要旨 : 本田初期に除草剤1回と殺虫剤1回の農薬使用という低農薬水稲栽培条件で,堆肥連年施用(堆肥連用)水田と化学肥料連年施用(化肥連用)水田において,1991~2000年の10年間コシヒカリを栽培した.1995年以降における,堆肥連用水田と化肥連用水田の土壌の理化学的特性の変化と水稲の根系,窒素,燐酸,加里の養分吸収,収量について検討した.試験開始から6年経過し好天候年の1996年において,堆肥連用・化肥少肥区の収量は63.7kg/a,化肥連用・多肥区の収量は59.6kg/aで10年間のそれぞれの処理区の中で最高収量であった.この年の土壌の理化学性は,堆肥連用水田においては,pHの上昇,有効態リン酸の増加,土壌三相の気相部分の増加が見られた.堆肥連用区の水稲の養分吸収については窒素吸収に比較して,相対的にリン酸,カリの吸収が多かった.試験開始から9,10年目の1999,2000年の土壌の理化学性は,堆肥連用水田で交換性陽イオンの内,CaとMgが増加したが,有効態リン酸は1996年と大差がなかった.これらの年における養分吸収の傾向も1996年とほぼ同様であった.収量については,両年とも好天候であったが,堆肥連用・化肥少肥区で50~52kg/aと,1996年に比べると著しく低く,化肥連用・多肥区の50~56kg/aよりやや低かった.200kg/a堆肥の連年施用では地力窒素増加の効果は大きくないが,pHが高く,有効態リン酸と交換性陽イオンの内,CaとMgが多かったことから土壌環境は改善されており,窒素吸収に比較して,リン酸,カリの吸収が多かったことから,堆肥連用水田でも,好天候年で適期に窒素の供給を多くすれば収量増が期待できると示唆された.
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