順天堂医学
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35 巻, 3 号
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目次
Contents
特集 妊娠と合併症
  • 橋本 博史, 坂本 光隆
    1989 年 35 巻 3 号 p. 293-302
    発行日: 1989/10/20
    公開日: 2014/11/20
    ジャーナル フリー
    妊娠可能年齢層に好発するSLEは, 遺伝学的にpolygeneと考えられるが, その患者の妊娠・出産は, 意図的に抑制する傾向は少なく, むしろ増加傾向にある. SLEにおける妊娠・出産は, SLE発症の誘因のみならずSLEの憎悪因子でもあるが, SLEが寛解状態にあれば, 多くは出産可能である. しかしながら, 児に及ぼす影響が大きく, 自然流産・子宮内胎児死亡・胎内発育遅延などが高率に認められる. その要因の1つにループス抗凝固因子があげられる. また, 新生児ループスを認めることがあり, これはSS-A抗体・SS-B抗体との関連性が示唆されている. SLE患者が妊娠・出産を希望する場合には, 疾患活動性, 重症度, 治療薬剤の影響, 上記自己抗体の存在に伴うリスク, さらには家庭環境を含め説明し助言する必要がある. SLEにおける妊娠には, 数多くの問題が提起され, その解明には体系ずけられた組織による共同研究が必要と思われる.
  • 吉田 幸洋
    1989 年 35 巻 3 号 p. 303-311
    発行日: 1989/10/20
    公開日: 2014/11/20
    ジャーナル フリー
    全身性エリテマトーデス (SLE) 合併妊娠は, 近年増加の傾向にある. その理由は, 管理治療方法の進歩による長期寛解例が増え, 妊娠を許可される例が多くなったことによる. しかしながら, 流早産や低出生体重児の頻度は依然として高く, 妊娠中の産科的管理はきわめて重要である. 1979年以降, 当科で管理したSLE合併妊娠105例について検討し, 周産期管理上重要と思われる点に関して以下の結論を得た. (1) 母体の条件のうち, 腎障害例・ループス抗凝固因子陽性例は母児双方にハイリスクである. (2) 妊娠中の血清補体価は児の予後を良く反映する. (3) 超音波断層法は, 子宮内胎児発育遅延や羊水過少の診断のみらず, 先天性胎児完全房室ブロックなど心拍異常の出生前診断に役立つ. また超音波パルスドプラー法による胎児胎盤循環動態の把握は, 胎児の状態を良く反映し, 予後の判定や分娩の時期の決定に有用である. (4) 妊娠中期の心拍モニタ上にあらわれるnon-periodic decelerationは予後不良の徴候である.
  • 入戸野 博, 渡辺 豊彦, 中津 典子, 森 俊夫, 丸山 剛志, 林 泉彦, 時田 章史, 大日方 薫
    1989 年 35 巻 3 号 p. 312-317
    発行日: 1989/10/20
    公開日: 2014/11/20
    ジャーナル フリー
    B型肝炎を撲滅するために, HBe抗原が陽性の母親から1986年1月1日以後に出生した児に対して, 公費負担による感染防御措置が開始された. その結果, キャリア化は5%程度に減少し, 95%は感染をまぬがれると期待されている. 本稿では, 著者らが経験した症例を提示し, またHBVの母児間感染防止における今後の問題点, およびリコンビナントHBワクチンの効果について述べた.
  • 鈴木 正明
    1989 年 35 巻 3 号 p. 318-325
    発行日: 1989/10/20
    公開日: 2014/11/20
    ジャーナル フリー
    Sexually transmitted diseases (STD) は性交または類似の性行為により感染する疾病である. 最近のSTDの傾向として, クラミジア感染症・外陰尖圭コンジローマおよび性器ヘルペス症が増加している. これらSTDは, 妊娠適齢期である20-30歳台にもっとも多く, 妊婦に合併することもまれでない. 1) 妊婦におけるChlamydia trachomatis感染: 順天堂医院産婦人科における妊婦のChlamydia trachomatis (C, trachomatis) 感染のスクリーニングにおいて, 抗原の陽性頻度は17/331 (5.1%), 活動性感染の示標であるIg A抗体陽性頻度は43/390 (11.0%) を示した. 今後, 妊婦におけるC. trachomatis感染のスクリーニングは欠かすことができない. またC. trachomatisの母児垂直感染は産道感染が主であり, その代表的なものが新生児結膜炎と肺炎である. その予防のためには少なくとも妊娠32週頃までにC. trachomatis抗原・抗体検査を施行し, 感染例にはエリスロマイシン1200mg-2000mg14日間投与する. 2) 妊婦におけるHerpes simplex virus感染: Herpes simplex virus (HSV) はI型とII型があり, 近年の傾向として性器からのI型の検出頻度が増加している. またHSVは, 細胞破壊性の強いウイルスであり, 新生児に感染すると予後が悪く死亡率の高いことが注目されている. 性器ヘルペスの経胎盤感染は比較的まれであり, 風疹ウイルスのように奇形を発症することはないと考えられ, 産道感染がほとんどである. 妊婦の初感染例では, 非妊時に比較して細胞性免疫能が低下しているためウイルスが1カ月以上の長期に認められる例もあり, 発症より1カ月以内ならば帝王切開をすべきであるとするものが多い. また近年開発された性器ヘルペスに有効なAcyclovirは, 妊娠末期ならば胎児への影響は少なく使用される傾向にある. 3) 妊婦におけるHuman papilloma virus感染: 妊婦に合併したHumanpapilloma virus (HPV) 感染は, しばしば重症化することが知られている. Podophirin・5-FU軟膏は非妊時と異なり使用できないため, 外科的切除・凍結療法・電気凝固・レーザーが用いられる. また, 外陰HPV感染 (尖圭コンジローマ) が認められた例における子宮頸部病変合併頻度は, 非妊婦に比較して高率であるため子宮頸部の検索の重要性が示唆される. さらにHPV感染の母児垂直感染は産道感染であり, 喉頭乳頭腫の発症と関係あるが, この感染率は0.1-1.0%の低い頻度である. 現段階では帝王切開の適応となる例は少ないが増悪例では帝王切開を行う.
  • 久保田 武美
    1989 年 35 巻 3 号 p. 326-333
    発行日: 1989/10/20
    公開日: 2014/11/20
    ジャーナル フリー
    妊婦に対しても感染症の治療・予防の目的で抗生剤を投与する機会が多い. 1) 順天堂大学浦安病院での1988年上半期における調査では, 妊婦300人のうち約20%が妊娠中のいずれかの期間に抗生剤をはじめとする抗菌剤の使用をしていた. 2) 妊婦での抗生剤の血中濃度は非妊婦 (非妊時) に比べ低下するものが多いとされ, また妊娠中毒症での腎機能障害のある例においては, 血中濃度の異常な上昇に注意する必要がある. 3) 胎児・新生児障害の危険性がある薬剤には, テトラサイクリン系・クロラムフェニコール・ストレプトマイシン・サルファ剤などがあり, ピリドンカルボン酸系も妊婦では避けたほうがよい. 4) 胎児, 羊水感染に対してはβラクタム剤の使用がよい. 5) 妊婦の一般感染症に対してはβラクタム剤が主として用いられ, その他エリスロマイシンなども使用される. 6) 常用抗生剤の乳汁中への移行は微量であるとされるが, 授乳中に避けたほうがよい薬剤もある.
  • 東島 利夫
    1989 年 35 巻 3 号 p. 334-343
    発行日: 1989/10/20
    公開日: 2014/11/20
    ジャーナル フリー
    近年, 従来は不可能とされてきた糖尿病婦人の出産も可能となってきたが, 糖尿病の存在は, 母体にとっても, 胎児にとっても大きなriskであることに変わりはない。それを阻止するためには, 厳格な血糖の規制が必須条件であり, insulin強化療法や人工膵臓による血糖の制御が必要である。一方, 大部分の糖尿病妊婦は妊娠中に発見されるまで, 糖尿病の存在を知らないことが多い。しかし, 軽度の高血糖状態であっても妊娠と胎児のriskは同じとされている。従って, 早期に診断し, 治療を行う必要があるが, 妊娠中の耐糖能は妊娠のstageでも変化がみられ, 非妊娠時の診断基準をそのまま用いることは出来ない。 以上の観点から糖尿病と妊娠について, 妊娠中の耐糖能異常の診断と糖尿病妊娠の管理を中心に概説した。
  • 橋本 武次
    1989 年 35 巻 3 号 p. 344-350
    発行日: 1989/10/20
    公開日: 2014/11/20
    ジャーナル フリー
    糖尿病の女性でも血糖を正常にコントロールすれば, 妊娠・分娩が可能であると考えられるようになった. ここでは糖尿病合併妊娠の産科的管理について述べる. 1. 妊娠糖尿病は母児に異常を発生する率が高く, 母体はしばしば真性の糖尿病に発展する可能性がある. 当科では, これらの糖尿病のリスク因子をもつ症例について積極的にスクリーニングして, 妊娠糖尿病の早期診断に努めている. 2. 糖尿病合併妊娠の産科的異常: 母体には妊娠中毒症や羊水過多などが多く, 児の異常としては周産期児死亡と先天奇形の発生率が高く, 巨大児や未熟児, 低血糖, 呼吸障害などがある. 3. 糖尿病合併妊娠の産科的管理: 1) 母児の異常が母体糖尿病の重症度に比例して発生することから, 妊娠前および妊娠中の母体糖代謝をコントロールすることが基本的に大切なことである. 2) 胎児管理: 次の諸検査を行って常に胎児の健康状態を把握しておく. a. 胎児の発育度 b. 胎児の肺成熟度 c. 胎児奇形スクリーニング d. 胎児胎盤機能 e. 胎児心拍数モニタリング f. 胎児の行動・胎児血行動態 3) 分娩は原則的には正期産の自然分娩でよい. しかし糖代謝が不良であったり, 胎児のリスクが予測される場合は, 積極的に早期産・予定日前の帝王切開を考慮すべきである.
  • --周産期の精神障害についての調査--
    長坂 仁, 犬塚 峰子, 阿部 輝夫
    1989 年 35 巻 3 号 p. 351-357
    発行日: 1989/10/20
    公開日: 2014/11/20
    ジャーナル フリー
    今回われわれは, マタニティーブルーおよび妊産婦の精神障害の実態を調査するため, 順天堂大学浦安病院産婦人科外来および病棟で, 妊産婦に妊娠前期 (N=222) ・妊娠後期 (N=158) ・出産直後 (N=138) ・出産1ヵ月後 (N=60) の時点で, それぞれうつ病スケールなどによるアンケート調査を行った. うつ病スケールの得点は年齢が低い層が高く, また出産後よりも出産前に高い傾向が見られた. 出産1ヵ月後のアンケートではマタニティーブルーの3主徴である, 憂うつ感・涙もろさ・集中力欠如を自覚した人の頻度はそれぞれ56.9% 37, 9% 34.5%であった. 年齢の低さとこれらの3主徴はともに有意な相関を示し, さらに涙もろさは初回出産との間にも有意な相関を示した. アンケートを実施した約4ヵ月間 (延べ人数578人) に精神科的関与を必要としたのは4名 (0.7%) で, 1名がうつ病, 残り3名は夫婦関係の悪化による反応性抑うつであった.
  • 産科の立場から
    高瀬 幸子
    1989 年 35 巻 3 号 p. 358-362
    発行日: 1989/10/20
    公開日: 2014/11/20
    ジャーナル フリー
    いわゆるマタニティーブルーの症状を示した症例を2例提示し, 精神科的関与の必要性を判断するためのポイントを検討・考察した. 1例は典型的マタニティーブルーの症例で, 精神科的関与を必要とせず軽快した. 1例は産褥期精神病 (現在でいう非定型精神病) に進展し, 精神科的治療を必要とした症例である. これら2例の相違点から, 予後を左右する症状観察のポイントは (1) 症状の持続時間 (2) 抗不安薬の効果 (3) 児に対する態度などであろうと思われた.
総説
  • --〈人工膵臓〉による糖尿病の治療--
    東島 利夫, 藤井 克己, 有坂 知之, 望月 健太郎, 広瀬 俊一
    1989 年 35 巻 3 号 p. 363-368
    発行日: 1989/10/20
    公開日: 2014/11/20
    ジャーナル フリー
    人工膵臓は血糖測定装置・コンピューター・インスリン・ブドウ糖注入装置からなる体外式の血糖調節装置であり, 糖尿病性ketoacidosis・不安定型糖尿病・糖尿病妊婦・糖尿病患者の血液透析-外科手術, insulinoma・各種低血糖症などにおける血糖コントロールは無論のこと, 細小血管病変・動脈硬化などの合併症防止のために, 人工膵臓を用いた血糖・hormoneならびに種々の代謝変動の解析は, 糖尿病患者の治療指針を決定するうえで必須事項になってきている. 順天堂医院においても, 昭和57年より『高度先進医療』として, さらに昭和61年より人工膵臓室が開設され, 〈人工膵臓〉を用いた糖尿病の治療を行っており, 現況を含め人工膵臓の臨床的解説を行った.
原著
  • 権藤 守男
    1989 年 35 巻 3 号 p. 369-378
    発行日: 1989/10/20
    公開日: 2014/11/20
    ジャーナル フリー
    1.4cm以下の肝転移巣108例について超音波 (US) とCTの存在診断能を比較検討した. sensitivityはUS 96% CT 79%とUSの方が優れ, とくに1cm以下ではUS 83% CT 46%とその差は顕著であった. USの診断能が低いのはS7, 8領域であった. specificity, accuracyは両者とも99%と大差はなかった. 2. 転移性肝癌245例について原発巣別・組織型別・大きさ別に超音波所見の検討を行った. その結果, 大腸癌・胃癌などの消化器系癌の場合は, 小さい転移巣では肝より低いecho level (EL) を示すものがあるが, 大きくなるにつれELは上昇し, 4cmを超えると肝より低いものはなく, marginal hypoechoic zone (MHZ) や中心液化, bull's eye signを呈する頻度の上昇が認められた. 3. 大腸癌・胃癌では組織型による所見の有意差は認められなかったが, 胃平滑筋肉腫は中心液化をきたす傾向が強かった. 4. 剖検肝16例を用いてUS所見と病理組織所見との対比を行った. ELの上昇は壊死の程度と比例し, MHZの所見は転移巣と周囲肝組織間の浮腫性変化に基づいていた. 化学療法後の周囲肝のELの上昇は脂肪変性と壊死によるものであった. 5. 転移性肝癌の化学療法の効果判定には, 内部エコーの均一なELの上昇やMHZの消失の有無が手がかりとなる可能性が示唆された.
  • 吉方 りえ
    1989 年 35 巻 3 号 p. 379-391
    発行日: 1989/10/20
    公開日: 2014/11/20
    ジャーナル フリー
    眼科・形成外科領域において, 眼瞼部や眼窩部の再建術の際に, 自家耳介軟骨ならびに同種保存強膜を用いることがある. 今までに多くの臨床例が報告されているが, 移植組織の消長については未だ不明の点が多い. 著者は, 結膜・瞼板の補填を目的として, 自家耳介軟骨ならびに同種保存強膜を眼瞼部へ移植した場合の, 病理組織学的変化を観察するために, 白色家兎を用い移植実験を行った. また同時に異なった移植床である眼瞼部結膜下・背部皮下・背部筋層内へも移植を行い, 移植組織の病理組織学的変化の違いについて比較・検討を行った. 眼瞼部に結膜・瞼板の補填を目的として移植した場合, 自家耳介軟骨は移植後24週を経過しても, 比較的移植時の形状を保ち, 移植組織周囲の線維化が高度に見られた. 一方, 同種保存強膜は移植後24週経過すると, 周囲結合組織に置き換わり, 移植時の形状を保っていなかった. また, 移植組織周囲の線維化は軟骨移植群に比較して極めて軽度であった. 従って, 移植の主目的である支持性に関して, 自家耳介軟骨が信頼性のある組織であることが確認された. 眼瞼部結膜下・背部皮下・背部筋層内に移植した場合, 自家耳介軟骨・同種保存強膜の両者ともに, 筋層内に移植した際に移植組織自身の変化, ならびに移植組織周囲の炎症反応が最も高度であった. このことは, 筋層内では移植組織が筋肉線維による摩擦と, 筋肉の収縮・弛緩という刺激を常に受けているためと考えられた.
  • 及川 洋子, 山中 修, 飯島 敏彦
    1989 年 35 巻 3 号 p. 392-396
    発行日: 1989/10/20
    公開日: 2014/11/20
    ジャーナル フリー
    胆管細胞癌 (肝内胆管癌) は比較的稀な疾患であり, 早期診断を下すことは容易でないが, 本症では血清胆管系酵素が早期に上昇する特徴がある. 今回はこれと同時に血清CA19-9を測定してスクリーニングテストとしての有用性を検討した. 対象はALP・γ-GTP・LAPのうち2項目以上が異常値示し, 最終的に確定診断をえた245例である. このうち, 血清CA19-9が異常を示したものは62例で, 36例は消化器系悪性腫瘍であり, 胆道系癌は14例であった. その内訳は胆管細胞癌6例 胆嚢癌2例 胆管癌6例で, 血清CA19-9はすべてが10Iu/ml以上を示し, 特に胆管細胞癌では1例を除いて100Iu/ml以上の高値を示した. さらに胆管系酵素上昇例に対する血清CA19-9上昇例および非上昇例の出現率を算出すると, 胆管系癌にのみ有意差が認められた. 以上の結果より, 胆管系酵素の上昇を示した例で同時にCA19-9が異常な高値を示す症例は胆管細胞癌である可能性が強く示唆され, この両者を測定することにより胆管細胞癌のスクリーニングとしての意義があるものと考えられた.
  • --前腹側脳室周囲核の体積変化とアンドロゲンの芳香化--
    町田 正弘
    1989 年 35 巻 3 号 p. 397-403
    発行日: 1989/10/20
    公開日: 2014/11/20
    ジャーナル フリー
    視束前野の前腹側脳室周囲核 (anteroventral periventricular nucleus of the preoptic area: AVPvN) は性的二型性を示し, この神経核の体積は雌の方が雄に比べて大きいことが知られている. 本実験では, AVPvNの体積に対する生後早期発育期における性スイテロイド剤と抗エストロゲン剤 (タモキシフェン) 投与による影響を検討した. 実験は雌ラットに出生日より生後5日までの5日間, 皮下注射によりtestosterone (T) 500μg・5α-dihydrotestosterone (DHT) 500μg・estradiol (E2) 50μg・T500μgとタモキシフェン100μgをそれぞれ連日投与した4群に分け, さらにゴマ油みのを投与した群を対照として, 各群とも90日齢に屠殺しAVPvNの体積を比較検討する方法により行われた. AVPvNの体積は正常の雄に比べ正常の雌の方が有意に大きく, 約2.6倍であった. T投与群・E2投与群ともにAVPvNの組織像は雄のものに近くなり, その体積は正常雌群と比べて有意に減少し, 対照の雄と差は認められなかった. 5-αDHT投与群でも正常雌群と比べるとAVPvNの体積が有意に減少したが, T投与群・E2投与群, 雄の対照群よりは有意に大きかった. またTとtamoxifen同時投与群では, AVPvNの組織像も正常雌群のものに近く, その体積は対照の正常雌群と有意差が認められなかった. 以上の成績から, E2にも新生仔期のAVPvNの発育過程においてT類似の働きがあることが示唆され, Tと抗エストロゲン剤 (タモキシフェン) を同時に投与した群において, Tを投与したにもかかわらずAVPvNの体積減少が見られなかったことは, Tが芳香化酵素の作用によってエストロゲンに転換されてAVPvNに作用したものと思われる.
  • 村上 晶
    1989 年 35 巻 3 号 p. 404-412
    発行日: 1989/10/20
    公開日: 2014/11/20
    ジャーナル フリー
    マルファン症候群患者18例の皮膚線維芽細胞を培養し, [3H] -prolineで標識されたタンパク質について分析を行った. I型プロコラーゲンとその代謝産物・ファイブロネクチン・少量のIII型コラーゲンが培養液中に認められた主なタンパク質であった. SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動による検討において, I型・III型プロコラーゲンおよび, I型・III型コラーゲンについては, コントロールとくらべ泳動度に差は認められなかった. しかし, 18例中4例のマルファン症候群患者の培養液中に還元後, 分子量約185KDaのバンドが検出された. この185KDaのバンドは, 29例のコントロールにおいては検出されなかった. ペプシン消化・コラーゲナーゼ消化・免疫沈降法・CNBrペプタイド-マッピングによる検討により, この185KDaのバンドはIV型コラーゲンα1鎖であると考えられた. マルフアン症候群の臨床症状と皮膚線維芽細胞のIV型コラーゲンの産生との間にあきらかな関連は認められないが、本症における何等かのコラーゲン代謝に関する異常を反映しているものと思われる.
  • 榊原 敬, 巾 尊宣, 榊原 宣
    1989 年 35 巻 3 号 p. 413-417
    発行日: 1989/10/20
    公開日: 2014/11/20
    ジャーナル フリー
    順天堂大学第1外科における1988年 (1987年12月1日-1988年11月30日) の死亡症例を集計した. この間の入院患者総数は762例, 死亡数は66例, 死亡率8.7%であった. 悪性疾患と良性疾患に分けてみると, 悪性疾患による死亡が59例 (89.4%) と良性疾患による死亡7例 (10.6%) に比べ多数を占めていた. 悪性疾患による死亡では, 胃癌が25例 (37.9%) ともっとも多く, ついで膵癌9例 (13.6%) ・食道癌8例 (12.2%) ・結腸癌6例 (9.1%) ・直腸癌4例 (6.1%) の順に多くみられた. その死因をみれば, 医療水準の向上にともない変遷がみられた. すなわち, 術後出血や縫合不全など術後合併症による手術死亡例の減少とともに, 良性疾患の死亡例が減少し, 相対的に悪性疾患による転移・再発死亡例が増加していた. 良性疾患による死亡では消化管穿孔3例・腸間膜動脈血栓症2例・その他2例であった. これらの多くは70歳以上の高齢者でああり, 全身状態が不良であった. 以上より, 今後悪性疾患では早期発見および集学的治療の検討, 良性疾患では総合的な診療システムを含め, より厳重な患者管理が必要であると考えられた.
てがみ
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