目的:「食物経口負荷試験の手引き2023」で経口負荷試験(OFC)の総負荷量の選択が示されているが具体的な負荷量は主治医の判断によることが多い.客観的指標による負荷プロトコル選択基準の有用性と安全性を検討する.
方法:オボムコイド特異的IgEクラス,卵白特異的IgE変化率,鶏卵完全除去のスコアリングによる負荷プロトコル選択基準を適用した0~2歳児の卵白OFCについて後方視的に調査した.
結果:対象234例における総負荷量は中央値(四分位範囲)8.0(3.5-11.3)g,OFC陽性は77例(32.9%),アナフィラキシーガイドラインのグレード2の症状は23例(9.8%),アナフィラキシーは2例(0.9%)でアドレナリン筋注を要した症例はいなかった.アレルギー専門医と非専門医とでOFC陽性割合やグレード2の症状の割合に有意差を認めなかった.
結語:0~2歳児の卵白OFCにおいて,客観的指標によるプロトコル選択基準は有用かつ安全であり,非アレルギー専門医でも使用できる可能性がある.

【目的】食物アレルギーが疑われた0~2歳児におけるピーナッツ,クルミ,カシューナッツの感作率を検討した.
【方法】2019年1月~2022年2月に食物アレルギー診療のため受診した0~2歳児を対象とした.後方視的症例集積研究として,粗抗原およびコンポーネント特異的IgE値,その感作率を診療録より評価した.
【結果】対象237名のうち200名が少なくとも1つの粗抗原の評価を行った.ピーナッツ感作を190名中50名(26%),クルミ感作を158名中26名(16%),そしてカシューナッツ感作を107名中35名(33%)に認めた.ピーナッツ,クルミの感作率は年齢が上がるにつれて増加していた.多変量解析により,ピーナッツ感作には年齢と鶏卵アレルギー,クルミ感作には年齢,カシューナッツ感作には男児が関与する因子であった.
【結語】食物アレルギーを有する0~2歳児におけるピーナッツ,クルミ,カシューナッツに対する感作率は低くなく,診療において注意する必要がある.

小児期の運動は生活の質を高めるだけでなく認知機能にも好影響をもたらす.アレルギー免疫領域では異なるレベルのトレーニングはサイトカイン分泌に与える効果が異なっている.気管支喘息では定期的な身体活動が心肺機能を高め運動誘発気管支収縮を軽症化する研究が集積されてきた.運動習慣のない気管支喘息児にとって,運動能力を高めることで喘息頻度は減少するが,アスリートでは逆に喘息頻度が増加することに注意を要する.小児期から成人期にわたる食物依存性運動誘発アナフィラキシー研究から,小児期の食物依存性運動誘発アナフィラキシーは成人期に比較しアスピリンより運動の影響を受けていると推察される.小児にとって食物アレルギーに与える運動の影響はアナフィラキシーの増強因子として新たに幅広くとらえる必要がある.アトピー性皮膚炎に対して,運動は汗による増悪をもたらすだけなのか,味方につける方法はなにか.適切に運動を推奨し処方できる小児アレルギー医が増え,様々なアレルギー疾患を持つ小児が運動を楽しむことを期待したい.
食物依存性運動誘発性アナフィラキシー(FDEIA)は,原因となる食物を摂取した後の運動負荷により蕁麻疹や呼吸困難などの症状を呈するimmunoglobulin E依存性の食物アレルギーである.運動負荷以外にも,非ステロイド性抗炎症薬の服用やアルコール摂取,感染症,ストレスなどがFDEIA症状の誘発や増悪に関連する二次的因子として報告されている.臨床研究や動物モデルを用いた解析により,二次的因子は,腸管上皮細胞間のタイトジャンクションを傷害して抗原の吸収を亢進させることやマスト細胞などの免疫細胞の活性化閾値を低下させることで,FDEIA症状の誘発や増悪に寄与することが明らかになってきた.本総説では,抗原の腸管吸収の亢進に着目して,二次的因子によるFDEIA症状の誘発機序を概説する.二次的因子の作用機序を解明することは,新たな二次的因子を同定する手掛かりとなる.また,作用機序を制御できる手法を探索すれば,除去食療法に代わるFDEIAの新たな予防・治療法の開発につながる可能性がある.
アバタセプトは,ヒト細胞障害性Tリンパ球抗原-4の細胞外ドメインとヒトIgG1のFcドメインより構成された生物学的製剤で,CD28とCD80/86の共刺激を阻害することによりT細胞の活性化を抑制する.本邦では,既存治療で効果不十分な関節リウマチと若年性特発性関節炎に保険適用がある.この総説では,まず,T細胞の活性化と共刺激分子,アバタセプトの薬効機序を説明する.共刺激分子は,アバタセプトのみならず抗がん剤治療のターゲットでもあり,臨床医にとって理解すべき重要な点を述べた.次に,若年性特発性関節炎に対するアバタセプトの臨床成績,投与方法,安全性について概説する.アバタセプトはその有効性もさることながら,安全性が高い事が特徴の薬剤であることを提示した.最後に,他の自己免疫疾患に対するアバタセプトの報告についてまとめた.現在,私たち臨床医は様々な生物学的製剤を選択できるようになってきた.各製剤の薬効,副作用の他,今後検討すべき課題についても熟知したうえで,適切な使用を心掛けることが重要である.
セクキヌマブは,遺伝子組み換え技術により作成されたヒト型抗ヒトinterleukin(IL)-17Aモノクローナル抗体で,IL-17AのホモダイマーまたはIL-17A/Fのヘテロダイマーと結合し,受容体への結合を阻害することによりその活性を中和する.IL-17は炎症性サイトカインやケモカイン産生,好中球の活性化や遊走を誘導することによって自己免疫疾患発症に関わっていると考えられている.ディスバイオーシスにより樹状細胞などの自然免疫系細胞が刺激されるとIL-23分泌が起こり,IL-23/IL-17軸と呼ばれるカスケードが活性化して獲得免疫系の活性化が起こる.皮膚・骨/関節・眼で機械的刺激が加わると,炎症細胞が遊走して,局所での炎症・組織障害・組織修復としての組織増生という特徴的な病態を呈する.このような病像を示す疾患に,脊椎関節炎およびその類縁疾患があり,セクキヌマブは乾癬(乾癬性関節炎を含む),強直性脊椎炎,X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎に対する有効性が確認されている.本邦でも2022年に6歳以上の乾癬に対して適応追加となっており,製剤の特徴や国内外の現状について紹介する.
炎症性腸疾患(IBD)とは寛解と再燃を繰り返す慢性の腸管炎症性疾患であり,潰瘍性大腸炎とクローン病に分類されることが多い.罹患者数は成人発症IBDとともに小児期発症IBDも近年増加している.小児IBDでは診断時や治療経過中,治療薬を選択する際にも成長障害を常に念頭に置く必要がある.IBDの主な治療方針は炎症抑制療法であり,その代表的な薬剤はステロイド薬であるが,その代替療法としてアザチオプリンなどの免疫調節薬が主流であった.2000年代から抗TNF-α抗体製剤を中心とした生物学的製剤が登場したことで治療指針が大きく変化した.現時点では本邦で小児IBDに使用できるのは抗TNF-α抗体製剤のみであるが,成人領域では他の多くの分子標的薬も保険適用となっている.抗TNF-α抗体製剤以外の分子標的薬としては,抗IL-12/23p40抗体製剤,抗IL-23p19抗体製剤,抗α4β7インテグリン抗体製剤,ヤヌスキナーゼ阻害薬などがある.本項では,IBDに適用のある分子標的薬のうち抗TNF-α抗体製剤以外について概説するが,それらの薬剤は小児IBDに対して保険適用外となるため使用には注意が必要である.
喘息の治療は医師が適切に処方・指示しても患者や家族が受容し実行しなければ十分な効果は得られない.十分な治療効果を引き出し,患者や家族が主体的に自己管理できるように導くためには,病態生理の正しい理解と,医療従事者と患者,保護者間での治療目標を共有し,共同で治療計画の決定を行う「患者―家族―医療従事者間のパートナーシップ」が重要である.JPGL2023の第7章では,患者とのパートナーシップを中心に,喘息の重症度やコントロール状態の評価,薬剤選択や吸入などの治療,治療ステップの見直しなどの調整の全ての段階で患者と保護者が医療従事者と情報を共有し共同で意思決定すること,そしてこの共同意思決定を生活様式の変化や発達段階に合わせ何度も繰り返し行うことの重要性を示した.本稿では第7章の概要を,改善点などを含め解説する.
「小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2023」の第8章「急性増悪(発作)への対応」では,急性増悪(発作)に関して,臨床上重要と考えられる課題についてClinical Questionが設定された.発作強度判定に基づき,最適な治療法を選択するために重要と思われる項目を取り上げた.
急性増悪(発作)に対しては,呼吸器合併症を含めた「医療機関での対応」と「家庭での対応」に分けて考える.医療機関では,治療と並行して,正しい診断と発作強度の判定を行う.家庭では,急性増悪(発作)を認めた時点から早期対応を心がけ,症状の重症化と遷延化を防ぐことが重要である.
乳幼児期は,気管支喘息の児に対し早期介入を行う上で重要な時期である.反復性喘鳴を生じる児では,この時期に気道のリモデリングや呼吸機能低下を生じ得るため,早期に治療を開始する必要がある.しかし,喘息の症状である喘鳴はこの年齢層ではありふれた症状であるため,急性喘鳴であれば喘鳴が生じた後の経過観察を続け,反復性喘鳴であれば他疾患の鑑別を行ったうえで,治療を開始する.診断にあたっては乳幼児喘息の診断フローに従い診断を進めるが,この時期の喘息の診断は困難であることも多く,重症度に応じた長期管理薬を使用することで診断的治療を行い,治療への反応性を評価し乳幼児喘息と診断することもできる.診断後は,IgE関連もしくは非IgE関連喘息を鑑別する.また,喘鳴を呈する他疾患との鑑別が重要であり,特に治療への反応が乏しい場合は喘息以外の疾患も考慮し診療する.
小児期発症喘息で思春期・青年期までに寛解するのは必ずしも高くはなく,移行期医療の実践が必要である.小児気管支喘息治療・管理ガイドライン(Japanese Pediatric Guidelines for The Treatment and Management of Asthma:JPGL)2023第10章思春期・青年期喘息と移行期医療では思春期・青年期喘息の特徴を示し,小児科医が実践すべき移行期医療については2023年に日本小児科学会から小児期発症慢性疾患を有する患者の成人移行支援を推進するための提言において示された内容に即して記載した.今回疾患に特化した喘息チェックリストを新たに加えた.本稿では,ガイドラインの重要ポイントと改訂のポイントについて記載する.