セントラルドグマ(DNAからRNAが転写されて,タンパク質ができる)という分子生物学の中心的な概念において,「RNAはDNAからタンパク質を合成するための遺伝情報の仲介役にすぎない」と考えられていた。しかし,RNAはタンパク質に劣らず複雑な構造をとり,さまざまな生体分子を認識し,酵素としても働くことがわかってきた。2000年以降は,RNA干渉の発見もあり,RNAに関する研究は哺乳動物を中心に著しく進んだ。その一方で,細菌感染症におけるRNAの役割はほとんど分かっていなかった。著者は,2007年よりRNAと細菌感染について研究を開始し,胃の上皮細胞が保有する小さなRNAであるmiR-210が,ピロリ菌感染による胃の疾患に関与していることを明らかにした。さらにRNA研究で培った技術をベースに研究を進め,細菌感染症の治療にRNAを使用できる可能性を示した。本稿では,細菌学におけるRNAの重要性について紹介したい。