【目的】本研究の目的は,挙上対象物の重量に関する先行情報が脊柱起立筋活動と腰部運動へ与える影響を検討することである。【方法】健常若年成人男性19名を対象とし,挙上対象物の重量に関する情報が全くない条件(unknown条件:U条件)と,重量を認識できている条件(known条件:K条件)を比較,検討した。腰部運動は,デジタルビデオカメラを用いて,挙上運動時の体幹運動,骨盤運動,腰椎運動を計測し,同時に腰部脊柱起立筋の筋活動を解析した。【結果】K条件では,挙上運動早期に骨盤運動が,後期に腰椎運動がそれぞれ優位となる腰椎骨盤運動リズムが見られたが,U条件でのそれは小さかった。筋活動に関しては,K条件では,ほぼ中期で最も高い筋活動を示したが,U条件では早期に最も高い筋活動を示した。U条件における早期の深い体幹屈曲位での筋活動ピークは,脊柱起立筋による圧迫力に加え,重力による屈曲モーメントが負荷されており,腰椎への負荷がK条件より大きくなっていることが推測された。【結論】今回の結果より,挙上重量に関する先行情報は,腰椎骨盤運動リズムを維持し,脊柱起立筋の筋活動ピークを遅延させることにより,腰部への負担を減じていることが示唆された。逆に,先行情報がない場合は腰部への負荷が大きくなり,腰痛発生のリスクが大きくなる機序が示された。
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