ダイズの子実生産に対する各肥料要素の役割, および植物体の栄養状態と子実生産との関係を明らかにする研究の一つとして, 自動灌漑礫耕装置で, ダイズの粒肥大期間中, 主な肥料要素の一つを除いた培養液でダイズを栽培し, 子実生産と体内成分との関係を検討した. 農林2号を春日井氏液の一部をかえた培養液で栽培し, 開花後約20日から成熟期まで (8月4日~9月10日) の粒肥大期間だけは, N, P, K, Ca, Mgのうちの一つを除いた液で栽培した. 成熟期に, 各区8個体を採取して, 収穫物調査後, 粉砕して, 各無機成分, タンパク態チッソ, デンプン, 糖, 全炭水化物, 脂肪などを定量し, 次の結果を得た. 1) 粒肥大期のような, 生育のごく後期の肥料要素の欠如でも, 明らかに, 体内成分に影響があらわれ, 粒以外の大部分の器官で, 欠如要素の含有率が低かつた. 2) 子実生産はN, PおよびCaのそれぞれの欠如によつて大きく阻害された. とくに, N欠如による影響がもつとも大きく, 粒重, 粒数, 不稔花器率をはじめ, 多くの形質がいちじるしくおとつた. これらの要素欠如の影響は, N欠如ではタンパク源の不足によるものと思われ, P欠如では組織の大きさや数 (発達) に関係した代謝に影響したことによるものと思われる. またCa欠如では, 膜物質の形成, 有機酸代謝や, 物質の集積あるいは移行に関係する代謝に影響したことによるものと考えられる. 3) 粒に対する要素欠如の影響は, 主に重さや数の変化としてあらわれ, 成分の変化はあまり大きくなかつた. しかし, この実験は, 比較的高温で, 登熟が早められる条件下で行なわれたものであり, もう少し低い温度のもとで栽培したならば, N欠如でタンパク含有率がもう少し低くなる可能性がある. 4) 粒以外の大部分の器官で, K欠如でCa含有率が高まり, Ca欠如で, KとMg含有率が高まり, Mg欠如でKとCa含有率が高まるという, K, Ca, Mg間の相補的な関係がこの実験でも認められた.
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