日本小児アレルギー学会誌
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31 巻, 1 号
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総説(シンポジウム1:新生児・乳児消化管アレルギーの病態解明へのアプローチ)
  • 伊藤 靖典
    2017 年 31 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/03/31
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     消化管アレルギーは消化管を主体とした症状が引き起こされる非IgE依存性の食物アレルギーの1型とされている. 臨床症状によってフェノタイプが報告されているが, わが国と海外では分類に相違がある.

     海外ではnon-IgE-mediated gastrointestinal food allergyとして, 嘔吐や下痢を生じるfood-protein induced enterocolitis syndrome, 血便を主症状とするproctocolitis, 体重増加不良, 吸収障害を呈するenteropathyの3つに分類されている. 海外では末梢血好酸球増多についてこれらのフェノタイプではふれられていないが, わが国では末梢血好酸球の増多を認める症例が多く, 好酸球性消化管疾患 (eosinophilic gastrointestinal disorders : EGIDs) と一部重複する部分がみられている. EGIDsは海外では消化管アレルギーとは分けて分類されていることが日本との違いであると考えられる.

  • 工藤 孝広, 丘 逸宏, 新井 喜康, 京戸 玲子, 佐藤 真教, 宮田 恵理, 細井 賢二, 松村 成一, 大林 奈穂, 幾瀨 圭, 神保 ...
    2017 年 31 巻 1 号 p. 7-12
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/03/31
    ジャーナル 認証あり

     新生児・乳児消化管アレルギーの1型である食物蛋白誘発性腸症は, 非IgE依存性の食物アレルギーの一つであり, 新生児期から1年以内に発症し, 嘔吐や遷延する下痢, 血便, 腹部膨満, 時に成長障害や発達障害などを呈する重篤な疾患である. 予後は良好であるが診断が困難であることも少なくないため, 早期診断や早期介入が重要である.

     診断には食物負荷試験が基本となるが, 客観的検査として食物抗原に対する抗原特異的リンパ球刺激試験が原因抗原の同定に有用なことがある. 消化管内視鏡検査では十二指腸や大腸粘膜で炎症所見を認める. 粘膜生検病理検査では好酸球やリンパ球などの炎症細胞浸潤がみられる. さらに, 吸収不全症, 体重増加不良を呈する食物蛋白誘発性腸症では, 十二指腸粘膜において絨毛の萎縮, 陰窩の過形成を評価する.

     慢性下痢症をきたす疾患は食物蛋白誘発胃腸症以外にも多く存在するため, 病理組織検査を用いて消化管粘膜の所見を確認することは, 診断の一助となるだけでなく経腸栄養を行う指標にもなりうるため, 積極的に行う必要がある.

  • 井上 祐三朗
    2017 年 31 巻 1 号 p. 13-16
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/03/31
    ジャーナル 認証あり

     Food protein-induced enterocolitis syndrome (FPIES) はnon-IgE-mediated gastrointestinal food allergyの一つであり, 特異的Tリンパ球による非IgE依存性アレルギーと考えられている. 末梢血単核球の解析では, アレルゲン特異的Th2細胞に加えてIL-9産生性T細胞の増加が報告されており, 病態への関与が示唆される. また, わが国においては, 特異的IgE陽性のatypical FPIESが, 欧米よりも多く報告されており, IgEを含めた液性免疫の関与についても, さらに検討する必要があると考えられる. FPIESの発症早期には, 消化管粘膜へのマスト細胞の浸潤を認め, その誘導や活性化にかかわる因子の解析が病態解明に結びつく可能性がある.

シンポジウム2 ウイルス感染と喘息の架け橋
  • 加藤 政彦
    2017 年 31 巻 1 号 p. 17-21
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/03/31
    ジャーナル 認証あり

     ウイルス感染は, 喘息の増悪のみならず発症にも関与している. Tucson Children's Respiratory Studyでは, 出生後3年目までにrespiratory syncytial (RS) ウイルス下気道感染をきたした児では, そうでない対照群に比べ, 6歳, 8歳および11歳時では, 喘鳴の頻度は有意に多かったが, 13歳時では有意差は認めなかった. これらの報告などから, RSウイルス感染後, 低年齢のうちに, 他の危険因子が加わることにより, 喘息を発症すると考えられる. ライノウイルスでは, 米国のCOAST研究により, 6歳時の喘息発症のリスクとしては, 乳幼児期のライノウイルス感染が, 最も強力な予測因子であると結論している. 一方, 欧州のCOPSAC出生コホート研究では, 3歳までのウイルス感染の既往は, 7歳時での喘息発症リスクに関与していたが, ウイルスの種類により差はなかったとの報告もある.

     本稿では, 小児の喘息発症にかかわるウイルス感染について, 最近の知見や自験例を含めて解説する.

  • 菅井 和子, 木村 博一, 宮地 裕美子, 吉原 重美, 緒方 裕光, 岡山 吉道
    2017 年 31 巻 1 号 p. 22-27
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/03/31
    ジャーナル 認証あり

     乳幼児期のウイルス感染に伴う下気道感染症では喘鳴発症が多く, それが反復喘鳴や喘息発症の一因であることが多く報告されている. 特に, RSV, HRVは喘鳴のおもな起因ウイルスであり, アトピー-素因, 吸入抗原感作等と関連し, 喘息発症と関連するとの報告も多い. 低月齢児では肺機能等客観的な評価は困難だが, 非侵襲的に反復喘鳴予測ができれば, 喘息管理において, より早期の介入が可能となる. 喘息患者で気道上皮由来のTSLP, IL-25, IL-33やTh2サイトカイン等が注目されているが, 喘息発症前の初回喘鳴時のより強力な気道炎症誘導因子の存在も考えられる. われわれは, ウイルス感染に伴い初回喘鳴を呈した乳幼児対象の研究で, MIP-1αによりその後の反復喘鳴が予測可能となる研究結果を得た. 簡便に採取可能な鼻汁検体からの反復喘鳴予測の可能性が示唆された. パリビズマブの早産児におけるRSV感染後の反復喘鳴予防の有効性や, ワクチンの研究もあるが, 実用化には至っていない. ウイルス感染後の喘息発症予防において, 感染予防とともに発症予測因子に関する研究も今後さらに必要と考える.

  • 長谷川 俊史, 松重 武志, 大賀 正一
    2017 年 31 巻 1 号 p. 28-32
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/03/31
    ジャーナル 認証あり

     小児科の日常診療においてウイルス感染による小児気管支喘息発作の増悪をしばしば経験し, これまでにrespiratory syncytial virus (RSV) やライノウイルスによる喘息発作の増悪に関する報告は多数みられる.

     筆者らは, 2009年に流行した新型インフルエンザウイルス (A (H1N1) pdm09) 感染小児気管支喘息患児において重篤な喘息発作, 肺炎, 無気肺などの呼吸器合併症による入院症例が増加する事象を経験した. したがって, 小児気管支喘息はA (H1N1) pdm09感染による重症化の危険因子である可能性が示唆された. また, これらの入院症例は長期管理されていないことが多かったため, 重症度を確認し, 適切な長期管理が重要であることを再認識した.

     筆者らが経験した臨床像とモデルマウスを用いた研究結果から, A (H1N1) pdm09感染では小児気管支喘息患児の肺において高い炎症性サイトカインの産生およびウイルス増殖により強い組織傷害が惹起されている可能性が示唆された.

  • 是松 聖悟
    2017 年 31 巻 1 号 p. 33-37
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/03/31
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     エンテロウイルスD68は, ピコルナウイルス科エンテロウイルス属のエンベロープをもたないRNAウイルスである. その感染症は夏から秋に流行し, 上気道炎症状のみならず, 下気道炎症状や喘息も惹起する.

     日本では2015年9月, 同ウイルスの流行が確認された時期に一致して, 喘息発作, 重症呼吸器疾患, 急性弛緩性麻痺が多発した. 日本小児アレルギー学会の調査により, 同ウイルスが喘息発作のエピデミックを起こす重要なウイルスであることが明らかになった.

     この知見からアレルギー学, 感染症学の両者の進歩に寄与する研究へと発展することが期待される.

シンポジウム5 食物依存性運動誘発アナフィラキシーの診断を考える
  • 相原 雄幸
    2017 年 31 巻 1 号 p. 38-45
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/03/31
    ジャーナル 認証あり

     食物依存性運動誘発アナフィラキシー (FDEIA) は, 疫学調査結果からは有症率の増加はない. 認知度は向上したが逆に過剰に診断されている症例も少なくない. 近年, 重症食物アレルギー患者に対して経口免疫療法が導入され脱感作到達例も増加し, 当該食物摂取後の運動負荷によりアナフィラキシーを発症する事例 (secondary FDEIA) の増加が問題となってきている. これらの背景もあり, 「食物アレルギー診療ガイドライン2016」ではFDEIAの定義が一部改訂された. 今後の課題は, 正しい知識の普及により過剰診断を防ぐこと, 誘発試験の改善により陽性率をさらに高めること, 患者教育を徹底し再発症を防ぐこと, 発症防止薬を確立することなどがあげられる.

  • 中川 朋子, 伊藤 浩明
    2017 年 31 巻 1 号 p. 46-52
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/03/31
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     食物依存性運動誘発アナフィラキシー (FDEIA) は, その診断から治療まで, 未解決の問題が多く残されている. 当科の症例からFDEIAの臨床経過や原因食品ごとの診断ポイントを解説する.

     運動誘発試験は再現性が低く, 陰性でも完全に否定することは困難であるが, 確定診断と患者・保護者の病態理解のために必須である. 食物+運動誘発試験が陰性の場合にはアスピリンの前投与を併用することがあるが, アナフィラキシー誘発リスクが高まるため十分な準備の下で実施すべきである.

     成人の小麦FDEIAに関してはω-5グリアジンが診断に有用だが, 小児では症状誘発を予測するコンポーネントは証明されていない. また, モモFDEIAの診断においては加熱モモの皮膚プリックテストが有用であり, それに関与するコンポーネントとしてPru p 7 (peamaclein) が注目されている.

  • 福田 啓伸, 吉原 重美
    2017 年 31 巻 1 号 p. 53-57
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/03/31
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     「食物アレルギー診療ガイドライン2016」では, 食物依存性運動誘発アナフィラキシー (FDEIA) の診断に, 詳細な問診, 一般的血液検査, 各種アレルギー検査が有用で, 確定診断には誘発試験の実施が望ましいとされている. しかし誘発試験の再現性は高くはなく, アレルゲンコンポーネント (AC) が新たな診断ツールとして注目されている.

     当科で経験した小児小麦依存性運動誘発アナフィラキシー (WDEIA) に対して, ACを測定したところ, 成人WDEIAの感作パターンと異なり, Tri a 19, Tri a 21, Tri a 26, Tri a 37の組み合わせが診断に有用である可能性が示唆された. さらに, 小児モモFDEIAでは, 成人モモ即時型アレルギーを対象とした既報告と同様にPru p 7が有用であった以外に, Pru p 3も関連していたことから, Pru p 7, Pru p 3の測定が診断に有用である可能性が示唆された.

     現在, 一部の食物を除いてACについての検討は少なく, 引き続き詳細な検討が必要である.

  • 本村 知華子
    2017 年 31 巻 1 号 p. 58-62
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/03/31
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     食物依存性運動誘発アナフィラキシー (FDEIA) を疑う症例では確定診断のため誘発試験を行うが, 原因食品と運動負荷のみでは誘発率が低い. 陰性の場合, 当科ではアスピリンと食品, アスピリン, 食品と運動負荷の2方法の検査を追加し行っている. アスピリンは非ステロイド系抗炎症薬として知られ, 成人では食物アレルギーやFDEIA症状を増強することが知られている. 小児において, アスピリンによる食品のアレルギー反応増強は低率であったが, アスピリンを加えることにより運動誘発試験陽性率を2倍に増加させた. 食物に運動やアスピリンなどの因子が加わることでの反応性には年齢や原因食物などによる個人差があると考えられ, そのメカニズムについて今後の検討が必要である.

原著
  • 松井 照明, 杉浦 至郎, 中川 朋子, 武藤 太一朗, 楳村 春江, 漢人 直之, 伊藤 浩明
    2017 年 31 巻 1 号 p. 63-71
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/03/31
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     【背景】卵黄の経口負荷試験 (oral food challenge : OFC) は, 微量の卵白負荷試験という位置づけで実施されることが多いが, 卵黄に残留する卵白量に関する情報は限られている.

     【目的】卵黄に残留する卵白量を推定したうえで, 症状誘発閾値の低い卵アレルギー患者に対する加熱卵黄摂取の可否について検討した.

     【方法】鶏卵から卵黄を分離したうえで加熱し, 卵黄表面の卵白と卵黄膜を用手的に剝離し, 重量を測定した. 2014年6月から2015年2月に施行した加熱卵白OFC陽性者から, 加熱卵白1.0gが摂取可能と判定された11人を対象として, 加熱卵黄OFCを施行した.

     【結果】卵黄に残留した卵白と卵黄膜の合計量は0.7g (0.6~1.0g, n=6) であった. 加熱卵黄OFCを施行した11例中9例は陰性, 1例は局所の紅斑, 1例は複数範囲の紅斑を認めた.

     【結語】加熱卵白1.0gの摂取が可能な卵アレルギー患者は, 生の状態で取り分けた加熱卵黄負荷試験で8割以上が陰性であった.

  • 青野 珠可, 山本 崇晴, 福家 辰樹
    2017 年 31 巻 1 号 p. 72-79
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/03/31
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     【目的】小児気管支喘息 (喘息) の長期管理において, 吸入ステロイド定量噴霧式吸入器 (pMDI) の操作が適切に実施できているのかを, 使用済みpMDIの残重量から評価する.

     【方法】2013年7月~2014年5月に5~15歳の喘息児に処方された残量カウンター付きフルチカゾン/サルメテロールpMDIを対象とした. 噴霧者を確認し, 使用済みpMDIの残重量を計量した. さらに子どもモデルと大人モデルを作成し, 噴霧力および振とう操作が噴霧量に与える影響を測定した.

     【結果】総処方数2,793本中, 188人から769本のpMDIを回収. 5歳では17%の患児が, 10歳では93%が自分で噴霧をしていた. 120回使用量の期待値9gの95%以上を噴霧できたのは, 小児35%, 保護者58%であった (p<0.05). 大人モデルと子どもモデルの検討から, 不十分な振とうや弱い力が噴霧量低下の原因の一つであると考えられた.

     【結論】6~13歳の小児において, pMDIの噴霧量が適切であった割合は半分以下であり, 年齢とは無関係だった.

  • 村田 宗紀, 早野 聡子, 塩谷 裕美, 福冨 崇浩, 柏崎 佑輔, 鈴木 健, 和田 芳雅, 只木 弘美
    2017 年 31 巻 1 号 p. 80-88
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/03/31
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     【背景】食物アレルギー児の増加を背景に, 学校職員がエピペン®を使用する状況が増加している.

     【目的】教職員のエピペン®注射手技を客観的に評価する.

     【方法】平成25年, 27年度に神奈川県大和市内の全公立小中学校を訪問しロールプレイ形式のエピペン®講習会を開催した. 平成27年度には, 講習前にエピペン®トレーナーを用いた実技試験を教職員678名に実施し, 5項目 (①安全ピン, ②持ち方, ③押さえ方, ④注射部位, ⑤注射時間) に関して評価 (各項目1点, 5点満点) した.

     【結果】参加者全体の平均点は2.9点であり, エピペン®の持ち方や注射時間の正答率が低かった. 講習未経験者でもエピペン®使用法ラベルを確認した場合, 講習経験者と同等の得点であった. また, 管理職の得点が高い学校では教員全体の得点が高かった.

     【結語】エピペン®使用法ラベルの確認を徹底指導することが, 正確な使用のため有用と思われる. 学校全体の食物アレルギーへの対応力向上のため, 管理職が危機意識をもち率先して対応することが望まれる.

総説
  • 二村 昌樹, 岡藤 郁夫, 山本 貴和子, 荒川 浩一
    2017 年 31 巻 1 号 p. 89-95
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/03/31
    ジャーナル 認証あり

     診療ガイドラインにはエビデンスに基づいた記載が求められており, エビデンスとして信頼性の高いシステマティックレビューを採用することが推奨されている. システマティックレビューの行程は, 検索式を用いた網羅的な文献検索から始まる. 次に採用基準にあてはまらないものを除外し, 最終的に残った文献からデータを抽出する. そしてメタアナリシスなどの統計解析も行って, 総合的な結論を導き出す. 診療ガイドラインには, クリニカルクエスチョン (CQ) に対してエビデンスの質も同時に評価した推奨文を掲載する. 「小児気管支喘息治療・管理ガイドライン (JPGL) 」改訂にあたり, JPGL委員会は治療に関連した8つのCQを提起し, 24名の小児科医で結成されたSRチームがシステマティックレビューを行った. 既存のコクランレビューをもとに, CQに関連するランダム化比較試験を検索し, 各試験のバイアス・リスクも評価した. わが国の状況も加味したCQに対する推奨文が, JPGL委員会とSRチームとの協議によって作成された.

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