本研究では,異なる環境・年次において栽培したダイズ品種「サチユタカ」の分枝の発生,受光量,日射利用効率および乾物生産を調査し,株間を慣行栽培の半分にして栽植密度を2倍にしても収量が増加しない要因を検討した.奈良県(2011年)と山口県(2017年)において,慣行区は20本m–2未満の栽植密度とし,密植区は慣行区と同一条間で株間を半分にし,30本m–2以上の栽植密度とした.播種は奈良では手播き,山口では機械播きとした.収量および莢数はいずれの地域においても5%水準で処理区間に有意差はなく,密植によって収量が高まるとはいえなかった.密植によって奈良では分枝の節数および莢数が減少し,山口では分枝の節数は減少しなかったが,主茎の節当り莢数が減少した.このように年次・試験地によって主茎と分枝の節数および莢数の発生様相は異なったが,最終的な莢数は慣行区と比較して密植区で増加しなかった.密植しても莢数が増加しなかった理由として,莢数の増加と密接な関係があるとされている開花期以降の乾物生産量が密植しても増加しなかったことが考えられた.乾物生産量は群落の受光量と日射利用効率で決定されるが,両地域において密植しても開花期以降の受光量および日射利用効率は慣行栽培と変わらなかった.成熟期の地上部乾物重および収穫指数も密植しても増加しなかった.これらのことから,「サチユタカ」において密植しても収量が増加しないのは,密植しても開花期以降の受光量および日射利用効率が向上しない,すなわち乾物生産量が向上しないことが要因の一つであると考えられた.
近年,クラゲが日本近海に大量発生し,水産業や臨海施設に大きな被害を与えているが,このクラゲを脱塩・乾燥した細片(クラゲチップ)を水田に施用すると肥料効果だけでなく抑草効果を併せ持つことが示された.しかし,収量が慣行栽培(化成肥料,除草剤使用)より約10%低いこと,抑草効果が不十分でかつ不安定であることなど実用化に向けての様々な課題が指摘された.そこでクラゲチップと同様に2つの効果を併せ持ちながら含有成分や肥料効果の発現時期の異なる米ぬかに着目し,これをクラゲチップと併用して試験を行った.その結果,クラゲチップを単独に施用した場合に比べ,両者を併用した場合には収量は慣行栽培とほぼ等しく雑草発生量は顕著に減少した.本研究よりクラゲチップと米ぬかを併用することで,慣行栽培なみの収量が得られ,抑草効果も顕著に高まることが明らかになった.収量性の向上は,両者の成分含有率と肥料効果発現時期の違い,抑草効果の向上は両者がそれぞれ持つ成長抑制物質の違いによる相乗効果に起因したと考えられた.
短穂性の稲発酵粗飼料品種である,「たちあやか」と「たちすずか」は,牛の体内で消化率が低い籾の割合が低いことから,畜産農家から飼料としての評価が高く,普及が拡大しているが,採種効率が低いことが問題となっている.「たちすずか」では,幼穂形成期の窒素施用と疎植や晩植を組み合わせることにより精籾重が向上するが,「たちあやか」においては,幼穂形成期の窒素施用の効果は明らかになっているものの,その他の栽培管理の差異が種子の生産性に及ぼす影響について明らかとなっていない.そこで,2014年から2016年の3ヶ年にかけて,5.6株m–2から22.2株m–2の範囲で栽植密度が「たちあやか」の収量構成要素に及ぼす影響を調査した.その結果,「たちすずか」での過去の報告とは異なり,疎植条件ほど総籾数が増加する反応は「たちあやか」では認められず,栽植密度が総籾数に及ぼす影響は年次により傾向が異なった.この年次による反応の差には,穂肥から出穂までの日数の差異が関係している可能性が考えられた.一方,遅れ穂数は5.6株 m–2ないし7.4株 m–2で11.1株 m–2より多かったことから,植え付け条数を減じるような極端な疎植は避けるべきと考えられた.
寒冷地における水稲栽培の作期拡大を目的として,雪解け後の春作業の制約を受けない初冬播き乾田直播栽培の可能性が検討されている.水稲の初冬直播き栽培の実用化においては,出芽率の向上が極めて重要な課題である.本研究では,初冬直播き栽培での出芽率向上のため,種子表面へのコーティング素材 3種類(鉄,カルパー,デンプン)を検討した.2016/2017年に岩手県において,初冬直播き栽培での出芽率は無コーティングでは2%に低下するのに対して,3つの素材のうち鉄をコーティングした場合のみ24%まで有意に向上した.鉄のコーティングによる出芽率の向上効果を2017/2018年に4品種(ひとめぼれ,まっしぐら,あきたこまち,萌えみのり)について検討した結果,無コーティングでは1~3%であった出芽率が鉄のコーティングによって11~30%に有意に向上した.岩手県以外の4地点(北海道,青森県,秋田県,三重県)でも,同様の結果が得られた.以上,種子表面への鉄のコーティングが初冬直播き栽培での出芽率向上に高い効果を示すことを明らかにした.
ダイズの草型は主茎と分枝が基本となり,構成する節間によって骨格が決定されるが,最終的な葉身の配置は節から伸びる葉柄によって決まる.本研究ではダイズの草型,受光態勢の改善を目的として葉柄の伸長に関する基礎的な知見を得るために有限伸育型のダイズ品種フクユタカを供試し,主茎葉柄の伸長特性について詳細に調査した.一つの葉柄に着目すると,その伸長経過は,出葉後数日は緩やかに伸長し,その後急激に伸長する伸長最盛期を迎え,再び伸長が緩やかになり伸長停止期を迎えるS字型であった.個体全体をみると,出葉した順にS字型の曲線が数日間隔で並んだ.最終葉柄長は第3葉(第1本葉)が最も短く,上位2,3葉にかけて徐々に長くなり,その後,最上位葉にかけて短くなるパターンが認められた.最終葉柄長は最終節間長のパターンと類似しており,同じ植物単位に属する第N葉葉柄長と第N–1節間長の間に正の相関関係が認められた.したがって,葉柄と節間の諸要因に対する反応は類似していると考えられる.主茎葉柄の伸長は出葉との間に同伸性がみられ,第N葉葉柄における伸長最盛期は第N+2葉期,伸長停止期は第N+6葉期もしくは第N+5葉期という規則性が認められた.葉柄の伸長停止期は環境ストレスの影響を受けやすいと考えられ,節間ほど伸長の停止時期が安定していないことが推察された.以上の結果より,葉柄の伸長には節間と同様に規則性が存在し,節間伸長と類似する特徴が多くみられたことから,節間と同様に適切な処理を施せば,葉柄の伸長を制御し,草型を改善することができる可能性が示唆された.
石油枯渇や地球温暖化の対応策として,バイオマス作物の利用が注目されており,著者らは,食糧生産との競合を避けるためにセルロース系エネルギー作物のエリアンサス(Saccharum spp.)に着目している.エリアンサスは日本で栽培すると毎年,秋に出穂するが,その穂の形態と幼穂形成については明らかでない.エリアンサスの物質生産の基礎となる分げつの生育を理解し,群落構造との関係を考察するための基礎知見を得るため,本研究では穂の構造および幼穂形成過程を検討した.エリアンサスの穂は複総状花序で,穂全体の外観からは円錐花序にも分類される.穂長は50 cm 程度で,穂軸からは4 本前後の1 次枝梗が一定の間隔をおいてまとまって分枝するが,この間隔は向頂的に狭くなる.また,1 次枝梗からは2 次枝梗が,さらに2 次枝梗からは3 次枝梗が,それぞれ互生で分枝する.穂軸および各次元の枝梗の先端と,穂軸および各次元の枝梗の上に小穂が着生する.小穂には有柄小穂と無柄小穂とがあり,通常は対をなして着生するが,穂軸および各次元の枝梗の先端には有柄小穂が着生する.有柄小穂および無柄小穂のいずれも1 小穂1 小花であり,その構造は柄の有無を除いて基本的に同じで,1 対の護穎の内側に1つの小花が位置する.小花は外穎と内穎,その内側の2 枚1 組の鱗皮,3 本の雄蕊,1 本の雌蕊(心皮)からなる.幼穂形成過程は, ステージ0の栄養相を除いて,同1:苞原基分化期,同2:1 次枝梗分化期,同3:高次枝梗分化期,同4:小穂分化期,同5:小花分化期に分けられる.以上の穂の基本構造と幼穂形成過程に関する知見は,エリアンサスの生育を理解するために役立つものと考えられる.