日本作物学会紀事
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92 巻, 2 号
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総説
研究論文
栽培
  • 黒田 幸浩, 桑田 主税, 長谷川 誠, 小林 孝太郎, 津金 胤昭
    2023 年 92 巻 2 号 p. 104-109
    発行日: 2023/04/05
    公開日: 2023/05/20
    ジャーナル フリー

    気象条件の変化に起因する収量の年次変動要因を解明することを目的として,1980年から2020年までに実施された,生産力検定試験の結果とメッシュ農業気象データシステムを活用し,ラッカセイの収量と気象条件の関係について解析を行った.その結果,開花期前後の成熟初期に平均気温が高く,降水量が少なく,日照時間が長い条件において,莢実重が多い傾向が認められた.品種の違いでは,「ナカテユタカ」が「千葉半立」と比較して,開花期直後の平均気温及び日照時間に莢実重がより強く影響された.播種期の違いでは,標準区の莢実重の方が気象条件により強く影響を受け,晩播区の莢実重は標準区の莢実重が最も影響を強く受ける生育期よりも早い時期の生育期の気象条件の影響を強く受けた.

  • 鬼頭 誠, 川畑 芽衣
    2023 年 92 巻 2 号 p. 110-118
    発行日: 2023/04/05
    公開日: 2023/05/20
    ジャーナル フリー

    沖縄県には難溶性の鉄型リンを多く含む国頭マージ(acrisols)が広く分布する.低リン耐性の強いことが知られているラッカセイの国頭マージにおける適正リン酸施肥量を把握するために,水溶性リンが主体の過リン酸石灰を用いて無施肥(P0),標準施肥(P1),半量施肥(P0.5),倍量施肥(P2)の4処理区を設けてプランター栽培試験を4年間実施した.試験開始年はP0からP2で生育量と子実重に有意な差は見られなかった.試験を継続することでP0とP0.5は生育量と子実重が有意に減少したが,P2ではP1と同程度であった.子実リン吸収量は土壌の各種リン含有率と高い対数回帰の関係にあり,子実重とも高い対数回帰の関係にあったことから,国頭マージでのラッカセイ栽培では,P1の9 g/m2程度のリン酸施肥を行う必要があると思われる.また,ラッカセイの菌根菌感染率はP0.5からP2までリン酸施肥量を増やしてリン肥沃度が高くなっても低下せず,リン肥沃度が高い場合でも菌根菌の作用が重要である可能性が示された.

品質・加工
  • 板谷越 重人, 石橋 俊明, 松井 崇晃, 金井 政人, 橋本 憲明, 重山 博信, 神戸 崇
    2023 年 92 巻 2 号 p. 119-128
    発行日: 2023/04/05
    公開日: 2023/05/20
    ジャーナル フリー

    高温登熟による米飯の食味低下の影響を解明するために,温水かけ流しほ場により高温ストレス下で栽培された水稲の生産物について,玄米品質,食味官能評価,米飯物性,みかけの白米アミロース含有率および米粉粘度特性を3カ年にわたり調査した.高温処理によって,食味官能評価の総合評価,外観,味は全ての品種で低下し,粘りは弱まり,硬さは増加した.米飯物性では,表層の粘りが11%低下,表層のバランス度 (粘り/硬さ比) が10%低下,全体のバランス度が6%低下し,全体の硬さが4%上昇した.みかけの白米アミロース含有率は,10%低下した.米粉粘度特性では,粘度上昇開始温度が1.2℃上昇,最高粘度は9%上昇,最低粘度は5%上昇,ブレークダウンは11%上昇した.さらに,食味官能評価と関連性をもつ特性を把握するため,他の調査項目との相関係数を確認した.食味官能評価の総合評価および粘りと最も高い相関を示した項目は,米飯物性の表層の粘り,表層および全体のバランス度であった.このことから,高温登熟による食味低下の要因は,米飯表層の粘りが減少することと表層および全体のバランスが変化することである可能性が示唆された.米粉粘度特性における粘度上昇開始温度も同様に高い相関を示し,食味への影響を数値化するための指標として有用であり,少量サンプルでの食味向上を育種目標とした材料選抜にも利用できると考えられた.食味官能評価の硬さと最も高い相関を示した項目は表層のバランス度であり,物理性における硬さの指標として考慮された.

収量予測・情報処理・環境
  • 山口 友亮, 尾澤 陽, 前田 周平, 妹尾 知憲, 桂 圭佑
    2023 年 92 巻 2 号 p. 129-139
    発行日: 2023/04/05
    公開日: 2023/05/20
    ジャーナル フリー

    RGB画像から岡山県奨励水稲品種「きぬむすめ」の栄養指標値を簡便に推定できる手法の開発を試みた.同品種を岡山県農林水産総合センター内の異なる圃場において多様な移植日と施肥条件を設けて栽培した.出穂30,20,10日前に各区で草丈,茎数,SPAD値を計測し,それらの積である栄養指標値を算出するとともに,地上約120 cmの高さからカメラを下方に向けイネ群落のRGB画像を収集した.元のRGB画像(全領域画像)およびイネ領域のみを抽出したRGB画像(イネ領域画像)から16種類の植生指数を算出し,単回帰分析および16種類の機械学習により栄養指標値を推定するモデルを構築し,これらの予測精度を比較した.モデルの構築と精度検証用にそれぞれ異なる圃場のデータを用いた.単回帰でも機械学習においても,イネ領域画像を用いた方が全領域画像よりも高い精度で栄養指標値を予測できる傾向にあり,植生指数GLIによる単回帰モデルは決定係数0.722を示した.これは,画像の背景の影響を除去できたためだと考えられた.単回帰モデルは機械学習によるモデルと比較してトレーニングデータからテストデータにかけての予測精度の低下が小さかったことから,少量のデータからでもより一般的な特徴を捉えられるという点において優位性があることが示唆された.一方で,ランダムにデータを分割してモデルの構築と精度検証を行うと,機械学習によるモデルの予測精度は大きく改善したため,今後より多様なデータを蓄積していくことで機械学習によるモデルの汎用性と予測精度の向上が可能であると示唆された.

研究・技術ノート
  • 杉本 充, 栂森 勇輝, 安川 博之, 黒瀬 義孝
    2023 年 92 巻 2 号 p. 140-152
    発行日: 2023/04/05
    公開日: 2023/05/20
    ジャーナル フリー

    京都府の重要な地域特産作物である丹波大納言アズキは実需者からの評価も高く,安定生産が求められている.そのためにも,気候や土壌水分の変動に対するアズキの環境応答に関する知見の蓄積が必要である.そこで,本研究ではアズキ品種「京都大納言」を供試して,開花前から開花後における時期別の土壌水分の制限がアズキの生育と収量に及ぼす影響について検討した.土壌水分を制限した区で光合成速度の低下が認められ,主茎長や節数が抑制された.開花期前後の土壌水分量の減少は着莢数と粒重を減少させ,減収につながった.一方,土壌水分を制限した後においても,再び土壌に水分が与えられると光合成速度が回復した.開花期前後の時期に土壌水分量が回復すると,光合成速度の回復により子実重の一定の向上につながることが示唆された.さらに,土壌が乾燥した後,湿潤状態に転換したアズキに青立ちがみられた.これは,土壌の乾燥によって莢の減少や根の発達が生じた後,湿潤条件下による光合成速度の回復などによって,ソース過剰となったことから生じたものと推察された.このように,アズキにおいても土壌水分条件に関わる減収と青立ちが発生することが明らかになった.

  • 石川 哲也, 山口 貴広, 古渡 拳人, 吉永 悟志
    2023 年 92 巻 2 号 p. 153-160
    発行日: 2023/04/05
    公開日: 2023/05/20
    ジャーナル フリー

    茨城県南部で大規模稲作を展開する農業生産法人 (以下,経営体と略記) において,2019年から2021年まで栽培管理情報を網羅的に収集し,圃場立地・移植日・窒素施肥法などが多収品種「あきだわら」の乾燥ロット別実収や圃場別収量スコアに及ぼす影響を検討した.この経営体では,2年間で作付面積が急速に拡大し106.0 haに到達した.圃場の集積が進む4つのエリアを「面的集積エリア」と定義すると,その圃場面積が全作付面積に占める比率は,2019年の43.2%から2021年には89.8%まで増加し,「あきだわら」の作付も2021年には面的集積エリアに集約された.作付品種中もっとも晩生である「あきだわら」の移植開始日は,2019年から2021年にかけて14日早まった.基肥と2回の追肥に高度化成を用いた圃場数の比率は,2019年の27.3%から2021年には97.3%に達したが,窒素施肥量に占める追肥の比率は2019年の32.2%から2021年には24.7%に低下した.2019年は圃場間の窒素施肥量の違いが乾燥ロット別粗玄米収量に影響したと推察され,低収圃場での追肥施用や作付品種変更または作付とりやめにより対応した.収量コンバインの使用により得られた圃場別収量とそれらの標準偏差から算出した収量スコアが–10以下の低スコア圃場の比率は,2020年の25.8%から2021年には10.8%に減少し,面的集積の進展に伴う低スコア圃場での作付減が寄与したと推察された.一方,「あきだわら」を2年間継続して作付した圃場11筆では,低スコア圃場2筆への窒素増施提案が採用されなかった結果,収量スコアには年次間で有意な順位相関が認められ,大小関係の改善に至らなかったと判断された.

  • 松尾 直樹, 中野 恵子, 大段 秀記, 深見 公一郎, 高橋 仁康
    2023 年 92 巻 2 号 p. 161-172
    発行日: 2023/04/05
    公開日: 2023/05/20
    ジャーナル フリー

    北部九州のダイズ主産県である福岡県と佐賀県の直近20年間の単収と7~10月の降水量を,2001~2010年と2011~2020年に分けt検定を行ったところ,直近10年の有意な単収の減少と,降水量の増加が認められた.また,7~10月の総降水量は単収と有意な負の相関関係にあり,近年の低収が生育期間の湿害に起因するものと示唆された.本研究では,湿害によるダイズの減収を抑制すること目的に,逆転ロータリを活用した一工程浅耕播種に着目し,2019~2021年に福岡県内の現地圃場にて生産者慣行播種と生育,収量,作業性能を比較し,その効果を検証した.2019年は播種直後の7月中下旬,2020年は着莢始期の9月中旬,2021年は栄養成長期の8月上中旬に多雨条件となった.2019年の慣行播種は播種直後の多雨で出芽不良となり再播種が実施されたが,一工程浅耕播種では苗立ちが確保され再播種は不要であった.その結果,慣行播種は晩播による生育量不足で一工程浅耕播種より36%減収した.2020,2021年は慣行播種の多雨時の現場飽和継続時間が一工程浅耕播種より2倍程度長く,両年の慣行播種は一工程浅耕播種よりそれぞれ26%,40%減収した.これらの結果から,慣行播種の減収要因は湿害と考えられ,一工程浅耕播種は様々な生育ステージで発生する湿害に起因する減収を抑制する効果があった.同播種法の作業速度は3年平均で3.3 km/hと不耕起播種機並みで,作業時間は慣行播種より3.5分/10a短く,砕土率も14%高かった.以上の結果から,一工程浅耕播種は高能率の作業性を有し,湿害による減収を回避できる播種技術であることが示された.

  • 石丸 努, 岡村 昌樹, 長岡 一朗, 金 達英, 山口 弘道, 梶 亮太, 大平 陽一
    2023 年 92 巻 2 号 p. 173-183
    発行日: 2023/04/05
    公開日: 2023/05/20
    ジャーナル フリー

    水稲品種「にじのきらめき」は北陸地域で中生熟期の多収良食味品種である.本研究では「にじのきらめき」の多収と良食味が両立可能な栽培法を開発するために,収量・収量構成要素・食味関連形質の関係や,目標籾数を達成するための穂揃期の窒素栄養状態,および穂首分化期の生育量と穂肥窒素量との関係,を明らかにすることを目指した.精玄米重 (収量) は単位面積あたりの籾数や穂数と正の相関関係があり,両形質の関係はそれぞれ回帰式で表すことができた.また同じ総窒素施用量でも分施体系 (穂肥あり) により精玄米重は増加した.炊き上がり直後の食味官能試験において,玄米タンパク質含有率と食味相対値 (総合)または粒厚との関係には負の相関関係があった.これらの結果の解析により,籾数37.5千粒 m–2,玄米タンパク質含有率 (水分15%換算) 6.5%以下で精玄米重は700 g m–2を少し上回り,多収と良食味が両立できると考えられた.籾数37.5千粒 m–2を達成するための穂揃期における地上部窒素吸収量の理論値は13.2 g m–2であった.適正な穂首分化期における生育指標値(草丈 cm×茎数 本 m–2×SPAD)は18.2~21.9であり,籾数37.5千粒 m–2を達成するために必要な穂肥窒素量は生育指標値に応じて2~4 g m–2と推定された.以上の結果より,本研究では北陸地域において「にじのきらめき」の多収と良食味の両立に重要な役割を果たす穂首分化期・穂揃期・成熟期の諸形質の条件を提示することができた.

  • 豊福 恭子, 北田 一路, 石川 陽子, 小川 敦史
    2023 年 92 巻 2 号 p. 184-189
    発行日: 2023/04/05
    公開日: 2023/05/20
    ジャーナル フリー

    高温登熟障害耐性を持つイネ新品種の育成が進められているが,新品種作成のための時間と労力が負担となっている.本研究では,高温登熟障害耐性品種として育種された品種と既存の品種間の幼苗期における高温処理に対する生育反応の差異に注目し,幼苗期における高温登熟障害耐性イネ品種の選抜方法を検討した.催芽処理後,高温区は日中35℃ 夜間30℃ ,対照区は日中25℃ 夜間20℃ の条件で,人工気象器内で14日間水耕栽培した.高温登熟障害耐性品種として育種された品種と比較して,既存の品種は対照区では成長が劣るが,高温区では生育が促進されることにより差がなくなった.その結果,高温登熟障害耐性品種として育種された品種では,高温区/対照区の値が有意に低かった.これらの結果より,幼苗期において高温条件下と常温で栽培した地上部または根の成長の違いを比較することにより,高温登熟障害耐性品種の選抜が可能になると考えられた.

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