理学療法学
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35 巻, 2 号
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原著
  • ―Ten Step Testを用いて―
    宮本 謙三, 竹林 秀晃, 滝本 幸治, 井上 佳和, 宅間 豊, 宮本 祥子, 岡部 考生, 森岡 周, 八木 文雄
    原稿種別: 本文
    2008 年35 巻2 号 p. 35-41
    発行日: 2008/04/20
    公開日: 2018/08/25
    ジャーナル フリー
    運動機能は加齢と共に低下するが,敏捷性機能の変化過程は十分明らかにされていない。我々は身体の敏捷性を全身を用いた動作速度に運動反応や運動の切り換えが内包されたものと定義し,Berg Balance Scaleを参考にした高齢者向けの簡便な敏捷性テスト「Ten Step Test(TST)」を考案した。そして,その信頼性と妥当性を検討した上で,加齢に伴う敏捷性機能の変化過程を明らかにした。対象は地域居住の健康成人828名(男性266名,女性562名)である。高齢者健診や基本健診,高齢者の運動教室などの参加者を中心に協力を得た。測定方法の信頼性の分析にはTSTを2回測定し,級内相関係数を求めた。妥当性の検証には「床からの立ち上がり時間」との単相関,および下肢筋力や立位バランス機能との偏相関を分析した。加齢過程の分析は直線回帰式から3次曲線回帰式までの回帰式への適合性(決定係数)から判断した。その結果,TSTは敏捷性のテストバッテリーとして十分な信頼性と妥当性が得られた。また,敏捷性機能の加齢的変化の特徴としては,50歳以降に急激に低下する傾向が認められた。加齢過程は3次回帰曲線への適合性がもっとも良好であったが,高齢層では一定の機能水準を維持している者を対象としたためフロアー効果を生じていると考えられ,本来は2次回帰曲線のような加速度的な低下を示すものと推察された。今後は高齢者を対象にした簡便な敏捷性テストとして,TSTを活用できるものと考えられる。
研究報告
  • 平野 裕滋, 石田 典子, 児玉 亮, 中村 菜摘, 家田 俊明, 木山 喬博
    原稿種別: 本文
    2008 年35 巻2 号 p. 42-49
    発行日: 2008/04/20
    公開日: 2018/08/25
    ジャーナル フリー
    本稿は脳梗塞発症早期の座位訓練に伴う体位変化が,脳内の血行動態にどの様な影響を与えるかを明らかにすることを目的とした。研究は当院神経内科に脳梗塞で入院された内頚動脈系脳梗塞患者35例,平均年齢72.8歳と,コントロール群として患者群とほぼ同年齢の医学的管理を受けていない健常生活者10例,平均年齢71.0歳を対象とした。研究方法は体位を安静仰臥位から受動座位30度,受動座位60度そして椅座位まで変化させ,各々の直後,3分後,5分後の前頭葉下面の脳内酸素飽和度変化を仰臥位の値を基準にして求めた。患者群をラクナ群12例,アテローム群12例,心原性群11例の3群に分類しコントロール群と脳内酸素飽和度の変化量を比較した。これら3群とコントロール群間で一元配置分散分析および多重比較を行った結果,椅座位直後の酸素飽和度の変化量はアテローム群とコントロール群との間に差を認めた。これらの事実はアテローム性の動脈硬化によると考えられる血管内膜障害,特に血管内皮細胞の障害を伴う血管病変が,脳内の血行動態に影響を与えていると推測された。したがって,アテローム血栓性脳梗塞発症早期患者の座位訓練においては十分な観察と注意が必要と思われる。
  • ―近赤外分光法(NIRS)による検討―
    内藤 幾愛, 大西 秀明, 古沢 アドリアネ明美
    原稿種別: 本文
    2008 年35 巻2 号 p. 50-55
    発行日: 2008/04/20
    公開日: 2018/08/25
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,手指の複雑動作と単純動作遂行時における脳血流量変化と運動学習による脳血流量変化を近赤外分光法(near infrared spectroscopy,NIRS)を用いて検討することである。課題動作は,複雑動作としてピンポン球とゴルフボールをそれぞれ2個ずつ,手掌で反時計回りに回転させる動作とし,単純動作は,ゴムボールを繰り返し握る動作とした。その結果,単純動作に比べ複雑動作遂行時には,筋活動が同程度であっても大脳感覚運動領野の脳血流量が有意に増加することが示された(p<0.01)。また,6日間の複雑動作課題練習後では動作遂行速度が速くなるため,同一回転数での動作遂行時には,筋活動量および大脳運動感覚領野の脳血流量が減少することが示された。これらのことから,複雑動作遂行時には,脳血流量が増加していることが明らかになった。また,NIRSを用いて運動学習および運動制御機構における大脳皮質活動状態を検討することが可能であることが示唆された。
  • 田屋 雅信, 高橋 哲也, 熊丸 めぐみ, 風間 寛子, 安達 仁, 金子 達夫, 大島 茂, 谷口 興一
    原稿種別: 本文
    2008 年35 巻2 号 p. 56-61
    発行日: 2008/04/20
    公開日: 2018/08/25
    ジャーナル フリー
    心臓外科手術後のリハビリテーションプログラムにおいて,より早期の離床,ADL獲得に向けたFast track programを作成し,その効果を検討した。対象は2005年に,当院で心臓血管外科手術をうけた194例,対照群は2000年の症例174例とした。Fast track programは,手術後1日目に端座位または立位をとり,手術後2日目に起立・歩行を開始し,1週間以内に病棟内歩行を自立させていくプログラムで,3日間以上遅延した症例を遅延群と定義した。今回の調査では,遅延率が44.3%となり,前回の調査(49.4%)に比べて減少した。病棟内歩行自立までは順調群で手術後6.8日(2000年は7.2日),遅延群で手術後17.9日(2000年は15.3日)であった。今回の調査でプログラムを見直した結果,2000年に比べ遅延率は低下し,その効果を認めた。一方,高齢者や遅延例の更なる重症例などが増加し,遅延例の特徴の変化を認めた。
短報
  • 冷水 誠, 松尾 篤, 森岡 周, 庄本 康治, 笠原 伸幸, 嶋田 智明
    原稿種別: 本文
    2008 年35 巻2 号 p. 62-64
    発行日: 2008/04/20
    公開日: 2018/08/25
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,慢性期脳卒中片麻庫患者を対象として,認知課題の成績が姿勢の変化により影響を受けるかどうかを検証することである。対象者は高次脳機能障害がなく,屋内独歩可能な脳卒中片麻痺患者30名(男性19名,女性11名,平均年齢63.6歳)とした。対象者は坐位,開脚立位,閉脚立位の各姿勢をそれぞれ1分間保持しながら語想起課題を遂行した。語想起課題のカテゴリーは動物,職業,スポーツとし,各姿勢とカテゴリーは無作為に組み合わせた。測定項目は各姿勢保持中に想起した単語数とし,反復測定一元配置分散分析およびDunnett testを用いて統計処理した。その結果,坐位と比較して,閉脚立位時の単語数に有意な減少が認められた(p<0.01)。今回の結果から,慢性期脳卒中片麻痺患者では支持基底面の狭小化に伴って,遂行する認知課題の成績が低下することが示された。
症例報告
  • 米津 亮, 清水 順市
    原稿種別: 本文
    2008 年35 巻2 号 p. 65-69
    発行日: 2008/04/20
    公開日: 2018/08/25
    ジャーナル フリー
    実用歩行獲得が困難と思われる痙直型両麻痺児に対し,運動発達において重要な要素である正中位指向を補う介入方法について述べる。その介入方法とは,腰部を固定した上で肩甲帯と胸郭を両側方から正中位へ圧縮する操作を加えることである。今回,4歳1ヵ月の痙直型両麻痺児に対し肩甲骨の運動に留意した上で体幹と上肢帯の分離運動を主体とした介入の結果,介入前後でリーチ方向にかかわらず,頚部および体幹の伸展が持続しリーチ動作を円滑に遂行した。このことより,重症度の高い痙直型両麻痺児の肩甲帯と胸郭を正中位へ圧縮する手法が,頚部と体幹を伸展させ,体幹と上肢帯の分離性を向上させることを示唆した。
紹介
  • ―人体解剖実習および実習前後のセミナーによる学生の意識の変化について―
    山田 貴代, 信崎 良子, 藤原 雅弘, 澤田 昌宏, 松田 正司, 小林 直人
    原稿種別: 本文
    2008 年35 巻2 号 p. 70-79
    発行日: 2008/04/20
    公開日: 2018/08/25
    ジャーナル フリー
    愛媛十全医療学院PT・OT学科では,愛媛大学医学部の協力により2003年から専任講師の人体解剖研修を実施し,2004年から学生が“自らメスを持って”行う人体解剖実習を行っている。今回は,人体解剖実習を行うにあたって必要とされる医の倫理について,学生自身がどのように考え理解しているかを把握するとともに,その理解度を向上させる授業を開発する目的でアンケートを実施した。その結果,医の倫理に関する授業には効果があったと考えられた。また,そもそも人体解剖実習を経験すること自体が,医療従事者に必要な倫理観について考えさせられる貴重な体験であると考えられた。今後はアンケート内容を吟味し,学生の心境がより正確にアンケート結果に反映されるような方法で実施していく必要がある。またセミナーの内容に関しては,解剖学知識の補填を充実させるとともに,医の倫理についてはより理解しやすい教育方法を模索する必要がある。
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