日本作物学会紀事
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69 巻, 2 号
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  • 二宮 正士
    2000 年 69 巻 2 号 p. 135-139
    発行日: 2000/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    アジア太平洋高度ネットワーク(Asia Pacific Advanced Network, 以下APANと呼ばれる非営利のコンソーシアムの活動内容, とくに農業研究に関わる活動について紹介する.APANはふたつの活動目的を持っている.ひとつはアジア太平洋地域における研究と教育のために国間の国際高速インターネット回線を用意すること, ふたつはそのネットワーク回線を活用する国際共同研究を促進することにある.APANにはふたつの分野がある.技術分野(Technology Area), と利用者共同分野(User Community Area)で, 農業ワーキング・グループ(Agriculture Working Group)は利用者共同分野に属して, この地域の国際共同研究を活発に推進している.
  • 佐々木 良治
    2000 年 69 巻 2 号 p. 140-145
    発行日: 2000/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    苗素質の異なる3種の乳苗, すなわち暗黒下でのみ育苗した5日苗, 出芽後は自然光下で緑化した5日苗および緑化後に硬化した7日苗に対して, 根の基部から1cmの部位で切除する断根処理区と無処理区とを設けて移植した.そして移植後は, 昼 / 夜17 / 12℃と24 / 19℃の温度条件と送風(毎日8:00~18:00まで風速4.5~5.0ms-1の風を5秒間隔で送風)の有無を組み合わせた4つの条件下で1週間生育させ, 苗素質の異なる乳苗の活着に及ぼす移植時の断根処理および移植後の低温と風の影響を調査した.17 / 12℃の低温条件では, いずれの乳苗も葉の伸長生長が抑制され, 特に暗黒下で育苗した苗で顕著であった.そして, 低温に風が加わると, 葉の伸長生長はさらに抑制された.また, 暗黒下で育苗した乳苗を移植後低温で生育させた場合, 移植後7日目においても未だ生育を胚乳養分に依存していたと考えられた.このような光合成器官からの養分供給に依存する生育への移行の遅れは, 葉の伸長とクロロフィルの形成の両者が, 低温によって抑制されたことによるものと推定された.一方, 根の生育に関しては, 暗黒条件下で育苗した乳苗が, 自然光下で緑化した乳苗やさらに硬化した乳苗に比べて同等ないし若干劣る傾向がうかがえた.しかし苗間差は比較的小さく, 低温や風が根の生育を抑制する程度は, いずれの苗でもほぼ同程度と考えられた.また, 移植時の断根処理は, いずれの苗に対しても生育を低下させることが明らかとなった.
  • 吉永 悟志, 脇本 賢三, 冨樫 辰志, 田坂 幸平
    2000 年 69 巻 2 号 p. 146-152
    発行日: 2000/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    水稲の湛水土中直播栽培における出芽・苗立ちの安定化技術の確立を目的として, 酸素供給剤を被覆した水稲種子の乾燥および貯蔵条件が土中出芽性に及ぼす影響について検討した.10~30℃の温度で3日間貯蔵すると, 10℃で貯蔵した被覆種子の出芽率および平均出芽日数は被覆直後の種子のものと差は認められなかったのに対し, 15~30℃では貯蔵後の出芽率の向上や平均出芽日数の短縮を生じ, 特に20~25℃貯蔵において安定して土中出芽性が向上した.一方, 酸素供給剤被覆後の乾燥程度が土中出芽性向上効果に及ぼす影響については, 過度な乾燥を行った場合や被覆後の乾燥を行わない条件では, 20~25℃貯蔵による土中出芽性向上効果の低減や出芽率の低下を生じることが示され, 被覆直後の重量から2~5%の重量が減少する程度の陰干しを行った後に密封して貯蔵することにより安定的な出芽促進効果が得られることが確認された.さらに, このような条件では品種や播種後の水管理条件が異なっても土中出芽性向上効果が認められた.また, 25℃3日間貯蔵による土中出芽性向上効果は, その後の10℃7日間の低温貯蔵後も維持されたため, 貯蔵期間が長くなる場合でも低温貯蔵を組み合わせることにより出芽性の向上が達成されると考えられた.
  • 岡本 毅, 梅崎 輝尚, 長屋 祐一, 谷山 鉄郎
    2000 年 69 巻 2 号 p. 153-158
    発行日: 2000/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    新たに育成した丹波ヤマノイモ多収品種「新丹丸」の普及に必要な青果用栽培技術を確立するために, ヤマノイモ栽培の基本技術である種イモ重と栽植密度が収量形質に及ぼす影響を検討し, 多収品種の特性を生かす最適条件を決定した.試験は1997年と1998年に実施した.種イモ重が大きいほど収穫イモが大きくなり多収となったが, 種イモの大型化による多収効果は種イモ使用量の増加と相殺された.種イモ重が慣行条件の2分の1でも同等の収量が得られたことから, 肥大能力の高い多収品種では種イモの小型化が合理的といえた.栽植密度が高くなるほど1個当たり収穫イモ重は小さくなるが, 面積当たりの収穫イモ数が増えるため多収となった.しかし, 商品価値が高い250g以上のイモの割合が低下したことから青果用栽培の最適栽植密度は慣行どおりの畦幅120cm, 株間30cmと考えられた.
  • 尾形 武文, 松江 勇次, 浜地 勇次
    2000 年 69 巻 2 号 p. 159-164
    発行日: 2000/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    耐ころび型倒伏性の優れた湛水直播用水稲品種育成のために, 人工交配後, 養成されてきた2つの交配組合せ(葵の風 / Lemont / ヒノヒカリ:47系統, ユメヒカリ / Lemont / ヒノヒカリ:29系統)に由来する中生種について, F4とその次世代のF5の系統を用いて, 移植栽培したF4の押し倒し抵抗値の測定による耐倒伏性の選抜効果を検討した.2つの交配組合せともに, F4における移植栽培での押し倒し抵抗値とF5における湛水直播栽培での倒伏程度との間には有意な相関が認められた.F4の押し倒し抵抗値が大きい値を示す上位の系統から選抜率を10%から40%まで変えても, 選抜した上位のF5の系統と選抜していない下位のF5の系統との湛水直播栽培における倒伏程度には有意な錯が認められた.この選抜した上位の系統には湛水直播栽培で倒伏程度が1.0未満と耐倒伏性が優れ, 収量性や玄米品質の良好なF5の系統が含まれており, 押し倒し抵抗値を選抜目標としても収量性や玄米品質に偏りはない.以上のことから, 多数の系統を扱う初期世代から移植栽培での押し倒し抵抗値を選抜指標にすることにより, 耐倒伏性の優れた湛水直播用水稲品種の育成が可能であることが明らかとなった.
  • 義平 大樹, 唐澤 敏彦, 中司 啓二
    2000 年 69 巻 2 号 p. 165-174
    発行日: 2000/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    道央多雪地帯においてコムギ, ライムギより多収を示す秋播ライコムギ品種と低収にとどまる品種の生育特性の違いを把握し, ライコムギの多収品種育成のための育種目標および多収を実現するための栽培上の注意点を明らかにするために, ライコムギ品種, 北海道の秋播コムギ品種, および秋播ライムギ品種の子実収量とその関連形質を4ヶ年にわたり比較調査した.ポーランド育成のライコムギ品種に, コムギ品種およびライムギ品種に比べて子実収量の高いものが多かった.しかし, ロシア, ウクライナ, フランス, カナダ, 韓国, イングランド育成のライコムギ品種の子実収量はコムギ品種に比べて低かった.前者の多収要因は, コムギに比べて一穂重および地上部重が大きいこと, ライムギに比べ収穫指数が高いことにあると考えられた.後者の低収要因には, 第一に雪腐病発病度が高いこと, 第二に穂数が少ないこと, 第三に収穫指数が低いことがあげられ, 長稈のライコムギ品種において倒伏も低収に関与すると考えられた.道央多雪地帯においてライコムギの多収を実現するためには, 育種目標として冬枯れに対する耐性に優れたもの, 穂数が多く収穫指数の高いものを選抜すること, 栽培技術としては冬枯れによる穂数の減少を防ぐことが重要であり, これらがある程度満たされた時, 穂重型で地上部重の大きいライコムギの特性が多収性に結びつくことが示唆された.
  • 張 祖建, 中村 貞二, 千葉 雅大, 西山 岩男
    2000 年 69 巻 2 号 p. 175-181
    発行日: 2000/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    イネの障害型冷害である穂ばらみ期不受精の耐冷性に関して, 根の重要性は以前から指摘されていたが, その理由についてはほとんど明らかにされていない.そこで, 耐冷性のレベルが異なる3品種(ササニシキ:やや弱, ミサトハタモチ:やや強及びひとめぼれ:極強)を供試し, ポットを用いて施肥量及び土壌の水分条件を変えて根と地上部との量的関係が異なる材料を作り, 根量と不受精との関係を解析した.湛水条件, 畑条件あるいは水耕条件のいずれにおいても施肥量が多い区ほど生育が旺盛であったが, 乾物重の根 / 葉茎穂比は逆に施肥量が多い区ほど小さくなった.この材料では冷温処理との関連を見るために分げつを除去して1株1穂としているが, その1穂の穎花数は多肥条件ほど多かった.そして, 1穎花当たりの根の乾物重は概して多肥条件ほど小さくなった.冷害危険期(小胞子初期)に冷温処理をした区の受精率は, 多肥条件ほど低下した.そこで, この受精率と根 / 葉茎穂比及び1穎花当たりの根乾物重との関係を見ると, いずれも高い相関が得られた.この結果は, 穂ばらみ期不受精の耐冷性において, 地上部に対する相対的な根量, あるいは穎花数に対する相対的な根量が冷害時における不受精の発生程度と関係があることを示唆している.
  • 中野 尚夫
    2000 年 69 巻 2 号 p. 182-188
    発行日: 2000/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    緑肥作物立毛中不耕起播種水稲について生育初期の緑肥作物の被陰が収量構成要素に及ぼす影響を解析するために, 1 / 2000aワグネルポットに1株3粒播種した出芽数日後の水稲(吉備の華)を, 1995年に16日と28日間, 1996年に25日と34日間遮光処理(95%, 80%, 50%, 自然光)をし, 1週ごとの分げつ発生数と発生時期別分げつの生存率, 一穂籾数, 登熟歩合を調査した.また1995年には, 15日あるいは28日遅い播種のものとも比較した.遮光処理終了時の葉齢, 処理終了後約10日の葉齢増加率は遮光程度が大きいほど, 遮光期間が長いと小さかった.しかしその約1週後の葉齢増加率は遮光処理が大きいほど高く, 処理終了2~3週後における葉齢の処理間差は処理終了時より小さかった.遮光すると処理終了の約10日後にも分げつの発生が見られず, 2~3週後の発生数も遮光程度が大きいほど少なかった.また, 遮光によって発生が抑えられた分げつと主稈に由来する穂では稈径が小さく, 95%のような強遮光では生存率, 一穂籾数も低下した.そして発生時期の遅い穂ほど一穂籾数と登熟歩合が低かった.このため生育初期に遮光すると, 発生時期の遅い分げつに由来する穂の割合が高くなって平均一穂籾数, 平均登熟歩合が低下し, さらに95%のような強遮光では分げつ生存率と一穂籾数そのものの低下によってそれらの低下が一層大きくなった.なお, 生育初期の遮光によって, 遅播き的生育となって出穂期も遅延した.
  • 杉本 秀樹, 佐藤 亨
    2000 年 69 巻 2 号 p. 189-193
    発行日: 2000/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    近年, ソバは転換畑で栽培されることが多くなったが, その栽培上の問題点の一つに湿害がある.ポット栽培した普通ソバ品種キタワセソバを供試して1葉期, 開花期および登熟期に, 畝間に水が溜まった状態を想定した湿潤区(地下水位5~7cm), 圃場に水が溜まった状態を想定した湛水区(地上水位2~3cm)ならびに対照区を設け, 処理日数を変えて土壌の過湿処理を行い, これらが収量, 収量構成要素および茎の諸形質に及ぼす影響について調査した.処理による子実重の低下は, 湿潤区, 湛水区とも生育段階が早いほど, 処理日数が長いほど著しかった.湿潤区においては, 1葉期および開花期では3日以内, 登熟期では6日以内の処理なら子実重の低下は10%以内にとどまった.一方, 湛水区においては, 1葉期では1日処理でも, 開花期および登熟期では3日以上で子実収量は顕著に低下した.湿潤区, 湛水区とも1葉期ならびに開花期における子実重の低下は粒数の減少に起因したが, これは植物体の矮小化, とくに分枝の発達不良, ならびに1分枝当たり開花数の不足による分枝開花数の減少が主因であった.湛水区・登熟期処理による子実重の低下は千粒重の低下に起因した.結実率は過湿条件下でも低下せず, 減収要因にはならなかった.
  • 齊藤 邦行, 村木 智裕, 土居 寿幸, 黒田 俊郎
    2000 年 69 巻 2 号 p. 194-200
    発行日: 2000/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    多収性水稲品種タカナリを施肥窒素レベル2段階(11, 17gN / m2)で圃場栽培を行い, 乾物生産・暗呼吸速度・生長効率の推移を日本晴と比較した.個体群生長速度(CGR)と葉面積指数(LAI)は生育全般を通じてタカナリで高く推移した.特に登熟期のCGRの相違にはLAIが高いにも関わらず日本晴とほぼ等しいNARを保持していることが関係していた.標準区に比べ多肥区のCGRTが高いことにはLAIが主として関係していた.個体当たりの暗呼吸速度(Rs)は両品種とも移植直後に高く, 移植後40日目頃まで急激に低下し, その後はほぼ一定に推移した.品種間で比較すると, 個体全体と茎のRsは生育初期にはタカナリで低くなったが, 出穂期以降の相違は小さかった.葉身のRsはタカナリでやや低く推移し, 施肥量による相違は小さかった.穂のRsは日本晴では出穂期に最大値をとり登熟の進行とともに小さくなったが, タカナリのRsは最高値をとるのがやや遅く, 登熟後期には日本晴よりも高い値を維持した.個体の窒素濃度もRsとほぼ同様な推移を示し, 生育期間を込みにした場合両者の間には密接な正の相関関係が認められた.生長効率(GE)は出穂前には品種・施肥量に関わらず約64%を維持したが, 出穂後には両品種ともにGEは小さくなり, その程度は日本晴に比べタカナリで, 両品種ともに標準区に比べて多肥区で著しかった.水稲は高い乾物生産を行うと, その植物体を維持するために生育後期の呼吸量が増大しGEが低下すると推察された.
  • 浅野目 謙之, 池田 武
    2000 年 69 巻 2 号 p. 201-208
    発行日: 2000/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    ダイズ, ミヤギシロメ(葉序1 / 2, ラケット型)を用いて光を有効利用するような群落(分枝の配置が畝方向に対して直角方向:直角処理)とそうでない群落(分枝の配置が畝方向に対して平行方向:平行処理)を構成し, 光の利用効率が窒素栄養特性に及ぼす影響について調査を行った.葉の窒素濃度は直角処理で高い値を示し, NARの値も高かったことから光合成能が高いと推察した.一方, 平行処理の葉の窒素濃度は直角処理と比較して生殖生長初期で低かったが, NARは生殖生長期間中低い値を示し, 相互遮蔽が低下の要因と考えた.NARの増加によりCGRが高まった直角処理は栄養器官の乾物生産が高まったと思われた.窒素蓄積量は直角処理で高く推移し, R5期に直角処理では葉と茎の, 平行処理では葉の窒素蓄積量が高まった.栄養器官の窒素蓄積量は後に莱への窒素転流量へと貢献しており直角処理で転流量が高まった.R5期からR6期にかけて葉の窒素蓄積量の群落分布は両処理とも上層から下層にかけて段階的に減少したが, 直角処理で群落下層の葉の窒素濃度は高かった.よって, 光合成能が維持され老化が抑えられたことより, 群落内部への光透過量が多く, 受光態勢が良好であることが示唆された.以上より, 生殖生長期間中の受光態勢は光合成能に関係し, 葉の窒素濃度, 窒素蓄積量に影響を及ぼすことが示唆された.栄養器官の窒素蓄積量は莱への窒素転流量に貢献し, 直角処理で葉と茎から莱への窒素転流量が高まった.
  • 石井 康之, 伊藤 浩司, 福山 喜一
    2000 年 69 巻 2 号 p. 209-216
    発行日: 2000/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    ネピアグラスの南九州における多年利用による普及の可能性を検討するため, 越冬後の株の再生率により求めた越冬性に及ぼす種々の栽培的要因の影響を検討した.ネピアグラスの越冬性を高く確保するには, 最終刈取りを越冬前の初霜日頃に, 地表面以上の約20cmの高さで行うことが重要であり, 植え付け当年における春・夏植えの植え付け時期の影響は小さく, また植え付け後の年次経過による越冬率の低下も, 植え付け後3年目までは起こりにくいことが示された.それに対し, 植え付け当年株を供試した場合の年度間差および栽培地の標高地間差が大きいこと, 品種ルクワナに比べメルケロンは越冬性が高いことが示された.そこで, メルケロンとルクワナについて, 越冬期間の気象条件と越冬性との関係を検討し, 両品種ともに日最低気温と越冬率との間に対数回帰式が成り立つため, この関係式を宮崎県内の気象観測結果にあてはめた.その結果, メルケロンは供試した7か年度の最寒年であっても, 宮崎県内の過半数の地域で越冬率が50%以上を確保でき, 南九州において安定した越冬性を保持することが明らかとなった.
  • 森田 茂紀, 豊田 正範
    2000 年 69 巻 2 号 p. 217-223
    発行日: 2000/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    メキシコ合衆国バハ・カリフォルニア州のゲレロ・ネグロで, 日本政府とメキシコ政府の共同事業として, メキシコ沙漠地域農業開発プロジェクト(以下, プロジェクト)が実施された.プロジェクトの目的は, 沙漠地域で野菜と果樹を点滴灌漑栽培するための技術を開発し, 移転することであった.プロジェクトの圃場の土壌と, そこで用いられる灌漑水は, いずれもpHと塩類濃度が高いという問題を持っているため, 作物の耐塩性に関する問題は重要な課題である.そこで本研究では, 耐塩性の問題を研究していくための基礎的なデータを得るために, 根から吸収されて茎葉部へ転流される様々なイオンについて検討した.すなわち, プロジェクトで重要な作物であるトウガラシとメロンについて, 成熟期の出液中に含まれているイオンの分析を行なうとともに, 出液速度を測定した.露地栽培したトウガラシでは出液中のイオン濃度に昼夜で差があったが, 出液速度も昼頃にピークを持つ山型の日変化パターンを示した.一方, 畝立マルチ栽培のメロンでは, イオン濃度も出液速度も昼夜に関係なくほぼ同じレベルであった.そこで, 出液速度を考慮して検討したところ, 耐塩性に関係しているナトリウムイオンの濃度は出液速度が大きいと低く, 出液速度が小さいと高いことが明らかとなった.なお, 土壌のイオン濃度も場所によって異なっていたため, バックグラウンドとして土壌成分を基準にした比較も行なった.以上のように, 出液成分に着目したアプローチによって, 作物の耐塩性を研究するために基礎的データが得られるが, 出液速度や土壌条件を考慮して解析する必要があることが明らかとなった.
  • 重宗 明子, 吉田 智彦
    2000 年 69 巻 2 号 p. 224-228
    発行日: 2000/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    トウジンビエの葯培養の効率化を探るため, 5種類の培地, 品種, 生育ステージ, および低温処理について検討した.さらに葯培養によって得られた植物の染色体数について調査した.葯は長さ0.5~1.0mmの四分子期前後の花粉を含むものが適し、10度, 7~9日の低温処理が有効であった.MS培地に2.5mg / Lの2, 4-Dを加えた培地では, 置床葯あたり全カルスの誘導率は約10%となり, さらに植物体再分化率は0.16%であった.すべての培地を合わせて15個体の葯培養起原の植物が得られた.品種間差は明確でなかった.それらの植物のほとんどに自然倍加が起こっていたが, すべて部分的にしか倍加が起こらない混数体で, 稔性も低く, 培養法の改良や培養反応の高い材料の選抜が必要と考えられた.
  • 江口 久夫, 小柳 敦史, 佐藤 暁子, 豊田 政一, 吉田 泰二
    2000 年 69 巻 2 号 p. 229-234
    発行日: 2000/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    コムギの発育相の長さにおよぼす温度の影響を明らかにするために, ほ場試験とポットを用いた人工気象条件の試験を実施し, 各発育相における発育速度(DVR)と温度の関係を比較, 検討した.播種-出芽相におけるDVRと温度の関係は直線がよく適合し, 有効積算温度曲線があてはまる関係であった.出芽-幼穂分化相では秋播性と感光性の低い一部の品種を除いて, 直線の適合は悪く, 高温でDVRの停滞と低下がみられた.幼穂分化-出穂相以降の生育相では直線がほぼ適合した.ただし, ほ場試験の出穂-開花相, 開花-成熟相では22℃以上の高温によりDVRが若干促進される傾向がみられた.ほ場試験における有効積算温度式の最低有効温度は品種や年次よりも発育相によって大きく異なった.出穂-開花相でもっとも高く(6.3℃), 次いで開花-成熟相, 幼穂分化-出穂相の順で, 播種-出芽相でもっとも低かった(-0.4℃).最低有効温度が品種により変わらないものと仮定すると, 品種間差は有効積算温度値により比較できた.以上のように, 発育速度と温度の関係は発育相や品種により異なり, 一つの式で表現するならば, 直線がもっとも単純で, よく適合すると思われた.
  • 片山 勝之, 河本 征臣, 横山 和成, 山本 泰由, 木村 武, 皆川 望, 三浦 憲蔵
    2000 年 69 巻 2 号 p. 235-241
    発行日: 2000/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    1994年から1997年にかけてダイズとカンショを中心にした連作および短期輪作を行い, 収穫一ヶ月前の作物の根圏土壌から根圏土壌細菌を50菌株分離し, バイオログ微生物分類・同定システムの利用によって同定を行った.その結果, 全体の38.3%の菌株が同定され, 残りの菌株は分類中あるいは同定不能であった.同定不能の割合が高かったのは本システムの環境細菌に関するデータベースが十分でないことが推察された.しかしながら, 本システムの環境細菌のデータベースをさらに構築していけば, 多くの根圏土壌細菌の迅速な同定が可能になるので, 本システムは属あるいは種レベルでの根圏土壌細菌相の動態解析に有用になるものと思われる.このバイオログシステムを活用して, 連・輪作が作物の根圏細菌相に及ぼす影響を多様性指数によって評価したところ, 連作されたダイズ区では, 輪作されたダイズ区や連・輪作されたカンショ区ほど土壌細菌相の多様化が進まなかった.
  • 山内 正見, 吉田 弘一, 谷山 鉄郎, 梅崎 輝尚, 長屋 祐一
    2000 年 69 巻 2 号 p. 242-246
    発行日: 2000/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    フッ素濃度が0, 5, 10, 15, 20, 30および50ppmの7水準になるように調製した水耕液でコシヒカリを栽培し, フッ素がイネの生育におよぼす影響を明らかにする目的で実験を行った.その結果, フッ素はイネの出葉, 草丈および分げつを抑制し, とくに分げつ数はフッ素濃度5ppmより高くなるにしたがい比例的に低下することを明らかにした.また光合成速度におよぼすフッ素の影響も顕著で, 比較的低濃度の5および10ppmにおいても低下し, 葉身中のクロロフィル含量は30ppm以上で影響が見られた.1株あたりの穂数, 籾数もフッ素によって大きく減少した.また, 籾, 葉身, 稈および根の乾物重におよぼす影響も顕著で, 低フッ素濃度でも著しく減少することが判った.
  • 森田 茂紀
    2000 年 69 巻 2 号 p. 247-250
    発行日: 2000/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
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