日本作物学会紀事
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92 巻, 3 号
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総説
  • 杉浦 和彦, 中村 充
    2023 年 92 巻 3 号 p. 199-208
    発行日: 2023/07/05
    公開日: 2023/08/10
    ジャーナル フリー

    イネの籾を加害する斑点米カメムシは,斑点米や不稔粒の発生によって玄米外観品質及び収量を低下させることから,日本のみならず世界的にも大きな問題となっている.日本では水稲作付面積に対するカメムシ発生面積率が1990年台半ば以降増加し続けており,2000年代初頭にはイネの主要害虫であるツマグロヨコバイ,ヒメトビウンカと肩を並べる発生面積となり,被害が深刻化している.被害を軽減する手法としては,その生息地となるイネ科雑草の管理技術,薬剤防除技術,斑点米を識別し物理的に除去する技術などがあるが,いずれの技術もコスト・労力がかかる.このため,斑点米カメムシに抵抗性を有する品種の育成が望まれているが,世界的にもこの抵抗性に関する育種的な研究は進んでいない.しかし,近年の研究で斑点米カメムシ抵抗性品種育成のための抵抗性母本の探索,選抜に必要な抵抗性検定法の開発および抵抗性機構の解析が進められており,世界で初めてとなる斑点米カメムシ抵抗性を持つ実用品種の育成が期待されている.本総説では,斑点米カメムシ抵抗性品種の育成の現状についてこれまで得られた知見を総合的に解説し,今後の展望を議論する.

研究論文
栽培
  • 及川 誠司, 松波 麻耶, 下野 裕之
    2023 年 92 巻 3 号 p. 209-219
    発行日: 2023/07/05
    公開日: 2023/08/10
    ジャーナル フリー

    水稲の初冬直播き栽培において,使用する種子の品種ならびに採種地の生育環境の出芽率への影響を評価するため,品種と採種地の異なる種子60~72種類を用いて岩手県で初冬直播き栽培を3シーズン行い,越冬後の出芽率を調査した.越冬後の出芽率は品種と採種地の組み合わせにより,2018/19年が0~64%,2019/20年は0~33%,2020/21年は0~49%と大きな変動がみられた.この品種と採種地の組み合わせによる出芽率の変動は,シーズン間で正の相関関係が認められ,異なる年次において再現性があることを確認した.播種直前の種子の発芽率は培養4日目に品種間差異が認められ,出芽率との間で負の相関関係がみられた.本研究は,初冬直播き栽培における適正な播種量の決定には,使用する品種また採種する環境を考慮する必要性を示した.

品質・加工
  • 畠山 友翔, 原口 晃輔, 松井 菜奈, 荒木 卓哉
    2023 年 92 巻 3 号 p. 220-229
    発行日: 2023/07/05
    公開日: 2023/08/10
    ジャーナル フリー

    硝子率は,ハダカムギの品質を評価する上で重要な項目である.これまで硝子率は,原麦を切断し,その断面における粉状質部分,半硝子質部分および硝子質部分の割合により評価されてきたが,本研究では,硝子率の違いによって原麦の透過率が異なることに着目し,原麦の明度から非破壊で硝子率を判定できないか検討した.硝子率の算出式を作成するキャリブレーションサンプルとして,1ヵ年,1圃場で採取した2品種のハダカムギ原麦400粒を調整し,算出式の精度を検証するバリデーションサンプルとして,収穫年,栽培圃場,品種,施肥体系がキャリブレーションサンプルと異なるものを含む8つのサンプルセットを調整した.キャリブレーションサンプルにおいて,背景明度によって修正した原麦の修正明度と1原麦硝子率の回帰式の決定係数は,0.8709 (p<0.001) で当てはまりがよく,この回帰式を1原麦硝子率の算出式とした.バリデーションサンプルにおける1原麦硝子率の実測値と推定値との関係は,全てのサンプルセットにおいて0.1%水準で有意であり,またその差は10%以下 (二乗平均平方根誤差<17%) となった.これらの結果から,原麦明度を測定することで,高い精度で硝子率を推定できることが示唆された.一方で,キャリブレーションサンプルと異なる圃場で栽培されたサンプルセットの中には,硝子率の実測値と推定値との間に有意差があるものがあり,さらに推定の精度を上げる必要性が考えられた.

研究・技術ノート
  • 坂本 知昭, 石谷 美穂, 眞島 千尋
    2023 年 92 巻 3 号 p. 230-234
    発行日: 2023/07/05
    公開日: 2023/08/10
    ジャーナル フリー

    サツマイモ「兼六」蒸切干の製造過程で,乾燥が進むと甘さが急激に感じられなくなる現象が認められた.糖の分解が進んでいる可能性は低いことから,乾燥の進行に伴う硬化が甘味効率を低下させたと考えられた.つまり乾燥による糖の濃縮効果と硬化による甘味効率の低下により,蒸切干には最も強く甘さを感じる乾燥程度が存在すると予想された.乾燥時間が異なる「兼六」蒸切干片一対を比較する単純化した甘味の官能評価を繰り返した結果,本研究で供試した「兼六」塊根では以下のことが明らかとなった.1.30℃の連続通風定温乾燥では17 h程度の乾燥時間で最も甘く感じられることが明らかとなった.2.乾燥時間と含水率,硬度,Brixの間には高い一次相関が認められたことから,最も甘く感じられる「兼六」蒸切干の乾燥程度は含水率30.6%,果実硬度計KM-1で測定した硬度0.89 kg,Brix 48.4%と推定された.また,年齢層の高い被験者は食感を重視し,年齢層の低い被験者は甘さを重視する傾向が認められたことから,既存の蒸切干より乾燥時間が短い甘くて軟らかい蒸切干の商品化により若年層向けの需要が開拓できると考えられた.

  • 服部 太一朗, 安達 克樹, 田村 泰章
    2023 年 92 巻 3 号 p. 235-244
    発行日: 2023/07/05
    公開日: 2023/08/10
    ジャーナル フリー

    サトウキビ栽培におけるハーベスター (HV) 採苗-ビレットプランター (BP) 植え付け体系への適性に関与する品種特性を解明するため,鹿児島県熊毛地域 (種子島) の奨励品種を用いて,HV採苗した種苗を植え付けた場合の発芽状況や収量を調査した.2017年調査として,人力で採苗して植え付けた対照区と,同等の健全芽子を含むHV収穫物 (HV採苗した種苗とトラッシュ) を手作業で投入したHV区とを比較した結果,品種によらず対照区に比べてHV区の発芽数と原料茎重が減少傾向を示した.植え付け後2週間が無降雨であった2018年調査では,対照区に比べてHV区の発芽数が大きく減少した.種苗投入量を増やすと発芽数が増加傾向を示したが,太茎品種では増加程度が小さかった.いずれの品種もHV区の原料茎数と原料茎重が対照区を下回ったことから,発芽良否が原料茎数の多少を介して原料茎重に影響したと考えられた.4品種を供試して同量のHV収穫物をBPで投入した試験では,細茎,多節等の特性を有し,発芽率も比較的高かった「はるのおうぎ」の発芽数と原料茎数が他品種より多く,多収であった.「NiTn18」は発芽が不良であったが,優れた分げつ性による茎数の補償作用がみられた.以上から,HV採苗-BP植え付け体系では発芽良否が極めて重要であり,HV収穫物重量当たりの健全芽子数の多さに寄与する茎の細さや多節性,また,優れた発芽性と分げつ性が,同体系への適性に関与すると考えられた.

  • 原 貴洋, 藤原 和樹, 森脇 丈治, 中野 恵子, 鈴木 達郎, 望月 遼太, 手塚 隆久
    2023 年 92 巻 3 号 p. 245-251
    発行日: 2023/07/05
    公開日: 2023/08/10
    ジャーナル フリー

    国産ソバの生産安定と高品質化への貢献が期待されているソバ春まき栽培の一部産地より,低収問題への対応が望まれている.本研究では,大分県豊後高田市における生産者が主体的に技術導入を試行していた亜リン酸液肥とともに,土壌分析により不足や欠乏が懸念された微量要素について,葉面散布の効果を検討した.栽培試験は生産者のソバ栽培圃場で行い,2021年3月30日~4月2日に播種した.試験1では,亜リン酸液肥を播種17,25,39日後に葉面散布した結果,播種25日後と開花期にあたる播種39日後の葉面散布により,ソバ子実重はそれぞれ1%水準,0.1%水準で有意に増加し,増加量はそれぞれ9.3 g/m2と43.1 g/ m2であった.試験2では,亜リン酸液肥を播種47日後に,微量要素を播種17日後に葉面散布した結果,亜リン酸液肥は子実収量を38.2 g/m2増加させたが,微量要素による影響は認められなかった.試験3では,亜リン酸液肥を播種26,40,47日後の3回散布することにより,収量は18.7 g/m2から有意に増加し,94.7 g/m2となった.亜リン酸液肥に含まれるリン酸とカリについて,栽培前の土壌中の含有量は適正範囲であったが,硬い土層や地下水位がリン酸不足に影響した可能性を考察した.生産者が懸念していた亜リン酸液肥葉面散布による雑草増加は認められなかった.以上より,ソバ低収問題への亜リン酸液肥葉面散布の有用性を明らかにした.

  • 木村 利行, 及川 聡子
    2023 年 92 巻 3 号 p. 252-259
    発行日: 2023/07/05
    公開日: 2023/08/10
    ジャーナル フリー

    水稲初冬直播き栽培は,播種期間の拡大を目的として積雪前に播種作業を行う直播技術である.本報では,青森県津軽地域で耕起同時施肥播種機を用いた初冬直播き栽培の出芽率を高める播種条件について検討し,併せて出芽後の生育および収量を慣行の直播栽培と比較した.試験は2018年播種と2019年播種の2シーズンで実施した.根雪期間は,2018年播種では120日,2019年播種では69日であった.越冬後に圃場から回収した種子の生存率は55~88%の範囲に分布し,2019年播種に比べて2018年播種が低く,事前耕起をしない1回耕起区と事前耕起を行った2回耕起による有意差は認められなかった.圃場での出芽率は約29~60%の範囲に分布した.播種深度は,播種機の播種深を3 cmとするよりも1 cmと浅めに設定することで深播きされる種子が減少し,出芽率が高くなった.また,春季に鎮圧作業を行うことで出芽率が12ポイント向上した.出穂期は,初冬直播き栽培が慣行栽培より2~6日早かった.施肥管理については,出芽揃期の表面施肥では初冬直播き栽培と慣行栽培の収量に有意差が認められなかったが,播種同時施肥については初冬直播き栽培の無追肥で慣行栽培より籾数および収量が有意に少なく,追肥をすることで慣行並の収量となった.

情報
速報
  • 丹野 和幸
    2023 年 92 巻 3 号 p. 266-267
    発行日: 2023/07/05
    公開日: 2023/08/10
    ジャーナル フリー

    ゴマの収穫適期を解明するため,圃場栽培と経時的調査で成熟の進行と裂蒴による収穫ロスを評価した.その結果,収穫ロスが最小となるのは平均的には圃場の50%の株の蒴果が1つ以上裂開する裂蒴期頃であるが,品種による差異があり,少分枝型で節当たり3蒴果の品種ではこれより少し早く,多分枝型の品種では主茎蒴果のみの調査からは,少し遅く収穫するとロスが少ないと考えられた.また,機械体系で実施されている蒴果を脱離させて強制乾燥する方法は,慣行の株ごと収穫し乾燥させる方法よりも収穫適期幅が狭かった.

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