日本小児アレルギー学会誌
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37 巻, 5 号
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原著
  • ―栄養士へのアンケート調査―
    吉川 知伸, 岡部 公樹, 宮本 学, 金子 恵美, 緒方 美佳, 吉田 幸一, 下浦 佳之, 本村 知華子, 小林 茂俊
    2023 年 37 巻 5 号 p. 415-423
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/20
    ジャーナル 認証あり

    災害時のアレルギー疾患対応は重要な課題であるが,様々な問題点が存在する.我々は,栄養士の災害時アレルギー疾患対応の現状とアンメットニーズを把握し,解決のためのより良いツールを開発することを目的としてアンケート調査を行った.日本栄養士会に所属する栄養士を対象に,インターネット調査を実施し,栄養士514名から回答を得た.災害時アレルギー疾患対応の情報を平時では電子媒体や講演会から得たいという回答が多かったが,災害時では紙媒体から得たいとの回答が多かった.災害支援活動中に食物アレルギー患者の対応を行ったのは26.6%であり,対応が必要な患者の約8割が小児患者であった.アレルギー食品を提供できたのが約8割で,24時間以内に提供できたのが7割であった.災害時に医師と協力して対応した事例は少数だったが,医師と協力して対応したいという意見は多かった.今回の調査で判明した栄養士のニーズに基づいて,平時では電子媒体や講演会,災害時では紙媒体として利用できるツールを開発し,情報発信していく必要がある.

    大規模災害時のアレルギー疾患患者対応について、栄養士へのアンケート調査を行った。食物アレルギー対応が必要な患者の76%程が小児例であり、様々な食品への対応が必要であった。災害時に医師と協力して食物アレルギー患者に対応したいと考える栄養士が多いことがわかった。 Fullsize Image
  • ―薬剤師へのアンケート調査―
    岡部 公樹, 吉川 知伸, 宮本 学, 金子 恵美, 吉田 幸一, 緒方 美佳, 渡邉 暁洋, 本村 知華子, 小林 茂俊
    2023 年 37 巻 5 号 p. 424-433
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/20
    ジャーナル 認証あり

    【目的】大規模災害現場で薬剤師がアレルギー疾患患者に対応する際の問題点,アンメットニーズを明らかにするため調査を行った.【対象と方法】災害医療に携わる薬剤師に日本薬剤師会,日本病院薬剤師会を介し無記名のWEBアンケート調査を行った.【結果】235名から回答を得た.アレルギー疾患に関する情報を平時は電子媒体で得たい薬剤師が多く,災害時はアプリ,紙媒体で得たい薬剤師が平時より増加した.アレルギーポータルや既存の資材の利用者は少なかった.支援で調剤・携行した薬は抗ヒスタミン薬が多かったが,アレルギー疾患関連薬剤の携行量や剤型の不足が問題であった.吸入補助器具やアドレナリン自己注射薬は携行数と比べ今後の携行が推奨されていた.患者指導で重要な事として79.6%の薬剤師が「避難時の薬剤手帳の携帯」と回答した.【結論】アレルギーポータルや資材の普及,支援時期毎の携行薬リスト作成,薬剤手帳を携帯して避難することの啓発が必要である.一方,使用期限の短いアドレナリン自己注射薬の災害時の供給方法は今後の課題である.

    災害時のアレルギー疾患対応に関して薬剤師に調査を行い、235名から回答を得た。抗ヒスタミン薬の調剤者数が多く、アドレナリン自己注射薬の調剤者数は少なかったが携行推奨者は多かった。アレルギー関連薬剤では携行量や剤型不足が問題であった。患者指導では避難時の薬剤手帳の携帯が重視された。 Fullsize Image
  • 大塚 行子, 松波 邦洋, 近藤 應, 金子 英雄
    2023 年 37 巻 5 号 p. 434-439
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/20
    ジャーナル 認証あり

    複数の食品摂取でアレルギー症状を誘発し,アナフィラキシーの既往が有るにも関わらず,経過で総IgE・Der f特異的IgEが急に感度以下になり,食物アレルギーが寛解した症例を経験した.

    症例は8歳女児.乳児期に小麦,牛乳,鶏卵摂取でアレルギー症状あり除去していた.3歳時小麦経口負荷試験では,ゆでうどん8gでアナフィラキシーショックとなり,4歳時に,総IgE値495IU/mL,小麦特異的IgE値55.8UA/mL,コナヒョウヒダニ(Der f)特異的IgE値>100UA/mLと最大値を示した.6歳時には総IgE,特異的IgEは検出感度以下となった.その後の小麦,牛乳,鶏卵の日常量経口負荷試験は陰性であった.

    当院通院中の牛乳アレルギー13例の総IgE・Derf特異的IgEの推移を検討したが,陰性化例は認めなかった.

    多抗原の感作既往にも関わらず総IgE,特異的IgEが急に陰性になる例は稀である.このようなIgE陰性化の機序を明らかにすることで,新たな治療法の開発に繋がることが期待される.

  • 三木 智貴, 田中 孝之
    2023 年 37 巻 5 号 p. 440-448
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/20
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    新生児―乳児食物蛋白誘発胃腸症は,新生児・乳児期にミルクまたは母乳を開始後,主として非IgE依存性のアレルギーの機序を介して消化器症状を呈する疾患である.当院で2016年から2021年までの6年間に出生し,本疾患と診断した31症例について後方視的に臨床的検討を行った.31症例中,28症例は治療として栄養法の変更で症状が改善した.残り3症例は栄養法の変更で部分的には症状が改善したが嘔吐症状が遷延した.これら3症例は上部消化管造影で胃食道逆流を認め,酸抑制剤・消化管運動機能促進剤などの追加や哺乳後の体位調整で症状の改善が得られたことから胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease:GERD)の合併と診断した.GERD合併と相関するリスク因子を同定することはできなかった.新生児―乳児食物蛋白誘発胃腸症と診断し,治療乳に変更後も嘔吐などの消化器症状が遷延する症例ではGERDなどの消化器疾患の合併を考慮することが重要である.

  • 田中 柚菜, 川端 彩由, 本山 結恵, 西田 紀子, 楠 隆
    2023 年 37 巻 5 号 p. 449-456
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/20
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    【背景及び目的】保育所における食物アレルギー(food allergy,FA)に対応した給食提供方法に対する職員の意識について,調査年別,及び重症児の有無別に比較する.【方法】2013年および2021年に滋賀県内の全認可保育所を対象に質問用紙を配布し,自由記述の「FAに対応した給食の具体的な提供方法」について,テキストマイニングによる解析を行った.【結果】特徴語の分析では2021年において,またアナフィラキシー疑い経験児在籍施設において「確認」が最も多く抽出された.共起ネットワーク分析により5カテゴリー,13コードが抽出された.2021年では2013年と比べて「食器を他児と区別する」「複数回確認する」が,またアナフィラキシー疑い経験児在籍施設では非在籍施設と比べて「ボードに表示する」「机を他児と区別する」が,各々有意に多かった.【結論】2013年と比較して2021年では,また重症児がいるほど,給食時の誤食事故予防に対する保育所職員の意識は高まっていた.

    滋賀県内の全認可保育所を対象に「FA に対応した給食の具体的な提供方法」(自由記載)について調査し、テキストマイニングによる解析を実施。2013 年と比較して2021 年では,また重症児がいる施設ほど,給食時の誤食事故予防に対する保育所職員の意識は高まっていた。 Fullsize Image
  • 石黒 奈緒, 中村 理恵, 根津 櫻子
    2023 年 37 巻 5 号 p. 457-466
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/20
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    ダニの舌下免疫療法(SLIT)を3年継続した小児患者61名の治療状況について検討した.日常診療に用いている独自のSLIT評価表から,治療開始時,治療1年目,2年目,3年目の4時点における,鼻炎に関連した症状21項目及び副反応17項目(VAS形式),治療アドヒアランスに関する5項目(回答選択形式)を後方視的に調査した.治療開始時では「鼻が詰まっている」のVAS中央値が最も高く,次いで「皮膚がかゆい」だった.鼻,皮膚,眼症状など11項目では観察時点間に有意差を認め,全ての時点で治療開始時と比較し有意に減少した.総副反応は治療開始時に35例,治療3年目では20例,副反応件数としては口腔内に関する症状が観察期間を通じて多く認められた.副反応による影響については治療3年目で1名がつらい,4名が少しつらいと回答した.3年間の小児ダニSLITは鼻症状等の改善に有効である一方,治療3年目においても副反応や治療の困難感の訴えを示す患者は存在しており,治療サポートの際に配慮すべき点といえる.

    ダニ舌下免疫療法を3年継続した小児患者61名の治療効果について、日常診療に用いている独自の治療評価表を後方視的に検討した。鼻、眼症状など多くの項目で治療1年目から自覚症状に改善がみられた。一方、治療3年目でも副反応や治療への困難感を示す患者がおり、継続的な個別の支援が必要である。 Fullsize Image
総説
  • 長谷川 俊史, 有吉 平, 手塚 純一郎, 坂田 恭史, 兼安 秀信, 岡田 裕介, 木村 献
    2023 年 37 巻 5 号 p. 467-476
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/20
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    小児気管支喘息の発症及び急性増悪においてウイルス感染は重要な要因の一つである.これまでにライノウイルス,respiratory syncytialウイルスなどの感染に関する報告は多く,さらに近年はヒトメタニューモウイルス,2009年に流行したA(H1N1)pdm09およびエンテロウイルスD68による急性増悪に関する報告も見られるが,新型コロナウイルスに関する報告は多くない.

    著者らが行った新型コロナウイルス流行以前の3年間の研究調査では,喘息急性増悪のため入院した患児の入院時の鼻咽頭ぬぐい液検体からライノウイルスが最も多く検出され,これらは既報告と類似した結果であった.

    2009年のA(H1N1)pdm09の流行では小児気管支喘息患者において肺炎,重症急性増悪などの重篤な呼吸器合併症が多く見られた.現在著者らは喘息マウスモデルを用いて小児気管支喘息患者におけるA(H1N1)pdm09感染による重症呼吸器合併症の病態解明,治療法及び予防法の確立を目指している.

    本稿では著者らがこれまで行ってきた小児気管支喘息におけるウイルス感染による重症呼吸器合併症の病態解析に関する基礎および臨床研究の成果の一端を紹介する.

  • 夏目 統, 加藤 由希子, 安岡 竜平
    2023 年 37 巻 5 号 p. 477-483
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/20
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    近年,薬物アレルギーの分野では,“de-labeling”(一旦薬物アレルギーと診断されたラベルを正しい診断で剝がすこと)の重要性が説かれており,慎重かつ正しい診断が求められている.

    診断において,即時型薬物アレルギーでは,皮膚プリックテスト,皮内テストの後に薬物誘発試験(drug provocation test:DPT)を行う.補助的に好塩基球活性化試験や薬物特異的IgE検査を行うこともできるが保険適用外である.非即時型薬物アレルギーでは,皮内テスト,もしくは,パッチテストを行い,DPTを行う.薬物リンパ球刺激試験(DLST)については,使用を推奨する根拠となる報告は少なく,これのみで薬物アレルギーの診断を下すことは,“誤ったlabeling”の可能性があり,注意が必要である.

    本稿では,薬物アレルギーの定義と分類,そして診断のためのDPTまでの道筋について,さらに各論として鑑別頻度の高い抗菌薬アレルギーの精査の流れについて概説する.

解説:免疫アレルギー疾患における分子標的薬
  • 八木 久子
    2023 年 37 巻 5 号 p. 484-490
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/20
    ジャーナル 認証あり

    メポリズマブは,2012年に気管支喘息に対して承認されたヒト化抗IL-5モノクローナル抗体製剤であり,現在6歳以上の難治性喘息,成人の既存治療で効果不十分な好酸球性多発血管炎性肉芽腫症に保険適用がある.IL-5,すなわち好酸球を標的とし作用して,好酸球性炎症を抑制することで好酸球性疾患において効果を発現する.喘息においては末梢血好酸球数が多いほど増悪抑制効果が高いことが示されていることから,バイオマーカーなどを活用し個々の病態を把握した上で選択することが重要である.本稿では,IL-5および好酸球の機能に焦点を当て,保険適用のある2疾患におけるメプリズマブの効果発現機序や適応などについて解説する.

  • 田中 裕也
    2023 年 37 巻 5 号 p. 491-496
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/20
    ジャーナル 認証あり

    ベンラリズマブは抗IL-5Rα抗体であり,IL-5受容体を介した作用とADCC活性による好酸球のアポトーシスの誘導という異なる2つの作用により強力な好酸球抑制効果を持つ.各種臨床試験にて好酸球増多が認められた症例において,喘息増悪抑制効果,呼吸機能改善効果,全身ステロイド減量効果が認められている.副作用は他の生物学的製剤と相違は認められない.自己注射製剤はないが,維持期において投与間隔が8週間と長いことが特徴である.本邦においてベンラリズマブは小児適用がなく,成人に適用がある薬剤である.成人の難治性喘息で,II型炎症を認める患者のうち好酸球増多が認められる患者には投与が検討される薬剤である.

  • 松﨑 寛司, 小田嶋 博
    2023 年 37 巻 5 号 p. 497-504
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/20
    ジャーナル 認証あり

    アトピー性皮膚炎は,「皮膚バリア機能異常」,「アレルギー性炎症」,「掻痒」の3つの要素が互いに影響して病態を形成している.アトピー性皮膚炎において掻痒は最も重要な臨床症状であり,病態だけではなく,患者のquality of life(QOL)にも大きく影響する.近年,起痒物質としてインターロイキン31(IL-31)が同定され,慢性的な掻痒に関与していることが分かってきた.ネモリズマブは,IL-31の受容体であるIL-31受容体α(IL-31RA)を標的としたヒト化抗IL-31RAモノクローナル抗体であり,IL-31と競合的にIL-31RAに結合して,IL-31のシグナル伝達を阻害することで掻痒を抑制する.その結果,皮膚症状も改善し,患者のQOLまで改善することが臨床試験から報告されている.新たな治療選択肢となる一方で,使用上の注意点もあり,それらを十分に理解した上で,掻痒に悩むアトピー性皮膚炎患者の診療に役立てていくことが重要である.

  • 堀向 健太
    2023 年 37 巻 5 号 p. 505-512
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/20
    ジャーナル 認証あり

    ホスホジエステラーゼ(PDE)は,1958年に発見された,環状アデノシン―リン酸(cAMP)や環状グアノシン―リン酸(cGMP)のリン酸ジエステル結合を加水分解する酵素である.PDE4は,11のPDEサブタイプ中もっとも多くの種類があり,cAMPとcGMPのシグナル伝達経路を介し多様な生理機能の調節に関与する.1977年に開発されたロリプラムはPDE4阻害薬の先駆けとなったが,PDE4のサブタイプの構造の類似性のため,PDE4阻害薬の多くが副作用のため使用が中止された.その後,サブタイプ特異的な阻害剤の開発は難航していたが,2022年にジファミラスト軟膏がアトピー性皮膚炎の外用薬として開発され,その有効性と安全性が確認された.日本のアトピー性皮膚炎治療において,ジファミラスト軟膏は,ステロイド外用剤,タクロリムス軟膏,デルゴシチニブ軟膏に続く第4の新たな治療薬としての位置を占めるようになっている.本稿では,PDE4阻害薬の変遷と,ジファミラスト軟膏の特性について概観した.

  • 梶田 直樹, 吉田 幸一
    2023 年 37 巻 5 号 p. 513-518
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/20
    ジャーナル 認証あり

    アトピー性皮膚炎の炎症に関わる多くのサイトカインのシグナル伝達において,JAK/STAT経路が関与する.近年,本邦から発売されたデルゴシチニブは,JAKファミリーのすべてのキナーゼ活性を阻害する外用剤であり,Th2サイトカインを始めとしたアトピー性皮膚炎の炎症に関わる種々のサイトカインを抑制することで治療効果を得る.小児を対象としたデルゴシチニブの第II層,第III層臨床試験ではアトピー性皮膚炎の重症度の改善や痒みの改善効果がみられており,ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏以外の新たなアトピー性皮膚炎の外用治療薬の選択肢の一つとして期待される.本稿では,アトピー性皮膚炎の病態におけるサイトカインの分子機序を併せて,デルゴシチニブについて解説する.

  • 樺島 重憲
    2023 年 37 巻 5 号 p. 519-526
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/20
    ジャーナル 認証あり

    アトピー性皮膚炎の新規治療薬として,主にJAK1およびJAK2を阻害するJAK阻害薬が注目されている.アトピー性皮膚炎の病態形成に関わるIL-4,IL-13,IL-22,TSLPといった複数のサイトカインの細胞内シグナル伝達を遮断することにより良好な治療効果を発揮する一方,JAK1およびJAK2以外のJAKファミリー分子への影響が少ないため,全身投与を行っても重篤な副作用を生じにくいことが報告されている.臨床的特徴の一つは,投与開始後の効果発現が早いことである.投与開始数日で掻痒感が軽減し,長期に投与を継続しても効果の減弱は見られず,投与終了後には比較的速やかに効果が消失する.2023年6月現在,本邦ではアトピー性皮膚炎の治療薬として3種類の経口JAK阻害薬が上市されているが,いずれも高価であり,その切れ味のよい特性を活かすなら,中等症から重症の患者の治療を行う際の寛解導入に用いたり,急性増悪時にステロイド外用薬への追加治療として用いたり,といった使用法が考えられる.

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