細胞質雄性不稔現象についての, 植物生理学的な機作を明らかにする一助として, トウモロコシの細胞質性不稔系統 W23
T, W375B
T とその維持系統W23, W375Bを用いて, 両稔性個体間の, 光合成産物の配分について,
14Cトレーサー法で研究した. 1. 光合成産物の葯へのとりこみ量, および配分成分形態については, 稔性個体間では大きな差が認められた. しかしながら, 系統間では明らかな差異は認められなかつた. 2. 供試された小胞子期では, 不稔性個体の花器への光合成産物の転流が著しく阻害されていた. 3. 不稔性葯では稔性葯に比較して, 有機酸画分(陰性画分)で, やや低い分配率を示したが, 糖類画分(中性画分), およびアミノ酸画分(陽性画分)では, 高い分配率を示した. 4.
14C アミノ酸, および
14C アミノ酸残基については, 両稔性間に著しい差異がみられ, 不稔性葯では, それらは著しく少なかつた. 稔性葯でのみ, マルトースと思われる糖類が検出された. 5. 花器以外の器官では, 両稔性間で一定の傾向は認められなかつた. しかし炭水化物については両稔性間で著しい差異が認められた. 6. 稔性葯では, 脂質画分に
14C がかなりとりこまれていたが, 不稔性葯では, まつたくとりこまれていなかつた. これらのことより, トウモロコシの四分子期より, 小胞子期にかけて, 不稔性葯への光合成産物の転流は著しく少なく, また葯の呼吸活性の低下と関連し, 1次代謝産物から2次代謝産物への合成が著しく阻害されているものと推定された. 本研究の遂行にあたり, 弘前大学福重裕康助教授に御指導を賜つた. ここに深謝の意を表する.
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