果) VEGF, bFGF, aFGFの腫瘍組織における染色陽性率は50%, 23%, 43%であり, 正常上皮ではaFGFが1例のみ陽性であった. 最高血管密度はpT1がpTaに比し有意に高かった. 平均血管密度と平均血管交差数は, 腫瘍組織が正常組織よりも有意に高かったが, 染色陽性血管新生因子数が多い腫瘍に低い傾向を示した. また再発群の平均血管密度と平均血管交差数は非再発群よりも有意に低く, 平均血管交差数/平均血管密度=血管径比は再発群が有意に大きかった.
    (結論) 表在性膀胱癌におけるVEGF, bFGF, aFGFの発現は, 腫瘍血管新生に直接反映されていないと考えられた. 腫瘍の基底膜下浸潤には局所の血管新生を伴うことが示唆された. 膀胱内再発は血管密度が低く血管径の太い例に多いと考えられた.
  • 森川 満, 奥山 光彦, 吉原 秀樹, 山口 聡, 八竹 直
    1998 年 89 巻 5 号 p. 538-545
    発行日: 1998/05/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    (目的) 尿路結石症は男性有意な疾患と考えられている. 最近の本邦統計では男女比2.3:1と報告されているが, この男女比の値は1960年からほぼ一定である. 男性と女性における結石発生頻度の違いが, どのような要因によるものかを年齢および結石成分をふまえ統計学的に検討した.
    (対象と方法) 1977年から1996年まで, われわれの施設で自然排石もしくは手術的に摘出した結石のうち, 成分分析を施行した606例を検討対象とした. 結石分析は赤外線分光分析により行った. 統計学的検討はx2検定と Mann-Whitney's U test により行い, p値<0.05を有意差ありと判定した.
    (結果) 今回検討した全患者の統計学的検討では男女比1.83:1であった. 年齢別に男女差を検討した結果, 60歳以上の男女比は60歳未満の男女比より低値であり60歳を超えると男女差が減少する傾向を認めた. 結石成分別年齢分布および年齢別性別結石成分別頻度を検討した結果, 60歳未満の女性ではシュウ酸カルシウム含有結石の頻度が男性より有意に少なかった. また60歳以上の女性の結石成分比は男性の結石成分比と有意差が認められなかった.
    (結論) 60歳を超えると結石発生頻度の男女差は減少しており, 60歳未満の女性でシュウ酸カルシウム含有結石の発生頻度が有意に少ないことが, 男女間の結石発生頻度の違いの一つの要因と考えられた.
  • 蜂矢 隆彦, 一瀬 岳人, 小林 堅一郎, 平野 大作, 岡田 清己
    1998 年 89 巻 5 号 p. 546-551
    発行日: 1998/05/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    (背景と目的) 外科的切除の視点から病理組織学的浸潤度, 分化度, 腫瘍体積, 腫瘍前立腺体積比の関係につき検討した.
    (対象と方法) 前立腺全摘除術後の全割面病理組織標本22検体を用いた. 病理組織学的浸潤度は被膜内癌ないし摘出検体内限局癌を治癒切除例とし, これ以外を非治癒切除例とした. 腫瘍体積は組織標本から算出し, 前立腺単位体積あたりの腫瘍体積比百分率 (腫瘍前立腺体積比) を求めた.
    (結果) 治癒切除率はT1c~T2では25%であり, T3では治癒切除例は認められなかった. 病理組織学的浸潤度と腫瘍体積 (p=0.0054), 腫瘍前立腺体積比 (p=0.0129) にそれぞれ関連を認めた. 分化度と腫瘍体積, 腫瘍前立腺体積比間の関連は確認されなかった.
    (結論) 腫瘍体積, 腫瘍前立腺体積比はともに病理組織学的浸潤度と関連があり, 腫瘍体積は病理組織学的浸潤度の予測にすぐれていた. 一定の前立腺体積の条件下での比較が必要な場合は腫瘍前立腺体積比が参考になると思われた.
  • 宮里 朝矩, 湯佐 祚子, 翁長 朝浩, 菅谷 公男, 小山 雄三, 秦野 直, 小川 由英
    1998 年 89 巻 5 号 p. 552-556
    発行日: 1998/05/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    (目的) 骨盤内悪性腫瘍に対する放射線療法は広く用いられているが, その晩期合併症の一つである放射線性出血性膀胱炎は極めて難治性で, 時には致命的となりうる. 今回我々は, 当院で経験した放射線性膀胱炎に対して, 高気圧酸素治療を施行しその治療効果について検討した.
    (対象と方法) 対象は1985年から1994年の9年間に当院高気圧治療部で高気圧酸素治療を施行した放射線性膀胱炎10例で, 原疾患は子宮頚癌が8例, 外陰癌と膣癌がそれぞれ1例であった. 治療は第二種高気圧酸素治療装置を用い, 2絶対気圧下100%酸素吸入で1回75分間の治療を行い20回を1コースとし, 症状と症例に応じて適宜増減した.
    (結果) 10例中7例に血尿の消失および頻尿等自覚症状の改善が認められた. 2例は中断, 1例は原疾患悪化による腎不全にて死亡した.
    (結論) 高気圧酸素治療は放射線性膀胱炎に対して有効であり, 副作用も認めず, 有用な治療法と考えられる.
  • 17ヵ月後完全寛解を得ている1例の報告と本邦43例の分析
    宇佐美 隆利, 牛山 知己, 鈴木 和雄, 藤田 公生
    1998 年 89 巻 5 号 p. 557-562
    発行日: 1998/05/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    症例は74歳男. 2ヵ月前より, 右側腹部痛, 腹部腫瘤, 食欲不振が出現し, 右後腹膜腫瘍を疑われたため当科に紹介され入院した. 右腋窩リンパ節は栂指頭大に腫大し右腹部には小児頭大の圧痛のない腫瘤を触知した. 腹部CTでは右腎をほぼ全周性に取り囲む11×7cm大の腫瘍がみられ, 傍大動脈リンパ節の腫大と左腸骨翼への骨浸潤像も認めた. 超音波ガイド下に経皮的針生検を施行し, 病理組織学的に非ホジキンリンパ腫, リンパ球の表面マーカーの検索により B cell type と診断された. CHOP療法を1コース施行したが骨髄抑制と肝機能障害が重篤であったため2コース目より, アドリアマイシンをピラルビシンに変更し他の薬剤も減量して, 計5コース施行した. 右腎周囲腫瘍, 右腋窩リンパ節, 傍大動脈リンパ節は消失し, 左腸骨翼への骨浸潤像は軽快し退院した. 治療開始後17ヵ月経過した現在, 完全寛解が得られ, 患者は再発の兆候なく, 経過良好である.
    腎悪性リンパ腫の報告は本邦では自験例を含めこれまでに43例あり, それらの1年生存率, 2年生存率はそれぞれ40.8%, 26.6%と予後不良である. 特に70歳以上の予後は不良とされるが, full dose のCHOP療法をTHP-COP療法に変更し使用量も減量したことにより, 5コース化学療法を施行できたことが良好な結果につながったと考えられた.
  • 山本 真也, 間宮 良美, 野田 賢治郎, 鮫島 剛, 三木 誠, 赤坂 雄一郎
    1998 年 89 巻 5 号 p. 563-566
    発行日: 1998/05/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    60歳, 男性. 既往歴として5年前に他医で左腎腫瘍にて腎全摘除術を施行されている (renal cell carcinoma, alveolar type, clear cell subtype, grade 2, pT2, pV0). 血精液症, 肉眼的血尿を主訴に当科を受診した. 尿道膀胱鏡にて後部尿道からの出血を認めたが, 明らかな腫瘍性変化がなかったために外来にて経過観察していた. 2年後, 再度肉眼的血尿が出現し, 尿道膀胱鏡検査を施行したところ, 精丘の腫大, および同部よりの出血を認めたために経尿道的切除術を施行した. 組織所見は clear cell carcinoma であり, 骨盤CT上, 精嚢は前立腺と一塊となって腫大していた. 精嚢あるいは前立腺腫瘍と診断し, 膀胱全摘除術および尿路変更術, 骨盤内リンパ節郭清術を施行した. 摘出された精嚢は左右一塊となり33×30×20mmに腫大し, 腫瘍は黄白色で精嚢腺を置換するように分葉状に増殖していた. 組織学的には腫瘍は胞巣状, 一部腺管状, 乳頭状に増殖し, 腫瘍細胞は淡明な胞体と類円形核を有しており, 前回の腎癌と同様の組織像であった. また腫瘍は前立腺にわずかに浸潤していたが精嚢剥離面, 尿道膀胱粘膜には浸潤していなかった. 以上の所見, および免疫組織化学的検討の結果などから, 腎癌の精嚢転移と診断し, 術後α-インターフェロン療法を開始, 2年9ヵ月経過した現在, 傍大静脈リンパ節転移を有するものの生存中である. 検索した限り, 腎癌の精嚢転移の報告はなく, 極めて稀な例と考えられた.
  • 井川 掌, 計屋 紘信, 朝長 道夫
    1998 年 89 巻 5 号 p. 567-570
    発行日: 1998/05/20
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    45歳, 男性. 上腹部不快感のため当院内科受診. 胃内視鏡にて粘膜下腫瘍が疑われたが生検にて異常なく, 腹部超音波検査上左腎頭側に6cm大の腫瘤を認め当科紹介となった. 腫瘤は腹部CT, MRIにて充実性で血管造影では比較的 hypervascular であった. 各種血液・内分泌学的検査上明らかな異常値を示さず内分泌非活性左副腎腫瘍の診断, 特に画像所見より悪性腫瘍の否定ができなかったため, 左副腎摘出術を施行した. 組織学的に Antoni A型を主体とする神経鞘腫であった. 副腎原発神経鞘腫は副腎偶発腫瘍の鑑別に重要と思われ, これまでの報告例を含め, 若干の文献的考察を加えて報告する.
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