【目的】膝前十字靭帯(Anterior Cruciate Ligament:以下,ACL)自己治癒モデルマウスに対する運動介入が,治癒ACLにもたらす影響を検討した。【方法】C57BL/6マウス32匹を対象にACLを切断,脛骨前方変位制動術(Controlled Anterior Tibial Translation:以下,CATT)後,4週時点から2種類のリハビリテーション(脛骨制動術の除去(de-CATT)・トレッドミル運動(Exercise:以下,Ex))を実施した。その組み合わせによりCage Activity(以下,CA)/CATT,CA/de-CATT,Ex/CATT,Ex/de-CATTの4群に分類した。損傷後8週時点で膝関節を採取し,治癒ACLの連続性と成熟度評価,また脛骨前方引き出し試験,破断強度試験を実施した。【結果】全群でACL治癒を確認した。Ex群では治癒の成熟度が高い傾向,Ex/de-CATT群で強度が高い傾向を示したが,統計学的有意差は認めなかった。【結論】自己治癒したACLに対する運動介入は治癒を阻害せず,ACLの治癒・成熟を促進する可能性を示唆した。
【目的】高齢心臓外科手術患者におけるShort Physical Performance Battery(以下,SPPB)と入院関連能力低下(Hospital-acquired disability:以下,HAD)との関連を検討することである。【方法】65歳以上の心臓外科手術患者117例(年齢73.5±5.4歳)を対象とした。術前に比して退院時の機能的自立度評価表(Functional independence measure:以下,FIM)下位項目のいずれかひとつでも5点以下となった場合をHAD発症と定義し,SPPBとの関連を調査した。【結果】HAD発症率は20.5%であった。術後歩行自立日数とともに,術前SPPBはHAD発症の独立した関連因子であり,カットオフ値は10点であった。また,HAD発症群におけるSPPB各ドメインとFIM下位項目に相関を認めた。【結論】高齢心臓外科手術患者における術前SPPBは,HAD発症の関連因子であり,術後低下が予測されるFIM下位項目をスクリーニングするツールとして活用できる可能性が示唆された。
【目的】Spinal Cord Injury Functional Ambulation Inventory(以下,SCI-FAI)を翻訳し,信頼性を検討した。【方法】国際基準に準じてSCI-FAIを日本語へ翻訳した。不全脊髄損傷者34名を対象とした。評価者2名が動画上でSCI-FAI評価を2回実施した。級内相関係数,Cronbachのα係数,Weighted K係数,Bland-Altman分析を用いて信頼性を確認した。【結果】検者内信頼性Intraclass Correlation Coefficients(以下,ICC)(1, 1)は0.928~0.973,α係数0.967~0.986,K係数は0.713~1.00,1名の評価者に固定誤差・比例誤差が確認された。検者間信頼性ICC(2, 1)は0848,α係数は0.916,K係数は0.349~0.899,固定誤差,比例誤差は確認されなかった。【結論】日本語版SCI-FAIは本邦の臨床設定において信頼性を有する評価であることが確認された。
【目的】脳卒中片麻痺患者1例に対し,ウェルウォークのアシスト機能を用いた高速度歩行練習がトレッドミル練習と比較し歩行速度の改善に有効か検証した。【対象および方法】対象は視床出血により右片麻痺を呈した50歳代女性である。AB型シングルケースデザインを用いて,A期はトレッドミル,B期はウェルウォークを用いた歩行練習を各8日間実施した。評価項目は快適および最大歩行速度とした。解析は各期の回帰係数を比較するとともに,標準偏差帯法によりA期の平均値+2 Standard-deviation(SD)に対するB期の上位数を二項分布で検定した。【結果】快適,最大歩行速度いずれもB期の回帰係数が大きく,二項分布の結果,B期で有意な改善を認めた(p<0.05)。練習中のトレッドミル速度はB期において高値であった。【結論】脳卒中片麻痺患者に対するウェルウォークのアシスト機能を用いた歩行練習は,高速度な練習環境の提供を可能にし,歩行速度の向上に有効な可能性が考えられる。
【目的】COVID-19により重症の急性呼吸窮迫症候群(Acute Respiratory Distress Syndrome:以下,ARDS)を呈した患者に対して急性期から病期に応じた理学療法を実施し,良好な転帰をたどったため報告する。【症例紹介】症例はCOVID-19重症化リスク因子を多く有する72歳男性。COVID-19の重症化により他院から搬送後,重症ARDSと判断され第3病日より呼吸理学療法,腹臥位療法を開始した。第12病日に人工呼吸器離脱し,集中治療関連筋力低下(Intensive Care Unit-Acquired Weakness:以下,ICU-AW)と運動誘発性低酸素血症(Exercise-Induced Hypoxemia:以下,EIH)による日常生活動作(Activities of Daily Living:以下,ADL)の低下に対して,段階的に離床と運動療法を実施した。第29病日にICU-AWの状態を脱し,病棟ADL自立したが,第40病日の転院時までEIHは残存した。【結論】重症化リスクの高いCOVID-19患者に対し,病期に応じた理学療法により呼吸状態の改善,ADLの改善に寄与できたが,EIHは残存したため長期的な理学療法実施の必要性が示唆された。