日本小児アレルギー学会誌
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36 巻, 5 号
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原著
  • 岩井 郁子, 松永 真由美, 金井 怜, 高瀬 貴文, 安田 泰明, 山田 慎吾, 浜田 佳奈, 中本 牧子, 野上 和剛, 長尾 みづほ, ...
    2022 年 36 巻 5 号 p. 477-484
    発行日: 2022/12/20
    公開日: 2022/12/20
    ジャーナル 認証あり

    【目的】学校における食物アレルギー児の適切な管理には学校生活管理指導表(アレルギー疾患用)(以下,管理指導表)は必須である.問題点を知るために,医師が記載する管理表の実態を調査した.

    【方法】令和2年度に三重県の小・中学校に提出された全ての管理指導表について,食物アレルギー欄の各項目を集計した.

    【結果】提出総数は2,387で,食物アレルギー以外(乳糖不耐症等)を除いた2,364を解析した.除去食物の頻度は鶏卵,牛乳・乳製品,果物,甲殻類,ナッツ類の順で,医療機関を調査した既報とは若干の相違があった.除去根拠が2つ以上記載された管理指導表の割合は鶏卵78%,小麦68%,牛乳64%であったが,ソバ30%,肉類15%など低い食品があり,地域差もみられた.給食での除去の原則に反する不完全除去の指示が8.7%にみられた.

    【結語】根拠に乏しい除去指示など管理指導表記載の問題点が明らかとなった.管理指導表の正しい記載について医師への啓発を進めることが重要と考えられた.

  • 森 さよ, 辻 百衣璃, 松本 翼, 碇 航太, 手塚 純一郎
    2022 年 36 巻 5 号 p. 485-489
    発行日: 2022/12/20
    公開日: 2022/12/20
    ジャーナル 認証あり

    症例は11歳男児.9歳よりラグビーを始め運動時に喘鳴と呼吸困難を認め,運動誘発喘息(Exercise-induced asthma:EIA)と診断され長期管理薬として吸入ステロイド薬とロイコトリエン受容体拮抗薬内服が開始された.以後も運動時の喘鳴は改善なく吸入ステロイド薬/長時間作用性吸入β2刺激薬配合剤に変更,テオフィリンを追加されるも改善なかった.当院に紹介され運動負荷試験を施行した.その際のスパイロメトリーから運動誘発性喉頭閉塞症(Exercise-induced laryngeal obstruction:EILO)を疑い,後日行った運動時の喉頭ファイバー所見よりEILOと確定診断した.症状出現時の呼吸方法を指導し,EILOの増悪因子として胃食道逆流を疑う所見を認めたことからプロトンポンプ阻害薬内服開始し症状は改善した.EIAとして治療に反応不良な症例にはEILOも念頭に置き,小児でも比較的簡便に可能な運動負荷やスパイロメトリーを行い,適切な診断・治療につなげることが重要である.

  • 大瀧 悠嗣, 北村 勝誠, 松井 照明, 高里 良宏, 杉浦 至郎, 伊藤 浩明
    2022 年 36 巻 5 号 p. 490-498
    発行日: 2022/12/20
    公開日: 2022/12/20
    ジャーナル 認証あり

    目的

    日本の小児における木の実類アレルギーの増加が報告されているが,小児の救急受診患者の背景や誘発症状を検討したものはなく,当センターにおける状況を分析した.

    方法

    2016年2月~2021年10月に木の実類の即時型症状で救急外来を受診した29例(27名)について,原因食物,患者背景,誘発症状,治療を診療録から後方視的に検討した.

    結果

    原因はクルミ12例(10名),カシューナッツ12例,マカダミアナッツ3例,アーモンド1例,ペカンナッツ1例で,年齢中央値は3歳であった.15例がアナフィラキシー,うち5例はアナフィラキシーショックであった.13例がアドレナリン筋肉注射,うち1例がアドレナリン持続静脈注射を要した.11例が入院し,うち3例は集中治療室へ入院した.初発は22例で,そのうち14例が他の食物に対する食物アレルギーを有していた.

    結語

    木の実類アレルギーの救急受診患者は,年少児がアナフィラキシーで初発した事例が多かった.予期せぬ重篤事例を未然に防ぐため,何らかの医学的及び社会的対策が望まれる.

  • 清水 美恵, 今井 孝成, 松本 勉, 野々村 和男, 神谷 太郎, 岡田 祐樹, 本多 愛子
    2022 年 36 巻 5 号 p. 499-507
    発行日: 2022/12/20
    公開日: 2022/12/20
    ジャーナル 認証あり

    【目的】心理的葛藤のさなかにある思春期アレルギー児が療養生活を送るうえでレジリエンス,すなわちダメージからの回復力は重要である.しかしアレルギー児のレジリエンスを測定する尺度はない.本研究では,思春期アレルギー児のレジリエンス尺度を作成し,その信頼性と妥当性を検証する.

    【方法】対象は,協力医療施設に通院中の小4から中3のアレルギー児とした.調査は質問紙を用いて2021年9~11月に実施した.尺度原案を作成し,項目分析で得られた尺度項目に対する探索的因子分析,確認的因子分析を行った.

    【結果】621部を配布し,有効回答179名を分析対象とした.対象アレルギー疾患は,気管支喘息136名,食物アレルギー83名,アトピー性皮膚炎80名であった.思春期アレルギー児レジリエンス尺度は4因子(問題解決志向,探究志向,自然体志向,ネガティブ感情の共有)15項目で構成され,信頼性と妥当性が確認された.

    【考察】アレルギー児のレジリエンス尺度を開発した.移行支援など関係する研究で活用が期待される.

  • 西村 龍夫, 寺口 正之, 尾崎 由和, 原田 佳明, 松下 享
    2022 年 36 巻 5 号 p. 508-515
    発行日: 2022/12/20
    公開日: 2022/12/20
    ジャーナル 認証あり

    目的:小児科外来を受診する母親に,離乳食での食物アレルギー(以下,FA)への不安と,それを増強する因子がないかについて調査を行った.

    方法:2020年3月から4月までの2か月間,後期乳児健診を目的に受診した乳児の母親を対象とし,離乳食でFA症状を経験したかを聞き,リッカートスケールを用いてその不安をどのように感じているのかのアンケート調査を行った.さらに,食物アレルギーと誤嚥,食中毒への不安を比較した.

    結果:36施設から533件の調査票を回収した.過去にFAの症状が出たことがあると答えたのは16.4%であった.FA症状の大部分は軽症であったが,部分的なじんましん症状でも不安スケールは有意に上昇し,食物制限も多かった(P<0.01).不安スケールは誤嚥がもっとも高く,続いて食中毒で,FAがもっとも低かった.

    結論:多くの母親のFAへの不安は高くなかったが,FA症状の経験は軽症でも離乳食への不安の上昇と制限につながっている.

  • 松尾 嘉人, 松井 照明, 田上 和憲, 牧野 篤司, 北村 勝誠, 高里 良宏, 杉浦 至郎, 伊藤 浩明
    2022 年 36 巻 5 号 p. 516-521
    発行日: 2022/12/20
    公開日: 2022/12/20
    ジャーナル 認証あり

    アセトアミノフェン過敏症の詳細な機序は不明だが,免疫学的,薬理学的機序の2群が想定されている.また,他のNSAIDs過敏症を合併せずに免疫学的機序が想定される例での寛解報告はない.自然寛解例を含む2例で,免疫学的検討を行ったため報告する.1例は発熱時にアセトアミノフェンを内服し高熱と紅潮を認めた既往のある15歳女児.アセトアミノフェン8.5 mg/kgを内服後に悪心,嘔吐,高熱が出現.皮膚テストは評価不能,その他の検査は陰性であったが薬剤誘発試験(DPT)は総量10 mg/kgで全身紅潮,嘔気,四肢冷感を認めアドレナリン筋肉注射を要した.もう一例は誘発症状無く数回の内服歴のある8歳男児.アセトアミノフェン10 mg/kgを内服後に咳と膨疹が出現.皮膚テストは陰性であったがDPTは総量0.9 mg/kgで鼻閉,眼瞼腫脹,複数範囲膨疹を認めた.22か月後のDPTは総量14 mg/kgで陰性.アセトアミノフェン過敏症は寛解の可能性があり,期間を空けてDPTを検討すべきである.

  • 佐藤 裕子, 冠城 祥子, 和田 未来, 津村 由紀, 明石 真幸
    2022 年 36 巻 5 号 p. 522-525
    発行日: 2022/12/20
    公開日: 2022/12/20
    ジャーナル 認証あり

    乳児用調製液状乳(液体ミルク)の組成は乳児用調製粉乳(粉ミルク)と同等とされている.少量の粉ミルクの摂取歴のある乳児が,液体ミルク0.5mLを摂取してアレルギー症状を示したので報告する.

    7か月の完全母乳栄養児.A社粉ミルク10mLを摂取時は症状なく,B社,C社の液体ミルクを0.5mL摂取し嘔吐や顔面の発疹を認めた.血清特異的IgE(UA/mL)は,牛乳1.85,β-ラクトグロブリン(BLG)1.99,カゼイン<0.10,α-ラクトアルブミン<0.10で,BLGが原因抗原の牛乳アレルギーと診断した.皮膚プリックテストはA社粉ミルク陰性,B・C社液体ミルク陽性だった.どれも一般育児用ミルクであったが,A社粉ミルクは乳清たんぱく質を一部分解したミルクで,B・C社液体ミルクの乳たんぱく質は未分解だった.

    牛乳アレルギーの一部は一般育児用ミルクであっても種類によってアレルギー反応が異なる可能性がある.特に液体ミルクなどの普段と異なる種類のミルクを,緊急時に初めて摂取しないように啓発する必要がある.

総説
  • 金澤 伸雄
    2022 年 36 巻 5 号 p. 526-531
    発行日: 2022/12/20
    公開日: 2022/12/20
    ジャーナル 認証あり

    アトピー性皮膚炎は,アトピー素因を背景とした慢性反復性の難治性湿疹として定義される.その本態をフィラグリン遺伝子変異に代表される皮膚バリア異常による皮膚の易刺激性・過剰反応そのものとすれば,それ自体が一種の自己炎症あるいは免疫不全症とも考えられる.一方,臨床現場においては,特有の原発性免疫不全症の部分症状として現れるアトピー性皮膚炎様皮膚症状を遅滞なく鑑別する必要がある.小児のアトピー性皮膚炎と鑑別が必要な免疫不全症として診療ガイドラインであげられる疾患には,皮膚バリアの破壊によって生じるNetherton症候群,細胞骨格リモデリングの異常によって生じるWiskott-Aldrich症候群,サイトカインシグナルの異常によって生じる高IgE症候群,T細胞レパトアの制限によるOmenn症候群,免疫寛容の破綻によって生じるIPEX症候群がある.これら「原発性アトピー性疾患」の病態を理解することにより,複雑なアトピー性皮膚炎の病態理解が深まることが期待される.

  • 長尾 みづほ
    2022 年 36 巻 5 号 p. 532-539
    発行日: 2022/12/20
    公開日: 2022/12/20
    ジャーナル 認証あり

    ワクチンに対するアレルギーで,もっとも重要なのはアナフィラキシーである.診断はレトロスペクティブに検討する際にはブライトンの症例定義にしたがって行うが,実際の臨床現場では,アナフィラキシーガイドラインに従い,少しでもアナフィラキシーが疑われたら速やかに治療する.アナフィラキシーに至る例は非常に稀であるが,突然起こる重篤な副反応として,常に備えが必要である.ワクチンアレルギーの原因としては,かつてはゼラチンや鶏卵などが危惧されていたが,現在そのリスクは低くなっている.原因精査のための検査はプリックテスト,好塩基球活性化試験,特異的IgE抗体などがあるがワクチンによって有用性は異なる.

    新型コロナワクチンについては当初はポリエチレングリコールの可能性が示唆されたが否定的な見解もでてきており,確立された検査法が未だなく,機序も不明な点が多い.

    ワクチン毎のアレルギーの診断方法の確立とともに,それでも接種が必要な場合の対応などの課題は多いが整理して確立していくことが望まれる.

ガイドライン解説:食物アレルギー診療ガイドライン2021
  • 杉浦 至郎, 伊藤 浩明
    2022 年 36 巻 5 号 p. 540-546
    発行日: 2022/12/20
    公開日: 2022/12/20
    ジャーナル 認証あり

    食物アレルギー管理の原則は,正しい診断に基づいた必要最小限の原因食物の除去である.この言葉には正確に診断された原因食物のみを除去するという意味と,食品によっては原因食物であっても摂取可能な範囲までは摂取を行うという2つの意味が含まれている.患者や家族に対しては誤食などによる誘発症状を防止するための注意点を指導すると共に,摂取している食事全体を評価し,必要に応じて管理栄養士による栄養摂取状況の評価および栄養食事指導を行う.また合併するアレルギー疾患を十分にコントロールすることも重要である.

  • 柳田 紀之, 二村 昌樹
    2022 年 36 巻 5 号 p. 547-553
    発行日: 2022/12/20
    公開日: 2022/12/20
    ジャーナル 認証あり

    食物アレルギー診療ガイドライン2021において,経口免疫療法(oral immunotherapy,OIT)とは「自然経過では早期に耐性獲得が期待できない症例に対して,事前の食物経口負荷試験(oral food challenge,OFC)で症状誘発閾値を確認した後に原因食物を医師の指導のもとで継続的に経口摂取させ,脱感作状態や持続的無反応の状態とした上で,究極的には耐性獲得を目指す治療」と定義されている.本ガイドラインでは,OITは食物アレルギーの一般診療として推奨されていないものの,Clinical questionに基づき,有効性や安全性が評価されている.OIT実施の要件や用語の定義など,ガイドラインの重要な点を解説し,OITのこれからの展望について議論する.

  • 高岡 有理, 長尾 みづほ
    2022 年 36 巻 5 号 p. 554-561
    発行日: 2022/12/20
    公開日: 2022/12/20
    ジャーナル 認証あり

    食物アレルギー診療ガイドライン2021の各論のうち,第12-1章鶏卵アレルギー,第12-2章牛乳アレルギー,第12-3章小麦アレルギーについて概説する.以前のガイドラインでは,各アレルゲンに関する記載は疫学,食物アレルゲン,診断と検査といったそれぞれの章に分散していたが,今回から第12-1,12-2,12-3章として,各アレルゲン別に発症年齢・臨床型分類,予後,アレルゲンコンポーネント,診断,食事指導についてまとまって理解できるようになっている.

    これらのアレルゲンは粗抗原,コンポーネントともに特異的IgE抗体価の検討が多くある.診断については最新のプロバビリティカーブの報告を合わせて記載し,その有用性について述べている.また,日頃の食生活に直結するアレルゲンであることから,食事指導についても必要最小限の食物除去を実践するためにタンパク質含有量,低アレルゲン化の方法,交差反応性のある食物などの情報が記載されている.

  • 永倉 顕一, 佐藤 さくら
    2022 年 36 巻 5 号 p. 562-567
    発行日: 2022/12/20
    公開日: 2022/12/20
    ジャーナル 認証あり

    「食物アレルギー診療ガイドライン(JGFA)2021」の第12章 食品ごとの各論4,5,6,7では種子類であるピーナッツ,木の実類,大豆,ゴマ,ソバのアレルギーに関して新たに独立して章立てし,調査結果を最新の情報に更新した.その他では食品ごとの「自然歴」のデータを表にまとめて示した点,近年研究が進んでいる「コンポーネントを用いた診断」に関して詳細に説明した点,「ソバアレルギーの診断有用性」を表にまとめて説明した点などが食物アレルギー診療ガイドライン(JPGFA)2016からの主な変更点である.2010年代後半以降,本邦ではクルミやカシューナッツなどの木の実類アレルギーが急増しており,クルミは特定原材料の表示義務に追加される方針である.種子類は有病率,診断の方法など著しく変化しており,本章がより良い食物アレルギー診療の一助となれば幸いである.

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