日本小児アレルギー学会誌
Online ISSN : 1882-2738
Print ISSN : 0914-2649
ISSN-L : 0914-2649
37 巻, 3 号
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
原著
  • 橋本 大, 勝沼 俊雄, 成瀬 隼人, 中川 愛, 鈴木 亮平, 相良 長俊, 赤司 賢一
    2023 年 37 巻 3 号 p. 197-201
    発行日: 2023/08/20
    公開日: 2023/08/21
    ジャーナル 認証あり

    症例は14歳男児.2歳時に気管支喘息と診断され,長期管理が開始されたが,コントロールレベルは不良であった.12歳までに急性増悪による入院を30回程度繰り返していた.中学生になるとさらに急性増悪の頻度が増し,中用量の吸入ステロイド薬/長時間作用性β2刺激薬配合剤による管理にもかかわらず毎日喘鳴を認め,体育や部活動(陸上部)など,学校生活にも影響を与えていた.その後,当科にて精査を行い気管支喘息の診断を確定し,重症喘息と評価してデュピルマブ投与を開始した.2か月後には日常生活における喘鳴は消失し,学校生活も問題なく送れるようになった.投与開始3か月後に実施した運動負荷試験は著明な改善を認め,運動負荷による1秒量最大低下率は78%から29%まで改善した.しかし投与開始1年3か月後の再評価ではそれ以上の改善が認められなかった.小児重症喘息に対するデュピルマブの呼吸機能,気道過敏性を含めた長期効果に関するさらなる知見の集積が期待される.

  • 長柄 俊佑, 井上 祐三朗, 川尻 美和
    2023 年 37 巻 3 号 p. 202-205
    発行日: 2023/08/20
    公開日: 2023/08/21
    ジャーナル 認証あり

    症例は3歳男児.生後5か月から魚類を毎食摂取していた.生後10か月より,毎食2時間後から3~4回の嘔吐と軽度の活気不良を認めた.また,魚類以外の食物を単独で摂取した場合においても,同様の嘔吐症状を呈した.しかしながら,これらの症状は救急受診を要する重篤な症状ではなく,Food protein-induced enterocolitis syndrome(FPIES)の診断基準を満たさなかった.3歳6か月に施行したサケの食物経口負荷試験において摂取3時間後に嘔吐が誘発され,サケのFPIESの診断に至った.

    FPIESは,軽度の症状では診断に至らない可能性がある.本症例では,離乳期早期から魚類摂取によるFPIESの症状を認めていたが,重篤な全身症状に乏しく,また魚類以外の食物による嘔吐も認めていたため,FPIESの診断に難渋した.FPIESの症状は必ずしも重篤でないことがあり,FPIESの診断基準を満たさないことがある.軽症のFPIESを含めて診断できる新たなFPIESの診断基準が必要である.

  • 渋谷 紀子, 菅原 憲子
    2023 年 37 巻 3 号 p. 206-212
    発行日: 2023/08/20
    公開日: 2023/08/21
    ジャーナル 認証あり

    【背景】鶏卵の早期摂取が既感作乳児へ与える影響については明らかでない.【方法】鶏卵未摂取で卵白に対するプリックテスト(SPT)陽性の生後6か月(6M)児を対象とした.加熱卵黄,微量加熱卵白(0.02g)の順で導入し,その後卵白を漸増した.9,12M時にSPTを施行し,その結果および鶏卵アレルギー発症について,鶏卵摂取がより遅かった既報のコホート研究と比較検討した.【結果】6M時の卵白SPT陽性児は新コホート38名,旧コホート75名であった.9M時の卵白SPT陽性児は新コホートで有意に少なかった(P = 0.02).鶏卵アレルギー児の12M時における膨疹の平均径は新コホートで有意に小さかった(P = 0.03).新コホートでは12名(32%)の児が鶏卵アレルギーと診断されたが,重篤なアレルギー症状は認められず,1歳時に鶏卵を完全除去している児はいなかった.一方,旧コホートでは27%の児が乳児期に鶏卵を完全除去していた.【結論】既感作乳児への鶏卵の早期導入は感作を減弱させる可能性がある.

    既感作乳児に介入を行わなかった旧コホートでは湿疹がその後の鶏卵アレルギー発症のリスク因子であった。早期から鶏卵を導入した新コホートと、介入を行わなかった旧コホートを比較したところ、鶏卵アレルギー発症群、非発症群いずれにおいても、新コホートで有意な感作の減弱が認められた。 Fullsize Image
  • ―災害医療従事者へのアンケート調査―
    宮本 学, 岡部 公樹, 吉川 知伸, 金子 恵美, 緒方 美佳, 吉田 幸一, 本村 知華子, 小林 茂俊
    2023 年 37 巻 3 号 p. 213-223
    発行日: 2023/08/20
    公開日: 2023/08/21
    ジャーナル 認証あり

    我々は,災害医療従事者を対象に,災害時のアレルギー患者対応に関するパンフレットや相談窓口など既存のツールの評価,災害医療従事者のアンメットニーズを調査するためアンケート調査を行い,266名から回答を得た.アレルギーに関する情報を得る手段は,平時では電子媒体や講演会が,災害時にはスマートフォンアプリや紙媒体の要望が多かった.アレルギー関連webサイトなど既存ツールの認知度は約10~30%と高くなかった.COVID-19が災害時のアレルギー疾患対応に悪影響があると回答したのは66%であった.73%の災害医療従事者が,災害時アレルギー対応窓口の一本化を望んでいた.また,自助の啓発,患者情報を把握するためのツールを要望する意見も多数みられた.これらの結果から,災害医療従事者に向けたアレルギー疾患マニュアルの拡充を積極的に行う必要があると考えられた.

    災害時のアレルギー患者対応に関する調査を行い、災害医療従事者266名から回答を得た。災害時でも各アレルギー疾患への対応が行われており、平時とは異なるアレルギー関連の情報取得手段が望まれた。患者自助の啓発が必要という意見が多かった。73%が災害時アレルギー対応窓口の一本化を望んでいた。 Fullsize Image
総説
  • ~ガイドラインの改訂ポイントを中心に~
    佐藤 さくら
    2023 年 37 巻 3 号 p. 224-233
    発行日: 2023/08/20
    公開日: 2023/08/21
    ジャーナル 認証あり

    アナフィラキシー(anaphylaxis, An)は重篤な全身性の過敏反応であり,アレルギー反応の中で最も重症度が高い病態であり,すべての医師が発症時の初期対応を適切に行える必要がある.World Allergy Organization Anaphylaxis Guidance 2020をもとに作成された「アナフィラキシーガイドライン2022」では,An発症時の治療の判断を誤らないように定義と診断基準が改訂された.治療の第一選択薬がアドレナリン筋肉注射であることに変わりはなく,アドレナリン自己注射薬は発症時のセルフマネジメントとして重要な位置づけをされている.しかし,An患者に対するアドレナリン自己注射薬の処方率は低いと考えられ,Anの管理において解決すべき課題である.昨年,An症例の全国集積調査や医薬品副作用データベースを利用した医薬品によるAnの解析等,わが国における大規模な疫学調査の結果が報告された.本稿では,ガイドラインの改訂ポイントを中心に,Anに関する最新の知見について解説する.

解説:免疫アレルギー疾患における分子標的薬
  • 手塚 純一郎
    2023 年 37 巻 3 号 p. 234-239
    発行日: 2023/08/20
    公開日: 2023/08/21
    ジャーナル 認証あり

    オマリズマブは本邦で初めてアレルギー性疾患に対して使用可能となった生物学的製剤であり,ヒト化モノクローナル抗IgE抗体である.オマリズマブは重症または難治性の小児気管支喘息に対して強力な治療の選択肢のひとつであり,本稿では小児の気管支喘息を中心に抗IgE抗体であるオマリズマブの作用機序,適応,評価について解説する.導入時の注意点や評価ポイントについても述べることで,臨床現場での適切な使用の参考として役に立つことを期待する.また,特発性蕁麻疹や季節性アレルギー性鼻炎に対するオマリズマブの適応についても触れる.

  • 大谷 祐介, 滝沢 琢己
    2023 年 37 巻 3 号 p. 240-247
    発行日: 2023/08/20
    公開日: 2023/08/21
    ジャーナル 認証あり

    デュピルマブは2019年に12歳以上の気管支喘息に対して保険適用承認された生物学的製剤であり,小児に対する使用経験は増加している.成人では,アトピー性皮膚炎,鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎にも適用がある.デュピルマブはアレルギー炎症の基本病態を標的として作用するため,上記に限らず他のさまざまなアレルギー疾患への有効性も期待されている.実際に,各アレルギー疾患に関して同剤の多数の臨床研究がなされており,小児でも有用とされるデータが蓄積されてきている.一方で,高価な薬剤であり,デュピルマブを使用する際には,適応,有害事象や注意点について十分に把握した上で,適切な症例へ適切に使用することが求められる.特に小児においては,有効性とともに長期的な安全性に関するデータにも留意する必要がある.

ガイドライン解説:食物アレルギー診療ガイドライン 2021
  • 福家 辰樹, 今井 孝成
    2023 年 37 巻 3 号 p. 248-252
    発行日: 2023/08/20
    公開日: 2023/08/21
    ジャーナル 認証あり

    食物アレルギーの診療にあたる医師は,アレルギー表示に関する制度を理解し,患者や家族に対して指導支援する.アレルゲンを含む食品の表示は,消費者庁管轄のもと食品表示法により規定される.発症数や重篤度から特に表示の必要性が高い食品として,特定原材料8品目(えび,かに,くるみ,小麦,そば,卵,乳,落花生(ピーナッツ))に表示が義務付けられている.また,特定原材料に準ずるものとして,20品目に表示の推奨がなされている.表示規制の対象は容器包装された加工食品等であり,外食や中食は規制対象外であるため,喫食の際には注意を要する.

  • 福家 辰樹, 吉原 重美, 園部 まり子
    2023 年 37 巻 3 号 p. 253-262
    発行日: 2023/08/20
    公開日: 2023/08/21
    ジャーナル 認証あり

    アレルギー疾患対策基本法が平成27年12月に施行され,アレルギー疾患への対策は法律により定められるところとなった.学校・幼稚園,保育所等における対応の原則は「学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン」「保育所におけるアレルギー対応ガイドライン」に基づき,食物アレルギーを有する児が施設に何らかの配慮を希望する場合は,医師の診断による「生活管理指導表」の提出を必須とする.医師はガイドラインを習熟し,児の生活に関する取り組みや状況について,共有すべき必要な情報を記載する.給食における対応は安全性の確保を最優先とし,このため給食提供は,家庭で行う必要最小限の除去とは異なり完全除去か解除かの二者択一による対応を基本とする.医師は,学校・幼稚園,保育所等におけるアレルギー対応委員会や緊急時対応に対して,積極的かつ適切な助言・指導を行うことが期待されている.宿泊や外食を伴う学校行事・海外旅行等にあたっては,現地の社会事情や緊急医療体制,予定される食事内容等について十分な情報収集などの事前の準備を行う.

  • 堀野 智史, 伊藤 浩明
    2023 年 37 巻 3 号 p. 263-266
    発行日: 2023/08/20
    公開日: 2023/08/21
    ジャーナル 認証あり

    ライフラインの停止を伴うような大規模災害では,食物アレルギー患者は困難な状況に直面する可能性がある.災害への対応は自助(家庭の備え),共助(周囲と共同した備え),公助(公的な備え)に分類され,発災直後には自助・共助・公助の比率が7:2:1になるといわれている.自助においては,家庭では日頃から最低でも3日分,できれば1週間分程度の食料品の備蓄が望まれている.共助においては,患者家族が地域や身近な人々とつながりを持ち,日頃から互いに助け合う関係を持つことが災害時の助けとなる.公助においては,医師が災害時に支援を必要とする患者からの要請を拾い上げ,自治体や支援活動を行う団体に情報提供を行うことが望まれる.

    医師は,患者と家族が日頃からアレルギー対応食品を備蓄すること,また災害時に必要なサポートを受けられるように指導することが望まれる.

気管支喘息委員会報告
  • 伊藤 尚弘, 佐藤 未織, 原間 大輔, 梶田 直樹, 北沢 博
    2023 年 37 巻 3 号 p. 267-281
    発行日: 2023/08/20
    公開日: 2023/08/21
    ジャーナル 認証あり

    ダニに感作のある小児気管支喘息患者に対して,ダニの抗原回避の有用性をシステマティックレビュー(SR)で検討した.先行したコクランレビューでのSRから小児を対象とする無作為化比較試験(RCT)を抽出し,先行SR以降のRCTを文献データベースから抽出した.先行SRから18文献,新規に7文献を抽出し,O1:主観的な症状,O2:喘息症状スコア,O3:薬剤使用量,O4:学校や仕事を喘息症状が原因で休んだ日数,O5:予定外の受診回数,O6:1秒量,O7:ピークフロー,O8:気道過敏性試験,O9:呼気中一酸化窒素濃度についてメタ解析を行った.O3,O5,O7で介入群に有意で有効な結果となったが,O3・O5は解析対象文献が1つであり,その他のアウトカムは有意差を認めず,ダニ抗原曝露減少を推奨する強い根拠は存在しなかった.しかし,採用した論文のうち本邦のものは1文献のみであり,環境の異なる海外の結果がそのまま該当するか,十分に検討する必要がある.今後本邦でのエビデンスが蓄積されることを期待する.

  • 犬塚 祐介, 前田 麻由, 高岡 有理
    2023 年 37 巻 3 号 p. 282-294
    発行日: 2023/08/20
    公開日: 2023/08/21
    ジャーナル 認証あり

    生後24か月未満のウイルス感染による初回喘鳴の急性期治療におけるステロイド薬投与群とプラセボ群を比較検討した.対象は24か月未満のウイルス感染による初回喘鳴の児である.Fernandes RMらのCochrane Database of Systematic Reviewsで採択されている17編に,Alansari Kらの1編を追加し,18編のランダム化比較試験について検討した.主要評価項目である入院率,入院期間について両群で有意差はなかった.副次評価項目では,入院での投与3-6時間後,6-12時間後の臨床重症度スコアがステロイド薬投与群で有意に改善し,外来患者における投与3-6時間後の酸素飽和度はステロイド薬投与群で有意に低下した.いずれもその前後では差がなく一時的であると考えられた.そのほか,呼吸数,心拍数,再入院率,再受診率に両群で有意差はなかった.今回の限界は,ステロイド薬の種類,投与方法,投与量,投与期間は様々だったことである.なお今回は初発喘鳴の解析であり,反復喘鳴に関してはさらなる検討が必要である.

社会保険委員会報告
  • ~令和6(2024)年度診療報酬改定に向けて~
    本村 知華子, 立元 千帆, 徳田 玲子, 西本 創, 今井 孝成
    2023 年 37 巻 3 号 p. 295-302
    発行日: 2023/08/20
    公開日: 2023/08/21
    ジャーナル 認証あり

    【目的】食物アレルギー診療における栄養食事指導実態を明らかにし,16歳未満の対象年齢拡大のため調査を行った.

    【方法】メール登録会員3,757名を対象にWeb調査を行い,376名(回答率10%)が回答した.

    【結果】48%が9歳未満栄養食事指導料を算定していた.87%が9歳以上に対して栄養指導が不可欠であり,食べられる範囲提示,外食・中食時注意点,ナッツ・果物など共通アレルゲンの説明が重要と回答した.回答者の約半数が9歳以上,16歳未満の食物アレルギー児において指導した患者は数か月に1名程度以下と答え,77%は指導が十分でないと回答した.その理由として病院では62%が食物アレルギー栄養指導教育不十分,診療所では77%が栄養士不足,不在,全体の48%が指導料非算定のためと答えた.

    【結論】16歳未満に診療報酬を拡大することが,栄養士養成課程での教育の充実や指導内容のアップデートにつながる.また情報通信機器などを活用し指導件数を増やし良質なアレルギー診療を全国に広めることが求められる.

feedback
Top